第22話 ワイトさんの運命が垣間見えました。

ワイトの元へ行くまでには、結構な数のモンスターと戦うことになった。

戦うのが信之であったら軽く辟易するのだが、イリスは何とも思わない。むしろモンスターが現れてくれた方が、イリスのテンションは上がるようだ。


「あ、この先にモンスターが居る!骸骨さんだから…エアハンマー!」


最近覚えた探知魔法でスケルトンを見つけたイリスは、エアハンマーを放つ。


基本的にイリスは風魔法を愛用している。風属性は野外であっても建物の中であっても使いやすい為だ。


イリスが使用したエアハンマーは、打撃属性のある風魔法で、スケルトン系のモンスターには非常に効果的だ。


やはり、ゲームのようにモンスターには弱点があり、例えばスケルトンであれば斬撃や、突く攻撃については効果が薄く、対して打撃や炎については弱点となっている。


それがわかっていると、省エネかつ短時間でモンスターを倒せるので非常に効率が良い。


「あ!信くん、この先にワイトいるよ!」


探知魔法にワイトが引っかかったようだ。


「了解、気を引き締めて戦おう。」


「うん!」


信之とイリスは、ワイトの前で動きを止めた。


ワイトは、ミイラの様相をしており黒いローブを来ている。


「うー。グロテスクだよぅ…。」


「確かにグロイね。エリアクリーン解除したら凄い臭いしそうだ…。」


「絶対解除しないでね!!!」


どうやらイリスはボスモンスターと対峙しても、会話ができる余裕はありそうだ。


「大丈夫、そんな事しないよ!じゃ、いってら!」


安心した信之は、そう言ってイリスを送り出す。


「行ってきます!」


イリスは言うと同時にブーストを使って、ワイトの近くまで移動する。


「…!……。」


ワイトはイリスに気づくと、すぐに魔法を展開した。

魔法は自分を支援する魔法のようだ。


「これは、火魔法を軽減する魔法…。近づいて高火力の火魔法を使おうとしたけど、無理そうね。」


イリスは火魔法が効果的ではないと考えると、すぐに自身が持っている魔法の中で最も強力なものを使用した。


「サイクロン!!」


サイクロンは風魔法の中位クラスで、中位の中でもそれなりに高威力の範囲魔法だ。


ワイトを中心として風が巻き起こり、範囲内の敵を切り刻む。


しかし、ワイトは動じない。


通常のモンスターであれば深い裂傷を負うところが、ワイトには効果が薄いようだ。


ワイトはサイクロンを受けながらも魔法を使用する。


「……!」


ワイトが放ったのは闇属性魔法のダークミスト。


ダークミストもサイクロン同様範囲魔法であり、範囲内にいるものに対し眠りの効果を与える。

また、それだけではなく、追加効果としてミストが体内や体外を蝕み継続ダメージを与える。


「…!ウインドボム!」


ダークミストを見て危険性をすぐに理解したイリスは、咄嗟にウインドボムをダークミストの進行上に設置する。


設置したウインドボムは爆発し、爆発した際の強い風でミストをかき消した。


その後、イリスは各属性の攻撃魔法を使用したが、効果は全て薄かった。


「ど、どうしよう…。まさか魔法があまり効かないなんて…。こうなったら、物理攻撃…?うぅ…、それはヤダよぅ…。」


流石にミイラ化して酷い臭いのするモンスターを素手で戦うのは嫌なイリス。


イリスが苦戦しているのを見て信之は、助け舟を出す。


「イリス、ゲームを思い出すんだ。アンデッドに有効な魔法はまだ残ってるよ!」


「ゲーム?アンデッドに有効な魔法…。あ!」


どうやらイリスは理解したようだ。


「ワイトに対して…ヒール!!」


イリスはワイトに対して光属性ヒールを使用する。


「………!!!」


ヒールを使用されたワイトは、ボロボロと形を崩していく。


しかし、ワイトもただやられるだけでは無い。


ワイトは口を開け、声にならない叫び声上げる。


「◎△$♪×¥●&%#?!」


「ひぃ!」


声を聞いたイリスは動揺し始める。

人を恐慌状態に陥れるスキルのようだ。


「くっ…!させないよ!ホロウ!」


唇を噛んで、気持ちを引きしめたイリスは、ホロウという風魔法でワイトの周りに真空を作り、声が届かないようにする。


「はあ、はあ、これで!!ヒール!」


多数の魔法を使用し、ワイトの攻撃にも耐えたイリスは疲労困憊状態ながらも、わいとにヒールを使用する。


「…!!!!……。」


イリスの決死のヒールは、ワイトに大きな効果をもたらし、ワイトは消滅する。


「や、やったぁ…。」


ワイトを倒したイリスは、もう余力が無かったようで力無くその場に座る。


「お疲れ様!よく頑張ったね!」


ワイトとの激戦を見届けた信之は、異次元収納からタオルと、冷えた飲み物を渡す。


「はい。後はヒール。」


「信くんありがと…。」


タオルと飲み物を受け取ったイリスは、信之からヒールを受ける。


「ワイトはなかなか厄介だったね。」


「うん。信くん、どうしてワイトの弱点がすぐにわかったの?」


「あー、それね。鑑定を使ったんだよ。」


そう、信之は鑑定を使用してワイトの弱点を見つけた。


その時の内容が


ーーーーーーー

(名)

ワイト


(概要)

ゾンビの高位種族。アンデッド全体としては中位クラスに属する。魔法に特化しており、ほとんどの魔法に対する抵抗を持つ。炎が弱点だが、炎に対する抵抗を獲得する魔法を使用する為、非常に戦いにくい。


ばっちいからと言って清める魔法は使用しないように。

ヒールも同様に使用しないでね。

ーーーーーーー


釘を刺しているのだが、やってみろと言わんばかりの内容だった。


「そっか…それは弱点ヒールだって思うよね…。」


話を聞いたイリスはなんとも言えない顔で肯定する。


「ちょいちょい鑑定内容に遊び心入っているんだよな。こまめに見た方がいいかもね。」


「うん!確認するねっ!」


「よし、じゃあワイトの戦利品を確認しようか。」


ーーーーー

(名)

ワイトの魔石


(概要)

その名の通りワイトの魔石。魔石は、魔石を通じてあらゆる資源として利用が可能。魔石のランクが高い程、高出力・持続力を発揮することが出来る。当該魔石のランクはD。

ーーーーー


ーーーーー

(名)

嘆きの大杖


(概要)

とある帝国の下位貴族だったその者は、貴族としての地位は低かったが婚約者とともに幸せに暮らしていた。しかし、不幸は突然二人に降りかかる。婚約者が上位貴族の目に留まり、婚約を解消しろと命令が下る。下位貴族であったため、通常では断ることができないが、その者は婚約者を愛し、婚約者もその者を愛していた。その為、上位貴族からの命令を丁重に断った。


次の日、婚約者は買い物から帰ってこなくなった。その者は町中を探し回り、上位貴族にも掛け合ったが回答はもらえなかった。


そして1週間後、婚約者は町はずれの森で遺体となって見つかった。裸で倒れており、暴行の跡が…

ーーーーー


「無理!無理!もう読みたくない!!!」


信之はそう言って鑑定の表示を閉じる。


「す、凄い鬱展開な話だね…。しかもすっごく長い…。」


流石のイリスもドン引きだ。


「と、とりあえず最後の行に効果が書いてあったよ。嘆きの大杖の中には無念の中死んだ下位貴族の魂が閉じ込められていて、使用すると召喚できるってさ。…イリス、使ってみr」


「絶対イヤ!!ムリ!!」


イリスは顔を青くして否定する。

鳥肌が立っているのが信之から見えてしまうくらいの拒否反応だった。


「だよね。じゃ、これはゴブリンリーダーの大鉈同様、異次元収納の肥やしにしておこう。」




不幸な運命を辿った者の魂は、杖となっても不幸な運命だった…。

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