滞在7日目 〜後編(1)〜

ホテルへ帰り着いた紫苑と花梨は何事もなく祭りを終えたことによる安心感から空腹を思い出す。

朝食でかなり食事を取ったと言っても動き回ったのだから仕方のないことだ。

とは言っても、今日は祭りがあったのだからホテル側で夕食の準備はされていないしあったとしてもおそらく食べるわけにはいかないだろう。

2人は食堂にあるカップ麺でも買いに行くかと言う話になり地下に向かうことにした。

すると、階段付近でちょうどタバコを吸いに降りてきた彼は誰と葉山に出会った。

紫苑は敢えて無視して通り過ぎようと試みる。


「おやおや、つれないねえ」


そんな紫苑に気づいた彼は誰がくすくすと笑いながら声をかけた。

すると、ぼんやりとして歩いている花梨が彼は誰の胸へと飛び込んでくる。


「わっ!」


「……」


小さな声をあげた花梨を紫苑は無言で振り返った。


「枕がお望みかい」


「あぅ」


彼は誰が笑みを浮かべて花梨にそう問いかけると花梨は小さなうめき声をあげる。


「また夢で会おう。僕は少し小腹が空いたから何か食べてくる」


「あ、私もついていきます」


紫苑のそんな声に花梨はハッとしたように慌てて言葉を返す。


「背と腹が接合したようだね」


「ダイエット中なんだ」


彼は誰のそんな言葉に紫苑はそっけなく答えた。


「僕もこれからなんだ、お供しよう」


いいよね?と言うふうに彼は誰が葉山を仰ぎ見ると、葉山は笑みを浮かべて小さく頷く。

結局、葉山と彼は誰は喫煙所に向かう予定を変更して食堂へと向かうことにしたようだ。



4人が食堂に着くとキッチンからおや?とした顔をした女性が出てきて声をかけてきた。


「お揃いでどうしたんだい?」


「夜はまだまだこれからですし、夜食なにかあるかなって」


女性の問いかけにまず答えたのは花梨だった。


「僕と緋色は夜食を買いに来たんですよ。最後の夜は彼女と語り合いたいので。」


次に葉山がにこりと笑みを浮かべてそう返す。


「それとこちらにお土産はあるかい?」


それに続けて彼は誰は女性に尋ねた。


「祭りでたくさん食べなかったのかい?まぁ、若い人は食欲旺盛だから仕方ないのかもしれないね。」


それぞれの言葉に対して女性は笑顔で言葉を返した。


「お土産は大したものはないけどここにあるものくらいならあるよ」


彼は誰の問いかけには、近くに用意されている土産コーナーをさしてそう答える。

そんな中、花梨は夕食がないのに何故いたのだろうと言う疑問が浮かんだ。

そのため、そっとキッチンの方へと目を向ける。

すると、なにやら食材を切っている途中であることが伺えた。

恐らくであるが、明日の食材の仕込みをしていたのだろう。


「なにか夜食作りたいので、キッチンお借りしてもいいですか?もちろん食材代金はお支払します」


「ごめんねぇ、キッチンには入れられないんだよ。代わりに何かあり合わせで作ってあげようか」


花梨の言葉に女性は困ったようにそう答える。

それは当然の返しだろう。

どこのホテルや旅館でもなにがあるのかわからないのだから。

衛生管理面などの問題から旅行客をキッチンに入れるわけにはいかないはずだ。


「お部屋で食べたいので、作らせて頂けないなら、あとでお部屋に持ち運んでいいですか?」


「それじゃ、何か作ってあげようね。すぐ出来るからいつでも取りにおいで」


どうやら祭りの料理の残りものがあると言う。


「緋色、好きなの買ってあげるよ」


そんな花梨と女性の話を横目に葉山は彼は誰はへと声をかけて土産コーナーへと移動する。

彼は誰はそれを聞くと良さげなのを買ってもらおうと少しウキウキした様子で葉山の後を追った。


「この煎餅とか夜食に食べようか?」


葉山は煎餅の袋を手に取ると、彼は誰に見せながらにこりと笑みを浮かべる。


「カフェのひえ団子、ここにもないかなあ」


それもいいねと頷きながらも彼は誰はそんなことも口にしながら土産を物色している。


「これのことかな?」


「それそれ、ありがとう」


彼は誰が見ている方とは反対の方に並んでいたようで、葉山が手に取って見せると彼は誰は嬉しそうにお礼を言った。


花梨と紫苑はというと、夜食をお願いすることにしたようだ。

紫苑はお茶漬けを食べたいといい、花梨は後で取りにくると言うことで握り飯をお願いしたようである。

その間に花梨はカップ麺の自販機へと向かう。

適当に良さげなものを推したはずだったのだが、、、出てきたものはペヤングのチョコレート味だった。


「………」


それを手に取り花梨は無言で見つめる。

が、頭の中は大混乱である。


(え、なにこれ、はじめてみた、ペヤングチョコレート?え?おいしいの?え、え、私普通にトムヤンクンラーメン選んだよね、なんでだろ、大きさ違わない???)


とはいえ出てきてしまったものは仕方がないことである。

夜食を頼んでカップ麺選んだものの、大きさも味も何も違うものに思考が魔境と化した花梨のお腹は不満を訴えるかのように小さな音を立てた。

確かに空腹感は増したように感じたがまだ耐えられる範囲である。



花梨がそんなことをしている間、紫苑が今すぐお茶漬けを食べたいということでいうことだったため、女性はあり合わせで作った漬けのお茶漬けを出してもらっていた。

そしてそれを紫苑は、、、美味しそうに食べていた。

どうやらその魚は祭りの最初の方に出ていたものらしく、あまり出していると悪くなるからと適当なところで片付けて漬けていたそうだ。

色々な種類が入っているようだが、それがまたいい。

昼頃から漬けいたのだろうか、しっかりと味がついていて紫苑のお腹は幸せな味で満たされていった。

お茶漬けと言うこともあって、その暖かさが空腹には心地よい。

そんな様子でお茶漬けを夢中で頬張る紫苑のところに花梨がやってきた。


「僕は先にお風呂に入って寝るよ。なんだか眠くなってきた」


「師匠、私は先に(師匠の)お部屋に戻ってますね」


紫苑の言葉に花梨は頬を赤らめながらかっこの部分は背中に文字を書き返事を返した。


(また僕のベッドで寝る気なのかな)


そんな花梨に対して紫苑の中でそんな疑問が浮かぶ。

紫苑に自分の思いが伝わるかと念じてみたが花梨の思いは紫苑に伝わっていないようである。

紫苑はというと花梨のいじらしい恋心がひしひしと感じ取ったようだ。

因みにであるが、花梨と紫苑がそんな一連のやりとりをしている間に葉山と彼は誰は土産を買い、カップ麺を買って早々に喫煙所へと向かっていた。


「わかった、またあした」


そう紫苑笑顔でそう返すと食事を再開した。



先に紫苑の部屋の前についた花梨であったが、不意に重大なことに気づいたようである。


「あ、ペヤングに気を取られて鍵借り忘れた、ま、まぁ待ってようかな。。。」


そう、部屋の鍵がなければ入ることはできないのだ。

花梨は紫苑の部屋の扉に背中を合わせてうとうとし始める。

花梨が夢の中を漂い始めた頃に彼は誰と葉山が戻ってきたのだが、紫苑の部屋の前にあることから何かを察したのだろう。


(起こさないでおこう)


彼は誰がそう思いながら葉山にアイコンタクトすると葉山は察したようだ。

2人は花梨を起こさないようにこっそりと部屋に戻っていった。






「こんなところで寝ていると風邪をひくよ」


「ふぁ。。。?」


彼は誰と葉山が部屋に入って少しだった頃、花梨はそんな紫苑の声に目を覚ます。

なにか美味しいものでも食べる夢を見ていたのか口の端から少しよだれたらりと漏れている。

そんな自分に気づいたらしく花梨はそれを慌てて拭った。


「まあ、とりあえず入るといいよ」


「ふ、ふぁい。。。じゅる」


少し呆れた様子の紫苑であるが、その言葉にまだ寝ぼけ眼の花梨は返事を返し立ち上がる。

紫苑が部屋の鍵を開けると、少し恥ずかしそうに花梨は中へ入っていった。

中に入ると、2人は夜に備えて交互に仮眠をとるという話になり先に花梨が眠ることにしたようだ。


(師匠のベッド、、、師匠の匂い、、、)


花梨はそんなことを思いながら眠りにつく。

20時頃に起こしてもらうと言うことで、その間に紫苑は風呂へと向かった。

さっと入浴を済ませて部屋に戻ると、安らかな寝顔で花梨は眠っている。

紫苑はフッと笑みをこぼしてそんな寝顔を見つめた後、自分用のコーヒーを入れて花梨用にすぐにコーヒーを入れれるように準備をしたあと窓の外を眺めた。

外の様子を見ると薄暗くなり雲の隙間から月明かりや星が見える。

風も少し強くなっているようだ。

そんな外の様子をぼんやり見つめながら紫苑は花梨が目覚めるのを待っているようだ。



一方その頃、彼は誰と葉山はというと喫煙所へと降りていた。

他愛もない雑談をかわしながら一服済ませた後、再び2人で葉山の部屋へと入っていく。


「もう少し時間があるから緋色は仮眠するといいよ」


葉山がそう声をかけると彼は誰は頷いて葉山のベッドへと潜り込む。


「ゆうちゃんも一緒に眠るかい?」


いたずらっ子のような笑みを浮かべて彼は誰が自分の隣をぽんぽんと軽く叩きながら声をかける。

そんな様子に葉山はふっと笑みをこぼして左右に首を振った。


「遠慮しておくよ。色々と準備もあるからね」


葉山の言葉にそうかと頷くと、特に残念そうな様子を見せるわけでもなく彼は誰は眠りにつく。

寝つきがいい方なのかすぐにすやすやと気持ちの良さそうなない寝息が聞こえ始めた。

そんな彼は誰を起こさないようにと気を遣いながら葉山は準備を始めるのだった。



時刻は20時を差し始める。


「そろそろ時間だよ」


「んっ。。。ありがとうございます。。」


そっと紫苑が声をかけると、花梨はゆっくり瞼を持ち上げた。


「おはよう、コーヒーでも飲むかい?」


「いただきますね、では、師匠も少しですが、お休みください」


花梨はベッドから体を起こして立ち上がると紫苑は入れたてのコーヒーを手渡す。

それを受け取りながら花梨は紫苑に告げた。

そのあと紫苑は花梨の言葉にこくりと頷いてベッドに潜り込む。

まだ花梨の体温が残るベッドはどことなく心地よく感じた。

花梨はというと、紫苑の気遣いにどきっとしながらコーヒーをゆっくりと口へと運ぶ。

寝起きにコーヒーの苦味がちょうどいい。

その間に紫苑はよほど眠かったのか、あっという間に寝息を立てて眠りに落ちているようだ。


(お部屋の鍵はどこでしょう?)


ふと、鍵を預かり忘れたことに花梨は気づいた。

辺りを探すが、見当たらない。

どうやら鍵は紫苑のズボンの裏側のポケットに入ったままになっているようだ。

そのことに気づいたのだろう。

花梨はそっと紫苑に近づくとすぼっとポケットに手を入れる。

花梨が思った通り、そこには部屋の鍵が入っていた。


「少しだけ鍵お借りしますね」


眠る紫苑の耳元でほわーっという感じにそう告げる。

しかし、そう告げたものの紫苑がぐっすり眠っている様子を見て花梨は「鍵お借りします」と書いたメモを紫苑の携帯のそばにおいた。

その後、自分の荷物を手荷物と紫音のおでこにそっとキスをして部屋を後にした。

パタリという扉が閉まる音に紫苑は一度、むくりと身体をおこす。


「…?きのせいかな」


花梨に何か言われた気がしたのだが、部屋の中にはすでに花梨の姿はない。

そのまま紫苑はもう一度ベッドに潜ると再びすやすやと気持ちよさそうな寝息をたて始めるのだった。



紫苑を22時過ぎに起こそうと決めた花梨は色々と済ませるために行動を開始した。

まずは自分の部屋に戻り荷物の片付けをする。


「・・・・・・。」


荷物の中から一つのペンダントを手に取り、花梨は少しの間それをじっと眺めていた。

これは、姉であるあぢさいのペンダントだ。

少し眺めた後、それをゆっくりと自分の首にかけた。

次にショルダーポーチにいつものように財布,や携帯電話,・ヘアピン・ヘアゴム,・絆創膏, ペン・メモ・化粧ポーチ・簡易変装セット・警報ブザーを詰め込む。

そして残りは全て旅行鞄へと詰め込んだ。

その後、この旅行鞄を紫苑の部屋へと移動させるようだ。


(あぁ、そうだ。デジカメは必要ね)


ふと何かを思いついたように荷物からデジカメを取り出す。

それでどうやら荷物整理は終わりのようだ。

荷物の振り分け終わらせると、デジカメを手に待ちレストランの近くのトイレへと向かう。

そして、女性用トイレへ入ると故障中のトイレがないかを探した。

しかし、どのトイレも使用できるようである。


(あら・・・こっちじゃないのね・・・)


トイレとしか聞いていなかったが、どうやら男子トイレの方だと思いついたようだ。

試しにそのまま洗面台隣の壁をノックしてみる。

こんこんこんと壁をノックしながら耳をすませてみるとその音から察するにおそらくこの向こう側は空洞になっているようである。


(ビンゴ、ね。)


そう思いながら花梨は洗面台で手を洗って何食わぬ顔をしてトイレから出る。

そしてその足でレストランへ向かった。


「失礼します、夜食受け取りにきました」


デジカメを首にかけて花梨はキッチンにいる女性へと声をかける。

そう声をかけながらもさっと辺りを見渡した。

部屋全体に、箸などの食器があるかどうかを知りたいようだ。

そう思い見渡してみるも花梨がある場所からそのようなものは見当たらなかった。


「あぁ、お嬢ちゃん。祭りの残り物やらなんやらだから食べ飽きたかもしれないけど。」


花梨の言葉に気づいた女性がそんな声を返しながら笑顔を見せる。


「いえいえ、そんなことありません、とても美味しく頂いてます。あの、フォークやスプーンをいただけますか?」


「フォーク?」


渡された食事が乗ったお盆には割り箸が乗せられている。

全て箸で食べられるような料理なのにと女性は怪訝そうな顔を見せた。


「実は私フォークでよく食べてるので、フォークのほうが食べやすいんです。ダメでしょうか?」


「そうなのかい?あんなに上手に箸を使っていたのに。だめだよ?お嬢ちゃん。日本人なんだから箸くらい使えなきゃ」


花梨がどこか申し訳なさそうにそう話すと、女性は少し呆れた様子を見せながらもそんな言葉を返す。

そして少し奥の引き出しから袋入りのプラスチックフォークを渡した。


「ありがとうございます、美味しく頂きます」


花梨はにこっと笑みを浮かべてそれらを受け取ると師匠の部屋へと向かう。

紫苑が眠る部屋につくと、持ってきていたポリ袋に小鉢の中身全部移してバックにしまった。

そして、カップ麺のペヤングチョコレートを取り出すとお湯を注いで三分待つ。

出来上がったそれを花梨は事務的に口の中へと運ぶ。

なんでこんな業の深いもの食べてるんだろうなどという思いが頭に浮かんだ。


(まず。。。あま。。。?しょっぱい。。。???)


眉間にシワを寄せながらもひたすらに口へと運びなんとか完食した。

食事を終えると今度は急いで3階のお風呂へと向かう。

シャワーのみで済ませ、髪にドライヤーをかけることなく終わらせる。

いつもなら1時間は軽くかかる花梨であったが今日は約20分で済ませて紫苑の部屋へと戻った。

そして先ほどもらった割り箸を割って合計四本の尖った棒にするとショルダーポーチの中へとしまった。

それから軽く化粧を済ませると、香水を振り撒く。

その後、変装を試みるもイマイチ思うような格好できなかった。

それでも仕方ないと思ったのか、花梨は優雅にコーヒーを2つ注ぐ。

時計を確認しながら10時過ぎた頃合いに紫苑を起こすこととした。


「師匠、起きてください」


花梨は紫苑の耳元でほわほわとささやく。

しかし、、、

紫苑がその言葉で起きる気配はない。

花梨が揺さぶっても、囁いても起きる気配はない。

花梨は最終手段と言わんばかりの勢いで紫苑をグーパンチで殴ってみる。

すると、、、


「いたた…」


パンチの威力だろうか、花梨の愛の力だろうか。

そんな声を上げながら紫苑は目を覚ました。


「師匠!!!」


涙目でゆさゆさしてる半裸の花梨は紫苑に抱きつく勢いである。


「疲れてたのかな、もうこんな時間だ」


殴られたところをさすりながら紫苑が時計をみると23時をさそうとしている。

そして花梨に視線を戻した紫苑がやっとその半裸姿に気付いたようだ。


「なにやってるの…?」


「師匠が起きないからでしょ!!!!」


自分の姿なんてどうでもいいと言わんばかりに叫ぶように花梨は答えてぽろぽろと涙をこぼす。


「ああうん?」


泣いている花梨に何がどうなっているのかわからないと言った様子の紫苑であるが、とりあえずはといそいそで半裸の花梨の服を整えた。

おそらくこうしたかったのであろうという状態に整えるとそこには中性的な男の娘に見えなくもない花梨が出来上がる。


「……心配したんですよ。」


涙を拭いながら持ってきていた手提げに服をいれつつ花梨は紫苑にそう言った。


「大事な予定に寝坊したことなんて初めてだな…」


「急げばまだまにあうはずです」


何かがおかしいといたように紫苑はポツリとそういいながら自分の身支度を整える。

そんな紫苑に少し焦った様子ではあるが花梨がそう声をかけた。

紫苑と風華が廊下に出ると葉山の部屋からちょうど彼は誰と葉山らしき人物が現れる。

らしき、というのはその髪はみどりのように白く瞳も赤かったためである。

そしてメガネもかけてはいない。


「寝坊してしまったと思ったのだけれどね。思いのほか猶予はあったのかな」


彼は誰の顔をみた紫苑は笑みを浮かべてそう声をかける。


「いいや、夜はむしろこれからさ。帷はまだ下がったばかりだよ」


「夢で会えたね」


そんな紫苑に彼は誰が言葉を返すと、紫苑はにこりと笑みを浮かべてそう話す。


「緋色、急ぐよ」


しかし、そんな2人をよそに葉山は3階に向かって早足で歩き始めながら彼は誰に声をかけた。


「ふふ、では」


彼は誰は葉山の言葉に笑みをこぼして花梨と紫苑にそう言って葉山の後を追う。

しかし、何かを思い出したのか葉山は紫苑のところへ小走りで戻ってきた。


「音を立てずに左へ」


そういうと手のひらに収まるサイズの懐中電灯を渡した。

そしてすぐに3階へと向かっていく。


「何でそんな余裕そうなんですか。。。」


そんな彼は誰と紫苑、葉山のやり取りを隣で見ていた花梨はじとーとした様子で紫苑を見ながら呟くように言った。

とはいえ時間がないのは事実である。

実際、2人は葉山のいつもと違う様子を気にする暇もなかったようだ。


「カメラは気にしなくていいが音は気をつけて」


3階へ向かう階段を上りかけて葉山は思い出したかのように紫苑と花梨へそんな言葉を投げかける。


「わかったよ。」


「ありがとうございます」


2人の声を聞いた後、葉山は彼は誰と共に階段を駆け上がって行った。

その後、花梨と紫苑も地下に向かって音を立てないように急いで階段を駆け降りていくのだった。

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