第3話 交錯そして発砲 ①
後のアメリカとなる大地はまだ自由の名の元にはなかった。イギリスにとってそこは海を隔てた植民地の一つ。税を取り立てることにためらいはなかったし、植民地ごときが反発してくるなんて予想すらしていなかった。
だが、植民地は反旗を翻す。
税を拒否し、イギリス兵に不満をぶつける。彼らはもう支配にはうんざりしていた。
彼らは、自由を求めていた。
二人のおじさんが廊下をせかせかと歩いていた。汗をかきながら何やら話している。太ったせいで正装がきついとか、頭髪も気になるとかいった、いつもの話ではない。
「もうあれしかないわ。絶対あれだわ」
と、サミュエル。
「なんですか?」
とジョン。
「あれと言ったらあれしかないだろ。茶会事件だよ。ボストン茶会事件」
「あぁ、海でお茶を作ろうとしたあの事件のことですか?」
「そうだ、あそこから急激にイギリスに対しての反発が広まっただろう?」
「ジョージ三世、激怒していますかね」
ジョージ三世とは、当時のイギリス国王である。
「激怒どころじゃないだろ。あいつにとっちゃここはただの植民地なんだ。反発は絶対に許さない。大激怒だ。いや、大激怒さえも超えて……」
「大激怒を超えて……?」
「……大噴火」
ジョンはサミュエルのしょうもない発言に笑った。サミュエルはむっとする。自分ではうまく言えたと思ったのだ。咳払いをしてサミュエルは続けた。
「ともかく……もういつイギリスが軍を派遣してもおかしくないと俺は思っている。ボストン茶会事件がそのきっかけになった」
「わかっています。私もそう思っています。そのために、こうやっては遠くから会議のために人が集まっているのでしょう?」
「あぁそうだな、そうだ。この会議次第で運命は大きく変わる。きっと皆思っていることは同じだ。うまくいくことを願おう」
二人は大儀を背負い、力強い足取りで残りの廊下を歩き、会議室の扉を思い切り開けて中に入っていった。
二人は扉を開けて会議室からせかせかと歩き出てきた。
「はい終わったぁ、終わりましたぁ、もう終わりでーす、さよーならー、グッバイフィラデルフィア。ウェルカムジョージ」
サミュエルは怒りのあまり大声で悪態をつき、ジョンは黙って肩を震わせていた。
「何だよ、あの会議。酔っぱらったサルが喧嘩しているのかと思ったぞ。何が決まった。何も決まってない。ごちゃごちゃがちゃがちゃ好き勝手に……。イギリスが攻めてこないと根拠もなく信じこんでいる人が多すぎる。おいジョン聞いてるか?」
すると、今まで黙っていたジョンが急に叫んだ。
「このままじゃ、ダメだ!」
サミュエルは驚きのあまり飛び跳ねて転んだ。
「な……何?」
「こんな何も決まらない会議に従ってモタモタしていたら、すぐにイギリス軍にこの大地は蹂躙されます」
「そ……そうだね、その通りだ」
「準備をしましょう」
「何の?」
「決まっているでしょう。戦争です。きたるべき戦争に備え、武器と弾薬を集めましょう」
サミュエルはジョンの勢いに押されながらも、笑みを浮かべて頷いた。
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