第12話  お屋敷


 そこには子猫がたくさんいて、正直「猫の糞の匂いがかなりするだろう」と私は思っていた。妻の命の恩人である三毛様のお屋敷のことを、さすがにそう思っているとは言いがたく、車が近づくにつれ、家族ともそれぞれ緊張するようになった。


「わあ、広くてきれいだね、お母さん。公園みたいにきれいなお庭」

「それはそうよ、草だらけになって、あんまりにもダニが多くなっては大変だもの」


 猫たちは入り口の側には全くおらず、かなり離れたところに、ちらほらとその影が見えた。

お屋敷と言っても和風の屋根で、二階建てだった。だがそれと似た建物が敷地内に何カ所かにあり、まるで大学のようであった。屋根と同じくらいの高さの木もあり、ちょっとした遊びも出来るようになっている様にも見えた。

すると、一匹の黒猫がこちらにやって来て

「どうぞ、こちらへ、三毛様がお待ちです」

「三毛様のご気分はいかかでしょうか? もし体調が優れないようならば、このままネックレスだけお渡しして・・・」妻の言葉に

「いえいえ、数日前からそれは喜んでおいでです。あなた来て下さることで、元気を取り戻されたと、みな喜んでおります」


 私と息子は顔を見合わせ微笑んだ。私たちはすぐに三毛様のところに向かった。

だが不思議なことに、猫人には一人も会わなかった。猫人でなくても庭師ぐらいはいるだろうと思っていたが、とにかくすれ違うのは猫たちばかりで、人間の言葉を話せる者は私たちに挨拶を、そうでない者は立ち止まって、私たちが通り過ぎるのをじっと行儀良く待ってくれていた。そうして、人間の大きさのドアがあり、そのドアの下のほうには、郵便受けのようなスイング型の猫用入り口があった。

「すいません、お客人でいらっしゃいますが、ご自分で開けていただけますか? 」

「勿論です」

妻はそれは楽しそうにドアを開けた。


 真正面には、大きめの窓があり、小春日和の丁度良い日差しが、部屋全体に注ぎ込んでいた。その窓の側に、クッションが敷き詰められた小さな籠があって、そこに横になって、トロンとした目でこちらを見る三毛猫がいた。


「三毛様・・・」

「ああ・・・元気そうだ・・・ご主人と息子さんだね・・・本当に君達の子供だね・・・二人ともによく似ている」

うれしそうに、世界的な猫は言った。

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