滞在7日目 〜中編(4)〜
紫苑と花梨は夕方の舞に間に合うようにと急いで公園へ向かう。
公園へ着くと辺りを見渡してみるが、これと言って人影はないようだ。
そして2人は顔を見合わせると公園に飾られている城壁へと近寄る。
そして、彼は誰の言葉を思い出しその城壁をじっくりと観察してみた。
すると、あることに気づく。
城壁に何か文字が彫られているのだ。
常世ノ國ヨリ出シ神アリ
コノ地ニ富ヲ福ヲ呼ビタモウ
更ニ尊キ神コノ地ニ降リタチ
我ラニ永遠(とわ)ノ命ヲ与エン
神ヲ食スハ神ノ神子(みこ)也
神ノ使者ハ島ヲ守リ
我ラノ安寧ノ地トナサン
この言葉を今風に訳すとこんな感じだろうか。
常世の国からやってきた神がいた
この地に富と幸福を呼び込んでくださった
更に尊い(高貴な)神がこの地にやってくると
私達に永遠の命を与えてくれた
神(以前いた神?)を食べる者は神の子(巫女?)である
神の使者がこの島を守ってくれるので
(この島は)私達の安寧の地となった
(以前居た神を食べる…先代の巫女を食べるということか?)
それを見た紫苑はそんなことを考える。
その間、花梨は怪しい者が近くにいないのか辺りを見渡して警戒してみるが今のところこれと言った人影はないようだ。
「なにか見つかりました?」
「うん、綺麗な壁だね。あとでスケッチでも撮ってわたすよ。」
花梨の問いかけに紫苑はにこりと笑ってそう返す。
どこで誰が聞いているかわからない今、ここでそのまま話すことは得策ではないと考えたのだろう。
念の為、辺りに耳を澄ませているが人の気配はないようだ。
時計を見ると時刻は15時半をしましていた。
2人はそれ以上特になりをするわけでもなく、また自転車に乗ると村へ戻って行った。
2人はゆっくりと村に向かって自転車話走らせる。
そのため、村に着く頃には16時を過ぎていた。
そろそろ中央の集まりも浜辺に移動し始めているようだ。
「そろそろ皆さんも移動してますね、私たちもいきましょう」
「ちょうどいい時間に帰ってこれたね」
花梨の言葉に頷きながら紫苑は言葉を返す。
2人は村の入り口付近に自転車を止めると、砂浜に向かって歩いていった。
花梨が階段を降りようとしたその時・・・
「ひゃぁ!?」
ふわりと悪戯な風が吹き、スカートが浮き上がる。
慌ててそれを抑えようとした花梨はよろりとバランスを崩して紫苑の方へ倒れ込んだが、それを紫苑はしっかりと優しく抱き止めた。
「・・・・・・大丈夫かい?」
一瞬ではあったが、紫苑の瞳には白い“あれ”がばっちりと映し出されていたのだが、敢えて口にする人用もないだろうと知らぬふりをする。
「あ、ありがとうございます///」
花梨は恥ずかしそうに顔を赤くして紫苑から離れて体勢を立て直しお礼を伝えた。
「やはり、海岸沿いは風が強いですね。」
「気をつけないとね」
ポーカーフェイスを保ちつつも紫苑は花梨に言葉を返す。
「……見えました?」
「心理学してみるかい?」
花梨の問いかけに紫苑はにこりと笑みを浮かべて逆に問いかける。
「………」
そんな挑戦的な紫苑の言葉に、花梨は鍛えられてきた心理学を試みるべくじっと様子を観察して見る。
しかし、まだ先ほどの動揺が残っているのか紫苑が見たのか見ていないのかよくわからなかった。
顔はまだ赤く熱っているし、思考もぐるぐるしているからだろう。
「………」
「何かわかった?」
赤い顔をしながらも自分の様子をじっと観察する花梨に紫苑は笑みを浮かべて尋ねる。
「へっ!? い、いえ!?」
「まだまだだね」
あまりにもじーっと見過ぎていたせいかいつの間にか2人の距離はかなり近くなっていた。
紫苑の声でそのことに気づいた花梨は慌ててバッと後ろに飛び退いた。
「………」
(あ、あぶなかった。。。)
無言でそんなことを思いながら息を整え、思考を落ち着かせる花梨であった。
「じゃあそろそろ行こうか」
「は、はい!」
紫苑がそう声をかけると、花梨は慌てて返事を返して先に歩き出した紫苑の後ろを追いかけていく。
その先の浜辺では続々と人が集まってきていた。
(わたし、あのとき。目をつむろうとしてた。。。)
紫苑の背中を見つめながら花梨はふとそんなことを考えていた。
あまりにじっと見つめながら無意識に近づいてそんなことをしようとしていた自分に今更ながら気づいたのだ。
「………」
段々と歩みが遅くなる花梨に気づいた紫苑はふと立ち止まり花梨がくるのを待った。
「はぐれないように、ね」
紫苑はそういうと、さらっと花梨の手をとった。
「……」
そんな紫苑に対して花梨は恥ずかしそうに手の端っこを握る。
そのまま2人は舞台のそばへと移動すると、舞台が見やすい位置を探した。
するとそばにいた数名の冬眠が2人に気づくと道を開ける。
「旅行者の人、さぁさぁ、見やすいところで」
そう言って前の方を勧めてくれたのだった。
ゆっくりと日が傾き始める頃、みどりが舞台の中央へと歩み出て海に向かって笛の音を奏で始める。
その演奏が始まると村の者達は海に向かって手を合わせて黙祷を捧げはじめる。
その後、舞台の端にまた音楽隊が現れ演奏を始めるとみどりは舞を始め、その舞が終わると祭りは終わりを迎えた。
「みどりちゃんの舞、素敵ですね」
「まだ子供だけれど立派に踊っていたね」
夢から覚めきらないような表情で呟くようにいう花梨に紫苑も頷くようにそう言葉を返した。
そして紫苑は辺りを見渡す。
みどりの姿を見つけたかったようだが、人混みに紛れてよくわからなかった。
そうして、2人は薄暗くなった夜道を島民に見送られながら急いでホテルへと帰るのだった。
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