第8話
「修羅?」
望は自分の祖父に尋ねる。隣で座るキャサリン先生も不思議そうな顔をしていた。
「シュラとは何デスかぁ?」
キャサリン先生を望の祖父はじっと見つめる。それから言った。
「あなたはすでに修羅の道に身を落としているように見える。」
なおもキャサリン先生は不思議そうな顔をしていた。
「望。その友達のご遺体を見せてみなさい。」
望はキャサリン先生に目配せする。
「コチラでーす。」
キャサリン先生は部屋の隅に置かれた寝袋のようなものを抱え、2人の前まで持ってくる。望の祖父は袋のファスナーをおろし、寧々の顔を顕にする。寧々の瞳は相変わらず閉じられていた。頭蓋には一つの穴が空いている。さっきよりもずっと生気が抜けた顔をしているように見えた。青白くて、肌に触れなくとも冷たい印象を受けた。
望の祖父は、寧々の顔を見るとその前で手を合わせ、目を閉じてお経を唱える。
「マタデスカー。」
呆れるキャサリン先生を尻目に望も瞳を閉じて手を合わせた。念仏が済むと祖父は望の顔を真っ直ぐに見て言う。
「望。友達のご遺体はしっかりとワシが預かっておこう。夕食は食べたか?御客人も一緒に食べていきなさい。」
「Oh、イイんですかぁ。イタダキたいでーす。」
キャサリン先生は笑顔で言う。望としてはキャサリン先生と食膳を共にするのは嫌だったが、祖父の言葉には従わざるをえなかった。
夕食は簡素だが疲れた体にはとても美味しく感じた。白米、味噌汁、茄子と胡瓜の漬物、鯵の開き。どれもこれももしかしたらこれから先味わえなくなるかもしれないと思うと、一噛み一噛みを味わうようにして食べた。夕食を食べ終わり、食器を片付けている時、祖父は望に言った。
「望、今日は泊まっていきなさい。」
「え、でも‥」
望は言い淀んだ。
「あの御客人が気になるか?」
祖父はキャサリン先生の方をちらりと見て望に尋ねる。望は黙って頷いた。
「あの女は、信頼できない。」
「望。お前の友達を殺したのはあの女か?」
望はその質問に心臓をどきりとさせたが、再び黙って頷いた。
「大丈夫だ。ワシが見張っておこう。お前には指一本触れさせまい。」
祖父は言った。祖父がそう言うだけで望の中の不安が和らいでいくような気がした。
「おじいちゃん、ありがとう。」
望は昔ながらのタイルが敷き詰められた浴室で頭と体を洗い、木でできた浴槽に浸かった。膝を抱えて今日一日の事を考える。
私の気持ちなんて分からないでしょうね!
寧々の苦痛に歪んだ顔が頭に浮かぶ。
望は自分の貧相な乳房を触ってみた。おっぱいを大きくするのはお預けだな。望は思った。
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