第86話 蒼汰の職業とソフィアの苦手なもの

「ねえ、私も経験値の間へ行ってもいいかしら?」


家に帰ってきた信之は、モルとじゃれて遊んでいたところ、ソフィアから経験値の間へ行きたいというリクエストが来た。


因みに信之のじゃれ方がモルにとっては鬱陶しかったため、モルはサマーソルトキックを放ってその場から離れた。

サマーソルトキックは爪が信之の鼻先に当たり、信之は悶絶している最中であった。


「いてて…そ、そういえば、昨日は結局経験値の間へ行かなかったもんな。んー…今から行ってもいいんだが、勝手に行ってしまうとイリス様がお怒りになられるからな…。」


何故かイリスは自分のレベル上げでなくとも、経験値の間へ一緒に行きたがる。


以前、信之ひとりで経験値の間へ潜って事後報告した時は…


「なんで教えてくれないの!信くんが強くなるところが見たかったのにー!お仕置です!」


と言って、信之はミイラにされた過去がある。理不尽極まりない。

あれ以来、イリス置いて経験値の間へ行くことは無くなったのだ。


「あら、そうなの?ならイリスちゃんが帰ってくるまで待つわね。」


「お、大人…だと!?」


すぐにでも行きたい!と言われなかったことに驚く信之。


「ちょっと…。そのくらい待てるわよ!信、あなた私の事どれだけ子どもに思っていたのかしら…。」


「い、いや、ソフィアを子どもに見ていたとかではなく、イリスと比べてしまった時に…。」


イリスレベル上げオタクであれば、確実に我慢が出来ず今すぐに行くと言っていたところだ。


「あら、そんなこと言っていいのかしら、イリスちゃんに告げ口しちゃおうかし…」


「たいっへん申し訳ございませんでした!失言でしたぁあああ!」


即座にジャンピング土下座をする信之。


「…知り合ってまだ間もないけれど、あなたが尻に敷かれるタイプだというのは良くわかったわ…。」


「くぅーん…。」


「グフッ!」


ソフィアに簡単に見破られてしまう信之であった。


「たっだいまー!」


「わふっ!」


「わぁー!モルちゃん、ただいまー!」


イリスが帰ってきた。

モルはすぐに玄関に走り出して、イリスの胸に飛び込む。


「お、イリス、おかえり。これからソフィアのレベル上げに経験値の間に行くんだが、一緒に行…」


「行く!」


信之が話し終える前にオタク心に火のついた目をしたイリス。


「あ、はい。」


「ごめんね、イリスちゃん。付き合わせちゃって。」


「全然大丈夫だよ!むしろ私にとってはご褒美だよ!」


「ご、ご褒美…?」


鼻息を荒くして目を輝かせるイリスを見て、理解が出来ずに困惑するソフィア。


「まてよ?それなら…。」


困惑するソフィアを放置して信之は考える。


「なあイリス、それならついでに三階層の下も降りてみるか?」


「おぉー!やっと下を目指すんだね!俄然、やる気出てきたよー!」


某龍玉のようにビュインビュインと音を立てながら、体の周りにエネルギー的な何かを放出させるイリス。


「やめなさい、家が壊れるでしょ!てか、それどうやってるの!?」


「え?すっごいやる気出ると勝手に放出されるよね?」


人差し指を顎に当てて、首を傾げるイリス。


「されないよ!?」


「されないわね…。」


「あれれー?それよりも、奏ちゃんと、蒼汰君も呼んでみんなでいこー!」


信之とソフィアに否定されたが、イリスはそれよりも早く経験値の間へ向かいたいようだ。


「そ、そうだな。奏と蒼汰も呼ぶか。」


信之は念話を使用する。


(奏、蒼汰。これからソフィアのレベル上げと、経験値の間の攻略を行うんだが、一緒に行くか?)


(行く~!)


(…行きます!)


全員で経験値の間へ向かう事となった。


「よし、みんな準備はいいか?経験値の間へ行くぞ。」


テレポートを使って、奏と蒼汰を自宅に連れてきた信之は皆に確認する。


「大丈夫だよー!」


「準備することがないから大丈夫~。」


「…お姉ちゃん、ハンカチとティッシュ持った?歯磨きはした?」


「うん!あれぇ、蒼汰…それって経験値の間へ行く前の準備なの~?」


「ふふ、準備はできてるわよ。楽しみね。」


「わふぅ!」


変な会話が混じっているが、各々準備は万端のようだ。


「よし、じゃあ経験値の間へ行くぞ。」


信之達は、経験値の間へと向かった。


「ここが、経験値の間なのね。平和そうな風景ね。」


ソフィアは青い空、白い雲、緑の草原を見て呟く。


「確かに平和だな。ここには全く攻撃してこないメタルスライムだけしかいないからな。」


「なら蟲もいないのね?私、蟲があまり好きじゃないからここに住みたいくらいね。」


「…ぐはっ!!」


ソフィアの発言に蒼汰は大ダメージを受ける。


「あら、どうしたの?蒼汰。」


「ソフィア…、実は蒼汰は蟲を操る職業なんだ…。」


「え!?」


蒼汰の職業を知ったソフィアは慌てふためく。

蒼汰は、ソフィアの家まで追ってきたルーマニアの警察に対して回復蟲を使用しているが、ソフィアは蟲を使って回復させたことに気付いていなかったため、今まで蒼汰の職業を知らなかったのだ。


「ご、ごめんなさい、蒼汰…。え、えっと、蒼汰が意思を持って操ってくれるのなら問題ないと思うわ。」


「…そうですか、蟲が嫌いな方は多いですし、仕方がないと思うので気にしないでください。…因みにソフィアさんはどんな蟲が嫌いですか?」


蒼汰は、大ダメージを負いながらもなんとか気力を振り絞って立ち直る。

ソフィアにどんな蟲が嫌いかを聞いたのは、なるべくその蟲を出さないようにするためだ。


「そうね…。」


考えるソフィア。

もしかしたらソフィアの回答によっては、さらに蒼汰を傷つけてしまう可能性があるからだ。

ここは、誰もが嫌がるような蟲を選ぶことにした。


「私はゴキブリが苦手ね。あと、"蠅"もイヤだわ。食べ物とかにブンブン飛び回って鬱陶しいのよね。」


「…ごはぁ!!!!」


「そ、蒼汰!?」


ソフィアの回答に対してダメージが大きすぎて吐血する蒼汰であった…。

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