第66話 新しい家族が出来ました。

蒼汰は信之の家に来ており、正座をしていた。


「…信之兄さん、本当にごめんなさい…。」


「いやいや、過ぎたことだし気にしてないよ。」


信之は既に蒼汰から事情を聞いている。


「銀行強盗をやっつけたんだろ?偉いよ。奏も良くやったね。」


「えへへ~。」


「…でも、勝手に名前付けちゃって…。しかもそれがニュースに。」


蒼汰はかなり落ち込んでいるようだ。


「蒼汰くんが付けてくれた名前とってもカッコイイよ!えっと…闇夜のぺんだこ?」


「…ペルソナです…。」


イリスは蒼汰を元気づけたかったようだが、名前が覚えられなくて逆効果だったようだ。


「もうやめてイリスねぇ!蒼汰のライフはゼロよ~。」


「え、ライフゼロ!?蒼汰くん回復しなきゃ!エクスヒール!」


ネタとは知らずに本気で回復しようとするイリス。


「なんで奏はそのネタを知ってるんだ?」


「なんか友達が言ってた~!可哀想な人に使ってあげてって言われたの。」


「…ぐぅ…。」


本当にライフが0になりそうな蒼汰であった。


◇◆◇◆◇◆


「そういえば、明日ちょっと実家に行ってくる。」


「実家?何かあったの?」


信之の言葉に、家族に何かあったのかと心配するイリス。


「それが…家で犬を飼っているんだけど、その犬が子供を産んだらしいんだ。たくさん産まれて育てるのが大変という事で、犬を欲しがっている近所の人や知り合いに仔犬を譲ったんだが、俺も犬を飼いたくてね。」


信之は以前お金が無かった事と、仕事で自分自身の生活がいっぱいいっぱいであった為、動物を飼いたかったが我慢をしてきた。

現在はお金もあり時間もある。とてもタイミングが良かった。


「実家…。わ、私、ご挨拶した方がいいのかな…。」


恋人の親に挨拶をすることを想像して途端に慌て始めるイリス。


「いや、俺一人で行ってくるよ。まだ親にイリスの事話していないから、いきなり一緒に行ったら大変なことになりそうだ。」


「そ、そっか。…うん、おとなしく待ってる。」


ホッとしたような、残念なような反応のイリス。


「仔犬が来るの~!?楽しみ!」


「…僕も楽しみです。」


「俺もだ。明日が楽しみだな!」


「ねね!もう飼う事決まってるなら、今から必要な物揃えようよ!」


「確かに。じゃ、みんなで行くか!」


四人は、仔犬を飼う上で必要な物の買い物に出かけた。


———次の日


信之はレンタカーを使って実家に来ていた。

レンタカーを使った理由として、信之の実家は他県であり、そこは車無しではどこにも行けないようなところだ。

いつも実家に帰る際には車か電車を使用しており、電車では仔犬を連れて帰れない為車をレンタルした。


実家は海がすぐ近くにあり、波の音や磯の香りがする。


(久しぶりだな。帰るのは2年ぶりくらいか…?)


信之は帰る前に予め親に連絡を入れており、痩せたことを伝えてある。

痩せた顔を送った時には、どこかのサイトの画像でも送ったのか?と信じてもらえなず、テレビ電話をしてようやく信じてもらえた。


「ただいま。」


信之が玄関で声をかけると、リビングから信之の母親が来る。


「信!あんた…ほんとに痩せたんだね。」


「テレビ電話でも言っただろ。それより、仔犬見せてくれ!」


信之は靴を脱いで家に上がるとすぐにリビングに向かう。


「あんたは久しぶりに帰ってきてそれかい!」


リビングに入った信之は、母犬を見つける。

母犬はモモという名前で今年で五歳だ。モモは柴犬によく似た雑種であり、毛色は体(背中側)と頭の耳辺りまでが茶色で、腹側と目元辺りは白色だ。つぶらな瞳をしておりとてもかわいい。


「モモ!久しぶりだな!」


信之はモモに話しかける。

モモは知らない人物が来たのかと、うなり声を上げていたが臭いで信之とわかったようで、尻尾をこれでもかというほど振って信之に飛びつく。


「相変わらずだな!ははっ。」


久々の再会に頬が緩む信之。


「久々のモモはかわいいだろ?毎日となると少し鬱陶しいものがあるけどねえ。で、そっちにいるのがあんたが持ち帰る仔犬だよ。」


母親が指を指した方を見ると、真っ白な仔犬がこちらを見ていた。


「おお、真っ白なんだ。仔犬なのにもうモモに似てるのがわかる!つぶらな瞳が特に…。」


「そうだろ?この子だけ本当にモモによく似ていてね。毛は白いけど、大きくなったらモモみたいに茶色になるかもねえ。」


「そっか。確かに大きくなると毛の色が変わるっていうもんな。」


母親と話しながら信之は仔犬を持ち上げる。

仔犬は抵抗することなく、信之の臭いを嗅いで手を舐めている。


「よし、この子は私がもらおう!」


信之は突然気取り出す。


「は?初めからその話だっただろう?何言ってんだか…。」




その後信之は母親といろいろと話をし、久々の母親手作りのご飯も食べたので帰ることにした。


「あんた、もう帰るの?兄弟やお父さんとも会ってないじゃない。」


「駄目だ!そんな時間はない!早く、一刻も早く俺は家に帰ってこの仔犬とラブラブ生活を送るんだっ!」


「…何言ってんだこいつ…。」


ドン引く母親。


「じゃ、また来るよ。次会うときは彼女もつれてくるわ。」


「わざわざ東京から連れてこなくてもいいのに。」


「ふーん、付き合っている子は芸能人なんだけど…じゃあいいか。」


そう言ってて信之は車へと乗りこみドアを閉め、車を出す。


「…はぁ!?ちょ、ちょっとそれどういう事…待ちなさい!ぜ、絶対連れてきなさいよーー!!!」


新しい家族である仔犬を迎えられた事と、久しぶりに会った母親が元気でいた事に自然と頬を緩ませる信之であった。

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