滞在6日目 〜後編(1)〜

「結構遠くまで来られてたのですね、ふぅ、ふぅ。」


花梨は自転車を勢いよく走らせながら紫苑にそう声をかけた。


「2人でデートは楽しかったかな?」


紫苑はアルカイックスマイルを浮かべながら花梨にそう返す。

しかし紫苑はこの時、気づいていなかった。

花梨は紫苑に手をブンブン振っていた為、自転車のブレーキをかけていなかったのだ。

花梨はそのまま紫苑に向かって自転車で突っ込んでいく。

あまりの出来事に紫苑は反射的にそれを杖で受け流した。

紫苑は杖で受け流しに成功したが、そのダメージで杖は折れてしまった。

しかし、紫苑が受け流したことによって花梨は崖に落ちることなくその場でぽてっとこけるように止まる。

紫苑の止め方が良かったのだろう。

コケたものの花梨は怪我をしていないようだ。


「危ないじゃないか」


花梨に駆け寄り静かにそういう紫苑の声には怒りが含まれているようだ。

それは当然だろう。

一歩間違えば、崖下へ真っ逆さまに落ちていたのだから。

紫苑だからこそ止められたようなものである。

他の誰かだったのならば、オチはしなくとも大怪我を負っていた可能性もあるのだ。


「風華君!無事かね!」


自転車から降りた薬師丸は慌てて花梨へと駆け寄る。


「?!!!」


三原はと言うと、突然の出来事に驚いてその場で唖然としているようだ。


「!?!?」


花梨本人も何が起こったのやらと驚いているようである。

その横で紫苑だけが暗黒微笑していた。


「君は…崖に落ちるつもりだったのかなー??」


笑顔を見せながらも目が笑っていない紫苑は花梨にそう問いかけた。

当然のように怒りに燃えているようであるがその感情を抑えているようにも思える。


「えー、えーと、あ、あはは、ご、ごめんなさっ。。。😭」


「上手くいかなければ2人とも崖から落ちるかもしれなかったのだけれど?」


汗ダラダラと言った様子でしどろもどろに謝る花梨であったが、紫苑の怒りは治る様子を見せない。


「紫苑君!他に方法はなかったのかね!風華君に怪我がなかったからよかったようなものを!あのような止め方をしては場合によっては彼女が大怪我をして、最悪飛ばされた風華君が崖から落ちていたかもしれないのだよ!」


「しゅん」


花梨の方が心配で心配でたまらないのだろう。

薬師丸はやらかしてしまった花梨ではなく紫苑に怒鳴るような言葉を投げた。

その横では反省の色を見せた花梨がしゅんとした様子で項垂れている。


「部外者は黙っていてください」


紫苑は薬師丸の方を向いて笑顔で静かにそう告げた。

しかしその瞳は笑っておらず、静かな怒りの炎が見えた。


「後でゆっくり話をしようか、ね?」


「は、はぃ。。。(か、かおちかぃ。。。)」


紫苑は花梨に顔を近づけてしっかりと目を合わせるとそう言ってニコリと笑う。

やはりその瞳は笑っていないのだが、花梨はそのことよりも顔の近さに慌てているようだ。


「そ、それは確かに風華君の保護者のような立場であるのは紫苑君であるからして私がどうこういうところではないかもしれないが、、、、こほん。まぁ、怪我がなくて何よりだ。さて三原君、おやつの時間も取れなかったものだから私は腹が減った。旅館へ帰るとしよう」


「あ、は、はい」


薬師丸はと言うと、紫苑の一言に言いくるめられたように早口でそういうと三原を促し自転車にまたがる。

今にも漕ぎ出して去ってしまいそうな薬師丸に三原は慌てて返事をして自転車に飛び乗った。

そして2人はせかせかと村に向かって去ってく。



「あははは!今の見たかい?ゆうちゃん!」



その一部始終を遠巻きに見て爆笑している者が1人いた。

そう、彼は誰である。


「あれは、、、ぷぷっ、、、なんというか、、、ふふふ、、、あははは!」


そう言って彼は誰は葉山の背中をバンバンと叩く。

葉山はというと、同じく遠巻きに見ながら唖然とした表情を見せていた。

4人が辺りを見渡していたのであればその姿や声は届いたのかもしれないが、当事者であるのだからそれどころではない。

見られていたことには全く気づく様子ではなかった。



「自転車、壊れただろうか?」


さて、彼は誰と葉山に見られていたことも知らない紫苑は薬師丸と三原が去った後にそう言って自転車を確かめてみる。


(よろけてコケそうなのを止めてもらうだけのつもりだったのにな!!!なんでこうなった!!!)


薬師丸と三原が去ったあと、そんな思いでいっぱいの花梨は自転車のことなど二の次である。

そんな花梨をよそに紫苑は自転車をよく見てみると、その自転車が壊れていることに気付いた。

そして、その壊れた部品の中に何やら気になるものを見つける。

それは小さな機械で、まるで何かの信号を発信しているかのように一定間隔で赤くライトが点滅していた。

それをみた紫苑はあることに気付く。

おそらくこれはGPSであり、これがあるから島のものは自分達の居場所を知ることができたのではないか、と。


「これは…へぇ」


「??」


紫苑の呟きに我に帰った花梨も自転車に注目してみた。


「GPS、だね。盗難防止と言うだけならいいのだけれど、ね」


「なる、ほど。。。ということは、これ、つけられてる可能性ありますね。」


紫苑に指差しされたところをみた花梨はボソッと呟くようにいった。

そして真剣な顔をして問いかける。


「どうしましょうか、師匠」


すでに日は傾き始めている。

壊れた自転車を引いてホテルに向かうとなると辺りはあっという間に暗闇となるだろう。

紫苑は小さなため息をついて立ち上がると自分の自転車のところへ行きまたがる。


「仕方ない、後ろに乗って」


そう言われて花梨は慌てて紫苑の自転車の後ろに乗り、ぎゅーっと紫苑に抱きついた。

複雑な表情をしながらも紫苑はペダルを漕ぎ出す。


「お話は後でね…💢」


そう言いながらも安全運転を心がけつつホテルへの道を急いだ。




「さて、僕らも帰るとしようか。、、、ふふふ、、、気づかれないように、ぷぷっ、、、急がないと、ね、、、ふふふ」


彼は誰は葉山にそういうと自転車を漕ぎ始める。

紫苑と花梨に気づかれないように後ろから追いかけるようだ。

しかし、なかなか笑いは収まらないらしい。

苦笑いを見せながらも葉山は彼は誰に続いて自転車を漕ぎ出した。




紫苑と花梨はホテルに辿り着くと先に紫苑が借りていた自転車を返却する。

そしてそのまま受付へと急いだ。


「この子の乗っていた自転車ですが、崖でちょっと事故が起こってしまって…」


紫苑は受付の人へ申し訳なさそうにそう話す。


「ごめんなさい。壊れちゃいました。」


それに倣って花梨は隣で頭を下げながら受付の人へと告げた。


「あぁ、、、なるほど、それで、、、。あ、いえ。それではその自転車は崖に置いてあるというところでしょうか?もしそうでしたらこちらで回収しますのでご心配なく」


受付の人はそういうと2人に笑顔を見せる。

それを聞いた紫苑はホッと胸を撫で下ろした。


「すみません、よろしくお願いします」


「ありがとうございます」


紫苑と花梨はそれぞれ御礼を言って頭を下げる。


「いえいえ!たまにあることなのでお気になさらずに!自転車に乗り慣れてない方が転んでしまって壊れることもあるんですよ」


受付の人はそういうとまたニコリと笑った。

つられたように紫苑も笑顔をみせるが、やはりその目は笑っていない。

チラリとそれをみた花梨はちょっとしょんぼりしてる雰囲気を出して見せた。

そうして受付で話をしていた2人だったがふと、後ろに気配を感じて振り向く。

するとそこにはにやにやしながら2人を眺める彼は誰と苦笑いをしている葉山が立っていた。


「、、、くすくすくす、、、やあ、、、おふたブフっ、、、」


「……」


目が合い挨拶をしようと思ったのだろう。

しかし、口を開くとやはり笑いが込み上げてきた彼は誰である。

笑ってしまって上手く言葉が出なかった。

そんな彼は誰の様子に何かを察した紫苑は無言で彼は誰を見ている。


(見たんだろうなぁ)


「くっくっくっ、、、」


尚も笑い続ける彼は誰の様子を見て紫苑は思った。

もしかしたら崖で花梨が突っ込んできたあたりから見られていたのではないか、と。

そして2人乗りをして帰るところまで、、、。

紫苑はそっと気付かれないように録音のスイッチを押した。

一方で、花梨は何故笑われているのか見当もつかないようである。


「???」


「覗き見は感心しないなぁ」


ニコリと笑みを浮かべながら紫苑は彼は誰に向かってそう声をかける。

やはりその瞳は笑っていないのだが、今の彼は誰にはそれすらも笑いを刺激するスパイスにしかならないようだ。


「盛大に、、、やってたじゃあ、、、ブフゥっ!!」


「おやおや、体調が優れないならもう休んだ方がいいのでは?」


笑いを抑えようとして吹き出す彼は誰に紫苑は怒りを刺激されたのであろう。

ニコニコと笑いながらもその瞳には怒りの炎が揺らめいている。


「はー、、、はー、、、心配は弟子に、、、とっておき、、、なよ、、、くくく」


ツボに入ってしまったのだろう。

どうにか息を整え言葉を紡ごうとしているようだが、やはり笑いは収まらないようだ。


「どうやら悪いのは体調ではなく頭のようですね」


そんな彼は誰の様子に紫苑の怒り度数は増していくだけである。


「???? お腹いたいんですか?」


腹を押さえながら笑いを必死に抑えようとする彼は誰の様子と紫苑の言葉に勘違いしたらしい花梨がそんな言葉をかける。

そんな2人を哀れに思ったのか、葉山が彼は誰の肩にポンと叩いて口を開いた。


「緋色、あまり笑っては可哀想だよ。いいじゃないか、まるで青春みたいで」


「沸騰ブフッ、、、しそうで、、、困ってるよ、、、」


そんな葉山を見上げながらもやはり彼は誰の笑いは続いている。


「まあ、見られて困るようなことはしていないけれどね」


このままでは理性が持たないとでも言うようにため息を吐いて紫苑はそう言葉を吐き捨てた。

確かに見られて困ることではないのだ。

しかし、花梨に対する怒りがあるせいか冷静さを失ってしまいそうである。


「はー、、、はー、あー楽しかった」


「夕暮れに2人乗り、緋色もやってみる?」


ようやく笑いが収まってきた彼は誰の言葉に葉山はにこり笑って返した。


「…師匠、お風呂と夕食後、お話しませんか?」


「もちろん、ゆっくりと、ね」


そんな中、花梨はおずおずと紫苑にそう申し出る。

花梨としては先ほどの自転車の件が気になると言ったところだろうか。

しかし、それよりも先に紫苑はやらなければいけないことがある。

花梨への説教なのであるがここで始めてしまうわけにもいかない。

紫苑はニコリと笑って静かにそう返すだけにした。


「旅は何時でも色濃い瞬間を残すものさ。それが爪を立てないといいけれどね」


ようやく落ち着きを取り戻すと、いつもの調子で彼は誰は口を挟んだ。


「ふふ、僕らもあやかってみるとするか」


「爪を立てるのは夜だけでいいよ?」


そして葉山の方を向き、にこりと笑ってそういうと葉山もにこりと爽やかに笑って言葉を返した。


「いやー、いい笑い声だったよ。これは後で弟子とふたりで聞かせてもらおうかな」


紫苑は録音を止めたスマホの画面を彼は誰に見せながら笑顔で告げる。

もちろん、何度も言うようだがその瞳は笑っていない。


「あれの対価としては破格だよ」


しかし彼は誰は動じることなくにやにやと笑いながら言葉を返した。


「僕らは僕らで行こうか、ゆうちゃん。大分邪魔したようだしね」


「そうだな、一服して飯でも食うか」


彼は誰がそう言うと葉山は頷きながら返す。

そして彼は誰は葉山に爪は立てないと文句言いながら喫煙所へと入っていった。

彼は誰の講義の言葉に笑顔を見せながら葉山も喫煙所へと入っていく。

その場には紫苑と花梨だけとなった。

2人は何を話すわけでもなく二階へと向かう。

先に風呂を済ませることとなり、それぞれの部屋へ入ることにした。


「では、師匠、また後で」


どこかよそよそしく言うと花梨は部屋へと入っていった。



部屋に入った紫苑は朝、部屋に出た時の様子と今の様子を比べてみる。

室内は初日に来た時のように綺麗に整えられていた。

洗濯に出したものが綺麗に畳んでベッドの上に乗せられている。

念の為、と紫苑さんは自分の知る限りではあるけれど盗聴器が仕掛けられそうなところを探してみるが、とくにそう言ったものは見つからなかった。


「コンセント周りには…なさそうだね」


紫苑はポツリと独り言を漏らす。

とりあえず風呂に行くかと支度を済ませて部屋を後にした。



一方そのころ、支度を済ませて風呂場へ向かった花梨はと言うと中には誰もいないようで、貸切状態であった。

風呂の湯気はいつもと変わらず立ち上り、程よく熱い湯にのんびりと浸かることが出来そうである。

花梨は鼻歌カモフラージュしながらはいることにした。



タバコを吸い終わった彼は誰と葉山はと言うと食堂へときていた。

先に食事をすることにしたらしい。

食堂に着くと、田中が1人のんびりと夕食を楽しんでいた。


「やぁ、早い夕食だね」


「あら、、、」


葉山が話しかけながら田中の席へと近づいていく。

勿論、彼は誰も一緒に向かった。

田中はニコリと笑みを見せる。

そして葉山と田中は他愛もない雑談を始めた。

が、それはカモフラージュでありその間に葉山は田中から何やらメモを受け取ったようである。

きっと明日の計画に関することだろう。

彼は誰は特に何かを聞いたわけではないがそう思った。

メモの受け渡しが終わると葉山と田中は適当に話を切り上げたのだから本命はこれなのだろう。

彼は誰は今すぐ聞きたい好奇心を抑え、何気ない様子で葉山と夕食を楽しむこととした。




「やあやあ、また会ったね、、、ぷふ」


入浴を終えて部屋に戻ろうとしたところ、紫苑は夕食を終えた彼は誰と葉山に出会った。

彼は誰は紫苑に声をかけるも顔を見て思い出し笑いをしている。


「君達に会うのも明日までと言ったところかな」


「不穏だなあ、最期のようなことを言う」


目が笑っていない笑顔で紫苑がそういうと、彼は誰はふふふと笑いながらそう返した。


「随分と笑いの沸点が低いんだね、初めて知ったよ。」


「その方が幸せに近づける」


苛立ちを押し隠しながら言う紫苑の言葉に特に彼は誰は気にする様子も見せずにさらりとそう口にする。

けれどもニヤニヤはまだ収まらない様子だ。


「ま、気が向いたら遊びに来てもらって構わないよ」


「些細な事でも喜びを分かち合える、なんて素晴らしいだろう?おや、札付きかな」


紫苑の意味ありげな言葉に彼は誰はどこか揶揄うようにニヤリと笑ってそう言った。

そして紫苑はふと、思い出したように上着のポケットから名刺を取り出して彼は誰に差し出す。


「浮気調査ならお任せを」


渡すと同時に紫苑は小声で彼は誰にそう告げるとにこりと笑った。


「その心配には及ばないさ」


(仮面だしね)


名刺を受け取りながら彼は誰はニヤリと笑ってそう答える。

が、心の中ではそんなことを呟いた。

それはそうだろう。

お互い、目的のための偽りの恋人を演じているに過ぎないのだから。


「緋色、風呂の後部屋で待ってるよ」


葉山は彼は誰にそっと声をかける。


「ようやくその気になったのかしら」


彼は誰は挑発するかのような笑みを見せて葉山にそう返した。


「今晩は、お楽しみですね」


「ま、気が向いたら遊びに来てもらって構わないよ」


紫苑の茶化すようなその言葉に彼は誰はまたニヤニヤしながらそう告げる。


「へぇ、、、気が向いたらね」


「未成年に手を出すと犯罪だから辛いところだね」


紫苑のその言葉ににこりとして葉山が答えた。


「なんのことやら。ではまた明日」


紫苑は惚けた様子でそう帰るとそそくさと話を切り上げて自分の部屋へと入って行く。

話はそこでお開きとなり、葉山と彼は誰もそれぞれ自分の部屋へと戻る。

そして入浴の支度を済ませると風呂へと向かった。



彼は誰が3階へ上がると、風呂場の前にはいつものように見張りとして女性が一人座っていた。

彼は誰は軽く会釈をして挨拶をすると脱衣所へと向かう。

すると中からご機嫌な鼻歌が聞こえてきた。

声から察するに花梨だろう。

彼は誰は気にすることなく服を脱ぐと中へと向かう。


「なにやら賑やかだね」


「!?!?!?!」ビクーーーン


彼は誰の声に驚いた花梨は体を一瞬震わせ動きを止める。


「くふふ、お邪魔だったかな」


その動作が滑稽ではあったが可愛らしくもあり、思わず笑いが湧き上がる。


「ふーっ!ふーっ!」


花梨はと言うと、彼は誰の声を聞いて裸で威嚇してきた。


「ネズミならぬ濡れ猫ちゃんか」


「あ、彼は誰さんでしたか」


再度そう声をかけた彼は誰にようやく気づいた花梨は少し恥ずかしそうにそんな声を漏らした。


「一体誰と取り違えたのかな」


にやにやとしながら彼は誰は問いかけるが、花梨はとくに答える様子もなく恥ずかしそうにしている。

顔が赤いのは風呂で温まっているからなのか、恥ずかしさからなのかはわからないがおそらく後者だろう。


「うー。。。鼻歌聞こえましたか?」


「あなたが思うよりね」


花梨の問いかけに彼は誰はニコリと笑みを浮かべた。


「うー。。。え、えと。」


そんな花梨をよそに彼は誰は気にすることなく入浴を始める。

何かを話そうと少し考え込んでいる様子の花梨は少しの沈黙の後に口を開く。


「そういえばあれから、進展はありましたか?」


「お二人よりはよろしくやっているよ。今日も色々な瞬間を焼き付けたものさ」


葉山と彼は誰の関係のことを聞きたかったのか。

そう思った彼は誰はまた笑みを浮かべてみせた。


「ほぇー。。。」


それを聞いた花梨はどこか羨ましそうな声を上げた。

女子高生である花梨の目には彼は誰と葉山が理想のカップルのように見えているのかもしれない。

とはいえそう見えるようにわざと見せつけているのだから問題はない。


「…この後、夕食後に師匠と話すのですが、情報交換に来ていただけませんか?」ぼそっ


また少しの沈黙の後、花梨は彼は誰の隣に行くと小声でそう誘ってみた。


「おや、何だろう。この島のスポットかな」


「そんなところです」


本気なのか、どこかに耳があるかもしれないと思ったのか。

彼は誰がそう言うと花梨はニコリと笑って頷く。


「ふふん、撮った写真の見せ所だね。ただ、先約があるんだ。その後でも構わないかい」


彼は誰は少し申し訳なさそうな様子で返事を返した。


「えぇ、大丈夫です」


彼は誰の言葉にまた、花梨は頷いてそう言った。


「どちらの部屋に伺えば?」


「師匠のお部屋ですね、師匠、私のお部屋に入りたがらないんですよね。「年頃の娘だからね」とか「刺激が強いからね」とかよく分からない理由で…」


彼は誰の問いかけに花梨は答えながら苦笑いをみせた。

そう言ったところはまだ子供なのだろう。

花梨の言葉から紫苑が花梨に対して気遣いを見せていることがわかるのだが、その理由が皆目見当もつかないと言った感じだ。

確かに年の差を考えると仕方がないのかもしれない。

その上、この容姿である。

高嶺の花のように扱われ、逆に近寄る男もいないのだろう。

そのため、紫苑の発言や行動の理由が思い浮かばないのかもしれない。


「わかるころには立派なレディさ、僕もあやかりたいものだ。では、時間が空いたころに」


「はい、それでは!」


彼は誰の言葉にそう返すと花梨は先に風呂場から出て行く。

どれくらいの時間、ここにいたのかはわからないが程よく赤く熱っているようだ。

彼は誰は花梨を見送るころ、全身を洗い終わり1日の疲れを癒すかのようにのんびりと湯船を堪能した。




花梨は風呂から上がると自分の部屋へと向かった。

部屋の中に入ると、部屋全体を見まわした。

自分がいない間に部屋に誰か入っていないか

、今朝部屋を出た時の様子を思い浮かべて見比べてみる。

けれど、特に変わったところはなさそうだ。

部屋を見渡し、先程のGPSの件もあるからと部屋に盗聴器がないかを確認してみる。

風華さんが知る限りで可能性のあるところを探してみるが、特にそう言ったものは見つからなかった。

花梨は入浴の荷物を片付けると筆記用具のなかからシャー芯を取り出す。

そしてそれ手に、夕飯を取るために部屋から出る。

部屋を出ると、部屋の扉の回転金具のところにシャー芯を設置しようと試みた。


「あっ」


しかし、上手く挟まずにシャー芯はポキリと折れてしまう。

めげずに2本目を取り出し再挑戦してみた。


「あっ」

やはり上手くいかずにポキリとシャー芯は折れてしまった。

ちょっとだけぷくーっとふくれつつも三度目の正直だと再挑戦をしてみる。


「あっ」


しかし、やり慣れない作業にやはり折れてしまった。


「やっぱりデ○ノートみたいには行かないですね。いきましょ。」


小さなため息をはきながら独り言を呟く。

そして立ち上がり、ポケットに仕舞うととことこと紫苑の部屋へと向かった。


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