第84話 信之の勝利と赤い下着

———チュン、チュン


外は既に朝日が昇っている。


「はぁ、はぁ…。勝った…、勝ったぞッ!!」


信之の目の前にはイリスとソフィア二人が気持ちよさそうに眠っている。


そう、信之は勝ったのだ…苛烈をきわめた夜の戦いに。


イリスはいつも通りに色欲のスキルが勝手に発現し、とてつもなく信之を絞ってきた。


想定外だったのが、ソフィアである。

ソフィアは信之から放出されたなにかしらをかなり飲んで満足したかと思いきや、妖しい笑みを信之に向けた。

実はこの時、ソフィアは新しいスキルを取得したのだ。


ーーーーー

(名)

吸精


(概要)

対象の精を体内に取り入れることにより、わずかに能力が向上する

飲む量が多ければ多い程、能力が向上する

サキュバス、もしくは一部のヴァンパイアのみ取得可能なスキル

ーーーーー


吸精のスキルを取得したソフィアにおいて、もはや信之は最高の餌であった。


(あの時のソフィアの目はヤバかった…。俺を丸ごと食べるんじゃないかとヒヤヒヤしたな…。)


ちなみにソフィアは、夜の格闘技中にも誘惑のスキルを使ってきた。

危うく再度誘惑にかかりそうになった信之は、流石にまずいと思い魅了耐性スキルを取得し、即レベルを上限まで上げたため、何とかレジストに成功した。


それからはもう夜通しの戦いであった。

信之のスキル、救性守は非常に強力でスキルの説明通り、精が尽きることは無かった。

そのため体力の勝負となり、最後は男の意地で勝つことが出来たのだ。


と、信之は思っているのだが、実はイリスは今日仕事であったため、腹六分目程度で寝ており、その事に信之は気付いていない。


――――ピピピピピピッ!


イリスのスマホが鳴る。

どうやら設定していた時間となったため、アラームが鳴ったようだ。


「あ、そういえば今日仕事だって言っていたな…。ほら、イリス起きろ。朝だぞ、仕事があるんだろう?」


「むにゅ~、あと五分…。」


「はぁ…。仕方ない、五分待つか。」


――五分後


「イリスー、起きろー。」


「あと、十分…。」


「増えてる!?」


このやり取りが何回か繰り返され、アラームを見ると最後にセットされていた時間は既に過ぎていた。


「これはまずいな…遅刻するぞ…。」


しかし、何度起こしてもイリスは起きない。


「どうする…確か今日はテレビ番組の収録って言っていたし絶対に大事だろ。だが眠いまま強引に起こして行かせるのも危ういか?イリスなら収録中に寝てしまいそうだ…。」


信之は考えた結果…。


「んーッ!よく寝たぁ!」


イリスは起きた。

恐らくだが、あれから4時間以上は寝ていたのではないかと考えられる。


「おう、起きたか。」


信之は草むらの上で寝転がりながらイリスを見る。


「ふぇ?外…?あ!ここって経験値の間!?」


そう、信之はイリスを経験値の間へ連れてきていた。

きちんと予備のベッドを持ってきてそこにイリスを寝かせたのだ。


「イリスがアラームの時間が過ぎているのにもかかわらず起きなくてな。悩んだ結果、時間の止まる経験値の間でイリスが起きるまで待ったわけだ。」


「え…私起きなかったの!?今何時かな?」


「現実の世界は大体八時半だ。」


「う…。でも急いで支度すれば全然間に合う。信くんありがと!おかげで遅刻せずに済みそうだよー。」


イリスはベッドの上で上半身を起こし、寝ぐせをつけながら信之にお辞儀をする。


「こんな使い方もできると知れたし、二重の意味で良かったよ。」


「あー!確かに…。という事は、これからは寝不足を考えずに信くんを搾り取れるってことだね!」


「絶対嫌だけど!?」


この使い方は今後封印しようかと本気で考えた信之であった。


◇◆◇◆◇


「じゃ、行ってくるね!」


「あぁ。気を付けてな。」


「イリスちゃん、行ってらっしゃい。」


「わふぅ!」


準備が終わったイリスは仕事へ向かった。


特にやることが無い信之は、ニュースでも見ながらモルをモフっていようかと思っていたのだが…


「ねえ、信。」


「ん?どうした、ソフィア。」


「何か気付かない?この服を見て?」


信之は、ソフィアの服を見る。

ソフィアの服は、日本語で「働いたら負け」と記載されているTシャツを着ていた。


「…かわいい服だな。」


どういっていいのかわからずに、とりあえず褒める信之。


「違うわよ!…というかこれ可愛いの?そうじゃなくて、この服はイリスちゃんの服なのよ。」


「イリスの服だったのか。…あ、ソフィアもしかして服が無いのか?」


「やっと気づいてくれたわね。そうなの、私、荷造りをせずに日本に来てしまったから何も持ってきていないのよ。」


ソフィアは手をぶらぶらと振って、荷物が無いことを主張する。


「そうか…確かに何も持ってこないままテレポートをして…はっ!?まさか、あの赤い下着も持ってきてないのか!?」


「な、なんで赤い下着があることを知っているのよ?えぇ、もちろん持ってこれなかったわよ?」


「ガッデム!!!ならば今すぐに買いに行くぞ!赤い下着をッ!!」


信之は両手で頭を抱えて絶望するが、すぐに立ち直り、赤い下着を買うために外出の準備をし始める。


「な、なんで赤下着限定なの!?というかいきなり興奮し過ぎじゃない?はは~ん…そんなに私の赤い下着姿を見たいのかしら?」


ソフィアは悪戯な表情で信之を見る。 


「ちちちげーし!見たって全然興奮とかしないし!あ、あれだぞ?赤い下着をつけると通常の三倍の速度で動けるのを知らないのか?」


「知らないわよ…。」


どもりながら適当な言い訳をする素直じゃない信之に、若干不満気に答えるソフィアであった。

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