第2話

 望は寝不足でぼんやりした頭のまま、スマホの画面を見ながら通学路を歩いていた。


当選?「欲望の果実」を手に入れるための催事?これ、明らかに迷惑メールだよね?


 結局昨日の夜、謎のメールが来てからやけに目が冴えてしまって少しも眠れなかった。メールの差出人は見たこともないメールアドレスだった。


v.kgardenofeden@dfc.co.jp


 頭のなかであれこれと考えながら、望は音楽のリズムに合わせて歩いた。彼女の耳はオレンジ色のヘッドホンで塞がれ、外の音を一切遮断していた。流れているのは単調なリズムのJPOPだ。深夜アニメのエンディングにも起用された曲で、やかましくもなく、かといってナイーブな歌詞でもないこの曲を通学しながら聴くのが、望の日課だった。

 とんとん、と誰かに肩を叩かれて望は振り返る。


「望、おっはよー。」


満面の笑顔。


「おはよ。」


望はヘッドホンを外しながら答える。


「もう!何度も声かけてるのに望ぜんっぜん気づかないんだもん!」


「ごめん。」


声を掛けてきたのは友達の中島寧々(ねね)であった。望とは小学校の頃から仲が良く、いつも活発でショートカットがよく似合う長身な少女だった。


「朝から何見てたの?」


寧々が望のピンク色のケースに入ったスマホを覗き込もうとするので、望はすかさず胸にスマホを押し当てる。そんな望の様子を寧々は訝しがる。


「なになに、私に見せられないようなもの?」


「いや、別に、」


「え、まさか望。朝からやらしいやつ見てたの?」


寧々はニヤニヤしながら言った。


「ばか!そんなわけないじゃない!」


望は赤面して言う。その隙を見て、寧々は望のスマホを奪い取る。


「あ!返してよ!」


「欲望の果実⁇何それ?」


寧々は望のスマホを凝視して尋ねる。


「とりあえず返してよ。」


望は寧々の手からスマホを奪い返した。


「私もよく知らないけど、ネットで今噂になってる食べると何でも願いが叶うっていう果実のこと。」


「ふーん。望そんなのに興味あるんだ。」


寧々はつまらなそうに言った。


「別に、ちょっと気になっただけ。」


望が強引に話を終わらせようとすると、寧々は望の方を見て面白そうにした。


「ね!望はその果物に何をお願いするのよ?」


「おっぱいを大きくして下さい。」


望は真顔で言った。一瞬の間が空いて、寧々は爆笑した。


「あはは、あんたそれ本気で言ってるの?」


「考えたけど、それぐらいしか思いつかなかった。」


寧々はまだゲラゲラとお腹を抱えて笑っていた。


「望ってさぁ、いつも物静かでクールな感じなのに考えてる事馬鹿だよねぇ。あー、クラスのみんなに聞かせてやりたい。」


「ほっといてよ。」


望は口を尖らせて言う。


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