第65話 閑話_4 拝啓 信之兄さん、勝手に名前を付けてごめんなさい。
(ど、どうしよう、入ってきたはいいんだけど何言うか全然考えてなかった…。)
さりげなく絶賛緊張中の蒼汰。
「て、てめえはいったいなんだ!?」
蒼汰が緊張しているとも知らず、動揺した強盗犯は蒼汰に問う。
(はっ!?どうしよう…名前も考えてなかった…。な、なにか名前、名前を…!)
全くもって何も考えていなかった蒼汰は焦る。
どうやら蒼汰には無言で鎮圧するという選択肢は思い浮かばなかったようだ。
「…ぼ、僕は蟲王。ひ、人質を解放してもらうよ。」
困った挙句に適当に名前を付けた蒼汰は、人質を解放するという目的を強盗犯に伝えることができ、安堵した。
しかし…。
「てめえの名前じゃねえ!仮面にローブ…。テロリストを制圧したピエロやおかめの仮面のやつらと同じ組織だろ!てめえらの組織はいったい何だって聞いてるんだよ!」
(えー!?そ、組織?組織化なんてしてないよ…。組織なんてないっていえばいいのかな。)
「…そ、組織なんてないよ。」
「嘘つくんじゃねえ!明らかに動揺してんだろ!」
仮面はしていても声は震えている為、動揺していると思われた蒼汰。
(嘘じゃないよ!人がたくさんいるところで話したことないから緊張しているだけなのに!)
組織なんてないと言っても信じてくれないと思った蒼汰は、組織名を考える。
緊張して頭が回らない蒼汰は無視して制圧するという考えには至らなかったようだ。
(えっと、黒いローブにマスクだから…)
「…ぼ、僕たちは"闇夜のペルソナ"そのメンバーの一人さ。」
「あ?闇夜?今はまだ夕方にも…」
「…とうッ!」
「でぼらっ!」
闇夜なのに夕方にもなっていないと突っ込まれそうになった蒼汰は、無かったことにするために強盗犯を蹴り飛ばした。
「て、てめえ、いきなり何を!」
別の強盗犯が蒼汰に怒鳴る。
「…。」
(あ…最初から無言で倒しちゃえばよかったのか…。なんで気付かなかったんだろう。恥ずかしすぎるよ…。)
ようやく無言で倒すことを思いついた蒼汰は、次の敵に向かって攻撃をしようとするが…
「そこまでだ!それ以上動いたら人質を殺すぞ!」
強盗犯は刃物を人質の喉元に押し付けて盾にした。
しかも一人だけでなく四人の強盗犯が各々別の場所で人質に刃物を向けている。
このままでは蒼汰が仮に一人を倒したとしても、他の強盗犯が人質を傷つけてしまう。
「へっ!狐野郎終わりだな!」
勝ちを確信した強盗犯であったが…
その時、音楽が聞こえてきた。
「な、なんだ、この音楽…」
強盗犯は音の聞こえてくる正面のロビーの方を向く。
そこには白い狐の仮面をした奏が立っていた。
「ま、まだ仮面野郎がいやがったのか!」
「か、体がうごかねえ!?」
奏は傀儡のカプリッチョを奏でていた。
そのため、強盗犯は動けなくなったのだ。
「今だよ、蟲王。」
「…うん。」
蒼汰は、四人に魔界の蟲を飛ばす。
「…昏倒蟲。刺されたら簡単には起きれないから覚悟してね。」
四人は刺されて気絶した。
「…終わりましたね。皆さん、もう安全です。僕たちはこれで失礼します。」
「さよなら~。」
蒼汰と奏は正面から外に出て、常人には見えない速度で移動した。
正面から出た際に警察がいたが、警察はとても恐ろしいものを見たかのように後ずさりして、こちらを警戒していたのが蒼汰は気になった。
二人は誰もいないところで変装を解く。
蒼汰には奏に聞きたいことがあった。
「…お姉ちゃん、もしかして正面から入ってきたの?」
「うん!そうだよ~。ガラス割って入ろうか、裏口のドアを壊して入ろうかとか迷ったんだけど、修理にお金かかっちゃうかなって思って、正面から入ることにしたんだ~。」
よくわからないところで気を遣う奏に蒼汰は溜息をつく。
「…はぁ。でも正面には警察いたでしょ?簡単には入れなかったんじゃない?」
「うん、中に入ろうとしたら邪魔してきたから、何人か投げ飛ばした~!せっかくお巡りさんの代わりに人助けしようとしたのに酷いよね!」
「…お姉ちゃん…。」
だから警察はあんなにも怖がっていたのかと合点がいった蒼汰。
「ねね、そんなことより蒼汰、面白いこと言ってたね~。」
「…おもしろいこと?」
「蟲王、闇夜のペルソナ…ぷぷっ…。」
奏の言葉に蒼汰は顔を真っ赤に染める。
「…ち、ちがうよ!あれは答えないと先に進まないと思ったからてきとうに言っただけで!」
「あははは!おっかしい~。蒼汰にもそんな一面があったんだね~。」
「…どんな一面だよ、もう。それはもう記憶から消してよ。…あれ、記憶…?」
記憶という言葉から蒼汰は事件現場の強盗犯や、人質を思い出す。
「…あぁ…。みんなその話、聞いちゃってる…。」
「蟲王と闇夜のペルソナのこと~?強盗の人とか人質の人たちは聞いてるね~。」
顔面蒼白となった蒼汰は立ち上がる。
「…このままだとこの話がメディアに…!それは駄目だ、信之兄さんとイリス姉さんに迷惑かけちゃう!」
「でも、どうするの~?もうみんなその場にはいないよ?」
奏の言葉にがっくりと膝をつき、この世の終わりかと思うほどの表情をする蒼汰であった。
◇◆◇◆◇◆
信之は、優雅にコーヒーを飲みながらニュースを見ていた。
「何だかゆっくりするのが久しぶりな気がするな。」
「次のニュースです。本日午後16時ごろ、〇〇銀行に強盗が押し入りました——————五人の強盗は逮捕されましたが、その強盗を無力化したのは狐の仮面をした二人の子供だったとの事です。また、現場で人質となった人達からの情報では、仮面の子供はテロを防いだピエロやおかめの仮面をしていた人物の仲間であると話していたとの事です。さらに、一人は自身を"蟲王"と名乗り、仮面の組織は"闇夜のペルソナ"という組織名であると話していたとの事です。警察は、銀行に現れた狐の仮面の実力から信憑性の高い情報だと——————」
「ぶふーーーーーっ!!?」
「え、なに!?信くんどうしたの!?」
信之は、コーヒーを噴き出した…。
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