第32話 妹

 二日後の遠足は、学校から三十分程歩いた場所にある大きな公園まで歩いて、レク

リエーションや昼休憩などを経て、公園から学校へ歩き、終了した。


 彼女と昼を一緒に食べたかったけど、彼女の方はどうだろうか。


 彼女には僕以外にも他に友達がたくさんいるだろうし、僕だけが彼女を占領しても

どうかと思ったから、止めておこうと思った。


 しかし彼女は、友達とは一緒に食べなかった。


 その代わり。


 唯奈ちゃんに少し似たような、それでいて彼女よりは少し幼い女の子と、一緒にご

飯を食べていた。


 そういえば、この間、彼女はクッキーを少し多めに買っていたような。


 誰だろう、と思いながら見ていると、唯奈ちゃんがその女の子を引き連れて、僕の

方へと、歩いてきた。


 「この子、私の妹」


 撫でるように頭一つ小さい女の子の頭に手を置き、うつむき加減で緊張している女

の子を紹介した。


 「ちょーっと、人見知りなところあるけど、仲良くしてね」


 「ああっ…、うん」


 彼女と出会ってから驚きの連続だった。


 妹がいるなんて、言ってなかったし。


 「そんじゃあ、一緒に食べようか!」


 唯奈ちゃんが僕と、彼女の妹の手をそれぞれ握って、色鮮やかなシートの上に誘

う。


「ええっ!」


「嫌だった?」


「そうじゃなくて、二人で一緒に居なくていいの? 僕が入り込んでも…」


「圭くんはいいの! 唯花に懐かれそうだから」


「そうなの? …唯花、ちゃんは…?」


おそるおそる、妹の方を見ると、目は合わせてくれなかったものの、首をこくりと縦

に振りOKの意思を示してくれた。


僕は、緊張していたみたいで、唯花ちゃんに敵視されてないことに安心すると、長く

大きな安堵の息が漏れた。


僕も自分のシートを地面に広げて、陣地を大きくした。






 「へえ…、唯花ちゃんって、似顔絵描くのが上手なんだね」


 「うん…」


 人見知りな彼女だが、遠足から帰り着いたころには、僕に心を開いてくれるまでに

なった。


 トイレに行った姉を、廊下で待つ妹と、僕は気恥ずかしさを覚えながらもお喋りし

たくて必死に言葉を紡ぐ。


 「じゃあ今度、僕も書いてもらおうかな~、なんて」


 「…」


 「あっ、ダメだった?」


 「い、いや…」


 「ごめんね! じゃあ、またいつか! 唯奈ちゃんと仲良しのままでいれたら、ど

こかで会えるかも!」


 会話を続けたくて必死になってしまった僕は、ついそんな無理な要求を口に出し、

彼女を困らせてしまった。


 で、姉が出てくる前に、僕は慌てた勢いでそのまま帰路へと走り去ってしまった。


 でも、今日は楽しかった。


 新しくできた友達と、友達の妹と、雲一つない空の下、心地よいくらいの適温の空

気に包まれて、幸せだった。


 妹の唯花ちゃんには、嫌われてなければいいけど。


 そんなことを考えながら、帰る僕は、僕にしては珍しく、鼻歌を鳴らしながら、軽

快な足取りで家へと帰り着いた。


 家族以外の他人に興味のない、平坦で、つまらない僕の日常は、大きく動き始め

た。


 僕が、『チカラ』を使ってしまったばかりに。

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