第85話 魅了耐性を取得して正解でした…。

ソフィアの服や下着を買うために、二人はショッピングモールへ買い物へ出かけた。

出かけた場所は、以前イリスと行ったショッピングモールである。


因みにソフィアにはサングラスをかけてもらっている。

ソフィアの瞳を見た人の大半は、カラーコンタクトを付けているのだろうと思うが、今はSNSなどで簡単に世界に情報が流れてしまうため、念のための対策だ。


ただ、ソフィアが外出をするたびにサングラスをかけるのも不便だと思い、信之は瞳の色を変えるスキルや、目立たないカラーコンタクトを付けるなど、何か恒久的な対策を検討する必要があると考えた。


日本に来たことが無かったためか外の景色やショッピングモールの中で、ソフィアはとても興味深そうにあたりを見回していた。

かといって、興奮して騒ぎ立てるといったことはせず、まさに淑女と呼ぶのにふさわしい人物だと信之は感じた。


「良い服はあったか?」


「あり過ぎて困ってしまうわね…。あまり悩むのは好きではないのだけれど、こうもいろいろな服があると…。」


ソフィアは気になる服が多数あり悩んでいる。


「試着室があるから試着して確認してみたらどうだ?」


「あら、いいの?試着してしまったらその分時間がかかるわよ?男の人って早く買って帰りたいって思っているんじゃない?」


どうやら信之に気を遣って、早く決めて買ってしまおうと思っていたようだ。


「あー。まあ確かにそういう人も多いだろうし、俺も以前はそうだった。でも今の俺は無職だ。どのくらい時間がかかっても問題ない!任せろッ!」


胸を強くたたいて、ドヤる信之。


「それって、威張ることなのかしら…。でも、それならよかった。遠慮なく時間を掛けさせてもらうわね。まずは、あのお店から入りましょう?」


「ん…?あの店は…。前にイリスと入ってニュースになった店じゃ…。」


ソフィアが指を指した店に信之は以前の事を思い出す。


「ソ、ソフィア、あの店はやめておこう。」


「あら、何か悪い噂でもあるの?」


「いや、そうではないが、イリスとあの店に行ったことがニュースになってしまってな…。」


「あぁ、もしかすると、イリスちゃんと一緒にいた男が、私とデートしているのが流出してしまったら厄介なことになるという事かしら?」


「人聞き悪いことを言うな!…だが、その…、そう言う事だな…。」


否定をしたかったが、誰が見てもそうだろうという状況に認めざるを得ない信之。


「ふふ。そういうことならイリスちゃんに迷惑が掛かってしまうかもしれないし、やめておいた方が無難ね。」


「あ…イリスの事は考えるけど、俺の事は考えてくれないのね…。」


別の店を探すソフィアに、がっくりとうな垂れながらついていく信之であった。


その後はいろいろな店を回り多数服を購入した。

もちろん赤い下着も忘れてはいない。


赤い下着については、信之がしっかりとデザインや使われている生地を確認して購入した。

その本気度合いにはソフィアもドン引きである。


2時間ほどかけて買い物をした信之達は、ショッピングモールを出て近くのレストランで食事を摂ることにした。


「悪いな、味が無いのに付き合わせて。」


「これくらいいいわよ。私だって買い物に付き合わせてしまったのだし…それに料理に味は無くとも、調味料は目の前にあるでしょ?」


そう言ってソフィアは信之を見る。


「いやいや!流石にここで血のソースをかけるとかはできないからな!」


「ふふ、冗談よ。でも、血ではなくて、唾液なら透明だしバレないわよね?」


「ま、まあ唾液なら血よりは目立たない…ってそんなことできるか!」


信之は、漫才師のように手を振ってソフィアに突っ込みを入れる。


「…。早く唾液をつけて?」


「唾液は冗談じゃなかったの!?」



食事を終え、買い物も済んだので帰ろうと道を歩いていると、スーツを着た男性二人が近づいてくる。


「あの、すみません。どこかの芸能事務所に所属されている方ですか?」


スーツの男性の一人が、ソフィアに話しかけてきた。


「信、この人はなんて言っているの?」


ソフィアは、言語理解のスキルを取得していないため、日本語が理解できない。

そのため、買い物の際も信之が通訳をしていた。


「ソフィアがどこかの芸能事務所に所属しているのか聞いているな?」


「…?なぜそんなことを聞いてくるのかしら?」


「聞いてみるよ。」


「すみません、彼女は日本語を話すことが出来ないので私が代わりに答えます。」


「そうですか。ありがとうございます。」


信之が代わりに答えるというと、スーツの男性は少し顔をしかめつつも、信之に謝意を述べる。


「彼女は、私の連れで特に芸能事務所に所属はしていません。」


「そうですか。とてもきれいな方なので、どこかの芸能事務所に入っているのかと思いました。私どもはとある芸能事務所をやっておりまして、もしよければ話をさせていただけませんか?」


どうやらソフィアをスカウトしようと話しかけてきたようだ。


「ソフィア、芸能人に興味が無いか聞かれているぞ。」


「芸能人?全く興味ないわよ…。それに私、正式な手続きを踏んで日本に来ているわけでもないから、そもそも無理ね。」


「そうだよな。」


ソフィアは全く興味無しのようだ。


「彼女は芸能系に全く興味は無いという事なので失礼します。」


信之は、話を終わらせ立ち去ろうとするが…。


「ちょっと待ってくださいよ…。彼女は本当にそう言っているんですか?あなたが適当なこと言っているだけじゃないですかねえ?ちょっと事務所まで来てくださいよ。事務所になら英語話せる人間がいるんで。」


信之の肩を力を込めて掴み難癖をつけてきた。


「何を言っているんですか?そんなわけないでしょう。時間の無駄なので行く意味もありません。放していただけますか?」


「うるせぇ!黙ってついてこいや!兄ちゃん、言う事聞かねえと痛い目見んぞ?」


(あまり健全なスカウトマンじゃ無さそうだな。事務所も怪しそうだ…。)


話し方も態度も一転して、ただのチンピラのようになったスーツの男性。


「何か厄介事かしら?」


ソフィアは信之に尋ねる。


「あぁ、どうやらあまりよろしくないスカウトマンだったようだ。ちょっと懲らしめるよ。」


「それだと騒ぎが大きくなるから、私に任せて。」


ソフィアが前に出て、スーツの男二人と目を合わせる。

すると、目が合ったスーツの男たちは突然動きを止めて静かになる。


「誘惑を使ったのか。」


「えぇ。信、日本語を教えてほしいのだけれど…。」


「何の日本語だ?」


「家から一生出てくるなって。」


「…それ実質的な死刑宣告だぞ…。」


ソフィアの言葉に呆れる信之。


「大丈夫よ、誘惑はずっとかかっているわけじゃないから、そのうち効果は消えるわ。」


「なるほど…ならいいか。」


信之はソフィアに日本語を教え、ソフィアは日本語でスーツの男たちに伝えた。


「「はい!一生家から出ません!お言葉ありがとうございます!!」」


スーツの男たちはそう言うと自宅へ走って帰っていった。


「ソフィアの誘惑、怖すぎだろ…。」


「ふふ、なんて使い勝手の良いスキルかしら。」


信之はスーツの男たちを見て、魅了耐性を取得して本当に正解だったと感じた。

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