第108話 薄影の死の支配者
(淑女の嗜みは置いておいたとしても、自由すぎる行動は確かに問題だ。今後は俺もイリスの行動について思うところがあったらできる限り注意をするつもりではあるが、今回のように俺の考えが至らずに皆を危険にさせてしまう可能性もあることを考えると、ディースの提案はありがたい。頼んでもいいか?)
(我は主の下僕だ。願いではなく命を下せば良い。)
(…下僕の割に俺への態度大きくないか?まぁ気にしないし、そのくらいの方が俺は慣れ親しめるから良いけどな!ディース、よろしく頼んだ!)
(拝命した。では、今回皆を危険な目に遭わせていたことも含めて話してこよう。)
ディースが話を終わらせイリスの元へ向かおうとするが…
(あー、待ってくれ。今回の件についてだが、俺が話そうと思う。)
信之はディースを引き留めた。
(主が?)
(あぁ。基本的に俺が皆をまとめる役割だし、イリスは彼女だ。にもかかわらず俺が何もしないで全てディースに丸投げするのは違うかなと思っている。しかも今回に関しては皆を死の危険に晒す可能性がありえるほどの事案だ。だからこの件は俺から言うよ。その時一緒にディースがイリスの教育係になることを伝えようかなと思う。)
流石に今回の件に関して信之は何も言わずにディースに言わせるのは無責任だと感じた信之は、自分からイリスに伝えることに決めた。
(ふむ、なるほど。そういう段取りか。しかして主よ…言えるのか?イリス殿に尻に敷かれるどころか潰されるほどの主に…。)
(…ん?その頭蓋骨粉砕されたいんかな?)
ディースの辛辣なツッコミに信之は口元をひくつかせながら返答する。
(それで、今から行くのか?)
(そうだな、行こうか。)
信之はイリスの部屋へと向かい、イリスの部屋のドアを叩く。
ディースは呼ばれるまで信之の影の中にいる。
「イリス、いるか?少し話をしたいんだが。」
「はいはーい!今開けるね!」
イリスがドアを開ける。
イリスの部屋にはソフィアもいた。
どうやらソフィアと話していたようだ。
「悪い、話し中だったか?」
「問題ないわよ。話が終わってダラダラしていたところだったから。」
信之の言葉にソフィアが答える。
イリスも、うんうんと頷いている。
「そうか。なら、悪いがソフィアは外してくれ。」
「あら、二人で秘密の話し合いなんて酷いわね。私も入れて―――…ごめんなさい、真面目な話だったのね。外させてもらうわね。」
信之の目を見て本気であったことを悟ったソフィアは席を立つ。
「悪いな。」
「いいわよ。その代わり、後でご飯をもらいに行くわね。」
そう言ってソフィアは部屋を出る。
ちなみにご飯というのはもちろん信之の血、もしくは体液の事である。
「…?どうしたの?なんだか真面目な話?」
いつもとは違った空気感に流石のイリスも怪訝な顔をする。
「テオスの件についてだ。扉をくぐった後、テオスを発見し管理者とわかった途端すぐに殴りに行ったよな?」
「う、うん。」
「あの時はイリスにもある程度テオスに対してフラストレーションが溜まっていて殴ってしまったと思っているが、認識は合っているか?」
「そ、そうだね…。あってる。」
信之が怒っていると思ったイリスは委縮しながら返答する。
「イリス、俺は怒っていない。だが後悔をしている。その場で気付いて言えなかったこと、今まで言わなかったことについてだ。」
イリスに反省をしてほしいと思って真面目に話をするつもりが、怒っていると思われてしまった信之は、イリスに怒っていないことを伝える。
「言えなかったこと、言わなかったこと?」
「あぁ。テオスとは本気で戦って勝てるような相手だったか?」
「…ううん、勝てない。」
「もし仮に、イリスがテオスを殴った時にテオスが激昂して俺らを殺しにかかってきていたらどうなっていたと思う?」
「あ…。」
信之の言いたいことが分かったイリスは、ディースから聞いた時の信之同様、ハッとした顔となる。
因みに信之はディースに言われて気付いたという事は伏せた。
それを言ってしまうと、イリスに伝える内容をディースに責任転嫁をしてしまっているように思ったためだ。
「そっか…。私、何も考えずにあんなことしちゃったけど…。みんなを死なせちゃう可能性あったんだ…。」
イリスは自分のした事の大きさを理解した。
はじめは涙が浮かべて唇をかんでいたが、最悪の場合を想像をしたのか完全に泣き出してしまう。
「ぅ…。信くん…ごめんなさい。ぐすっ…。みんなにも、謝らなきゃ…。」
泣きながら謝るイリスを見て、心が締めつけられる信之。
だが、まだ言わなければならないことがある。
「今回はテオスが楽観的な性格をしていたため事なきを得たが、いつもそうとは限らない。だからイリス、今後軽率な行動には気を付けような?」
「うん…気を付けます…。」
顔を手で押さえながら俯き、肯定するイリス。
「わかってくれてありがとう。ただ、皆のまとめ役としてそれを制止できなかった俺にも責任が…」
「無いよッ!!…信くんは、悪くない…。あれは私がしたことだし全部私が…悪いよ…。」
大きな声で信之に責任は無いと否定するイリス。
「そうか…。」
イリスが自分が悪いというのであれば、信之はそれ以上何も言う必要はないと思い、口を閉ざしイリスを抱いて頭を撫でる。
イリスはされるがまま、5分程泣いていた。
ある程度泣き止んだタイミングで信之はイリスに話しかける。
「イリス、今後はもっと慎重に動かないといけないと考えている。だがそれはイリスだけでなく、俺や他のみんなも含めてだ。理由としては、テオスが言っていたことで気になったことがあってな。」
「…気になったこと?」
ハンカチで涙を拭ったイリスは信之を見る。
「テオスは、俺たちが進化していくことでテオスや他の神格を帯びているものを倒すことが可能となると言っていた。という事はテオス以外にも神のような存在の者がいるという事だ。」
「それって、地球の神様ってことかな?」
「それもあり得るし、それだけでない可能性もあり得る。その場合、俺たちが敵わない相手が他にもいるという事になる。しかも顔もわからない。だからこそ、俺たち全員が意識を変えなければならないと思っている。」
「そっか。他の神様が友好的じゃない可能性もあるもんね。わかった!ちゃんと考えて行動するようにするね!」
泣いてある程度発散できたのか、元気になったイリスを見て、やはりイリスはこうでないと、と安堵する信之。
「あ、後、みんなで行動している時に状況も考えずに個人的な意見を押し通したり、勝手に行動するのも禁止な!」
「えー!そ、そんなことあったかなー?」
「言い淀んでる時点で自分でも理解しているようだな!?」
「うぅ…。ごめんなさい…。」
自分でも思い当たる節があったようで素直に謝るイリス。
「わかってくれたならいいよ。さ、ソフィアに謝ってくるか。」
素直に謝るイリスを見て、もうこれ以上言うのを止めソフィアの元へと向かう信之。
「うん。ちゃんと謝らなきゃ。」
そう言って、信之とイリスは部屋を出て行った。
…
……
「(我…呼ばれてない…。)」
忘れ去られた死の支配者はイリスの部屋の影から顔を出し、呟くのであった…。
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