第52話 ポレットの聖女日記・28
「レインニール様が今読んでいるものは何ですか?」
ポレットはレインニールの執務室に日参する。
通常の訪問に加え、講義内容の質問、レインニールの仕事の手伝いをはじめ、部屋にある資料の片づけ、身の回りの世話までするようになった。
レインニールは幾度も断ったが、毎日執務室に来て何か出来ないか探している。
質素と言える部屋ではあるが、中にある資料に書物、届けられる書類はポレットにとって意味があるものだった。
いつかアダンが言っていた地方や辺境に縁を持っていることを実感する。
聖域内では知りえない様子がレインニールには報告されてくる。
港町の漁獲量や農村での収穫量、人の流れから人口の推移、関わりがないように感じていた点がレインニールの手元で、線となっていく。
「セラフィンという山のデータです。かつて、大規模な噴火活動があり幾人もの犠牲者が出ています」
レインニールが差し出した資料を受け取ってその数字やグラフの細かさにポレットは目がチカチカとした。
どうやら振動の記録であるようだ。
「噴火が迫ると地震が起き、地表がわずかに動く。山の中で何が起きているかこのような数値で予想するのです」
一つの火山の動きを、レインニールが確認していることに疑問を持つ。
「聖女王陛下のお力で一つの山の動きを止める、などはできません。だからといって住人たちを不自由にするわけにはいきません。研究員たちは様々なデータを集約し、陛下のお力をお借りするしかできません。それでも補うことが出来ない場合は直接、研究員や神官たちが赴く、また、聖女王陛下は兵もお持ちです。それを動かし、支援に向かうこともあります」
「つまり、その決断をしなくてはならないのですね」
ポレットにはこの書類の意味が見えてきた。
「細かいデータは研究員たちが精査します。それを吟味し決裁する必要があります」
その決断一つが世界を揺るがしかねないと思うと、恐怖を感じる。
聖女王というのは責任ある立場だ。生半可な気持ちでは勤めることはできない。
ポレットは鳥肌が立つ思いがした。
「そう難しく考える必要はありません。そのために礎や補佐官、研究員に神官、相談する相手は周りにいます。人に任せる、それも仕事です」
やや疑わしい目をレインニールに向ける。
「レインニール様のところにこのような様々な書類が集まるのに?」
「昔は一つ一つ、現場までデータを取りに行っていました。今では管轄の研究支部からデータを受け取る様にしています」
これでも楽になったのだと告げられ納得する。
レインニールが地方に行ってしまうのは理由があったのだ。聖域が嫌いなだけではない。
「では、このセラフィンにも直接、行ったのですか?」
「…そうですね」
少し、間があった。
何かあったらしい。
ポレットはレインニールと過ごす時間が増え、彼女のわずかな表情の動きが読めるようになった。
初めは冷たい印象だったが、付き合いが長くなると変わってきた。
聖女王候補である自分たちには優しい顔を見せるようになってきたからだ。それが姉のようであり、ポレットは親しみを感じている。
セラフィンでの噴火は大規模だったという。恐らく、公式な報告が上がっているに違いない。まずはそれを確認してみようとポレットは書庫に向かうのだった。
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