第1話③
「大丈夫?あなた、立って戦える?」
再び幽霊の子が僕に問いかける。
「え、戦う?戦うって何?それよりも逃げなきゃ!」
逃げても結果は同じだと思ったが女の子が目の前にいるので彼女の腕を掴んで再度走り出す。
彼女の命だけでも救わなければ。
「ダメ。立てるなら戦って。」
強い力で引っ張られ、足を止める。
少女が怒ったように頬を膨らませ、もう片方の手で僕の腕を掴み、足を踏ん張っていた。
「戦えるなら、戦ってるよ!君、死にたいの!?」
巨大生物が天蓋の穴を突き破り、居住区に入ってくる。
もうすぐそこまで迫っていた。
「これ付けて、火光獣呼ぶ。」
少女は懐から朱い指輪を取り出すとそれを僕の右人差し指に嵌めた。
それで満足したのか、ふんすと鼻を鳴らし、僕から離した手を腰に当ててふんぞり返っていた。
僕はその隙を見て胸に抱きかかえる。
火事場の馬鹿力なのか彼女が軽かったのかは定かではないが不思議と苦ではなかった。
「何やってんのさ!もう!」
力を振り絞って走り、出来る限りの距離を稼ぐ。
もしかしたら軍隊が助けに来てくれるかもしれない。
そんな僕の気持ちを余所に彼女は僕の指にある指輪に手を当ててこう言った。
「逃げても間に合わない。あなたは戦う必要がある。」
「だから無理だって!」
「無理じゃない。今からそれを証明する。
『ルナベスティア、
彼女がそう口にすると指輪が眩い光を放ち、僕達を飲み込んだ。
目を開くと僕はレーシングカーのコクピットのような空間に座っていた。
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「え、何?ここはどこ?」
「ここは
後ろの座席に座る少女の口から説明になっていない説明がされる。
侵略者は完全にこちらに狙いを定めていた。
飛び上がり、鎌が振り下ろされる。
咄嗟に腕で顔を覆い、目を瞑る。
が、何かに弾かれるような音がすると、侵略者はその巨体を地面に転がせていた。
「
「どうやって動かすのさ!?」
少女の口からまた訳の分からない説明がされるが、埒が空かないのでもうこの際、吹っ切れることにした。
つまりは僕がこの機械を操縦してあの化け物を倒せばいいのだ。
本当なら軍の偉い人にでも引き渡すべきなんだけど、時間がないので後回しだ。
「ティターンフォームに変形する。そうすれば思うように動く。自分の体を動かすように。クラヴィスを空に掲げてコードを叫ぶ。『
少女は僕の指に嵌められた指輪を指してそう言った。
僕は彼女の指示通り、右腕を上に掲げて力の限り、叫んだ。
「『
その瞬間、座席が持ち上がるような感覚があり、僕達は侵略者を見下ろす位置にいた。
どうやらこの機械は僕が思っていたよりもずっと大きいようだった。
侵略者が空を飛び、コクピット目掛けて突進してくる。
右腕で身体を庇うと、同じように白い巨大な腕がコクピットを覆い、侵略者の突進を防いだ。
コクピットの中が衝撃で揺れる。
「これ、このまま殴れば倒せるの!?」
「
今度は両腕の鎌を使って両肩に組みついてきた侵略者を引き剥がす。
少女が焼却の手段を探している間、僕は必死で時間を稼ぐ。
そうやっているうちに、大分この機械の動かし方も解ってきた。
別に腕や足を動かす必要は無い。
念じるだけでいいのだ。
そもそも座席の上では足はそんなに自由に動かせないし。
目を閉じると次第に機械の巨人の目を借りて景色が見えるようになる。
侵略者は警戒して距離を置くようになっていた。
「算出完了。適合率5%の場合、半径2メートルまでなら融解エネルギーの射出が可能。」
「それってほぼ0距離じゃんか……。」
「当てられる?」
後ろを向いて抗議の視線を送ると、少女は不安そうな顔をした。
少し物憂げな表情に不意を打たれ、胸がドキッとする。
「こうなったらやってやるよ!」
僕がそう威勢よく言うと、彼女は「うん」と頷いて相好を崩した。
さっきから心臓に悪いからやめてほしい。
僕は目の前の怪物が再び向かってくるのを待ち構える。
怪物を0距離の間合いに引き込むのだ。
やがて、距離を置いた怪人は鎌で脚を切り裂こうと回り込み突進してくる。
その瞬間を見逃さない。
素早く蹲るように姿勢を低くすると、その身体を両腕で掴んで抑え込む。
「捕えた!」
「了解。融解エネルギー充填開始。3……2……1。充填完了。いつでも打てる。」
僕達の乗る巨人の体が赤く輝く。
「コードは!?」
「『
「『
右腕を掲げてコードを叫ぶと白い光が巨人の口から広がり、敵を包んだ。
予想外の光の眩しさに数瞬視界を閉じて、開けると侵略者は白い灰となっていた。
掴んでいた腕を離すと、灰の塊となったカマキリの怪物は支えを失い、自重で粉々に砕け散った。
「倒した……。」
色々あってまだ頭がこんがらがっているが、一先ずは目の前の危機からの脱却に安堵する。
「流石は私が見込んだ戦士。よくやってくれた。」
後ろを向くと、少女が腕を組んで誇らしげに「うんうん」と頷いていた。
その姿に微笑ましくなり、笑みをこぼす。
だが、しばらくすると彼女は思い出したかのようにまた口を開いた。
「でも、さっきちょっと間違ってた。」
「え、何が?」
「攻撃のコードの時は別に腕を掲げる必要はない。だからさっきのは傍から見ると少し恥ずかしい。後日特訓の必要がある。」
すごくどうでもいい間違いの指摘であった。
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