第4話

「ちょっと、待って。悪い冗談でしょ寧々?こんなの本物なわけないよね?」


望はぎこちなく笑いながら言った。しかし寧々は瞳に残忍な光を宿したまま冷たく言い放った。


「試してみる?これが偽物かどうか。」


寧々はかちゃりと音を立てて、親指でセイフティレバーを外す。望は恐怖した。寧々は本当に私を殺す気だ。寧々の持つ拳銃は真っ直ぐ私のこめかみに添えられている。私がおかしな事を言えば、頭蓋骨に穴が開くだろう。でも、なんで?望の頭には疑問しか浮かばなかった。それを納得せずに死ぬわけにはいかない。


「もしあんたに本当に弟がいたとして、どうして私が死ななきゃならないのよ?」


望は寧々をまっすぐに見て尋ねた。寧々はふんと鼻を鳴らす。


「本当に何も知らないんだ。」


「だから何が?」


「欲望の果実。」


寧々の一言に望はぎくりとした。欲望の果実?

あのネットのデマ話がどうしたというのか。

そういえば、今朝から「欲望の果実」について、寧々はやけにつっかかってきた。


「まさか、あんた『欲望の果実』を食べて弟を生き返らせようとでも言うわけ?あんなものほんとに信じてるの?」


「馬鹿ね。『欲望の果実』は実在するわ。望がそれを知らなかっただけ。」


寧々は少しも表情を崩す事なく言った。


「分かった。本当に『欲望の果実』があるとして、どうして私を殺す必要があるの?」


望はなおも寧々に尋ねる。


「そんなの、あなたが選ばれたからに決まってるじゃない!」


寧々は声を荒げて言った。


「『欲望の果実』を手に入れるための催事。そこには選ばれた者しか参加する事は出来ない。だから望、私はあなたの参加資格を奪うのよ。あなたを殺す事でね。」


望は寧々のその言葉を聞いて納得した。なるほど、だから寧々は私の命を狙うのか、と。弟に再び会うために。


「『欲望の果実』なんて私は別に欲しくない。参加資格が必要だと言うならあんたにあげるわよ。」


望はそう言ったが、寧々は首を横に振った。


「あのね望。これはそんなに単純な問題じゃあないんだ。とにかくあなたには死んでもらわないとダメなんだ。」


「寧々、私を殺して弟に会おうなんて、本当にそんな事できると思ってるの?」


望がそう言うと寧々ははぁ、と小さくため息をつく。


「悲しいよ望、あなたは何にも分かってない。『欲望の果実』の事も。私の事も。私は別に弟に会いたいわけじゃないの。私は全部やり直したいんだよ。全て忘れて。罪悪感を背負って生きていく人生なんてもう嫌なの。」


寧々は悲しげな声で言った。望は察していた。寧々が引き金を引くのをためらっている事を。

そうでなければとっくに望は殺されているだろう。望は一か八かの覚悟を決め、グッと唾を飲み込む。


次の瞬間、望みは自分の学生鞄の取っ手を掴み、それを下からぶんと振り回すと、自分のこめかみへと向けられた銃口を上にはじいた。

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