第3話 喧嘩するほどなんとやら
「いつ来ても緊張しちゃうなあ。」
「こればっかりは慣れるようなものじゃないわね。」
レイとレリアがそれぞれ感嘆の声を漏らし、ロイスを除く暁のほかのメンバーも緊張した面持ちを隠せないでいる。
現在レイたちはアルマの王城内の廊下、高級そうな装飾が一面に施された煌びやかで荘厳な扉の前に立ちすくんでいた。
「さて、皆、謁見の準備はできたかな。」
この中で唯一平静を保っているロイスがいつもの笑顔をみんなに見せて尋ねた。レイたちが落ち着きを少々取り戻したのを確認すると、ゆっくりと扉に近づき手のひらを扉につける。
「どーん。」
その声は何の合図だったのだろう。その答えにたどり着く前に答えが自分からやってきた。
煌びやかな扉がぶっ飛ばされていく。そんな光景を見てレイたちにいったい何ができようか。否、ただ状況を受け入れ、空気のようにその場に立ちすくむことしかできなかった。
「...イスー」
ロイス以外の全員があっけにとられている中、微かな、しかしよく通る声とともに一人の男が血眼になりながらこちらに走ってくるのが見えた。
「ロイスゥゥゥーーーー!!!てんめぇ!また壁ぶっ壊しやがったなぁ!!」
今度ははっきりと聞こえる声で男が叫ぶ。男は走りながらロイスを目視すると、右手に燃え盛るような赤色の魔法陣を浮かべ、ロイスにとびかかった。
ロイスは後ろに飛び、それを涼しげな顔で回避すると、男の拳は勢いそのまま床にたたきつけられた。爆発音にも似た衝撃音とともに床がえぐれ、瓦礫がこちらに飛んでくる。
あっけにとられていたレイたちも一瞬驚いてからすぐに回避行動に移る。
「やあ、英雄シリウス王。ご壮健のようで何よりだよ。」
砂煙がおさまると、ロイスは何事もなかったかのように男の方へと顔を向け、いつもの笑顔で挨拶をした。
「ああ、おかげさまでな。ド畜生。」
シリウスと呼ばれる男は、燃えるような紅い髪をかきあげ、髪色とよく似た色の猛々しさのある紅色の眼でロイスを睨みつけそう答えた。
「んで、わざわざ謁見の予約まで取り付けて、何の用だ。」
「イヴァルの件で少しね。」
シリウスとロイスは机越しで向き合って椅子に座っている。レイたちはロイスの背後に立って護衛のような立ち振る舞いでいた。
「以前お前に伝えたことでほとんどすべてだ。新しい情報がきたら逐一連絡する。」
「それはありがたいんだけど、今回はそのことじゃなくて、今後の作戦行動について。イヴァルにはレイとレリア、そしてウィルドが向かい、諜報担当のミルと隊長である僕はアルマに残る。それでいいかい?」
「ああ、イヴァルの件については全面的にお前らに任せる。それはそうと、扉弁償しろよ?、、、、、おい?おーい!?ロイスゥーーー!?」
シリウスが釘を刺すと、ロイスはおもむろに立ち上がり、シリウスに微笑みかける、次の瞬間ロイスはその場から消えていた。
取り残されたレイたちからは冷や汗の滝が流れている。
「お、お前ら。ロイスの部下だよな?上司の失態は仲間たちで補わないとな?」
シリウスが強引に笑みを作り、レイたちを問いただすとレイたちは各々目をあわせて頷きあう。息を少し多めに吸ってこちらも強引に笑みを作る。
「し、失礼しまぁす、、。」
レイたちの足元に魔法陣が浮かび上がり、一瞬で彼らの姿が消えた。
「ふ、ふざけんなああああああ!!」
広く作られた客室に響き渡るには十分な声量であった。
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