第9話 雄の三毛猫
昔から、雄の三毛猫には特殊な力があると言われてきた。それは元々染色体の異常でしか生まれない希少性のためかもしれないが、
「先天的に弱いものが生き残るため、何らかの能力を持つに至った」
ということは生物界には数多く存在する。
船に乗せた雄の三毛猫が実際に天気の予知をし、その結果漁師が命拾いした話は全国にある。
そしてその集大成のような存在が三毛様であった。三毛様は若いころ実際に数多くの漁船に乗り、気象の予測を行い、天候の急変を予知した。しかしそれには三毛様的に「理由がある」そうで、猫のひげで感じたこと、表面の毛に感じる湿度、また耳で察知する気圧などを、気象の専門家と長きにわたり研究を続けた。その結果、広い海での部分的な天候を予測するシステムが開発され、それはMIKE、ミケと言う名で現在使用されている。結果はもちろん極めて良好である。なので世界にも三毛様に救われたと思っている人間が数多く存在している。
そして高齢の三毛様は体調を崩され(元々やはり弱いので)、屋敷とも城とも呼ばれる大きな家で現在療養をされている。
以前息子が言った。
「お母さん、お母さんは猫人だったんでしょ? おしかったね、隣の県だったら三毛様の猫人になれたのに」
「そうね、残念だったわ」
と、わが子に嘘を言わなければならないほど、三毛様の城にいたというだけで騒がれる。
それは三毛様の卓越した能力のことだけではなく、小学生たちが社会科の見学で三毛様のところを訪れた時、「長靴を履いて」迎えたりする、茶目っ気と冗談の好きな猫でもあったからだった。三毛様を信奉する人間は数多く、屋敷にいたということを話すと、知らない人間からも質問攻めにあうのだ。
だから妻は黙っていた。
「三毛様、三毛様・・・」妻はネックレスを握ったまま泣いていた。
私は言った。
「ちょうどよかったじゃないか、今度実家に帰った時、これを届けに行こう、お見舞いにも丁度いい」
「ええ、そうね」
妻はにっこりと笑った。そう、妻は三毛様に助けられたのだ。
若い頃、海ではなく、自分自身の中の心の嵐に飲み込まれそうになった時に。だからこそ本当に三毛様に感謝をし、このことは私も結婚直前に聞いていた。
「ごめんね、お母さん嘘をついて」
「うん・・・」
息子は微妙な表情だった。それはやはり学校で自分の両親や親類が有名な犬、猫、また白ガラス様の人間であることを自慢する子がいるからだ。
「三毛様の猫人なら・・・きっとお母さんが一番偉いのに・・・」
「お母さんは偉くはないのよ、偉いのは三毛様、もしみんなに本当のことを言ったって、嘘だって言われるでしょ? 」
「そうだね・・・三毛様だと、ちょっと有名すぎて、偉すぎるかな」
「ハハハ、偉すぎるか、それはそうかもしれない」
本当に三人しかいない大きな公園で、楽しく食事をした。
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