掌編小説・『良い肌』
夢美瑠瑠
掌編小説・『良い肌』
(これは今日の「よい肌の日」に因んで書かれて、アメブロに投稿したものです)
掌編小説・『良いお肌』
「マッチングアプリの『ピュア・ラブ』」という、よくあるお見合い代行の、ネット出会い系サイトの運営会社が、新しいサービスとして、「AI(エーアイ)アバターマッチング」というのを企画した。
「兎角マッチングアプリでは「会ってみたらイメージが違った」とか、「話してみると性格が合わない」とかの苦情が多い所です。『ピュア・ラブ』ではこういう理想と現実の齟齬、コンピューターお見合いの弱点の改善のために、より人物を多面的に描出、再現した、三次元のリアルなイメージを作り上げるのに成功しました。声や性格、身長、体重、BWH、学歴、職業、年収、アイキュー、血液型、星座、家族構成etc.の、個人情報とともにより精度の高い本人像をCGで再現して、希望者との疑似お見合いをシミュレーションして提供します。エーアイが本人そっくりのアバターを行動させて、会話もできる。ピンときたらデートもしてみる。あなたの個人情報は絶対厳守されますが、相手についてはこれですべて筒抜け。「会ってがっかり」などということは100%ありえない仕様になっております。入会金5万円でこのエーアイお見合いがし放題。今なら女性の方は無料優待です!」
「ほう」と言って耳をそばだてて目を惹かれ全身ワクワクで魅惑される独身者がたくさん現われて、“甘木一郎”もそのひとりだった。一郎は希望者が殺到しているある女性と疑似お見合いしてみることにした。
「データを見ると…うん美人だしプロポーションもいい。2週間前に入会して…320人とマッチングお見合い。相手は全員「会って交際したい」となって、彼女も出会うことに同意している。だが結果はこれまで不成立…えーと理想が高い女かな?いや違うぞ、出会った後で、彼女は全員と「交際したい」と答えているが、相手のほうが例外なしに全員「不同意」にしたんだ。経歴データを見るとそうなっている。…うーんそんなに精度が高いCGで、データもめぼしいものはすべて網羅されている。これはいったいどういう女だろう?」
一郎のケースでも、途中までは同じ経過だった。CGの「彼女」、“辛島さやか”嬢は整った顔立ち。眼はタニシのようで、鼻は高くて綺麗で、上品な口元。瓜実顔で、プロポーションは極上。「何でこんないい女がフラれるんだろう」一郎は訝しんだ。デートしても、会話の内容や口調には気品があって、教養もなかなかのものだった。といってガラガラ声…などではもちろんなくて、ハスキーで妖艶な感じだった。
「「顔は慣れても声は慣れない」ともいうし…でもこれなら美声だ。家庭環境もいい。いい女子大を卒業しているな。」一郎も慎重である。何しろ見合いなのだ。
「ほんとは男なんじゃないですか?」と冗談めかして聞いてみたが、アバターが艶(あで)やかに笑ってパスポートを見せた。SEXのところは「F」になっている。これはFEMALE、女性の略なのだ。
…数日後、実際に会ってみて、すぐ謎は解けた。「おおお。これは…!」一郎も息をのんだ。
辛島さやかはひどいニキビ面だったのだ。顔全体が噴火口のように赤くなっているという感じ。
これでは外を連れて歩くのが難しい…それくらい醜悪という、そういうレベルだった。結婚した後ならともかく、お見合いにこんな顔で現れるとは、と怒って席を立つ男がいたとしても不思議ではない。アバターでは痘痕面(あばたづら)までは再現できない。
「どう?わかった?あたしが320回もフラれ続けた理由がよ。あなたもどうせ席を立って帰るんでしょ?」
さやかは少し投げやりにこう言った。ガマガエルのような顔の口から、まるで妖精のようなきれいな声が響いてくるのだ。
「じゃあね。バイバイ」
「いいえ、さやかさん、僕と結婚してください」
一郎はにっこり微笑んだ。
「えええ?なんで?あなたってド近眼とか何か?」
さやかは目を丸くした…
これは夢物語でも出鱈目でもない。
彼、甘木一郎は神と称される皮膚科医で、そのクリティカルな専門分野がニキビや痘痕の効果的な治療だった。そして過去には100%を誇る完全治癒率という空前絶後の治療実績があったのだった。
さやかの顔を一目見て、「神」の超越的な診断眼は、「これは時日を経ずして完治可能。治ればアバター以上の美肌、ピカピカの『良い肌』がすぐ出現する」と即座に診断を下したのだった。
<了>
掌編小説・『良い肌』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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