騎士の引き立て役
ゆーり。
騎士の引き立て役①
フラリス国において騎士とは城に勤め国を守る上級兵士のことだ。 純粋に技能と知識を持って選抜される。 庶民からしてみれば、分かりやすいエリートへの道でそれを志す者は多い。
主人公のナイトも同様だった。
―――ついに今日が来た・・・。
―――試験の結果発表の日だ。
十五歳から騎士試験は受けることができ、幼馴染であり親友でもあるランスと共に騎士を目指してきた。
同じ試験を受けるためライバルでもあると言えるが、試験では実際に剣を交えることもするために本当にいい関係を築いている。
―――・・・母さんは、まだ反対しているんだよね。
国ではエリートと認められる騎士だが、母だけは反対していた。 反対する理由も分かっている。 城を守る騎士の危険は一般兵士よりも少ないが、全くないわけではない。
命の危険があるからこそ人に認められ高給を取ることができる。 母の説得は困難を極めた。 結局、完全に説得することはできず押し切るようにして試験を受けたのだ。
試験が終わり今日が合格発表だというのに未だに反対されていた。
「ナイト、何かあったらいつでも帰ってきていいからね? 何なら今すぐにでも」
ナイトは気にせず結果発表を見るために家を出る。
「まだ結果すら出ていないからさ。 ・・・とりあえず、行ってきます」
「気を付けてね」
ナイトはいい言葉を返せなかった。 騎士になれば城に併設する宿舎に住み込むことになる。 それは当然の決まりで、いくら城から家が近くても受け入れられない。
それが嫌なら最初から騎士を目指すなとそういうことだ。
―――スパイが城に入り込むことを考えたら仕方のないことだ。
―――金輪際城から出られないというわけではない。
だが気楽に会えなくなるのは確定だ。 週に一度休みがあるという話だが、その時に会えれば幸運だというくらいだろう。 少し歩いたところで振り返った。
母は寂しそうな背中を見せながら家の中へと入っていく。
―――母さん・・・。
母との関係が悪いわけではない。 寧ろどちらかと言えばいいために寂しく感じるのだ。
とはいえ、十五歳にもなれば親離れするのが普通で、ナイトの周りの少年少女たちも手に職を持つものもチラホラ出てきている。
「よッ! ナイト、一緒に行こうぜ」
「うん」
にこやかに呼びかけてきたのはランスだった。 元々一緒に合格発表を確認しにいく約束をしていたため、世間話をしながら城へと向かう。
「お袋さん、やっぱり反対してんのか?」
「まぁ。 でも仕方がないよ。 遅かれ早かれ、こういう日は誰にでも来るものなんだ。 騎士を選ぶなら今しかなかったというだけ」
十五歳から受けれる騎士試験だが、十五歳でしか受けれないわけではない。 ただ騎士として地位を固め出世するためには早い方がいいのは当然だ。
母に恩返しをするためにも目指すなら早くからというのがナイトの心構えだった。 それはランスも同様で、二人は気持ちを理解している。
もちろん騎士試験に受かっていなかったらその先を考える必要があるが、今はそれを気にしても仕方がなかった。
「また出たよ」
歩いている途中、ランスが目を鋭く細め道の先に視線を向けていた。 そこには昔ナイトをいじめていたいじめっ子軍団が立っていたのだ。
「おー、ナイトじゃないか! 聞いたぞー? 今日、騎士の合格発表なんだって?」
ニヤニヤと笑いながら近付いてくる集団が不快だった。 今は昔のように弱くないが、心に染み付いた嫌な記憶は拭えない。
「それが何だって言うんだ?」
ナイトに向けて尋ねた言葉だったがナイトではなくランスが答えた。
「身体が大きくなったくらいで、ナイトに騎士なんて無理だぞ! ランスも巻き添えにされて可哀想だなぁ」
そう言って集団全員が笑い出した。 ナイトが何か言おうとする前に、ランスが声を上げて対抗する。
「うるさいなッ! 騎士を目指さない小心者は散れ! これは俺が選んだ道なんだよ!」
「ははッ、怖い怖いー」
いじめっ子軍団はそのまま何もせずに帰っていく。 彼らも分かっているのだ。 いくら数が多くても、今の二人には敵わないということを。
―――今日もランスが庇ってくれた・・・。
いじめっ子軍団に向かって変顔をしているランスに言った。
「・・・ごめん、ランス。 いつもありがとう」
「いいって。 あんな奴らのことは気にすんなよ?」
「うん」
「というより、ようやく今日が来たな! ついに合格発表の日だ! 二人揃って合格していたらいいけど」
「そうだな」
城の中庭は人でごった返していた。 試験を受けたのはそれ程多いわけではなかったが、どうやら家族連れや友人を連れて見にきている者が多いようだ。
「静粛に! 受験者は既定の位置に並ぶように」
試験番号順に整列する必要があるらしく、ランスとは離れているため一度別れる必要があった。
「ナイト、また後でなッ!」
ランスは受かっている自信があるようだ。 不安気な様子を一切見せない。
―――ランス、強いな。
結果発表は騎士団の団長が行い、重そうな鎧をものともせず軽やかに動いている姿がスマートでカッコ良かった。
―――ランスはきっと受かっているんだろうな。
―――俺はどうだろう?
―――・・・あまり自信がない。
―――これでも必死に鍛えたから、それなりの結果は出ているだろうけど・・・。
先程のいじめっ子軍団の声が蘇る。 だが過去は過去で、そんな弱い心を打ち消すように首を横に振った。
「では合格者を発表する。 番号は――――」
200人以上いる試験者の中から選ばれるのはたったの五人だけ。 その中で一番最初にランスの番号が呼ばれた。
―――ランス、やっぱり合格したんだ!
―――よかった。
―――あんなになりたがっていたもんな、騎士に。
ランスを見ると視線が合った。 ナイトに向かってガッツポーズを見せてくる。
そしたら次はナイトが呼ばれる番のはず――――だったのだが、合格者発表が終わってもナイトの番号が呼ばれることはなかった。
「以上だ!」
―――え、嘘・・・。
―――俺、落ちた・・・?
ランスからの残念そうに向けられる視線が痛く突き刺さっている。 顔を上げられなかった。
―――結局、母さんの望み通りになったというわけか。
思い出すのは二年前の母との会話だ。
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