第107話 イリスの教育も必要です!

「まず、異世界に行くことに反対意見はあるか?」


靴を脱いでリビングに来た信之は皆に尋ねる。


「うーん…反対は無いんだけど、あっちの世界は時間の流れってどうなってるんだろう?もし地球と同じ流れだったら、私はあまり長くは入れないかな…。仕事があるし。」


「…僕やお姉ちゃんは学校があるので、イリス姉さんと同じく時間の流れが気になりますね。」


「学校~!お友達たくさん作らなきゃ~!」


「…お姉ちゃん、お友達をたくさん作るのはいいけど、勉強もたくさんしなきゃね。」


「頑張ってるよ~。でも、授業が始まると同時に授業が終ってるんだ~。不思議。」


「…それ絶対寝てるよね…。」


奏の返答に肩をがっくりと落とす蒼汰。


「私は特に何もしてないから問題ないわよ?」


「俺も特に何もないな。もし仮に時間の流れが同じだったとして長期で行けるのは俺、ソフィア、モル、ディースか。」


「むむむ…。長期で行けるのはソフィアさんと信くんだけ…。」


(…。)


イリスの呟きに信之の影の中にいるディースは考え込む。


「いや、モルもディースもいるから二人だけじゃないだろ。それに、まだ同じ時間の流れと決まったわけじゃない。後日俺が先行で行ってきて時間の流れを確認しようと思ってる。幸い、テオスが言うには地球にはいつでも帰ってこれるらしいからな。」


「あ、そっか。確かに信くんがあっちの世界に行って時間の流れを確認してくればわかるね!」


「そうね。もしみんなで行ってしまって、実はヴェルスヒルントムンドだったかしら。あちらの世界の方が時間の流れが遅いという事だったら、地球の時間が想像以上に経っていて大変…という事もあり得るものね。」


「学校に遅刻しちゃう~。」


「…もしそうだったら遅刻レベルじゃ済まないかもね。」


「まぁ、そこらへんは追々調べていこう。今回はいろいろとあって疲れたし、後日調べてみんなに共有するよ。」


「了解!」


「確かに、かなり疲れたわね。」


「すー、すー。」


経験値の間の火山ではダンジョンが無いかを探し、山頂まで登った後は神のような存在と話したことに流石の信之も疲れを感じた。


モルは既に寝ている。

因みにモルは進化してかなり大きくなってしまっているが、体を小さくする特殊なスキルを進化時に自動で取得しているため、現在は進化前のモルと同じ大きさとなっている。


「蒼汰、奏。テレポートで家まで送るよ。」


「…ありがとうございます。」


「信にぃありがとう~。」


信之は蒼汰と奏を家に送る。


(主よ。気になったことがあったので教えてほしい。)


二人を家に送り届け、自宅に戻ってくつろいでいた信之にディースが語り掛ける。

どうやら信之にだけ語り掛けているようだ。


(どうした?)


(主はソフィア殿と交際しているのではないのか?)


(ん?ソフィア?ソフィアとは交際はしていないな…。)


(なんと!?で、では…もしやイリス殿と…?)


(あぁ、イリスと付き合っている。なんでそんなに驚いているんだ。というより今知ったのか?ずっと嘆きの大杖の中にいたんだろう?)


(主よ…その大杖はずっとどこにしまっていた?)


声のみにもかかわらず、ジト目をされている気がしてならないようなトーンで尋ねてくるディース。


(あ…。い、異次元収納…。)


(その状態で、主の状況が知れるとでも?)


(す、すみません…。)


その通りだと思い、ディースに謝罪する信之。

念話で話しているが、無意識に一緒に頭を下げてしまう。


(そこについて言いたいことは大いにあるが、この場はそれは置いておこう。それにしても我は心底驚いたぞ。あのお転婆嬢と交際していたとは…。てっきりソフィア殿と交際しているものだと思っていた。)


(そんなに驚くことか?)


(はっきり言おう。我は現在のイリス殿では主に見合わないと考えている。)


(…それはお前が判断することじゃない。俺とイリスが判断することだ。)


信之の雰囲気が変わる。

ディースに信之とイリスの関係について非難され、怒りが湧いてきたのだ。


(…済まない、言い方が悪かった。だが、現状主はイリス殿の尻に敷かれ過ぎではないかと我は危惧している。)


(うっ…。)


正論を突かれ言葉を失う信之。


(我が体を持って時間はそこまで経っていないが、無駄骨であった火山のダンジョン探しの時やルスティヒテオスとまみえた際もイリス殿に主だけでなく、皆が振り回されていた。恐らくそれが日常茶飯事なのであろう。)


(…それは否定できないな。だが、イリスの天真爛漫なところが良いところでもあると俺は思っている。)


(主よ、それは都合良く捉え過ぎだ。もしルスティヒテオスが友好的でなければ、イリス殿の行動のせいで我らは死んでいた可能性もあった。)


(…確かにそうだな。)


信之はディースに指摘されてハッとした顔となる。

確かにイリスの行動は、蒼汰や奏の行動と同様に危険なことであった。

寧ろ、信之との認識に差異があった分、蒼汰や奏よりも危険であったかもしれないと考え直した。


(何よりも、もう少し淑女の嗜みを身に着けるべきだと我は思う。)


(いや、順位的に勝手な行動で周りを危険に及ぼす事をさせないという方が高いだろ!)


(淑女の嗜みを身に着ければそちらも解決するだろう。)


(…ディースとしてはどうしても淑女の嗜みをイリスに身に着けてほしいと…。)


(うむ!それで提案だが、我をイリス殿の教育係に任命してほしい。)


(え、なんか嫌だ…。)


即答する信之。


(なにゆえっ!?我は貴族の出である!紳士淑女の嗜みについては一流であるぞ。)


(……で、本音は?)


(我、影の中にずっといると皆から忘れられそう…。)


「自分のキャラの確立の為じゃねーか!!!」


声に出して盛大に突っ込む信之であった。

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