第3話 信長暗殺計画!?

 兵蔵は男たちが宿泊した家屋を確認すると、近くの町家に宿を頼み、町並み見物の体で再び連中の宿泊している近くを歩き出した。

 しばらく周囲をウロウロしていると、集団の中で見た顔を見つけた。

 頭は髷を結っているが、まだ子どもといっていい年頃だ。

(ちょうどいい)

 兵蔵は少年に近づくと、驚いたように、

「おや、先ほど舟でご一緒したお方ではありませんか」

「……ああ、」

 会話もしていないのに向こうも覚えていたらしい。なかなか小利口そうな顔つきだ。

 兵蔵はそう思いながら会話を続ける。

「大勢だったようですが、京へは湯治にでも来ましたか」

 わざとのんびりとした口調で尋ねた。少年は少しムッとした表情をしたが、すぐに警戒の色を顔に表した。

くみしやすい)

 俺は重要な要件で来ている、と言いたいのをグッとこらえているのだろう。もうひと押しだな、と兵蔵は

「私は三河から酒の商いで来た者ですが、あれだけの人数、どなたか酒を買おうというお方はおられないかと思いまして」

 笑顔になってそう言った。少年はしばらく兵蔵をジロジロと見ていたが、

「我らは湯治ではない。美濃より重要な任務を帯びて来た者だ」

 よほど気負っているのだろう。お前とは違うのだと言いたげな顔をしている。

 兵蔵はわざと「ほう」と感心した声を出し、

「しかしどんな任務でも夜は酒くらい飲むでしょう。違いますか」

 と聞いてみた。少年はますます気色ばんだ体で、

「酒など飲むものはいない。我らは尾張の大将を討ち取りに来たのだ」

 と言った。


「京はまだ寒いな。中で聞こう」

 兵蔵からここまでの報告を聞いたとき、信長は言った。

「え、よろしいのですか」

 平伏していた兵蔵は驚いた顔を思わず持ち上げていた。左右の金森、蜂屋もびっくりという顔をしている。

 いくら一時の宿としている屋敷とはいえ、兵蔵のような身分のものを部屋の中に入れることはない。

 厳しい冬は越したが、板戸を開け放しておくには京の夜はまだまだ寒い。

 しかし、信長はそういう意味で兵蔵らを部屋の中に入れたのではなかった。

 この屋敷は信長にとって初めての場所であり、誰かに聞かれるような可能性を少しでも防ぎたかった。

 軒から中に入り、板戸を占めると、兵蔵は全身が少し縮んで見えるほど緊張に体を屈めている。

「早う」

 信長に促され、

「はっ」

 裏返したような声音で返事をしたあと、兵蔵は自身を落ち着けるようにゆっくりと息を吐き出し、喋りだした。

「その後、中間ちゅうげんたちに紛れて宿となっている町家の中に潜入してみると、さらに驚くべき会話がありました。公方様(将軍)のご了承を得て、ここの宿の者たちに申し付けておけば、鉄炮で狙って打つのになんの障害があるものか、と」

 金森、蜂屋の二人はさらに息を飲んだ。

 信憑性がある。

 将軍義輝がこのとき仮御所として居住している本覚寺は、美濃衆が宿泊している二条蛸薬師に位置する。また、住職(お寺の最高位の僧)は斎藤道三の実子であり、今の美濃当主義龍の弟にあたる。

 しかし信長は、

(やはり)

 と、むしろ話の最初からもっていた考えに確証を持った。

 実は信長、美濃の集団が暗殺目的で京に来たということに疑問を持っている。

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