第2話 不敵な笑み
「お、帰ったか。おー、スフィアもまだ顕現したままなんだな。」
「お帰り、三人とも。」
「ただいま。ウィルド、ミル。」
「お迎えありがとうね。」
「ただいまー。」
魔法陣で転移したレイとレリア、そして名をスフィアという幼女を出迎えてきたのは、ウィルドと呼ばれる少しくすんだ金色の短髪とこげ茶色の肌、肌とよく似た色の眼を持つ筋骨隆々の大柄の青年と、紫紺の髪を肩にかからない程度に伸ばし、黒みがかった紫色の眼をした、ミルという名の小柄な少女だった。ウィルドは筋トレを、ミルは先ほどまでつけていたヘッドホンを首あたりにかけて3つの大きなスクリーンを前にキーボードをたたいている。
「あ、ミル。指示ありがとね。レリア見失っちゃって。」
「ん。あれはレリアも悪い。速すぎ。」
「私は全力を持って任務を遂行しただけよ。」
「今日もレイはかっこよかったよ?」
「喧嘩か?俺も混ぜろーい!」
五人があーだこーだ言い合っていると不意に奥の扉が開く音がした。五人全員が扉の方向に目線を向けると、出てきたのは茶髪で目は閉じている不思議な雰囲気を醸し出す青年。
「レイ、レリア、ご苦労様。ワロウに調整をしてもらっておいで。」
「はい。ありがとうございます、隊長。行こうか、レリア。」
「ええ、ロイス隊長、失礼します。」
赤髪の青年、ロイスがこちらに笑みを返してくれたのを確認してから二人は部屋を出た。
しばらくして二人が帰ってくると部屋の雰囲気が先ほどとは一転し、ピリピリしたものになっていた。
「ああ、お帰り。二人とも。少しみんなで話をしたい。こちらに来てくれ。」
二人の帰りに気づいたロイスが先ほどと変わらぬ笑顔で二人を手招きした。
二人がウィルド、ミル、スフィア、そしてロイスの4人の近くの椅子に座るのを確認するとロイスは机に両肘を置き、手を組んでそこに顎をのせた。
ロイスが何か話し始める時の癖だ。
「イヴァルで影の発生が確認された。」
「っ!」
みんなが一斉に驚きをあらわにする。
この世界には一本の大樹とそれを囲むようにしてフェアリアル森林という精霊の住まう森林があり、さらにその森林を囲むようにして、オルトス、エルドリア、ギアノン、イヴァル、そして、今レイたちの真下にある国、アルマ、これら五つの国々が互いに均衡を守って存在している。
レイたちは現在アルマの真上、はるか上空を飛ぶ飛空艇の一室にいた。
「お、おい。隊長、影はアルマにしか発生しないはずだろ?ガセ情報か何かじゃあねえのか?」
「いや、ウィルド。これはアルマ・シリウス様からの確かな情報なんだ。幸い、影は夜しか活動しないという特性のおかげで、イヴァル自体にはまだそこまで実害が出ているわけじゃないんだけどね。でも影にはありがたい特性と引き換えに、魔術を介した攻撃しか一切効かないっていう最悪な特性も持ち合わせている。一億歩譲ってこれががセ情報だとしても魔術を使えるものが現国王しかいない国に影が現れたかもしれないっていうのはそれだけで最悪の脅威だよ。それにアルマにしか出ないというのは、戦争が終わって20年間そうだったってだけの話だ。」
「そうね、影は千年戦争から今に至るまで数多の研究者が研究を重ねても発生原因すらわからない超常現象だもの。どこで発生しようと不思議時じゃない。」
動揺を隠そうともしないウィルドをロイスとレリアがいさめる。
「そこで、僕たち"暁"の出番というわけ。」
ロイスは笑みを崩さずに言い切る。彼らは"暁"と呼ばれる国お抱えの戦闘集団。そして千年戦争を生き抜いた機械兵である彼らは千年兵と呼ばれ、戦争が現在の五つの国の王たち、五人の英雄によって終結してからは影退治を生業としている。その存在を知るものは五人の英雄と千年兵開発者 ワロウ・リミスだけである。
現在、五つの国は条約によって影退治集団である暁を例外として、自衛のための最低限を超えた武力の一切を禁じられているため、影に対抗できる者、いわば魔術を行使できる者は五つの国で暁、それと五人の英雄しか存在しない。
そんな彼らにこのような緊急を要する状況で依頼されることは一つ。
「皆、イヴァルに旅行しに行こうか。」
ロイスは終始笑顔で、その他のものは顔を引き締めて、今回の話し合いは幕を閉じた。
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