滞在7日目 〜中編(3)〜

祭りの会場へと戻った紫苑と花梨であったが、やはり周りの人から料理やお酒、ジュースを勧められた。

それをのらりくらりと交わしながら花梨は紫苑の手をぎゅっと掴んだ。

内心驚きつつも紫苑はポーカーフェイスで話を続けている。


「師匠、恋人の振りで引っ張っちゃってください」ポソッ


「仕方ないなぁ」


ポツリと呟くように耳打ちする花梨にどこか照れたように紫苑は返した。

そして、2人は旅館へと向かっていく。

旅館へと続く上り坂の入り口には村人が立っているのが見えた。


「何か御用ですか?」


どこか2人を怪しむような雰囲気ではあるが、笑顔でそう話しかけてくる。


「少し疲れてしまったので。どこか休めるところはありませんか?」


自分がというより彼女が、と紫苑は手を引く花梨をチラリと見ながら答える。


「休めるところですか。こちらは泊まっている方と急患の方のみなので、、、カフェのテラス席などでしたら可能だと思いますよ」


花梨をみた村人はなるほどと言う様子ではあったが、紫苑にそう伝える。

やはり旅館の中へはそう簡単には入らせてくれないようである。


「なるほど、ありがとうございます」


村人の話を聞きながら紫苑はカフェの造りを思い出す。

確かにテラス席ならば日焼けに屋根もあるし、休憩はできないこともないだろう。


「あじさいさんってどちらにいらっしゃいますか?」


ふと、花梨は村人に尋ねてみる。

今日は一度もあじさいの姿を見ていないことが何やら気がかりなようだ。


「あじさい、ですか?今日は料理の手伝いしてると思いますけど何か御用ですか?」


しかし、花梨の言葉を聞いて村人は怪訝そうな顔を見せる。

これまでの経験から、旅行者と村人が仲良くすることに反対派でもいるのだろう。

そしておそらくこの人もそうなのかもしれない。


「いえ、こちらに来てから大変お世話になったので、最後に挨拶くらいしておきたいなと思いまして」


どうにか上手く相手を言いくるめてあじさいの場所を聞こうと花梨は考えたようだ。


「なるほど。けれどみなさんの見送りは島民全員でさせて頂きますし、今日は村の大事な祭りなので。その時は会えると思いますよ?」


しかし、上手い言葉が見つからずありきたりな言葉を言う花梨に村人はそう答えてにこりと笑った。


「そうなのですね、では仕方ありませんね。」


どこか寂しそうな顔をして見せる花梨ではあったが、同性であるこの村人には花梨の色仕掛けは通じそうにない。

男性ならばその表情で何かしらの動揺を支えたのかもしれないが、おそらく今日の祭では男性は飲めや歌えやの騒ぎをしているのだろう。

2人は諦めて祭り会場へと戻ることにしたのだが、そちらに戻るとまた村人達は料理やお酒やジュースを勧めてくる。

そして今度はカラオケでもどうかとも言わるのだから困った物である。

舞台の方へと目を向けると、いつの間にかカラオケが設置されていた。

花梨はキョロキョロと辺りを見渡してあじさいの姿を探してみる。

が、しかしやはり姿は見つからない。

同じように紫苑も辺りを見渡してみるが母親のうめの姿を見つけることは出来たがあじさいの姿は見つからなかった。


「せっかく勧められてるし、歌おうか」


「あ、じゃあ私は一緒にダンスしますね!」


そう言って舞台に上がった2人。

歌う紫苑の横でダンスを試みた花梨であったが紫苑の歌声に聞き惚れたのだろう。

途中、バランスを崩してしまいこけてぱんちらを披露するハメとなってしまった。

しかし、それが逆に良かったのかその場は拍手喝采で盛り上がり賑わった。

特に酔っ払っている男性陣には大受けである。

しかし、そんな男性陣を女性陣が嗜める様子が壇上から見てとれた。


「もう一曲踊ります!」


失敗したことが悔しかったのだろう。

そう宣言すると花梨はお得意の曲を選曲して踊り始める。

少しよろめいたところはあったけれど今度はそれなりに踊ることができた。

踊り終わると花梨はスカートの裾をちょっとすっと上げて、ぺこりっとお辞儀をする。

可愛らしい花梨の踊りに女性陣は拍手喝采だったが先程のパンチラがあるせいか男性陣は若干不服そうである。

そして会場からはそんな2人に対してアンコールがかかっている。


「あまり張り切ると夜に響くよ?」


紫苑はそっと花梨にそう耳打ちをして舞台から降りさせるとではもう一曲と歌い始めた。


「わぁー♡♡」ぱちぱち


花梨は紫苑の歌を聞いてご機嫌であるが、村人も拍手喝采である。

しかし、女性陣の黄色い歓声が混ざっていることに気づいた花梨はちょっとムッとした表情を見せた。

紫苑はというと、たまたま目があった薬師丸の元へとそのまま向かいマイクを手渡す。


「ふむ。せっかくのご指名だ。歌おうじゃないか」


何故かドヤ顔を見せる薬師丸である。

てっきり演説を始めるか演歌でも歌うのかと思いきや、意外にも今時の若者が歌うような曲のチョイスであった。

面倒なおじさんだと思っていた女性陣からは意外な一面に黄色い歓声が上がっている。

それに気分を良くしたのか、さらにドヤ顔の薬師丸である。


「わぁー♪♪」


薬師丸の歌を聞きながらにこにこ笑顔の花梨である。

若いものに合わせようとするおじさんの図だね!なんてことを紫苑は思っているとかいないとか、そこはひとまず置いておこう。


「薬師丸さん、お歌上手いのですねぇ、師匠」


「そうだねー」


ご機嫌な花梨とは対照的に紫苑はあまり興味がなさそうな様子ではある。

花梨のダンスを眺めていた時の方が機嫌が良さそうであったことを花梨は知らないのだがそれもひとまず置いておくとしよう。

そのまま薬師丸は二曲目に突入しているのだが、そんな中2人は料理がどこからやってきてるのかと会場から少し離れて観察していた。

どうやら会場にある料理は各家庭からだったり、旅館やカフェの方だったりから運ばれている。

どうやら担当があるようだ。

屋台も出ていないだろうかと見てみるが、やはり射的などの屋台は見当たらない。

紫苑は花梨のためにあじさいの家がどこにあったのかを思い出してみた。

そして、料理をしているのならば家にいるのかもしれないと思うのだった。


「料理をしているなら家かカフェ、もしくは旅館じゃないかな」


とはいえ、旅館の側で話した時に呼び出してもらえなかったことを考えれば旅館ではないだろうと紫苑は思う。

そうなれば可能性があるのは家が、カフェか。


「でしたら、家に見に行ってみますか?」


紫苑の言葉に花梨が尋ねると、紫苑はこくりと頷いた。

そして2人はあじさいの家へと向かう。

すると、あじさいの家に着くとちょうどうめさんが料理を手に出てくるのが見えた。


「こんにちわ」


「あら?どうしたんだい?」


花梨が声をかけるとうめは不思議そうな顔をして尋ねてきた。


「明日の朝帰りですし、1度ご挨拶だけでもと思って来ました」


「おやおや、そうかい。ありがとうね。」


花梨の言葉にうめは嬉しそうに笑顔を見せる。


「あじさいさんはお料理を担当されてるのですか?」


「ん?あじさいは料理手伝っているけどここじゃないよ?」


そして花梨が尋ねると、少し困ったような顔でうめは答えた。

確かに辺りを見渡しても、中の様子を伺ってみてもあじさいがいる様子はない。

それならばどこにいると言うのだろうか。


「あら?先程旅館に行ってもここにはいない、みたいにおいかえされてしまったので…」


「ん?旅館は今日は救護室に使われてるはずだよ?のんべぇが潰れて行くからねぇ〜!」


うめの言葉にしょんぼりとした様子で花梨が言葉を返すと、うめはそういって豪快に笑う。

確かに、先ほど旅館に行ったときに泊まっている人と急患以外はとは言われたが急患とは酔い潰れた人のことだったようだ。

ということは、あじさいはカフェにいるのだろうか。

2人は顔を見合わせると互いにそう判断したようである。


「うめさんも、1週間ありがとうございました。お陰で楽しめました」 


「今日はめいいっぱい楽しんでね!」


お互いの意思をアイコンタクトで確認した後、2人はうめに軽く挨拶をしてカフェへと向かった。

そんな2人をうめは笑顔で見送っていたのだった。




カフェに着くと外の椅子やテーブルはいつものように置いてあるようだ。

人によっては祭りの喧騒を離れてのんびりと過ごせそうである。

そして2人は出入り口に向かったのだが、どうやら鍵はしまっているようだ。

外から中を覗くと店内は暗く灯りはついていない様子なのだが、奥のキッチンにあたるあたりから光がうっすらと漏れているのが見て取れる。

2人がどうにか悪の様子が知れないだろうかと中を覗いていると後ろから声をかけられた。


「そこでなにしてるんですか?」


振り向くと明らかに怪しいという顔と雰囲気で2人を見る少女が立っている。


「ああ、灯りがついているようなので少し気になって」


そう弁解する紫苑をよそに、その少女は目の前でトランシーバーを出しボソボソと何か言している。

他の者に報告でもしているのだろうか。

どうやら中を覗いたり聞き耳立てたりしている様子を見られていたようだ。

どうしたものかと考えた2人は素直にあじさいさんを探している、もしくはここにいると聴いたなどといえばいいんじゃないかという思いに至った。

聞いてきたものの入り方がわからなかったと正直に言えばいいのではないだろうか。


「うめさんから、あじさいさんがここにいると聞いて来たのですが、お店は真っ暗、しーんとしてるので、ちょっと気になってしまって。。。あ、私は1週間?ほど、あじさいさんにお世話になってる花梨風華と申します」


紫苑が何か言うよりもと思ったのだろう。

花梨は慌てて口を開き、困ったような顔でそう伝えた。


「うめさんから?あぁ、なるほどあじさいの。あなたが例の観光客なのね。そう、それじゃ、、、こっちよ」


花梨の言葉を聞くとどこか変に納得した様子を見せた。

おそらくではあるが、今までの花梨の行動や言動をこの少女は知っているのかもしれない。

知っているのならば、何故かあじさいに懐いている話も当然わかっているのだろう。

しかし、花梨は少女の様子に何か違和感を感じたようだ。

花梨は目の前の少女の様子をじっと伺ってみる。

その少女の様子から、一応信じてくれた気はするが、自分のことを“例の観光客”と言われたことからいい印象を持たれていない気がした。


少女は花梨に言葉を返すと裏の従業員入り口に2人を案内するため歩き始める。

紫苑と花梨はその後を特に何を言うでもなくついていくことにした。


(トランシーバーは村人全員が持っているのか?)


少女の後をついていきながら紫苑はそんなことを考えていた。

何人か使っている姿を見てはいるものの、全員が持っているとするならばどこか異様さを感じる。

携帯電話ならば今は誰でも持ち合わせているものなのだから納得もいくと言うものである。

しかし、トランシーバーとなると、この島の中でしか使えないだろう。

これではまるで、監視してますとでも言われているような気持ち悪さを感じる。



ーコンコンー


「あじさいいる?あんたに客だよ」


店の裏側にある扉の前に着くと、少女はノックをして声をかけ扉を開ける。


「え?私に?」


少女が開いた扉の奥から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

2人が扉の中を覗くと、そこにはあじさいと1人の男性が料理をしている様子が見える。

紫苑は男性の顔に覚えがあった。

初めてカフェを訪れた日だっただろうか。

店の奥の厨房でチラリと見かけた顔だ。

そして、舞台作りの手伝いをしている人の中にも見た顔であった。


「あじさいさん、こんにちわ」


あじさいの顔を見つけると花梨は嬉しそうに声をかける。


「あ!風華ちゃん」


その声を聞いて花梨と目が合うとあじさいもどこか嬉しそうににこりと笑みをこぼした。

そしてあじさいは男性の方を向くと続けて嬉しそうに口を開く。


「翔くん!この子がさっき話してた風華ちゃんとお師匠さんだよ!」


翔くん、と呼ばれた男性はあじさいにそう言われて2人の方に目を向けた。


「明日の朝には帰りですし、ご挨拶にと思ってきました」


「こんにちは」


花梨はニコニコとしながらそう伝えて、紫苑は挨拶を口にすると軽く頭を下げる。


「ども、こんにちは」


それに習ったかのように翔もそう言って軽く頭を下げた。

その様子を見て、花梨はふとあることを思い出した。

カフェで話をしていたときだっただろうか。

あじさいは好きな人がいると言っていたような気がする。

そしてそれがこの翔くんと呼ばれた人なのではないだろうかと思った。


(あっ、もしかしてこの人が。。。?)


「あじさいさんが話して下さった方、ですね。」


「え?!あ、、、う、うん、そう///」


花梨の言葉の意味が伝わったのだろう。

あじさいは花梨の言葉に少し頬を染めながらもニコリと笑って小さく頷いた。


「何話したの?」


「え?翔君がカフェで料理してるってことだよ〜///」


男性が少し困ったような顔をしてあじさいに尋ねると、あじさいは慌ててもっともらしい言葉を口にする。

どうやら気持ちは伝えていないようだ。

とはいえ、2人がどのような関係なのか詳しいことは花梨と紫音は知らないことではあるのだが。


「とりあえず私はもう行くから」


「あ、うん、ありがとう」


そんなやりとりをどこか呆れたような、苛立った様子で見ていた少女はあじさいにそう告げた。

その様子を察したのだろうか。

あじさいが申し訳なさそうにお礼を言ったものの、2人を案内した女性は特に何を言うわけでもなく足早にその場から去っていった。


「ご、ごめんなさい、もしかしてお邪魔でしたでしょうか?」


「え?そ、そんなことないよ〜!」


その様子を見ていた花梨は慌ててあじさいに問いかける。

あとでまたいつぞやのようにあじさいが怒られるのではないかと思ったのかもしれない。

しょんぼりとした様子の花梨にあじさいも慌てたように言葉を返した。


「少し表で話してきたら?」


「あ、そ、そうだね!」


その様子を察したのか翔はあじさいにそう声をかける。

翔にとってはあじさいが観光客と仲良くしていることは特別気にすることでもないと言うことなのだろう。


「じゃあ、ちょっと行ってくるね!風華ちゃん、表のテラスで少しお話ししよっか」


あじさいは翔にそう伝えると急いでエプロンを外す。

そして花梨にそう声をかけた。


「はいっ!あ、師匠はついてこないでくださいねっ!」


花梨は紫苑にそう声をかけてからあじさいと一緒に表のカフェテラスへとご機嫌な様子で歩いて行った。





その場に残された紫苑はというと、翔に許可を得てから調理風景を観察することにしたようだ。

花梨のことが心配ではあったが、あの様子であればあじさいが何か危害を及ぼすようにも思えない。

それならば女性同士の会話に入り込むのは無粋なのではと思ったようである。

紫苑が興味ありげに観察する横で翔は手際良く料理を作り上げて行く。

さすが、カフェのキッチンにいるだけのことはあると言ったところだろうか。


「なにも面白いことないと思うけど」


不意に翔はぽつりとそんな言葉を洩らした。


「手際がいいから見ていて参考になるよ」


そんなことはないと紫苑はニコリと笑みを浮かべて言葉を返す。

特に何を話すわけでもなく紫苑と翔はなんとも言い難い雰囲気で2人の帰りを待つのだった。




さて、表に行った2人の方へと話を移してみよう。


「何だか、いい雰囲気でしたね♡」


椅子に座ると花梨は開口一番にそう言葉を口にする。

自分のことのように嬉しそうな笑みを浮かべていた。


「そ、そうかな?///」


花梨に言われ、あじさいは恥ずかしそうに照れ笑いを見せる。


「もしかして、今日、告白したりするんですか?」


「え?私と翔くんはそんなんじゃないよ〜!」


花梨の言葉に慌ててあじさいは否定する。

そして、複雑そうな顔をして言葉を続けた。


「それに私も翔くんも、、、婚約者いるからね///」


そう言って、少しだけ頬を赤く染めて照れ笑いとも苦笑いとも取れる笑みを浮かべる。


「風華ちゃんは師匠さんに告白、できた?」


驚いた表情を見せる花梨に、あじさいはにっこりと笑って問いかけた。


「えっ!?えっ!?いやあのっ」


突然、そんな話を振られたからだろうか。

花梨はあたふたと、言葉がなかなか出てこない様子である。


「なんだか以前見かけた時よりいい雰囲気だったからてっきり、、、」


そう言ってあじさいはふふっと笑って見せた。


「…実は昨日。。。」


話すかどうか悩んだ様子ではあったが、花梨は意を決したように昨晩の出来事を話して聞かせた。

それを聞いたあじさいは驚いた様子をみせる。


「それは、、、、、、え?何もなかったの?!!お師匠さん、、、我慢強いのね」


紫苑の心情を思ってなのだろう。

少し苦笑い混じりに、最後は呟くような言葉を吐いた。

それは誰もが思うことだろう。

こんな美少女(APP18)が無邪気に、無防備に隣で眠っているのだ。

師弟関係があろうと、男と女が旅行先で一つのベットで夜を明かすということはつまりそういうことなのではないか。

とは言っても、、、目の前できょとんとした表情の彼女はまだ高校生なのだから仕方のないことなのかもしれない。


「あ、でも風華ちゃんこうこうせいだから、、、そうよね、うん、仕方ないわね」


自分の邪な感情、想像を慌てて取り消すかのように、あじさいはどこか慌てたようにそう話して苦笑いを浮かべた。


「.........//」


「・・・・///」


そうすると何故か謎の沈黙が2人の間に流れた。

お互い、頬が赤く染まっている。

側から見るとなにがあったのか?と思われるような様子ではあるが。


「……この一週間、ありがとうございました。何だか色々気付いたりできた、充実した1週間でした」


「風華ちゃんにとって素敵な一週間になったのなら私も嬉しいわ」


花梨の言葉にあじさいはふわりとした笑顔を見せた。


「……また、いつか、会って遊んでくれますか?」


「・・・・そうね、いつか会える日が来たら、もしくはまた風華ちゃんがこの島に来ることがあれば、ね?」


少しだけ躊躇いを見せつつも花梨がそういうと、あじさいは少しだけ困ったような笑みを見せつつではあったがそう答える。


「あじさいさんも、良ければ是非遊びに来てください!私ならいつでも大歓迎ですから!」


「そう、ね!機会があればね」


何かを悟られまいとするかのようにあじさいはにこりと笑ってそう言葉を返す。

たまたま旅行にきていた花梨と、その島に住んでいたあじさい。

よくよく考えてみれば、あじさいが携帯電話を使う様子を花梨はみたことがない。

連絡先の交換も出来ていないのだ。

また会うと言ってもどのようにしてなのかとお互い気づいたのだろうか。


「え、えと、その」


「その時は風華ちゃんとお師匠さんの結婚式かしら」


そんな何とも言い難い雰囲気の中、花梨が何か言わなければと言葉を探しているとあじさいは明るい声でそう言ってウインクして笑みを見せた。


「えっ!? けけけ結婚なんてそんな!」


「あら、真っ赤になっちゃってかわいい」


あじさいの言葉に動揺を隠しきれない花梨は顔を赤くしてそういうと、あじさいはニコニコと笑顔を見せる。


「もぅ。」


からかわれたのだと少し拗ねたような様子の花梨をみてあじさいはふふふと笑みをこぼす。


「それじゃ、私そろそろ戻らなきゃいけないから。お祭り、楽しんでね!」


「……最後にハグしてもいいですか? あじさいお姉ちゃん」


そう言ってあじさいが立ち上がると、花梨はほんの少し間を置いて意を決したように、少し恥ずかしそうに問いかける。


「いいわよ」


あじさいはその言葉ににこりとして両手を広げて答えた。


「はふっ」


広げられたあじさいの胸に飛び込むとぎゅっと花梨は抱きつく。

そしてあじさいはそんな花梨を両手で優しく包み込むのだった。




一方その頃、男性陣はというと、、、。

紫苑は料理をする翔をじっとみていた。


「今は何を作っているのですか?」


「これはこの島の郷土料理だよ」


手際よく調理をこなしていく翔に感心した様子を見せながら紫苑が答えると、翔は少しそっけなく答える。


「名前とかはあるのですか?」


「ごった煮とか読んでるから正式名称はわからないなぁ」


「なるほど」


紫苑の問いかけに翔はそう答えながらも首を傾げる様子を見せる。

紫苑も納得したような言葉を返すが、気になるところではあるのだろう。

とはいえ、郷土料理はどこもそんな感じだろうかと思う。


「そういえば、あじさいさんとはどんな関係なのでしょうか?」


「あじさい?幼馴染だよ」 


ふと、紫苑が疑問を口にすると翔は特に隠す様子も戸惑う様子も見せずにさらりと言葉を返す。


「そうですか、彼女には弟子がお世話になっています」


「あじさいを狙ってるならやめた方がいいよ?婚約者いるから」


紫苑の言葉に何を思ったのか、翔はそう言ってふふっと笑った。


「いえ、僕にも好きな人はいるので」


「あぁ、なるほど。、、、歳の差はたいへんそうだね」


紫苑がそう答えると、翔は何かを察したのかそう言ってフッと笑みをこぼす。

何かを察することに長けているのかも知れない。


「ご想像におまかせしようかな」


紫苑がそう誤魔化すように言うと、翔は何をいうでもなくハハッと小さな笑い声をあげた。

そんな会話をしながらも、紫苑は料理にマンドラゴラが使用していないかを注意深く観察していた。


(アミノ酸をDHMOに溶かして生成されているのか)


なんてことを考えていたとかいないとか。

それはひとまず置いておくとして、2人がそんな会話を交わしているとほどなくしてあじさいと花梨が帰ってきた。


「話は出来た?」


「はい、てれてれ」


紫苑の言葉に花梨はどこか照れたような、幸せそうな顔で答える。

そしてふと、花梨は何を思ったのか辺りを見渡してみる。

が、自分達以外に人影はないようだ。


「それでは、そろそろいきますね」


「腕によりをかけて作ってるからたくさん食べていってね!」


名残惜しそうな花梨の言葉にあじさいはそう言ってにこり笑みを返した。


「あ、そういえば、どんなお料理作られてるんですか?」


「んと、ここではごった煮って呼んでるモノなんだけど。他の人に聞いてくれたらわかると思うの」


あじさいが作る料理を食べたいのだろうか。

花梨がそう聞くとあじさいはにこりと笑って言葉を返した。


「そういえば、料理する時に味見とかってするのでしょうか?」


「もちろん!だって、おかしな味がしたら困っちゃうもの」


紫苑がそう問いかけるとあじさいは笑顔で答える。

紫苑はそんなあじさいの言葉に偽りがないか様子を伺ってみた。

しかし、どうやらあじさいは嘘はついてないようだと感じる。

みどりに忠告はされているが、花梨としてはあじさいよ料理を食べたいところなのだろう。

とはいえ、油断は禁物だと紫苑は思った。

しかし、このまま会場に戻れば花梨は食事をしてしまうかもしれない。


「公園に行ってみないか?彼は誰さんが言っていた言葉も気になるし。」


「あ、そうですね!行ってみましょう!」


カフェから会場は向かう途中、紫苑は花梨にそう提案をする。

すると、花梨はそう言って笑顔で頷くのだった。

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