滞在7日目 〜中編(2)〜

それでは少しだけ時間を戻そう。

こちらは旅館に通された彼は誰である。


「ここは救護室みたいなのを兼ねていてね。まあ、祭りの時は酔い潰れた人を世話するのが主な仕事だけどね」


陸は彼は誰にそう説明をするとにこりと笑みを見せた。


「とりあえず観光客の人の怪我は心配だから見せてもらえるかな?」


座布団を近くに持ってきた陸は、そのに座るように彼は誰に進めるとそう尋ねた。

すると、彼は誰は手を差し出してこう答える。


「心配には及ばないさ」


そして続けてこう言った。


「むしろ助かったよ、騒がれるとどうしようもないからね」


そういって差し出された彼は誰の手には綺麗に包帯が巻かれている。

陸はくるくるとその包帯をとり、火傷を確認した。


「おや?応急処置はされているんだね。じゃあ、あとは火傷に効く薬を塗っておこうか。火傷はここだけかい?」


陸はその処置に感心しているようである。

そして、その傷に薬を塗りながら彼は誰に尋ねた。


「手間もかけたくないしね。ありがとう」


その様子を見ながら彼は誰はそう答える。

実際には口も軽く火傷を負っているのだが言うつもりはないらしい。

相手は男性なのだし、特に目立った腫れはないのだからだろう。


「そうか。大騒ぎしていたから何かと思ったら、、、まだこの時間なのにもう酔っていたのかもしれないね」


彼は誰の言葉に陸は苦笑いを浮かべて答えた。

確かに酒が振舞われている席なのだから仕方ないとも思ったのだろう。

彼は誰もまた、苦笑いを浮かべた。


「また騒がれるといけないし、しばらくはここにいよう。折を見て戻るとするよ」


その言葉にそれがいいと言って陸は頷く。

そして、旅館には自分の方から話しておくと彼は誰に伝えた。


「祭りが終わったらホテルにこれと同じ塗り薬を預けておくから受け取ってもらえるかな?」


「わざわざすまないね。早めに戻って受け取っておくよ」


手当が終わると陸は彼は誰にそう言ってにこりと笑う。

その行為に対して彼は誰はありがたく礼を言った。

用意周到な彼は誰ではあるが、流石に火傷用の薬の用意はない。

今日の風呂上がりに薬が取れてしまったらまた疼き始めるだろう。

そう考えると薬はある方が良い。


「そうしてもらえるとありがたい

よ」

彼は誰の言葉に陸は頷いてまたにこりと笑顔を見せた。

そして言葉を続ける。


「傷は熱が出たりするからね。もし熱が出るようなら旅館に言ってくれれば夜間診療みたいなものもやるから遠慮なく申し出てくれるといいよ」


「なるほど、なら遠慮なく」


陸の言葉に彼は誰は素直に頷いた。

そして少しここで休んでから出ることを伝えると陸は笑顔で頷き、旅館の人にそれを伝えた後に旅館を出ていく。


(・・・・・。)


陸がいなくなると彼は誰は辺りを見回した。

料理を運ぶ人や、彼は誰がいる部屋の隅で潰れて寝ている人の姿もある。

そうやって辺りを見回しているとこれまでみた中で一番の高齢に見える女性が奥の部屋へと消えていく姿が見てとれた。

この旅館の者だとしたら村長がなにかかもしれない。

このお祭り騒ぎに乗じて旅館の中を探索してみたい気持ちに駆られた彼は誰であったが、暫く人々の様子を観察した後に旅館を出ることにした。




外に出ると彼は誰は祭りの会場を避けて村を出る。

そしてそのまま来た道を戻りホテルへと向かった。


「どうかされましたか?」


ホテルに戻るとフロントの女性が彼は誰に気づき、不思議そうに声をかけくる。

まだ祭りの真っ最中なのだからだろう。


「怪我を見られて騒ぎになってしまって

ね」


彼は誰は包帯を巻いた手を見せながら苦笑いを浮かべる。


「そうでしたか。大丈夫ですか?」


それを聞いたフロントの女性は心配そうな顔を見せる。

傷を見せたわけではないのだが、包帯を巻いていることから酷い火傷を想像したのかもしれない。


「後で薬も融通してくれると伺ったし、医師の勧めで戻ってきたのさ。診察は終えたよ、心配には及ばない」


彼は誰はその女性ににこりと笑ってそう告げた。

すると女性はどこかほっとした様子を見せる。


「医師、、、ああ、陸さんですね。それなら間違い無いでしょう」


先ほどの陸と言う医者はよほど信頼されているのだろう。

女性はそういうと心底安心したように、にこりと笑顔を見せた。


「祭りを見て回りたかったけれど、こうなっては仕方がないさ。また陸さんに、世話をかけるのも忍びないしね」


彼は誰がそういうと、女性は納得したような様子を見せる。

一度騒ぎになった話は彼は誰が先ほど告げたのだから察したのだろう。

お大事になさってくださいとの言葉を聞いた後に彼は誰は頷いて部屋に向かって歩き出した。



彼は誰は部屋に戻るとコーヒーを淹れ始めた。

しかし、扉をこんこんとノックする音が部屋に響く。

誰だろうと珈琲を淹れる手を止めて彼は誰は扉をガチャリと開く、

するとそこには葉山の姿があった。


「祭りに行ったんじゃなかったの?」


先ほどまで眠っていたのだろうか。

明らかに眠そうな顔をして葉山は彼は誰にそう尋ねた。


「騒がれてしまってね」


彼は誰は葉山に手を見せながら告げ、続けてこう言った。


「用は済ませてきたよ」


「そっか。なるほどね」


彼は誰の言葉に理解した葉山はにこりと笑みを浮かべてそう返した。

そして2人はいつも通り葉山の部屋で珈琲を飲みながら雑談を交わし、お互い夜に備えて仮眠を取ることとなったのだった。




そ葉山と彼は誰が夢にまどろむ頃。

海の家に入った花梨はというと、その部屋の中にいるまりにどう声をかけるべきか悩んでいた。


「おや?どうしたんだい?ここに長居しちゃいけないよ?」


すると、花梨に気づいたまりは振り返り、にこりと笑顔でそう声をかける。


「……おばあさん、もしかして、何か知ってるのですか?」


「あたしゃなにもしらないよ。さぁさぁ、楽しい祭りだ。しっかり楽しんでおいで」


真剣な眼差しでそう問いかける花梨にまりは笑顔を見せながらそう返した。

しかし、花梨は真剣な顔をしたままである。


「長居しちゃいけない、だったり、大声ではしゃいじゃいけない、極めつけには、何も入ってないから、と。先程仰いました」


「さぁなんのことだかねぇ〜。歳をとると忘れっぽくていけないよ」


そんな花梨の言葉にやはりまりは笑顔でそう返す。


「……変なことを聞きました。ごめんなさい、かき氷美味しかったです」


その言葉にどんな意味があるのか。

この笑顔の裏に何が隠されているのか。

少し考えたが、まりから真実を聞き出す手立てを花梨は思いつかなかった。

諦めてそれだけいうと、花梨は空の器をまりに手渡し海の家を後にした。

そんな花梨の後ろ姿をまりは笑顔で見送るのだった。




外に出るとそこにはテーブルに片肘をついて周りの景色眺める紫苑が花梨の帰りを待っていた。


「……あのおばあさん、なにか知ってそうですが、やはりガードが硬いですね。」ボソッ


そんな紫苑のそばに近寄ると、花梨は小声で紫苑にそう告げる。


「誰だって心の内には踏み込んでは欲しくないだろうからね」ボソッ


紫苑もその態勢のまま、花梨に言葉を返した。


「……師匠はあんなに踏み込んできますけどねっ」


更にボソッと花梨はそう呟くようにいうのだが、紫苑の表情は変わらない。


「どちらかと言うと君の方じゃないかな」ボソボソ


変わらない表情のまま、紫苑がそう返す。

するとそんな2人のところに誰かがやってくる気配がした。

気配がする方を見ると、2人の視線に気づいた男性が2人のそばへと笑顔でやってきた。


「お二人とも、そろそろお昼ですし村の方で食事でもされたらどうですか?」


そう言って見せる笑顔には悪意はないのかあるのか。

2人は内心、そんなことを考えながらもポーカーフェイスで笑顔を返す。


「いえ、食べ物ならもう頂きましたよ、美味しかったです」


「祭りの日にしか振る舞われない伝統料理も出ていますよ!」


紫苑が笑顔で答えると、男性はさらにそう言った言葉をかけてくる。

そして、その横ではにこにこと笑顔を貼り付けた顔で花梨が頷いていた。


「そうなんですか?外の方のご意見もお聞きしたいのですが、どれがお口に合いましたか?」


2人の反応をみた男性は笑顔で問いかけてくる。

男性の問いかけに2人は村で見た料理を思い浮かべる。

並んでいた料理で一番気になったもの。

大きな何かの魚の頭をそのままにつけて盛り付けていた料理が印象に残っていた。

それから色とりどりの果物たち。

そして何かのフルーツを使ったであろうジュース。

頭に残っていたのはそんな感じだった。

果物は二人が以前試食させてもらったものもあった。


「ランブータン?でしたっけ、あれは美味しかったです」


「えぇ、この島で初めて食べた果物もたくさんありました。ドラゴンフルーツは酸っぱかったですけど笑」


試食した物ならば感想を言っても嘘ではない。

2人はそれぞれ男性にそう告げた。


「へぇ、、、あんなものが都会の方には珍しいのですね」


2人の感想を聞いて意外そうな顔をして男性はふむふむと頷いている。


「あとは、とても大きな魚の兜煮…?のようなものは初めて食べましたねー。都会にはあまりないですからねー」


「あー、、、あれはこの辺りでしか取れない魚だと思うので物珍しいでしょう」


紫苑の言葉に男性がその言葉の裏を探っている様子を見せたのは紫苑の気のせいだろうか。

しかし、ここは堂々としていなければ色々と怪しまれるだろう。

そんな思いで紫苑はにこにこと笑顔を顔に貼り付けていた。


「あぁそうだ、お嬢さんには勧められないが特産品の酒は飲みましたか?あれは病みつきになりますよ」


そんな様子を見せていた男性だったが、ふと思い出したようにそういって、まだなら是非とまた笑顔を見せる。


「だ、だめ!」


花梨は男性の言葉に思わずそんなことを口走ってしまった。

そこにすかさず紫苑が申し訳なさそうな顔をしてフォローを入れる。


「お酒はあまり強くないのですよね…。嘘は良くないよ」


「???」


そう言う紫苑の言葉よりも花梨の突然の声に男性は驚いた顔をして花梨の方をみている。


「あ、あのですね、。師匠は酒に弱くて。こないだ作った甘酒でベロベロに寄って、。色んな女の子口説いちゃうので。。。」


花梨は慌てたように男性に対してそう話す。

が、その言葉にギョッとしたのは紫苑だった。


「だからあることないこと言うのはやめてってー」


「ぴっ!?」


紫苑の言葉に花梨は驚いたようにおかしな声をあげる。


「いやぁー大の男が甘酒で酔うなんて、ねえ?」


はははと笑いながら男性はどこか怪しむ様子を見せた。

そんな様子をみた花梨は紫苑にアイコンタクトで、逃げるためだったのにっ!と言った顔をしている。


「そこまで弱くはないですが、お祭りを楽しみたいので…ね?」


「そうだなぁ、、、まぁ確かに毎回酔い潰れる人が出て医者がてんてこまいだからなぁ。それで旅行者の兄さんまで酔い潰れたらお嬢さんが大変だなぁ」


紫苑の言葉にどこか言いくるめられたようにふむ、と男性は頷く。


「まぁ、、、お祭り楽しんでいってくれや」


紫苑と花梨の様子がカップルのいちゃつきにでも見えたのだろうか。

男性はどこか居心地が悪そうな顔をしてその場から去って行った。

2人が去った男性の様子をそっと観察していると、2人からある程度離れたところでトランシーバーらしきものを使い何か話してるようである。

流石にこの距離では何を話しているかは2人にはわからなかった。

その様子をみた紫苑はそっと花梨の耳元に口を寄せる。


「どこかに連絡しているようだよ」


小声でそう呟くようにいった。


「そう。、。ですね。」


花梨はその男性の様子を見ながら何かを考えているようである。

紫苑はというと、しっかりと男性の顔を覚えておこうと思ったようでじっとその姿を見つめている。

時刻は12時を過ぎた頃である。

花梨は何かを思いついたようではあったが、その後自問自答を繰り返しやめたようだ。



結局、2人はそのまま村に戻ることにしたようだ。

村に戻りながら花梨は紫苑をじっと見つめた。


(やっぱりカッコイイ)


花梨はそんなことを思いながら内心ニヤニヤしている。

そんな時だった。

砂浜から村に向かう途中の階段で紫苑が少しよろけて花梨の方へとふらつく。

おっとっとっといった様子で紫苑は慌てて体勢を立て直した。


「わ、師匠、大丈夫ですか?」


「ああ、ちょっとバランスが崩れただけさ」


花梨が心配したように声をかけると紫苑は苦笑いを見せる。

先ほどかき氷を食べて水分は十分なはずである。

しかし、この慣れない暑さと先ほどの緊張したやりとりに少しばかり体が参ってきているのかもしれない。

紫苑は改めて気を引き締めると花梨と共に村へと歩いて行った。




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