欲望の果実 neo
第1話
それは広大無辺の草原に佇む、一本の樹の果実だった。その色、黄金なりて人を魅了する。その味、甘美なりて人の渇きを潤す。それは人の欲望を食し、願いを叶える。それを人は呼ぶ、「欲望の果実」と。
望(のぞみ)はディスプレイに移されたその文字を目で追う。それから右手の人差し指を僅かに動かして画面をスクロールする。
〉クサwww何これ釣り?www
〉黄金の果実見てみたい
〉美女とやりまくるオレの欲望かなえてくれ
ーい
〉しょーもな
〉は?
〉こんなんどっかのキッズが釣りで書いてるに決まってんじゃん
そこから先はどこまで下にスクロールしてもほぼ二人の口論だった。望はため息をついた。目がしょぼしょぼする。少しディスプレイを長く見過ぎた。明日も朝から学校だと思うと頭痛がした。
「欲望の果実」。それが本当に存在するとしたら、自分は何を願うのだろう。
お金。素敵な彼氏。安定した進路。いろいろ考えてみたが、どれもこれも退屈な願いだと思った。
どうしたら私の生活は充実するのだろうか。
望はディスプレイの電源を消すと、自分のスマホのプレイリストから音楽を流した。
中国発のショートビデオ配信サービスでバズっている男性のソロアーティストの曲だ。
望はしばらく椅子に座ったままぼんやりと音楽を聴いてから、電気をつける事もせずに親の眠る一階へと降りていく。コップ一杯の水を飲む。
望は再び階段を上がり寝床につこうとするが、どうも目が冴えていた。さっき見た「欲望の果実」の記事が頭の中に引っかかっている。
おっぱいを大きくしてもらおうかな
願い事を考えていたらふとそんな事を思った。
そうしたら少しは充実した生活を送れるかもしれない、と彼女は少しの間真剣に考えて、それから馬鹿げた考えだと鼻で笑った。
しかし彼女にはそれ以外の望みがこれといって思い浮かばなかった。
望は部屋の電気を消してベッドに寝転がる。それからスマホにおやすみタイマーを設定した。
夜になると明日から逃げたくなる。別に嫌なことがあるわけでもないのに、何故だか不安になるのだ。
望は暗闇の中で部屋の天井を眺めながら考えた。大人になったらどこか遠くの国に行ってみたい、と思う事がある。だから、そのためのお金をお願いするのもいいかもしれない。そもそも「欲望の果実」は一体どこでどのように手に入れたらいいんだろう。そんな事を考えながら、望は瞼を閉じる。
ヴゥゥゥ
暗闇に響くスマホのバイブ。眠りにつきかけていた望はパッと目を覚まし、スマホの画面を見る。メールが一件入っていた。
山本望様。貴方は当選しました。「欲望の果実」を手に入れるための催事へとご招待致します。
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