騎士の引き立て役③




騎士試験に落ちた理由は正直なところ分からない。 筆記も実技も手応えを感じていた。 もしかするとそれはただの勘違いだったのかもしれないが、気になることもあった。


―――試験の本番中に、母さんのことが少しでも頭を過ったからなんだろうか。

―――・・・気持ちが揺らいで、迷いに繋がってしまった。

―――騎士として試験結果以外のところを見られている可能性は十分にある。

―――迷っていて肝心な時に動けない騎士が、国を守れるとは思えないもんな。


そうは思っても落胆を隠すことができない。 ランスとの約束も守ることができない。 顔を上げると騎士団長はまだ話を続けていた。


―――でもこれで落ちて、母さんのもとへ戻れるのならいいのかな・・・?

―――こんな考えをしていたら、ランスに怒られそうだけど。


「では解散だ! 合格した者だけここへ残れ!」


落ちた者はここで解散となった。 怒っている者、泣いている者、様々だがナイトはそこに加わりたくはなかった。 迷いはあったが悔いはない。 気がかりなのは一人騎士試験を受かったランスのことだ。


「ナイト! どうしてナイトが落ちるんだよ!」

「ご、ごめん」


ランスは解散と同時に走り寄ってきてそう言った。 


「一緒に合格をするって、約束したじゃんか!」

「・・・うん。 ただ試験の最中に母さんのことが頭を過って・・・。 いや、そんなのは言い訳だな。 俺が単純に実力不足だったというだけ」

「ッ・・・」


それでも試験には手応えを感じていたし、合格するくらいの結果は残せたはずだった。 だがそれはあくまでナイトの感覚でしかなく、現実に試験には落ちている。 

無理に小さく笑ってみせるとランスはナイトの代わりに悔しそうに唇を噛んだ。 ランスにはそのような顔をしてほしくなかった。 国民を守るために立派に生きてほしかった。


「ランスは受かったじゃないか。 おめでとう。 どうか、俺の分まで頑張って」

「そんなことを言うなよ・・・」


だが決まってしまった結果はもうどうすることもできない。 それでもランスはこの結果にナイト以上に納得していないようだった。


「・・・なぁ、ナイト。 ナイトが落ちたのって」


話そうとしたところで騎士団長が来た。 ナイトとランスは話を止め慌てて姿勢を正し向き直る。 だがランスは不満からか背中が少し丸くなり俯く恰好になっていた。


「ランス。 合格おめでとう」

「・・・ありがとうございます」


やはり声も元気がない。


「君が一番成績が優秀だったんだ。 君にはどうか、姫の側近役を任せたい」

「・・・え? 俺がですか!?」


ランスはチラリとナイトを見る。 本来は喜ぶべきところだが、ナイトが隣にいるからか素直に喜んでいいのか分からない様子だった。


―――・・・本当にランスは優しい奴だ。


ナイトはそれに少し笑って祝福してみせる。 するとランスは再び複雑そうな顔をした。


「そしてナイト」

「は、はい!」


どうして自分の名が呼ばれたのか分からなかった。 自分は不合格となった身。 本当はさっさとこの場を離れなければならない。 もっともまだ受験者の多くはこの場に留まっている。 

不合格となってすぐ頭を切り替えられる人は多くないようだった。 だからこそ試験に落ちたのではないかとも思うが、ナイト自身まだ留まっているため何も言えなかった。


―――何の用だろう?

―――受験者はこんなにたくさんいるのに、俺の名前を憶えてくれていたのは嬉しい。


そんな能天気なことを考えていると、騎士団長はまさか思いがけないことを宣言した。


「君には特別枠として、城内の騎士ではないが城外を守る騎士として入ってもらいたいんだ」

「・・・え?」


驚くナイトと騎士団長をランスが交互に見る。


「これは特別枠だから、皆の前ではなく今伝えた。 後の合格者は全員国民に発表するけどな。 いいか?」

「・・・ッ、はい!」

「ナイト!!」


ランスはナイトの合格を自分のことのように喜んでくれた。 先程の暗い表情が嘘のようである。


「よかったな、ナイト!」

「うん!」

「これからもよろしく!」


―――・・・母さん、ごめん。

―――やっぱり帰れないや。


ランスが喜んでくれたことは嬉しかったが、未だに母のことが気になっていた。 喜びの笑顔を見せるランスの横でナイトは静かに視線を落とした。


―――・・・母さんは、こんな俺を許してくれるかな?



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