第2話 人間の夢


「動物と話しができたらいいのに」


 それは人類の夢だった。この夢を地道に研究していた人達は、ついに他の動物の脳内に小型のチップを埋め込み、彼らの意思を「人間の言語」にすることに成功した。最初は人間の声を出す能力が高いと言うことで「鳥」が実験台とされ、彼らとの日常会話に、世界中のほとんどの人はこのおとぎ話的現実に喜んでいた。ほとんどの人、と言ったが、この当時の偏屈としか見なされない人の中に、いたのだ、予言者のような人間が。その人物が言ったのは


「やがて我々の主は動物となる」


まさに今の状態がそうである。しかし、こうなる事は人間が気が付いたときには遅すぎて、彼らのあまりにも綿密な計画を、震えるように賞賛するばかりであった。


「猫が先か、犬が先か」

今考えればこのことも重要な事だった。だが犬よりも先に猫が流暢にしゃべり始めたことも、もしかしたら動物たちの考えの上でだったのかもしれない。

本当かどうかは未だにわからないが、猫の第一声がこうだと言われている。


「いわゆる「家畜」をしゃべらせることは止めた方が良いだろうね、君達も、私たちも生き辛くなるから」


人間達はその言葉に素直に従った。


第一猫、そう呼ばれたこの猫は、本当に賢かった。その賢さを徐々に恐ろしく感じ始めた人間もいたが、それも少数派でしかなかった。


「私のようにしゃべることの出来る猫と、そうでない猫もいる、他の動物もそうだ。まずは身近な動物たち、そして動物園にいる者を試すのが一番だろうと思う。人の会話をずっと聞いていたからね」


 そしてその通りに事は運び、動物園では医療行為に麻酔を使う必要がほとんどなくなった。会話が成立したためだ。

「検査のためにみんなが緊張するのが嫌だった」という熊との会話を、動物園の飼育員達は笑いながら楽しむことが出来た。だが、飼育員達はこの頃から「違和感があった」と告白している。

動物と話している、自分たちはうれしくて興奮しているのに、彼らはとても落ち着いていて、以前よりも暴れたり、困らせたりということを、全くしなくなったのだ。

その事実は「会話が出来るようになり、彼らの気持ちを理解できるようになったから」と当然のように受け入れられたが、飼育員達の野生の勘は、逆に本当に正しかったのだ。

だが、動物の研究者にとってみれば、生きたまま詳しい観察が出来るので、今までわからなかった部分の解明が、急速に進んだのも確かだった。

そして現在でも勿論動物の研究者は、その「動物の人」である。


「野生に戻りたい? それはそうだろう、では悪いけれど、この探知機を着けさせてくれ」

色々な種でこのことが起こるようになった。彼らが野性に帰り、繁殖したことを人々は本当に喜んだ。こうやって希少動物が徐々にまた増え始め、すべては良い方向へと進んでいると人間は思っていた。


猫の忠告から三年ほどたち、そこから事態は急変することになる。


「ネットワークが繋がらない? どうしたんだ? 」

「電源が、コードに無数の穴が」

「ネズミ? 」

「他の会社ではそうだったでしょうが、どうも虫みたいで・・・」


「イノシシが大集団で襲ってきたんです!! 畑がぐちゃぐちゃです!! 」


「重機が勝手に動き始めたんです! 」

「遠隔だったろう? 」

「遠隔が主導に切り替わっていて、カメラに猿が・・・ 」


世界各国、このような事態がテロのように起こり始めた。


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