新年へ

第24話 スローペースなカーブ球

 翌日から決心を胸に動くことにした。

 これだと思える正しい答えなんて見つからないけど、いま正しいと思える行動をするしかない。

 だから、今日もバスの中で澄香さんと会話をした。今日もバスに乗ってこないカナとハルのこと。今日の天気のこととか。実に他愛のない話題。


 ぼくが築いた君との距離は思った以上に堅固なものであり、自分が気付いた境界線を飛び越えるというのは、なかなかできないものだ。もちろん、それは言葉では容易に縮めることは出来ない。

 それでも一瞬一瞬でも君と繋がっていたいから、言葉を交わす。


 朝起きて、学校で変わることのない言葉のキャッチボール。それが報われるかなんてわからない。求めている答えへの道を歩んでいるのか、それすらもわからない。


 挨拶はおろか、名前すら知らない相手に対抗心を燃やし、ひとりの女の子を奪われないためのマインド・ゲーム。

 澄香さんの一番になりたいけど、真っ向勝負を未だに出来ない臆病者の恋。


 ぼくはこれで正しいのだろうか? 我欲がよくばかり押し付ける気がしてならないが、昔のロックバンドで恋はエゴのシーソーゲームと謳っていたのを思い出す。

 そうだ。ミライの時と同じく、互いの願望と欲情のすり合わせ。好きという感情の底にあるものは、表に曝け出してみると、意外とちゃちなものだったりするのだ。


 でも、本当にそうなのだろうか? それが、ぼくが経験から学んだ世のことわりなのか?

 漠然と繰り返していく日々の中でどこか釈然としない疑問が膨れる。自問する自分が求める答えの意味も、見当もつかない。


 だが、澄香さんに惹かれている今ではそんなことどうでもよい考えなのだ。

 兎にも角にも、彼女に振り向いてもらいたい。それが、澄香さんには気付かれないサインを含んだやりとりだとしても。

 こんな回りくどいやり方を、ぼくはどれだけ続けられるだろうか? いや、いつになったら踏み込むべき時が訪れるのだろうか? どれもこれも手探り状態で、藪の中だ。


 でも、状況は少しずつでも変わっていくものだ。

 それが起きたのは、学校も終わる十二月の終わりごろだ。

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