第10話 問④答え 二尋視点『どちらを選んでも構わない』
「なあ、関川だったらどうした? やっぱ、ユキさんに探りをいれる?」
「意味ナイ問イ ニ 答エル必要ハナイ」
「えー。そういわず、教えてよ」
深山がキーボードが乗っている机の上で手を組んで、左手で右手をさすっている。口元を隠しているが、深山が僕を試しているのがありありとわかる。そして、深山の後ろに立っているフタヒロは無表情だ。こいつに、僕の意見を聞かせるのは癪だ。ならば――。
「……理由ヲ聞ク」
「なぜ?」
「時間ノ無駄」
「でも、そう言ったらユキさん怒って帰っちゃうかもよ。いいの?」
「ナラバ 行動カラ考エル」
「えー。これは二択問題だから、どっちか選ばなきゃだめだよ。どちらかが正解でどちらかが不正解」
「ソレハナイ。ドチラヲ選ンデモ不正解ニハナラナイ」
「なんでだよ。『いつも真実はひとつ』なんじゃないか?」
「フン。人間ノ感情ハ複雑ダ。
ピンク ノ ワンピース ヲ 着タ彼女ハ、甘エタイ カツ 優位ニ立チタイ ト思ッテイル。怒ッテ帰レバ、オ前ハ追イカケ、謝罪ニ贈り物ヲ渡スダロウ? ソレハ 彼女ガ望ム 未来デモアル」
「……」
「実際、オ前ハ『アイテム』ヲ 消費シタ」
僕は画面の一部に別の画面を映し出す。その画面には『らぶらぶ恋のチューチュークエスチョン♡』のタイトルと数名の美少女。
「ああー!!!」
深山が画面を指さして大声を上げた。深山の後ろのフタヒロがきょとんとしている。
「なんで、わかったんだよぉ!」
「『ハル』『デート』『二択』『ゲーム』ヲ検索シタ」
「この短時間で?」
「那由他ダゾ?」
「あーあ。関川の思い出の一つでも聞けると思ったのに、だめじゃん」
両手をあげて、深山が降参のポーズととると、フタヒロの方に振り返った。
「人間は、Aという選択が正しいと信じても、時間がたてばBにすればよかったと悩む。選ばなかった方が魅力的に見える。強欲だからな。
それに、関川が言った通り、人間の感情は複雑だ。好きだと思っていても、なにかのきっかけで嫌いになることもある。記憶だって自分の都合いいように塗り替える。人工知能の場合は、データを改ざんされない限り、変わらないけどな」
「……」
「だから、自分が出した答えに自信が持てないことはいいことだ。ただ、これをあのくそ野郎には報告するなよ」
フタヒロはしばらく黙っていたけれど、しっかりと深山の目を見て、「わかった」と言った。
「オレは、関川と『らぶらぶ恋のチューチュークエスチョン♡』をするから、
◇
フタヒロがいなくなった後、深山は僕が出した『らぶらぶ恋のチューチュークエスチョン♡』にアクセスして、ゲームを始めた。エピソード163「今日は何の記念日」が始まる。画面の中のショートヘアのピンクのワンピースの女の子が「深山先輩!」と手を振る。深山は興味なさそうに、ゲームを進めていく。今回、深山は、おしゃれの理由を聞かないを選択した。すると、画面がレストランにきりかわった。何を食べるか、ここでも選択させられる。
「なあ、関川。人の心ってどこにあるんだろうな」
マウスを動かしながら、深山がぼそりとつぶやいた。その声はゲームのBGMにかき消される。僕は深山の手元にある小さな画面に文字を入力する。
『さあな。まだ僕は心を失っていない』
僕は深山の目がそれを確認するとDELキーで消去する。これで外部には僕たちの会話は聞き取れない。
「そうか……。『まだ』……か。それはよかった。そういえば、さっきのお前の答えを聞いていなかったが、教えてくれるか?」
『理由は?』
「ああ。さっきは
『?』
水族館に画面が切り替わる。ハルと呼ばれた女の子の顔のアップが映し出される。
『キスをする』/『キスをしない』の選択だ。深山は『キスをする』を選択する。すると、画面の背景にハートマークが浮かび上がり、すこしとろんとした顔つきに代わる。「深山先輩……、あ……、」といいながら、ワンピースの胸元がわずかに開いていく。深山がふんと鼻をならした。
「オレは
ただな、そう思わない輩もいるっていうのも事実。最近、大河内教授の教授室に保健省の役人と怪しい黒スーツの男たちが出入りしている」
『教授のパソコンにはアクセス権がない』
「だろうな。なあ、関川はこの場面、どちらを選ぶ?」
『家に帰る』
「そうか。やっぱり、そうだよな」
そういうと、深山は席を立ち、部屋から出て行った……。
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