第9話 友情×洗脳
部活動が紹介を終え教室に戻った
「なんて言うか……普通だな」
「もっと色々見せてくれるのかと思っていたんだがなぁ」
サッカー部や野球部といったメジャーな運動部が終了し、後半からは文化部の紹介がとなった今回の部活動紹介。配られたパンフレットには、各部の部員数やこれまでの成績、それに目標やメッセージが書かれていた。
入学して三日目でしかない俺達のクラスですらあんなにイカれてるのだ。ならこの学園に染まっている上級生達は相当なパフォーマンスを入れてくるだろうと予想していたのだが、結果は普通の紹介内容。正直言えば期待外れというか、拍子抜けだった。
一緒に帰ってきて隣に座っている
「はあ……貴様等、部活動紹介を一体何だと思っているのだ。やはりまともだったのは初日だけで、その本性は変態だったようだな」
「「そんなはずはない。こいつは変態だが俺はまだ常識人だ」」
っていうか今こいつ俺のことを変態って言いやがった。
「おい野獣ロリータ」
「黙れヘタれペド」
俺達が睨み合いを始めると、無言で武蔵が立ち上がり綺麗な姿勢で廊下に歩く。少しするとロッカーが開く音が聞こえ、武蔵が帰ってきた。その手に剥き出しになった竹刀を添えて。
「
「「あ、はい」」
一瞬で黙り込む俺と
「なあ武蔵。なんで
唯一神が純粋無垢な瞳で問いかける。武蔵はその質問に困った顔をしたあと、俺達を殺意の波動に目覚めた戦士のような瞳で睨みつけ、そして真っ直ぐ見つめる唯一神の瞳から視線を逸らしながら気まずそうに答えた。
「それはな……唯一神がもう少し大人になればわかることだ」
「「大人になってもわかんねえよ!」」
まるで子供にプロレスごっこを教える母親のような説明に、俺と
「デュフフフ。教えて欲しいでござるか唯一神殿? ならば我が教えてやるのでこっちに来るとよろしい。なんなら実演でもいいでござ――」
「変態は巣に帰れ!」
「でゅふっ!」
一体どこから出てきたのか、あまりに自然に会話に混ざってきた変態――
これは決まったなと思ったが、不可思議光線はすぐに立ち上がりギロっと武蔵を睨みつける。
「これだから野蛮人は嫌いなのでござる! 我は新たなる知識を蓄えようとしている賢者に教えてしんぜようとしていただけなのに! ロリータの意味を教えてあげようと思っていただけなのに! ついでに言えば嘘を交えた情報を唯一神殿に教えて涙目で悶えさせようと思っていただけなのに!」
「清々しいほどゲスいなお前!」
もはやこの学校じゃなかったら通報されても可笑しくないレベルの変態度だ。隣で紅弾丸も呆れてる。だが忘れるな。お前は前のミス2組の投票でアイツと被った同じ穴の狢なんだからな。
そして武蔵。目から光が消えてるぞ。ブツブツ言うな。殺してバラす? 裏山だと証拠が残らない? 怖えよマジで。お前
「そこまでにしておけ不可思議光線」
雲広は不可思議光線の肩にポンっと手を乗せると、親指で廊下を指す。どうやらこの場ではなく外で注意するつもりのようだ。その割にはずいぶんと爽やかな顔をしているが。
「ロリータの良さが分からない奴なんて放っておいて向こうで語り合おうぜ。イエスロリータ・ゴータッチ」
「……む、
――すでに洗脳されてやがったなお前!
興奮していたのが嘘のように、不可思議光線は
「……なんか悪かったな
「……いや、俺も言いすぎた。ごめんな紅弾丸。お前は変態でもロリータでもねえよ」
「ああ。わかってくれて何よりだぜ。お前もペドなんかじゃないからな」
数ランク上の変態を見たせいか、俺達の心は穏やかだ。だがな紅弾丸、ヘタレは訂正しない気かお前? 俺も野獣を訂正する気はないがな。
「さっきまで喧嘩してたのにもう仲直りしてる。なあ武蔵。男同士の友情っていいものだと、そう思わないか?」
「唯一神……すまない。欠片も思わん」
それが普通だから不安そうにするな武蔵。そして唯一神、お前すぐ騙されそうでお兄さんは怖いよホント。その憧れに満ちた煌びやかな顔はとても綺麗で可愛いのだが、憧れる対象が色々間違っているぞ。
ちなみに余談だが、今は六限が終わってHR待ちの時間だ。HRを取り仕切るのはもちろん我らが鬼教官、桜葉春香その人である。恐らく過去に戦場を経験しているであろう彼女が来る前に、俺達は私語を慎んで姿勢よく自分の席に戻っていった。
そんな時間に廊下でロリータの話をし始めた不可思議光線と雲広。話に夢中になっているようで、かなり大きな声で話している。扉から遠い俺の席まで声が届いているのだから、余程盛り上がっているようだ。
だがそれも、まるでテレビのコンセントを抜いたように、何の前触れもなく途絶えた。同時に入ってくる桜葉教官。
「よし、全員揃っているな。ではHRを始める」
もちろん俺の知る限り教室には二名存在しないが、桜葉教官は当たり前のように話を進めていく。それに逆らう者はもちろん、疑問を挟む者すらいなかった。この教室の人数は最初からこれだけ。不自然に存在する二つの空席はきっと、気のせいなのだ。
その日、クラスメイトが二人消えた。誰もが気付いてなお、何も言えない恐怖がそこにはあった。
――翌日
「突然だが転校生を紹介する。二人とも、入ってこい!」
朝のSHRで唐突にそう告げた桜葉教官の声に従い、二人の生徒が入ってくる。まるで昨日消えた二人を埋めるような突然の出来事に、俺達は状況を把握しきれなかった。
「ウフフフフフ、私、
「わ、わたしは
どう見ても
しかし
まあ何にしても、この学校はどこかおかしい。そう思う事しか、出来なかった。
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