第4話 モルデカイの説得

 モルデカイは一件を知ると、その苦悩を現す為に、衣服を引き裂いてボロ切れを纏うて頭から灰を被り、都の中心へ繰り出すと絶叫した。モルデカイはそのまま王宮へ雪崩れ込もうとしたけど、ボロ切れを纏うてたさかい、門番に止められてしもうた。国中のユダヤ人がモルデカイと同じ様にし、泣き叫んで断食し、悲嘆に暮れてしもうた。

 宦官の一人がエステルにモルデカイの暴挙を報せたさかい、エステルはビックリ仰天して、取り敢えずモルデカイに着替えを送った。イヤ、そういう問題や無いやろ。

せやけど、モルデカイは着替えを受け取らんかったから、エステルは何でモルデカイがこんなことしでかしたんか、事情を知ろうとして宦官のハタクにモルデカイから話を聞いて来るように頼んだ。

 ハタクがモルデカイに会いに行くと、モルデカイは事の一部始終、ハマンの策略、即ちユダヤ人を根絶やしにして、その財産を国庫に納入すること、その勅書の写しをハタクに託し、エステルに良う説明して、しかもエステル自らクセルクセス王の所へ行って、自分の民族であるユダヤ人の為に、王に寛大な処置を嘆願する様に求めた。いくらエステルでも勝手に王に会いに行くのは重罪やさかい、これはエステルにとっても命懸けの話やった。

 ハタクが戻ってエステルにそれを伝えると、エステルは暫く考え込んだ末

「モルデカイ叔父様もこの国の誰もが良う知っての通り、王座におられるクセルクセス王に、召し出しも無く近づく者は誰でも処刑される、と法律に定められておます。唯、王自ら金の笏を差し伸べられた場合だけ、この罪は免れます。せやけど、この所一月ほども王からワテへのお召しはあれしまへん。せやさかいそない期待せんといて下さい」と言う返事をまたハタクに持たせた。

 モルデカイは返事を受け取ると、ハタクにこう託けた「エステルや、自分は王宮にいて無事やとはゆめゆめ思うたらアカンで。今回、この時にあなたが何も言わへんかったら、ユダヤ人の救済はお天道様がもう決めてくれてることやさかい、他所さんがそれを成し遂げなはるで。そないなったら、今回口をつぐんでいたあなたとあなたの家系は、天に滅ぼされることになるんやで。この時、この為にこそ、あなたは王妃の位に迄登り詰めたのやないか」エステルは悲壮な面持ちでこの返事を聞いていたけど、時期に何かを決心した様子で、またハタクに返事を持たせた。ユダヤ人の前にハタクが倒れそうやで。その内容はこうやった「モルデカイ叔父様、承知しました。すぐにスサのユダヤ人を全員集めて、私の為に三日三晩飲食を絶って、お天道さんに祈っていて下さい。私も女官たちと一緒に同じ様にしますさかいに。それから、定めには反しますけれど、私は王座の王の元へ参ります。その為に死ななアカンのでしたら、死ぬ覚悟でおます。」

 それを聞いたモルデカイはやっと納得して、王宮を立ち去り、全てエステルの言う通りにした。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エステル記~籤と女王の宴~ @kakakeke

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ