第24話 問⑧ &答え フタヒロ視点【彼女の友達に会う? 会わない?】
お題は彼女の友達に会う? 会わないでしたが、彼女の友達の母親に会う? 会わないにストーリー上変更します。
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「私がここで働きたかったというのは、私とフタヒロくんだけの秘密だよ」
ユキはそう言うと図書館の扉を開けて、出て行った。ボクは、「働きたかった」といった場所をもう一度見ようと、後ろを振り返る。木の香、本の香、窓から入り込む太陽の暖かな日差し。ざわざわした人の声。
ユキの好きなものは、こういう世界なんだ。
ボクは息を吸い込むと、扉を開けて外に出た。
外では、ユキがスマホをいじっている。
ボクが視界に入ると、スマホをしまって、何気なく言う。
「次は後輩のお見舞いにサナトリウムに行く予定なんだけど、……、電話でね、後輩のお母さんと話していたら関川くんの話になってね」
「そのお母さんに、ボクのコト話した?」
「全部じゃないけどね」
当たり前のようにいう彼女。
反対に動きを止めるボク。
もし、ユキがボクの秘密をしゃべったら、ユキの命の保証はできなくなる。研究所に有無を言わせず、連れて帰らなくてはいけない。胸ポケットにしまっている注射器がずしりと重みを増す。
「でね、一緒にサナトリウムに来てもらって、紹介したいんだけど……どう?」
ボクをなんて紹介するのか?
恋人?
それとも恋人ごっこをしている他人?
「フタヒロくんが、そういうの苦手なのは知ってるんだけど……ダメかな?」
彼女が上目遣いでボクを見る。
ボクの頭の中ではいろんな思惑がグルグルと回っていたが、こう答えることにした。
「そうだね……、構わない」
「あーよかった。断られたらどうしようって思ってたの。赤ちゃんって女の子なんだって。名前はええっとぉイロハちゃんだったかなぁ」
「しかし、ボクが行ってもいいのかい?」
「うん。問題なしよ」
自信たっぷりな顔をして、ユキがいう。
「そうだ。今から会いに行く後輩は、堀田ハナちゃんって言ってね、女子中高時代の後輩なんだ。知ってる?」
「堀田……ハナ……?」
ボクは二尋から引き継いだ情報の中から堀田ハナに関するものがなかったか考える。しかし、何も出てこない。ボクはすこし眉を下げてユキを見る。このポーズは困ったときのポーズ。
「関川くんは、他人に興味がないというか、覚える気がないのか、……そんなところよ。だから、フタヒロくんが引き継いだ関川くんの情報の中にはないかもしれないわね。私も最近は、ハナちゃんのことを話したりしなかったし……。ちなみに、深山くんの義理の妹」
「? 深山研究員の? しかし、名字が違うようだが? それに、深山研究員には兄弟はいなかったはず。会計士の父親とそりが合わなくて、田舎を飛び出したはずだ」
「まあねー。いろいろあってね。父親が違うのよ。でも、二人、仲良くてね。中高時代、夏休みに、三人で旅行に行ったこともあるのよ」
「三人で旅行??」
「あ、といっても、深山くんの田舎にね。他の女子たちも一緒にだよ。部活の合宿をさせてもらったと言うのが正解なんだけど」
そう聞いて、ほっと息を吐いている自分に気がついた。
「もしかして、妬いてくれた?」
ボクの頬をつつきながら、笑っていたはずのユキの声が、だんだん小さくなっていく。
「深山くんって、今はだらしないけど、昔は違ったの。面倒見がよくて、優しいお兄さんだったのよ」
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