第37話 死にゲーですか?

時はイリスがSNSにて悠助から脅しを受けた頃に戻る。


───────​───────


信之とイリスは気分転換のために経験値の間でレベル上げを行っていた。

レベル上げによって信之のMPは9999となり、その際に上限突破に関する文言が突然追加された。


それを見た信之は、能力値の上限は9999で、この上限突破の間にて、条件をクリアすることで能力の上限が上がり、1万以上の能力値を獲得できるのではないかと、確信に近い推測をした。


そこまで認識した信之は、直ぐに上限突破の間へと向かう事にした。


「あ、イリス。ちょっと良いか?」


「どしたの?信くん。」


信之はイリスに能力値の上限と、上限突破について教える。


「なるほど!じゃあ、今から上限突破の間に行って、突破のイベントをクリアしてくるってことだね!」


「イベント…ゲームっぽいけど、確かにイベントだな。そういう事だ。行ってくるよ。」


「うん!じゃあ、一旦おうち帰ろ?私、家で待ってるね。」


イリスとともに経験値の間でレベル上げを行っていた為(とは言っても武器を持っているのはイリスなので信之は何もしていない)、一旦家に戻る。


「じゃ、行ってくるよ。」


「行ってらっしゃい!」


信之はシステムに上限突破の間へ行く事を伝える。


ーーーーー

上限突破の間への転送を開始する前に、今回のルールを説明します。

ーーーーー


(ルール?)


ーーーーー

上限突破の間ではボスが存在し、ボスを倒すことで上限突破が可能となります。


ボス討伐はソロで行う場合、超高難易度の為お勧め致しません。上限突破の間へ入る権限を持ったパーティでの挑戦をお勧め致します。


また、上限突破の間では、死という概念はありません。その為、挑戦者がボスに倒された場合、挑戦者は挑戦前の状態に戻ります。倒された場合、デバフなどデメリットとなる事もありません。


転送を開始しますがよろしいですか?

ーーーーー


(やられても良いのか。恐らくパーティの権限というのは、各々の何かしらの能力値が9999になっていないとパーティとして認識されないんだろうな。イリスはまだ上限に行ってないし、とりあえずソロで行ってみるか。)


信之は転送を開始した。




「…ここは?」


気づくと信之は大理石のような光沢のある白い石の上に立っていた。


石は50cm程の正方形で、それが何百個も理路整然と並べられており、全体の外径は100メートル程の正方形となっているようだ。


壁は無く、空が見える。

信之は一番端まで行き、下を覗く。下は雲が覆っており、ここが空中である事がわかった。


「空気は…特に薄くは無いな。現実であればここまで高い所だったら酸素濃度が低くなったりするはずだけど…特別なステージって事か。」


信之は中央へと歩く。


ーーーーー

10秒後にボスが出現します。

準備をしてください。

ーーーーー


「なるほど、時間で現れるのか。魔装召喚!」


信之は装備を召喚する。

今回はいつものピエロではなく、黒い禍々しい鎧だ。


肩の部分には何かの捻れた角が突き出しており、胸から腹部にかけて凶悪な龍のようなものが口を開けているデザインがされている。口から光線が出そうな雰囲気だ。

繋ぎ目の部分は赤に近いオレンジの色で、まるでマグマが流れているかのようにゆっくりと動いている。

これが信之の厨二病最強装備だ。因みに魔装召喚は「込めた魔力量」で攻撃力や防御力が上がるため、ピエロの服でも全く性能は変わらない。


単に信之の趣味である。


魔装召喚が終わった直後にソレは来た。


「グォオオオオオーーーー!!!」


けたたましい咆哮が上空から聞こえてくる。


「い、いやいや、これはヤバいって…」


見ただけで、信之は察した。



アレには勝てないと…。


ーーーーーーー

(名)

天衝銀竜てんしょうぎんりゅうアーカーシュ・アルギュロス


(概要)

頂きを目指す者達に立ちはだかる試練の君


その長く白い双角は雷を纏い、鋭い牙は如何なる物をも噛み砕く。銀の厚い鱗は敵の攻撃を軽減させ、凶爪は空間をも裂く。


ーーーーーーー


天衝銀竜は、金色こんじきの瞳で信之を見る。


見られた信之は、それだけで体が震え、冷や汗をかく。脳が命の危機だと警告しているのだ。


(…落ち着け!!ステータスをまず確認しろ!)


信之は魔纏の瞳を発動した。


ーーーーーーー


天衝銀竜アーカーシュ・アルギュロス


種族 天衝銀竜

称号 試練ヲ与エシモノ


Lv 不明

HP 不明

MP 不明

ATK 不明

DEF 不明

INT 不明

AGI 不明

スキルポイント 不明


スキル

不明

ーーーーーーー


「うそ…だろ…。」


信之は驚きを隠せない。


ーーーーーーー

(名)

魔纏の瞳


(概要)

相手のステータスを読み取る。

ただし、対象の能力が自身の能力を倍上回る際は、読み取る事は不可。

ーーーーーーー


「俺のステータスの倍以上かよ…。そりゃ無理ゲーだろ…。…だが!」


折れそうになる心を立て直し、信之は天衝銀竜の元へ走る。


「グガァアアアアアッ!!!」


天衝銀竜が吼えると、天に魔法陣が構築され、無数の雷が落ちる。


「…おっと!」


信之は瞬間移動で雷の範囲外である、天衝銀竜の後ろを取る。


「よし!竜鏖撃滅斬りゅうおうげきめつざんッ!!」


後ろを取った信之は、剣士系最上位スキルを放つ。このスキルは竜特化スキルで、竜に使用した場合通常の5倍のダメージを入れられる。

信之の持っている中のスキルで竜に対して1番火力の出るスキルだ。


厚い鱗を切り裂き肉が見えた。


「グギャアアアアッ!!」


天衝銀竜が喚く。

喚くということは、ダメージを与えているということ。

信之は再度、竜鏖撃滅斬を放とうとするが…。


「…危なッ!?」


信之の真上から、強大な尻尾を振り下ろしてきた!

信之は横に避ける。


尻尾は、地面を叩き付けて、大量の瓦礫が舞う。


「あんなの食らったら、1発で終わり…がはッ!」


信之は腹部に衝撃を感じ確認する。

信之の腹部から槍状の石が生えていた。

周りを見渡すと、辺り一面石の槍が地面から突き出しており、信之はそれに串刺しとなった。


「ぐ、グランドハスタ…か…。」


天衝銀竜は、瓦礫に意識が向いた信之に地属性上位のグランドハスタを使用していた。


信之は突き刺さっている石の槍を抜く為、瞬間移動で自身の体だけ移動する。

移動後、ぽっかりと体に空いた穴は回復系上位のエクスヒールを唱えて塞いだ。


「前は雷、後ろは槍の海って…コイツは頭もいいんかい…。ならこっちは卑怯な作戦で行かせてもらうぞ!」


信之は瞬間移動を連続で使用し、攻撃を仕掛ける。


その攻撃に天衝銀竜は対応ができず、信之の攻撃によりどんどん傷が増えていく。


「よし!このまま瞬間移動で押し切る!!」


このまま押し切れるかと思いきや、


「グガァアアアアアッ!」


「うわっ!」


いきなりの咆哮に信之はバランスを崩す。


「なんだよいきなり…。まあいい!もう一度瞬間移動で!…あれ?瞬間移動が…使えない?…おいおいまさか!?」


そう。先程の咆哮は、移動系スキル阻害の効果があった。


「コイツチートすぎんだろ!?勝てるかァ!!」


流石の信之も匙を投げる。


そんな信之の気持ちを露とも知らない天衝銀竜は、再度天から無数の雷を放つ。


「き、きびしぃ!!!」


瞬間移動が出来ない信之は自力で避ける。しかし、避けることに夢中となったのが命取りだった。


信之は天から落ちてくる無数の雷を避け終え、天衝銀竜を見ると…。


「あら…?それ…ブレス吐こうとしてませんか…?」


これが信之の最後の言葉だった。


信之は天衝銀竜のブレスを浴び、炭すら残さず消滅した…。





天衝銀竜にやられて初の敗北惨敗を喫した信之は、現実の世界に戻った。


「戦ってきたよ…。」


「え、もう終わったの?どうだった?」


「クソゲーだった!もう行かん!」


信之は、子供のようにいじけるのであった。

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