第2話 疾風の翼

第2話①

侵略者騒動の後、地球奪還作戦軍と月面連合軍の部隊が到着し、僕たちはセレーネと名乗る部隊に一時間ほど、拘束された。


彼らは一連の事件の顛末を僕たちから聞き終えると、僕は学生ということもあったためか身元と連絡先の情報を照合した後に、その日は解放された。

明日以降、またこれからの話の続きをするとのことだった。

明日の学校は公欠扱いになるらしい。


あの女の子については僕とは大分事情が異なるらしく、別室へと連れていかれた。

彼女は「またね」と僕へ手を振り、僕たちはその日別れた。

指輪について尋ねると、どういう事情か分からないが僕が持っていなきゃいけないらしく、誰に渡そうとしても断られた。


自宅まではセレーネのジェイコブ・シーモアと名乗る人に送ってもらい両親にも事情を説明してもらった。

両親は二人とも最初は混乱していたが、父さんは僕が侵略者を倒したことを大いに喜び、母さんは只管僕のことを心配した。


両親からの質問責めにも解放され、ようやく自分の部屋で一人の時間を過ごせるようになったのは22時を過ぎてからだった。

携帯端末を見ると、ユカからメッセージが届いていた。


“アポロバーガーの半額クーポン当たったよぅ!”


“ヒロくん、今どこにいるの?”


“ねえ、今どこにいるの!?大丈夫???”


“お願い!!生きてたら返事して!!!”


どうやら、今日の騒動のこともあり大分僕のことを心配してくれていたようだった。

他にもアキトやらクラスメートやらから騒動についてのメッセージや写真が届いていたが、僕は一番身を案じてくれたユカから優先して返事をすることにする。


“無事だよ。心配してくれてありがとうな。”


“よかった!!!駆けつけられなくてごめんね……”


返事はすぐに帰ってきた。ずっと端末を覗いていたのだろうか。

なんだか居た堪れない気持ちになる。

ユカが駆けつけたところで意味は無かったと思うが、それだけ心配してくれたのだと思う。


“そういえば、今日例の女の子と会って話したよ。幽霊じゃなかった。”


“何それどういうこと?”


メッセージの確認履歴から数秒の沈黙があった後、ユカが返事をした。


“詳しい事情は話せないけど、「またね」って言われたから今度もう一回会うと思う。今日は眠いからまあ、そのうちね。おやすみ。”


僕はそう言い残すと、部屋の明かりを消して床に入った。

端末からメッセージが続けざまに届く音が鳴るが、疲れ切った僕の意識はたちまち微睡に入り、それから深い眠りについた。



============



翌朝、僕はセレーネの迎えの車に乗り、地球奪還作戦軍第2部隊基地へと連れていかれた。


「ヒロヤ・アカホシ君だね。」


大きな会議室のような部屋に通されると、一番奥の席に座る壮年の男性が僕に問いかけた。皆が僕を値踏みするかのようにじっと見てくる。


「は、はい!ヒロヤ・アカホシ、じゅ、16歳ですっ!」


僕は緊張のあまり、言葉を噛んでしまった。

だって、クラススピーチとか苦手だし……。


「ああ。そう緊張しなくてもいいよ。私たちは君の味方だ。だから、そう怖がらないでくれると嬉しいかな。ここにいるみなも君に期待しているんだ。新しいヒーローの君にね。」


ヒーロー……?

僕はこの人たちに何を期待されているんだろうか。

まさか、これからもあれに乗って戦えというんだろうか。

そんな無茶な。


「あの、僕はあれを操縦して戦う必要があるんでしょうか……?」


「理解が早くて嬉しいよ。君の出会った少女、月の原住民である玉兎の民の神官は自らが素質を見抜いた戦士を選ぶ。そして一度決まるとその決定は変えることができない。」


月の原住民、ギョクト、神官、戦士。

いくつか質問したいことがあるのだが、聞いてもいいのだろうか。


「えと、月の原住民とかギョクトとかの辺りは色々とよく事情が呑み込めないんですけど……。」


「そちらは担当の者から追々説明されることになっている。大事なことはだ。つまり、玉兎に選ばれた君はこれから、君の意思に関わらず侵略者との戦いに巻き込まれることになる。」


「この指輪を他の人に渡してもダメなんですよね?」


「無論。そもそも君とそれを渡した神官以外の人間には着けるどころか、触れることすらできない。ルナベスティアの起動などは以ての外だ。」


「僕、上手く戦える自信があまり、ありません……。」


昨日の戦いで僕はもう、いっぱいいっぱいだった。

他に適任者がいただろうに、どうして。


「それは皆同じさ。でも、君は現に昨日は第27号侵略者ロンウェーの成体を駆逐してみせた。」


「たまたまですよ……。僕も無我夢中だったので……。」


「アカホシ君。自信を持ちたまえ。誰だって最初はそうだ。

ここにいる者全てが君のいち早い侵略者の撃退行動に恩義を感じ、そして君を高く評価し、期待している。君には才能がある。」


壮年の男性の言葉に、僕以外のこの場にいる者みなが、頷く。


「ようこそ。地球奪還作戦軍第2部隊セレーネへ。君を歓迎しよう。」


いつの間にか流されるがままにセレーネへの入隊が決まってしまった。

大人って汚い……。

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