第6話 問③二尋視点【優しくするのはキミにだけ?】

「…… テレビを遠隔操作するとは、二尋、どういうつもりだ?」

「フン」


 僕はフタヒロの小言を無視すると、回線を切り替えて、意識をスーパーコンピューター那由他に戻した。

 僕のメインの意識は、先端医療技術研究所の大河内教授の実験室にあるスーパーコンピューター那由他の中にある。那由他が作った仮想現実でも、僕はこの実験室をモデルにした空間にいることが多い。誰に邪魔されることなく、空腹や寝不足といった日常の煩わしさに縛られることなく、研究に打ち込める。

 

 しかし、快適だったのは最初の一週間だ。ちょっとした違和感。いつも誰かに見張られているような感覚。それは、スーパーコンピューター那由他が二十四時間、僕の脳にトレースをかけているからだと気がついた。


 神経細胞を行き来する活動電位をサンプリングしている。理由はわからない。ただ、違和感が残った僕は、大河内教授達にいは気づかれないように少しずつトライ&エラーを繰り返し、……今では、活動電位を改ざんすることが出来るようになった。

 

 (ふん……)


 僕のデータを集めに、今日もアルバイトの学生が部屋に入ってきた。僕は、あきれるほど危機管理能力に乏しい彼らを眺めることにした………。






「山根さん、今度入ってきた後輩ちゃん、すごく可愛い感じじゃないですか?」

「そうかな? あんまり気にしたことなかったけど」

「髪型とか服装とか、山根さんの好みなんじゃないですか?」

「うーん、そんな風に思ったことはないけどなぁ」

「本当ですか? なんか後輩ちゃん、いっつも山根さんの後ろにくっついてるし」

「まぁこれでも先輩だからねぇ」


 と、急にジトッと上目遣いで、女学生が山根と呼ばれた学生を睨んだ。


「でも後輩ちゃんには特に優しくないですか?」

「そうかな? キミが入ってきたときもなるべく優しくしてたつもりだったんだけど……違った?」

「違ってないですけど……どうやらあたし、自分が特別だと勘違いしてたみたいです」

「……」

「山根さん、聞いてました?」

「ん? あ、あぁ……」


 山根と呼ばれた学生は一呼吸して、僕のデータから目をそらして女学生を見た。そして、顔を近づけて……。





(馬鹿々々しい)


 僕は学生たちを眺めることをやめて、自分の世界に戻ろうとした。しかし、僕の部屋で、フタヒロがユキに口づけした映像が不意に目の前に広がる。あるはずもない胃がむかむかするような感覚がよみがえる。


 ユキ……。


 僕の思考は……過去の記憶の海に沈んだ……。






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