第29話 問⑨答え フタヒロ視点『ボクだけのユキ』
*これは、性描写だと思う。(≧∇≦)
「フタヒロくん、そんなに離れていなくても大丈夫よ」
露天風呂に腰かけてユキが言う。胸のあたりまで巻いているバスタオルの裾をいじっている。
「ああ……」
ボクはお湯の中を歩いて、ユキの方に近づく。手をのばせばユキの肌に触れそうだ。ユキがお湯の中に入れている足を動かす。湯船に浮かんだ薔薇の花びらが揺れる。さわりとボクの腕にユキの足がかすかに触る。もっと触れたいと体中の血管が脈打つ。
―― このまま手をのばして押し倒しちゃえ。
誰かがボクの頭の中で囁く。でも……とボクがためらっていると、ユキがちゃぷりと湯船に手を入れる。ちゃぷり、ちゃぷりと水の中で動かしている。
「ねえ、フタヒロくん、さっきドラマで彼女が苦い思い出話をしようとしていたじゃない?」
「?」
「フタヒロくんなら、思い出話を聞く? それとも聞かない?」
「ユキの子どものころの話のことかい?」
「そ」
ユキがあいまいに笑う。無造作に後ろで縛っている濡れた髪、少し桃色がかった頬。ボクは思わず目をそらして外の景色を見る。目の前には、満天の星が映し出されている湖面。ボクは大きく息を吸う。
「聞かない」
「でも……」
ちゃぷり、ちゃぷり、という水の音が止まる。隣でユキが困った顔をしているのが簡単に想像できる。ボクはあえてユキの顔を見ないで、景色を睨む。しばらく黙っていたけれど、しびれをきらしたようにユキが口を開いた。
「昔の私って、もっとずるくて、自分勝手で……」
「それで? 二尋に出会って変わったとでもいいたいのかい?」
ボクは眉を寄せている自分を自覚せざるを得ない。
「そ、そんなこと……」
ユキがしどろもどろにこたえるものだから、ボクはますます気に入らない。
「小学校のころから大好きで、二尋を追いかけていたって言ったじゃないか。今までもこれからも二尋のそばにいるのだから、今日くらいはボクのユキでいろよ」
ボクは、少しやけになって、ユキの手を引っ張った。きゃっと言ってユキが腰を滑らせて、湯船に落ちてきた。ばしゃりと水しぶきがボクにかかり、ユキがまとっていたバスタオルが水に浮かぶ。
「もう! 溺れたらどうするの!!」
ユキはちょっとだけむうっとした声をあげた。
「ふん。昔のユキがどうであれ、ボクには今の君の情報で満足している。運転が出来て、雲上図書館で働きたくて、酔いすぎると笑い転げるユキ。それで十分だ。それなのに、なぜ、過去を持ち出す? 持ち出されてもボクには慰めあう過去がない。笑いあえる未来もない。この体さえ二尋のものでボクには何も存在しないんだよ。からっぽなんだ」
ボクは強引にユキの腕を引っぱって自分の目の前に引き寄せ、腰に手を回す。細い腰。やわらかい胸。素肌の感触。しびれに似た感覚がボクの全身を駆け巡る。
不安で揺れているユキの目とあう。
―― かまうものか。
ボクは有無を言わせず、ユキの唇に自分の唇を重ねる。深く、深く、深く……。
あふっ……。甘いユキの吐息がこぼれる。ユキの白い肌がかすかに桃色を帯びていく。
「フタヒロくん……」
ユキがボクの首の後ろに手をまわして、自分からボクの唇に唇を重ねた。熱い吐息がボクの感覚を狂わせていく。
何か得体の知れない気持ちに突き動かされるように、ボクはユキの体に手を滑らせる。ユキの首に、鎖骨に唇をあてる。ボクに反応してユキがびくりとする。ユキの香りが、ユキの声が、空っぽのボクを満たしていく。もっと、もっと、とボクの中のボクが叫ぶ。
「はふっ……、フタ…ヒロ…くん…、あっ……」
とろんとした目のユキ。力が入らなくなったのか、ボクに体を預けてきた。
「お願いだから、今日だけは、ボクだけのユキでいて。ユキを感じたいし、ボクだけを見て、ボクだけを感じて……」
ユキが小さく頷く。ボクは、そのままユキを抱きかかえると湯船をでてベッドへと向かった。
ボクはユキの唇から少しずつ下へ自分の唇を動かしていく。首筋に唇を押し当て、鎖骨を軽く噛み……
ごぼごぼごぼ………。
不意にボクの口の中に水が入り込んできて、ボクは盛大に水を飲み込んでしまった。
「……、フ、タヒロくん。大丈夫? お風呂、あがろっか」
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