第90話 焼き鳥が現れました。
「お、大きいわね…。あんなのに攻撃されたらひとたまりもないじゃない!早く信を助けましょう!」
ソフィアは信之を助けようと前に出るが、誰も動かない。
「み、みんな!早くしないと信が…!」
誰も動かないことに焦りと苛立ちを隠せないソフィア。
「信くんなら平気だよ!あんなのちょちょいだよ!」
「…イリス姉さん、ソフィアさんは信之兄さんの実力がわからないから焦ってるのではないのでしょうか?」
「え?…あー、そっか!ソフィアさんは信くんが戦ったところ見た事ないもんね!」
「そ、そんなに信は強いの?」
「うんうん!だから、このまま見てようよ!」
「わ、わかったわ。でも、大丈夫かしら…。」
信之一人で問題は無いとイリスたちに言われたが、少し不安が残るソフィア。
(あれは見ただけでわかる…私では手に負えないほど強力なモンスターだわ。私一人では助けに行っても何の役にも立たないかもしれないけれど、信が危険な時にはすぐにでも助けに行かなきゃ!)
決死の覚悟をするソフィアに対して信之は…。
「炎を纏う鳥って、体はどうなってるんだろうな?焼き鳥になってるのか?でも脂は滴れてないな…。焼かれてる状態だから火を起こす必要ないんだよな?主婦にはありがたい仕様だな。あ、モンスター倒したら消えてしまうから、肉を剥ぎとれないのか…。残念だ。」
呑気に目の前の怪鳥が食べられないかを考えていた。
目の前の怪鳥は、非常に大きく、赤い炎を纏っている。
怪鳥は炎を纏った状態で羽ばたいており、その羽ばたきによって発生する熱波で普通の人間は焼け死ぬほどの熱量を持っているのだが、イリスのエアーコントロールに込められた魔力が膨大なため、信之は熱さを感じない。
「待てよ?モンスターは死んだら黒い霧になるってことは、モンスターがかろうじて生きていれば…切り取った肉を食べることができるかも?モンスターを食べることで何かしらのスキルに目覚めたり、強くなったりするラノベを最近読んだし、やってみる価値はありそうだな!じゅるり。」
獲物を狙うかのような目をして怪鳥を見る信之。
「キュウウウゥウ!?」
自分を獲物として見られていることに気付いた怪鳥は、動揺と怒りで攻撃を始める。
怪鳥は自身の燃え盛る羽根を羽ばたきと同時に信之に飛ばす。
その羽根は、一枚一枚が1メートルを超えており、羽軸の部分はかなり太く硬い。
刺さったらその部分には大穴が空き、さらに炎で燃やし尽くされるだろう。
「さて…とりあえず、横一文字に真っ二つにすれば、すぐには死なないかな?」
信之は降り注ぐ羽根をゆっくりと避けながら、死刻を構える。
「――――
信之は刀を横なぎに払う。
その速度は尋常ではなく、イリスたちには全く見えないほどだ。
―――ピシッ
ひび割れるような音が聞こえる。それは怪鳥の方から聞こえた。
ソフィアは、音が聞こえた怪鳥の方を見ると、怪鳥は羽ばたきが止まっていた。
なのにもかかわらず、怪鳥は落ちない。
不思議に思っていると、空が割れた。
そして空が割れると同時に怪鳥が真っ二つに割れて地面へ落ちていく。
「な、なにが起きたの…?」
ソフィアは何が起こったのかわからずに一人呟く。
「さて、肉を食べよう!」
ソフィアの動揺を認知していない信之は、怪鳥の肉を探す。
「お、これか!……なにこれ、めっちゃ生肉のような感じなのに燃えてる!?流石に強くなってもこれを口の中に入れるのは無理だわ…。おかしいだろ!ラノベなら強くなれる場面なのにッ…!」
四つん這いとなって落ち込む信之。
「え…信何しているの?なんでいきなり落ち込み始めたのよ…。」
信之の行動に何が起こっているのかが更にわからなくなるソフィア。
「…はぁ。このままにしておいても意味無さそうだし、モンスターは倒しておくか。」
下半身は無くなっているが、立ち上がろうとする怪鳥に信之は再度絶空を放つ。
その攻撃によって怪鳥は絶命し、黒い霧となって消滅する。
「さて、宝箱でも開けるか!」
強くなれなかったことに落ち込んでいた信之だが、気を取り直して宝箱を開けることにした。
「の、信、ちょっと…!」
宝箱をあけようとすると、ソフィアが走って信之の目の前に来る。
「お、ソフィア。宝箱の中身が気になってきたのか。流石は探索者だな!」
「違うわよ!さっきのでかい鳥をどうやって倒したのか気になって聞きに来たのよ!」
「あー、あの鳥か。絶空というスキルで剣聖の☆7で覚えられるスキルだ。空間を絶つことから絶空というらしい。俺としては断空の方がしっくりくるんだけど、敵の命を絶つという意味も含めて絶空らしい…スキル説明に書いてあった。」
スキルの名前に少し不満があるのか、あまり納得いっていない表情で信之は語った。
「絶空…凄いスキルじゃない!信、あなたそんなに強かったのね!」
「まあ、このスキルは少し溜めが必要だから、その分隙が大きいんだけどな。てか、ソフィアは俺の事そこまで強くないと思っていたのか?」
「えぇ。ただの美味しい食事を運んでくれるおじさんだと思っていたわよ?」
信之に狂わされた調子を戻したソフィアは、意地の悪い顔で信之を揶揄う。
「誰が、おっさんだ!まだまだいけるわぃ!」
「食事よりもおじさんの方に反応するのね。しかも口調はおじいさん…。」
ソフィアは信之に対して突っ込みどころが多すぎて、再度調子を狂わされる。
「まあ、そんなことより宝箱を開けるか!」
「宝箱を開けるときは、ごまだれ~っていうんだよね!?」
いつの間にか近くまで来ていたイリスが信之に尋ねる。
「…信之兄さん、そのネタは少しコア過ぎませんか?」
「ごまだれ~?」
「イリス、そのネタの話は忘れて!?」
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