騎士の引き立て役②




騎士になるため騎士試験を受けようと決意した日、以前から騎士に対して悪印象を持つ母にどう伝えようか迷っていた。 

悪印象といっても嫌悪感を持っているわけではなく、その危険性を誰よりも理解しているという自然な理由。 ナイト自身母の言っていることも分かっていた。


―――・・・言ってもいいのかな。

―――反対されるのは分かっているから、凄く言いにくい・・・。


料理している母をチラリと見る。 母が反対するのは過去の出来事が深く関係していた。


「ナイト? どうかした?」

「・・・え?」


流石母だと思った。 息子の挙動不審な態度を見逃すはずがなかった。


―――・・・もう言うしかないのか。


「あの、母さん。 話があるんだけど」


様子を窺いながら尋ねてみる。 だが騎士になることだけはずっと反対しているため、ナイトが何に悩んでいるのかまでは分かっていなかったようだ。


「うん、どうしたの?」

「俺、なりたい職業を決めたんだ」


そう言うと母は料理をする手を休め近付いてきた。


「あら、そうなの!? ナイトは何になりたいの?」


子供が夢を見つけた時は嬉しいものなのだろう。 だがワクワクして尋ねてくる母に言うのは気が引けた。


―――だけど、言うのは今しかない。

―――ランスと約束したんだから。


意を決して口を開いた。


「・・・城を守る騎士になる」

「ッ・・・」


そうハッキリと言うと母は顔を真っ青にした。 反応は分かっていたため視線をそらしてしまう。


「一体どうして? ねぇ、ナイト。 分かっているわよね? どうしてお父さんが亡くなったのか」


母はナイトの肩を揺さぶりながら問いかけた。 父は城の騎士として働いていた。 騎士団長で成績は優秀、周りから慕われる素晴らしい人だった。 だが――――


―――父さんは敵が攻めて来た時に仲間を庇い、そのまま亡くなった。

―――それに母さんが嘆き悲しみ、床に伏せってしまった日々があることも知っている。

―――だけど俺は!


決意しているナイトの目を見て母が先に言った。


「止めて! 私はナイトに騎士になってほしくないの」


母がショックを受けたのと同様に、当然ナイトも涙が枯れる程に泣いた。 騎士に命の危険があることも分かっている。 だがそれでも譲れないものがありナイトは決心したのだ。


「どうしてそんなに騎士なんかになりたいの? 親孝行でもするつもり? 見ての通り、私は満足よ?」


ナイトの家は周りと比べて裕福だった。 国のエリートでもある騎士の給金はかなり高い。 もちろんそれは父が稼いでくれたもの。 

ナイトも同じように稼ぎ、母にいい思いをさせようとしていると思われたのだろう。


「ううん。 もちろん親孝行はするけど、それが理由じゃない」

「じゃあどうしてなの? お願い、止めて。 危ないことはしないで」

「だからこそだよ。 俺はもうここの国民を誰一人失いたくない。 だからみんなを守る騎士になる」

「どうして・・・」


母は力なく両腕をナイトの肩から下した。


―――・・・あともう一つ動機はあるんだけど。

―――それは今言うべきじゃない。


そう思いグッと堪えた。 母を安心させるように言う。


「騎士になろうとしたのは俺だけじゃない。 ランスと一緒に騎士を目指すんだ」

「ランスも一緒に・・・?」


ランスと一番仲がいいということは母も知っていた。 一人で騎士になるよりも信頼できる友との方が、危険も少なくなる可能性は高い。 

もちろん逆になる可能性もあるが、頼れる存在がいるということを母に伝えたかった。


「あぁ。 二人でなら頑張れる。 だから大丈夫だよ」

「・・・」


母は静かに涙を流した。 ナイトは静かに震える背中をさする。


「母さん・・・。 泣かないでよ」


母は首を横に振るだけ。 悲しむ母の姿なんて見たくなかった。


―――こうなることが分かっていたから打ち明けにくかったんだ。

―――もしかしたらこれが親不孝なのかもしれない。

―――だけど決めた夢は諦めたくないんだ。


「俺は絶対に死なない。 騎士になって、母さんを守るから」

「・・・」


母はもう何も言わなかった。 止めようともしなかった。 反対したい気持ちはあっても、ナイトを止められないと思ったのだろう。 母に理解してくれるのは難しいのかもしれない。 

だがナイトが守りたいと思う国民の中には、もちろん母も含まれているのだ。


―――無事ランスも、親に伝えることができたのかな?

―――これからもランスと一緒に成長していくんだ。

―――・・・特に、この俺が。


それを告げた日、母が寝るまでずっと泣いていたのを今でも憶えていた。



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