第106話 家に転移させるときは靴を脱がせてくれませんか?

「さて、そういう事で僕を倒したかったら僕の管理する世界に向かう事だね。」


信之に殴られ、飛んで行ったが何事もなく無傷で戻ってきたテオスは話を続ける。


「あ、そうそう。ヴェルスヒルントムンドには日本人が何人かいるよ。」


「日本人?俺たちのような境遇の人間がいるのか?」


信之は、他にも信之たちと同じように強力な力を持った人間がいるのか気になった。


「違うよ。彼らは地球では特に大きな力は持っていなかった一般人だよ。あっちの世界では魔王が出現して、勇者召喚で選ばれたようだね。」


「なんというか、テンプレだな…。で、それを教えるというのは何か意図があっての事か?」


「べっつにー?特に何もないよ?ただ、頭の片隅に入れといてほしいなーって思っただけだよ。」


「…。」


明らかに何かありそうだと言わんばかりの惚け具合に頭痛を感じる信之。


「まあまあ。これは別に君たちにとって特段大きな影響はないはずだから、頭の片隅レベルというのは信じてくれていいよ。それで、今から行ってみるかい?話はもう終わったし、もう行っても問題ないよ。」


「いや、すぐには行かないな。いったん家に戻ろうと思っている。」


「そっか。じゃあ、家に帰してあげるよ。さっきも言ったけど、あっちの世界に行きたくなったら指輪を使用すれば行けるからね。あと、地球の人間がヴェルスヒルントムンドに行ったタイミングでヴェルスヒルントムンドの言語スキルを自動で獲得できるようになってるからそこは安心してね。」


「…。」


テオスの話に呆れて言葉を失う信之。


「…あなたを倒すためにヴェルスヒルントムンドに行くというのに呑気なことですね。何を企んでいるかわかりませんが、僕は必ずあなたを倒します。」


信之が言葉を失った理由を代弁する蒼汰。


「ふふ、楽しみにしているよ。それじゃあ、また会える日を楽しみにしているよ。」


テオスがそう言うと、信之たちの体が光始める。


「またね。」


テオスの言葉の後、信之たちは転移した。

問題なく、信之の家に転移が出来たことを確認したテオスは椅子に座り、紅茶が入ったカップを持ち上げる。


「嫌われちゃった…ふふ、まるで僕は道化師だな…。道化と言えば、信之君の仮面がピエロだったかな。」


自虐を呟きながら紅茶を飲むテオス。


「でも、これが一番手っ取り早いよね…あまり時間がないから。…イリニデア、君が創り、愛した世界は僕が守ってみせるよ。」


――――――――――


「家に戻ったか。っておい!」


家に戻った信之は足元を見てすぐにツッコミを入れた。


「あー!靴履いたままリビングにいる!」


「あら、玄関に戻らないとね。」


「…信之兄さんごめんなさい。」


イリスやソフィアが驚いている中、蒼汰は信之に謝る。


「ん?いや、別に掃除機をかければこんなのどうってことないぞ。掃除機をかけなくても、自動でぐるぐる回って掃除してくれる便利な機械もあるしな。」


「…あ、そっちではなく…いえ、そっちもごめんなさいですが、神様と戦闘したことです。」


どうやら蒼汰が謝罪したかったのは土足でリビングにいることではなく、テオスと戦闘をしたことについてだったようだ。


「…神様との話が始まるときは、冷静でいようと思ったんですが…ダメでした。あの時は怒りで周りが見えておらず、自分はどうなってもいいという考えで戦闘を行ってしまいました。今になって考えれば、僕らに力を与えたのは神様ですから、勝てる道理もありませんでした。ごめんなさい。」


「ごめんなさい…。」


蒼汰の言葉を聞いて、奏も信之に謝罪する。


「…蒼汰、奏。お前たちの両親が殺されてしまった辛さ、悔しさ、怒りといった感情すべてを共感できるかと言ったら難しい。だからこそ、さっきは二人の気持ちを汲み取って戦う許可を出した。勿論、何かあったら命を懸けてでも二人を守ろうと思ってな。」


「…はい、実際に何かされそうになった時、助けに入ってくれました。」


「だが、あの時、俺は許可を出したことに後悔した。」


「…後悔?」


信之の言葉が理解できなかった蒼汰は聞き返す。


「俺は二人を本当の弟や妹だと思っている。あの時、もし仮にテオスがお前たちを殺そうとしていたら、俺には何もできなかった。」


そう言って信之は悔しそうに拳を握りしめる。


「…蒼汰、奏。さっきも言ったように両親が殺されたことは、俺には計り知れないほどの怒りがあるかもしれない。けれど、だからと言って自分はどうなってもいいという考えで戦闘をしないでくれ。もし二人が死んでいたらと考えると震えが止まらない。だから…頼む。」


「…信之兄さん。本当にごめんなさい。」


「ごめんなさい。」


信之の言葉に、蒼汰と奏は目に涙を浮かべながら謝罪する。

その涙は、自分たちを想っていてくれていた信之への感謝の涙であった。


「わかってくれてありがとう。あの時許可を出したのは俺だし、完全な判断ミスだった。それは俺も謝らないとならないところだ。申し訳ない。」


判断を誤ったことを謝罪する信之。


「…よし、じゃあ反省は終わったし、今後の事について話をしようか!」


信之は少し暗くなった雰囲気を手を叩いて払い、今後の話を始める。

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