第67話 さあ、命名式だ!

「ふぁ~!かわいい~!!」


「…とても可愛いですね。」


「凄いよ!信くん!仔犬がいるよ!かわいすぎるよ!愛おしいよ!狂おしいよ!」


ちょこんと座っている仔犬の魅力に三人は虜となってしまった。

特にイリスは、興奮しすぎて語彙力の低下どころか少し頭がおかしくなっているようだ。

信之は、仔犬の魅力によりステータスの低下やバッドステータスを引き起こしているのではないかと心配になった。


そんな三人を見た仔犬は、きょろきょろとした後に首を傾げる。


「…ッ!くはぁ…。」


首を傾げたところを直視してしまったイリスは、倒れて戦闘不能に陥った。


「…あ、あのイリス姉さんがやられるなんて…。僕が頑張らなきゃ…。」


「イリスねぇが負けたこんな強敵、勝てる気がしないよ~。」


君たちはいったい何と戦っているのだと突っ込みたい衝動に駆られる信之であった。




「さて、諸君。今回連れてきたこの子に名前を付けたいと思う!皆で案を出そうではないか!」


突然気取り始める信之に、三人は仔犬の魅力から抜け出しその場に正座する。


「はいはーい!私はもう決めたよ!」


イリスが元気よく手を挙げる。


「ふむ…イリス君か。よかろう、言ってみなされ。」


「ゴン太!」


「さて、蒼汰君。君の案を聞いていいかね。」


「むぅ!!」


イリスの案をスルーし、蒼汰に聞く信之。


「…そうですね。名前を付ける前に、まずは性別の確認が必要かと思います。」


「うむ!素晴らしい考えだ。この子は女の子だ。」


「はうあ!?お、女の子だったの…。」


メスの犬にゴン太の名前を授けようとしていたイリスは、性別を確認しなかったことを反省する。


「じゃ、じゃあゴン美…」


「イリス君は黙っていなさい。」


「むぅ…。」


部屋の端っこで丸くなるイリス。


「…女の子なので、ハナちゃんとかどうでしょうか。」


「おお~、とてもかわいらしいな…しかも呼びやすい。候補に入れよう。」


「じゃあ、次は奏の番~!」


奏もイリス同様、元気に手を挙げる。


「よし、奏君はこの仔犬を見てどんな名前が良いと思ったかな?」


「えっと~、くも!」


「え?くも?」


「うん!なんだかお空の雲みたいだな~って思ったから、くもがいいかな~って!」


どうやら奏はこの仔犬のフォルムが雲に思えたようだ。


「なるほど、雲か…。」


「確かに雲に見えるね!仔犬だから触るとほわんほわんだし!」


いじけモードから抜け出したイリスは、仔犬の体を触りながら言う。

雲を触ってもほわんほわんなんてしないぞと思う信之。


「…そうですね。お姉ちゃんの言うとおり雲を思わせるような毛の色ですが、女の子につける名前として考えると、くもというのはちょっと…。」


「そうだな…少し女の子らしさがないどころか、雲じゃなくて蜘蛛を連想してしまうな…あ、待てよ?」


信之は、スマホを開いて検索し始める。


「これだ、決めたぞ!名前はモル。雲を表す言葉だ!」


「モル!かわいい名前だね!」


「わ~い、雲が採用された~!」


「…良いですね。君の名前はモルだよ。これからよろしくね。」


蒼汰は、モルの頭を撫でながら話しかける。

言葉が通じないモルは撫でられるのが気持ちいいのか、目を瞑って蒼汰にされるがままの状態だ。


「そういえば気になっていることがあるんだ。」


「気になること?」


「あぁ。モルを家に連れて帰ってくる途中に職業を確認していたら、獣使いが新しく追加されていたんだ。」


「…もしかすると、モルを飼う事で獣使いが解除された?」


蒼汰は顎に手を添えながら呟くように話す。


「今までなかったからな…恐らくそのとおりだと思う。」


「信にぃ、獣使いになったら何かあるの~?」


「獣使いになって、スキルを確認したら獣魔契約というスキルがあったんだよ。」


ーーーーー

(名)

獣魔契約


(概要)

獣や獣系統の魔物に従属契約が可能となる

契約をすることで、獣使いの職業でなくても心を通わすことが可能となる

契約を行うためには、相手の承諾が必要

ーーーーー


信之は、獣魔契約のスキル内容を三人に話した。


「獣使いだから、獣系しか従属できないってことなのかな?」


「恐らくそういう事だと思う。モルは獣に分類されるだろうからちょっと試してみようと思ってな。」


そう言うと信之は、モルの方を向く。


「モル、俺と獣魔契約をしないか?」


モルは信之の方を向き、首を傾げる。

信之は獣使いになったことで何となくだが、モルの言いたいことが分かった。


「ん?モルというのはお前の名前だ。お前は今日からモルだからな。覚えておいてくれ。」


「わふっ。」


モルはわかったと言わんばかりにかわいらしく鳴く。


「それで、獣魔契約をしてくれないか?」


モルは獣魔契約というのがわからない為、再度首を傾げる。


「獣魔契約ってのは…。まぁとりあえずモルにとって良い事だ!獣魔契約してくれたら、美味しいごはんをたくさんあげるぞ!」


説明が面倒になった信之は、食べ物で釣る作戦に出た。


「わふっ!」


即承諾するモル。


「よし、じゃあ始めるぞ!」


信之は獣魔契約のスキルを発動すると、モルのいる地面に魔法陣が出現する。

誘いの門鍵の時のコントラクトと同じような感じだなと信之は思った。


契約が完了すると魔法陣は消えた。


「よし、これで完了だな!」


「わふっ!わふっ!」


「ははっ、早く美味しいもの寄こせって言ってる。どうやら契約することでモルの言っていることがより明確にわかるようだな。」


信之は、犬用のおやつをモルに食べさせる。

モルは必死におやつを食べる。とてもお腹が空いていたようだ。


「えー!信くんずるいよ。私もモルちゃんが言ってること知りたい!」


「奏も知りたい~!」


「ふっ、飼い主であるこの私の特権なのだよ!はーはっはっは!」


信之が得意げにしていると、突然システム音がした。


ーーーーーーー

平信之が従属契約を行ったことを確認しました。

以降、従属契約の対象であるモルは、経験値の間へ向かうことができます。

なお、経験値の間へ向かう際は、平信之の同行が必須条件となります。

ーーーーーーー




「…え?モルも行けちゃうの…?」

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