滞在6日目 〜中編(2)〜

さて、そんな話を紫苑と三原が交わしている頃テラスの2人はどうしているのだろうか。

紫苑と三原が席を立った後、花梨は意を決して薬師丸に話しかけてみた。


「いえ!そんな!一応これでも私の力では無いのですが、姉が小説で稼いでいて、私も踊りで〇Tubeのような活動をしているので、財力的にも多少の余裕はあるつもりです!なのにそれこそ、会って間もない方に払わせてしまうなんて、心苦しいです。お食事も恐縮していつもよりも味わいにくくなってしまう気もしますし、これからの親交的なことにも関わります。私にも払わせてくださいませ!」


急に話しかけられた薬師丸は少し驚いた様子であったが、マナーはいいようだ。

口に入れたものを急いで噛み砕き飲み込むと、ぐっとお冷で流し込み口を開く。


「ん?んん?ごくん。お嬢さん、お嬢さんがどれくらいの財力があるかどうかはこれは関係のないことなのだよ?そして、男に財布の紐を解かせてこそいい女というものだ。とはいえ、高校生であるお嬢さんにこんなことを言うのもあれだよ、そう、セクハラというものに捉えられてしまうかもしれないけれどね?よく覚えておくといい。お嬢さんはとても魅力的なのだよ。それを利用することは女性から見るといろいろと妬みや恨みの対象となってしまうかもしれないけれどね?私はそれも一つの才能だと思っているのだよ。それは天が与えた才能というものなのだよ。そして、それを利用しないというのは宝の持ち腐れというものだよ。美貌というものは宝。お嬢さん、あなたは美術館に入るのに入館料というものを払うだろう?それと同じだと考えたまえ。食事代ひとつでお嬢さんのような素晴らしい美貌の持ち主とお近づきになれる。そこに財布の紐を解かない男はダメな男というものだよ。それだけの美貌があるのだから男に財布の紐を解かせてこそというものなのだよ。だから気にすることは何もないのだよ」


そう言ってにかっと笑みを浮かべた。


「私がそんな魅力のある女と思ったことはありませんが、そう言って頂けるのは正直恥ずかしい反面、嬉しいです。薬師丸さんはお優しいのですね!今後も是非とも、友好を保っていただけると幸いです!私はそこまで友好的な性格では無いのですが、薬師丸さんのように饒舌に人と気持ちよく話せるようになりたいです。薬師丸さんの社交性はどうやって鍛えられたのでしょうか?もしよろしければ、是非私にもコツというものをご教授お願いしたいです!」


まるで薬師丸に対抗するように花梨はペラペラと話をする。

弟子の実力を見せつけると言わんばかりだ。

その言葉に対して気分が良くなったのだろう。

薬師丸の口は勢いよく言葉を吐き始める。

まさに意気揚々と言う言葉が似合う様子だ。


「ふむふむ、君は実に勤勉なようだね。若いのに感心、感心。そう、お嬢さんののような積極性が今の若者には足りないところなのだよ!三原くん。ん?んん?彼はどこへ行ったのかな?全くけしからん。常々、私のそばにつき色々と学び吸収した前と言い聞かせているのにお嬢さんのような向上心に満ちた言葉を聞き逃すとは実に残念だ。だから彼は未だにダメなのだよ。さて、そうだった。私のようになりたいとのことだったね。私は今はそう、彼にとって弟子と言えるきみのような存在は現在三原君しかいないのだがね。彼の前にも何人かいたのだがまず堪え性がない。そして直ぐに飽きて投げ出してしまう。さらに言えば私の行動についてくることができないのだよ。勿論、話すこと、コミュニケーション能力も低くお嬢さんのようにしっかりとものをいえるものは未だかつていなかったのだよ。それに比べるとお嬢さんは実にいい。見目麗しく頭の回転も早いと言えば私の弟子のような立場にたってもきっと沢山のことを得ることができるだろう。そうだ、お嬢さんには特別に私の名刺をあげよう。是非、ここに入学したのならば私の研究所を訪ねてくるといい。お嬢さんのような妹弟子たとも言える存在ができたのならば三原君もきっと日々の生活にも身が入るというものだよ。さて、私の社交性についでだったね。そう、これは一言で言えば年の功というやつでもあるんだろうけれどね。約60年それなりに色々な人々と接し、世界各地を巡り巡って手に入れたものと言っても過言ではない。勿論ごく稀に生まれながらに社交性を持っているものはいるのだがね。殆どの人間は誰と出会い、誰と接し、どのような話をし、どのような時間を過ごしたかによって培われていくものだと思うのだよ。要は今の私を作り上げたのは私自身だと言っても過言ではない。そのような日々を過ごしてきたからこそ、私は私の生き様に自信が持て、私自身の自信となっているのだよ。自信が有れば何も恐れることはない。不思議と威厳も身につき社交性というものもまた裏切らずに着いてくるのだよ。そうやって過ごしてこその人生だと私は思うのだけれどね。お嬢さんもそれを望むのならばやはり私以上の師はなかなか見つからないと思うのだがね。」


そう言いながら薬師丸はスッと胸ポケットから名刺を取り出して花梨へと差し出した。

そして花梨はその名刺を受け取るとにこりと笑みを浮かべた。


お名刺、有り難く頂きます!長年で培ったもの、ですか。人生とはやはり常に勉学なのですね。薬師丸さんはやはりとても勤勉家なのですね。私も見習って、これからも沢山のことを見て聞いて学んでいきたいです!勿論、勉学にも!それはそうと、薬師丸さんは教授さんなのですね!私の師匠もとても博識で饒舌なほうでして、薬師丸さんとはとてもお話が合いそうだと感じました!薬師丸さんからの弟子への申し出は大変嬉しいのです。ですが私はまだ学生の身、今は師匠のもとで様々なことを学びながら自分の進みたい道を探しているのです。なので、今後暫くはまだ師匠の元で沢山の経験をさせていただいてから、考えさせていただくことにさせてもらいますね。お気遣い、有り難うございます。その際には、沢山の経験をするために存分にこき使ってくださいませ。笑。」


そんな2人の気配を感じ取った紫苑が「おう弟子勧誘するのやめーや。わたしのだぞ」と思ったとか思わなかったとか。

それはさておき、花梨の言葉に薬師丸はさらに上機嫌のようだ。


「ほうほう、紫苑君、だったかな?おや?彼もいないじゃないか。2人ともどうしたのだろうか?あぁ、もしかしてどちらか体調でも悪くなったのか?ここは空気がいいと言っても暑さがどうにも応えるからな。2人とも、手洗いにでも行ってるのだろうか。どれ、お嬢さんには行かせられないから私が様子を見てこよう。」


やっとそこで紫苑がいないことに気づいたらしい。

薬師丸はそういうと立ち上がった。


「ちょっと待っていたまえ」


花梨に笑顔でそう言うと店の方に向かって歩き出す。


「師匠、お腹痛いと今朝から言ってたので、恐らく薔薇かと苦笑。ところで、薬師丸さん。一つお伺いしたいことがあります」


慌てて花梨は薬師丸にそんな言葉を投げかける。

花梨の言葉に薬師丸は足を止めて花梨の方を振り返った。


「薔薇?薔薇とは何だね?しかし腹痛とは大変じゃないか。やはり様子を見る必要があるし、重症で有れば薬でももらって渡さなければいけないだろう。それをお嬢さんにさせてしまうと彼も男として見られたくないところだろうから三原君だけでは心許ないしやはり私が見に行こう。お嬢さんの質問にはそのあと答えるとしよう」


花梨の言葉に首を傾げつつも、薬師丸はやはり店内へ向かおうとする。


「あ、あの、出来れば、二人だけの今、聞きたいことなのです。お願い、出来ませんか?」


紫苑と三原の話はどれほど終わっているのだろうか。

まだまだ時間を稼ぐ必要があるのではないだろうか。

そう思い花梨は深刻そうな表情で薬師丸にそう言った。


「いや、しかし病人を放っておくというのも紳士として、いや人としていかがなものかというものなのだよ。好き勝手に生きている私ではあるがそこはどうにも、うーむ。、、、そうだな、では、2人の様子を見た後に紫苑君が腹痛ならばホテルで休むなり病院に行くなりすることだろう。その後に人払いをして話すというのはどうだろうか?」


話は長くて対応に困るが根はいい人なのだろう。

花梨の言葉に薬師丸は困った顔をした。

少女の申し出に応えてあげたい。

けれど、苦しむ紫苑のことも心配で放っておけない。

そんなところなのだろう。


「あ、いえ、聞いていただけるならそれで十分です! 私が勉学や今後のために勤しむ理由を聞いていただきたかったのです。 教授さんとのことだったので。」


足止めできるのはここまでか。

これ以上は無理がある。

そう悟ったのだろう。


(師匠、ごめんなさい、あんまり足止めになりませんでした。。。)


花梨はそう思いながら薬師丸に告げると、薬師丸はどこかホッとした様子を見せた。


「なるほど、それではその話はまたことが片付いた後にしよう」


薬師丸はそう言うと花梨を1人残して店の中に入っていった。





さて、薬師丸が店内に入るより少し前に遡ろう。


(海神か時雨だな…)


紫苑は三原に何を話すべきか考えていた。


「海といえば、巫女さんが海の神とか言っていたな」


「海の神?ですか?」


紫苑がぼそっと呟くと、それに対して三原は何のことだろうと言う顔をしながらも聞き返す。


「海の神、、、地域によってはそのような神を祀った石碑や壁画なども報告がありますがここにもそのようなものがあるのだとしたら、、、いやでも今回は旅行ということで、、、しかしこの島についての調査は何も行われていないわけだし」


そして三原はぶつぶつと独り言を口にする。

どうやらまた何かを考え込んで1人の世界に入り込んでしまっているようだ。


「そろそろ心配させてしまいそうなので戻りますね、時雨さんにもよろしくお伝えください。」


そんな三原に紫苑はそう告げた。

そして紫苑が先に戻ろうかと扉に手をかけた時。


ーコンコンコンー


扉をノックする音が響いた。


「おおい!紫苑君、三原君!腹が痛いと聞いたのだがね!無事なのかね!入るぞ?」


そんな声が扉の向こうから聞こえたかと思うと返事を待たずに扉がガチャリと開かれる。


「ええ、少し休んだので良くなりましたよ。」


開かれた先に立っていた薬師丸と目が合うと、紫苑はニコリと笑ってそう告げた。

そして、当然のように店内にいた村人達が薬師丸の声を聞いてこちらに注目している。


「そうなのか?無理はいけない。せっかくの旅行なのにそんなことをしては楽しめないじゃないか。薬はないのかね。どのような症状かね。私は医学には詳しくはないが知り合いに医者がいてね。多少の知識はあるつもりなのだかね。なんなら店の人に薬でももらったらどうかね。どのような店にでも救急箱というものがあるだろう。それにここは飲食店だ。腹痛に効く薬の一つやふたつ置いてあるだろう。なんなら病院が街にあっただろう。そこへ行ったほうがいいんじゃないか?」


紫苑の言葉を聞いた薬師丸はつらつらとそう話す。

表情を見るに本気で紫苑の心配をしているようだ。


「ええ、多分過敏性腸症候群でしょう。セロトニン受容体拮抗薬は飲んだので大丈夫だと思います」


適当に紫苑はそう返すが、その言葉を聞いて薬師丸はなるほどと言った様子である。


「あぁ、しかしあれは確かストレスによるものじゃなかったかな?とすると何かね。君はそれほど繊細な精神の持ち主だということなのか、、、ふむふむ、なるほど。私も読み違いをしてしまったか。それは大変失礼した。慣れない旅行がストレスになってしまったのだろうな。都会から田舎へ行くのはいいとは聞くが、都会が性に合うものは田舎に行くと逆にストレスになると聞くからな。携帯もパソコンも使えない。勿論ゲームなどもできない。最近の若者はそのような傾向があると聞くし。なるほど、、、月曜になれば帰ることができるわけなのだからそういうことならば無理をせずに残りの日数はホテルや病院で過ごす方がいいのではないかね?」


それでもやはり心配は心配なのだろう。

相変わらずの長話ではあるが、そこは薬師丸の性分というのか特性とでも言うべきなのか。


「いえ、そこまで強いものではないですので。お気遣いありがとうございます」


紫苑としては一刻も早く、この注目から解放されたい。

そして1人残っているであろう花梨の元へ戻りたいのだが、薬師丸が引く様子を見せなかった。


「いや、しかしだね。もしもそこから悪化して月曜日のフェリーに乗ることができないとなってしまうとさらに1週間この島に滞在しなければならないことになるわけなのだよ?それはさらにストレスなのではないかね。この島の人に頼めば車くらいは出してくれるだろう。一度、病院に行って見てはどうかね?」


「自力で帰れるので大丈夫ですよ。しかし、そうですね。今日はお暇させていたたきます」


どう収集をつけたものか。

紫苑は薬師丸が話す間に考えた。

どう伝えればこの場を丸く収めて先へ戻れるのだろうか。

そして話し終えるのを待ってそう伝える。


「そうかね。君とは色々とはなしてみたいとおもったのだがね。まぁ、ここで会ったのも何かの縁だ。島を出た後で語り合うというのもよかろう。あまり無理をしてあのお嬢さんや周りの者に心配をかける者ではないと思うぞ」


すると薬師丸はどこか心配したような呆れたような顔でそう言った。

そしてふと、思い出したように問いかける。


「しかし、飯は食えるのかね?食事は席に届いているが、どうするかね?」


「ええ、頂きますね」


薬師丸の問いかけに紫苑は笑顔でそう返した。


「そうかね。では席に戻るとしよう。それにしても三原君、なぜすぐに病院に連れていくなり店の者に相談するなりしなかったのかね。そもそも、私に声もかけずに席をたつとは何事かね。そういう風だから君はいつまで経っても(くどくど」


すると今度は奥にいた三原に矛先が向いてしまったようだ。

3人で席に戻る間、三原に対して薬師丸の説教は続いた。

三原には慣れているのだろう。

へらっとした苦笑いを浮かべて相槌を打ちながら何度も頭を下げていた。





「あ、皆さんおかえりなさいです」


3人が店から出てきたのを見ると、花梨はそう言いながら紫苑の元へと駆け寄る。

花梨は紫苑に身体を密着させて、紫苑のお腹に手を当てて、「師匠、腹痛もう大丈夫ですか?」と話しかけた。

花梨の言葉に紫苑は大丈夫と言うように頷いて見せる。


「なぜ腹痛?」


そうしつつも花梨にだけ聞こえる小声で紫苑はそう問いかけた。


「ごめんなさい、足止めそんなにできませんでした。ぼそっ」


そんな紫苑の耳元で花梨は申し訳なさそうに小声で話す。


「さて、食事を再開するとしよう」


席に着くと薬師丸はそう言って黙々と食事を始めた。


「薬は飲んだから大丈夫だよ。」


紫苑は薬師丸と三原に聞こえるようにそういうと花梨にニコリと笑って見せた。

薬師丸は食事に夢中だが、三原は2人の会話を聞きつつ苦笑いを浮かべてマイペースに食事している。


「そういえば三原さんはどのくらいからお弟子さんになったのでしょう?」


食事をしながらふと、紫苑はそう問いかけた。


「そうですね。こう見えてまだ5年ほどなんですよ。ただ、、、(小声)薬師丸さんのお付きの人は一年と持たないそうなので貴重がられるんですよ」


紫苑の問いかけに三原は苦笑いをしながらそう返す。


「そうなんですね。。。こんなにも博識で紳士な方ですから波長の合う方も少ないのかもしれませんね苦笑」


そして三原の言葉に花梨はそういって苦笑いを浮かべた。

三原の様子を見るに、薬師丸の小言についていけなかったのだろう。

もしくは薬師丸の自由奔放な行動についていけなくなったのかもしれない。

それとも、機嫌が良くても悪くても長々と話す様子についていけなくなったのか。


「因みに、薬師丸さんからちょこーっと口説かれちゃいました。」


そんな話をしていると花梨は紫苑にぼそっとそう告げた。

しかし、紫苑のポーカーフェイスは崩れる様子がない。

その横顔を花梨はまじまじと眺めた。

自分の話を聞いて、少しくらい妬きもちをやいてくれないだろうか。

しかし、いくら眺めてみても紫苑は薬師丸が花梨を口説いてきたことに対して特に気にしている様子は感じられなかった。

見られていることに気づいた紫苑と目が合うと、花梨は何も言わずに困り笑顔でちょこっと舌をぺろっとだした。

そんな花梨の様子に紫苑は苦笑いを浮かべる。


(さっきの弟子としてのお誘いは隠しておこう)


少ししょんぼりした様子で花梨は食事を再開した。


「そう、ですねぇ、、、興味のあることには饒舌になりすぎるところがたまに傷というか、、、煙たがられてしまうのですがそこを抜きにすると人気がある方なのですよ(小声)」


花梨の言葉を聞いた後、三原は少し考えてそう話した。

食事に集中している薬師丸はきっとこちらの会話なんて耳に入っていないのだろうが、気を遣ったように小声で話す。

その顔には苦笑いを浮かべていた。


「ははは、僕の知り合いの教授と会わせてみたいですね」


1人前くらいを食べ終わった紫苑は、三原の言葉に笑みを浮かべて返した。


「お知り合いにいらっしゃるんですね。そうですね、同じ分野の方でしたら話が合う可能性はあるのですが、意見の食い違いから喧嘩も絶えないのでなんとも、、、(小声)」


紫苑は普通に話したのだが、やはり三原は気にしているのだろう。

紫苑の言葉に先ほどと同じように小声で返した。


「喧嘩すると思います(小声)」


つられて紫苑も小声になる。

はたから見ると何度も奇妙なやりとりに見えるが、仕方ないことだろう。

黙々と食事に集中している薬師丸とその横でひそひそと話す紫苑と三原。


「???」


その横で2人の会話に耳をすませて聞いているかどうかはわからないがハムスターのように頬張りながら食事をする花梨。


「そ、それは会わせない方が良さそうですね、、、」


紫苑の言葉に三原は思わず普通の音量でそういうと苦笑いをこぼした。

そんな三原の様子や、可愛らしい花梨の食事風景をみて紫苑は満面の笑みを見せた。

そんなこんなで雑談をしながら4人は楽しい食事を終える。

一同が食事を済ませた後、支払いのために店内に入ると全額薬師丸が支払いを済ませる。

カードが使えないことに些か不満そうではあったが渋々と現金で支払いを済ませていた。




支払いを済ませた後、一同は店の外へ出ることとなった。


「そうそう三原くん。私は今日、このお嬢さんと話をせねばならないのだよ。君と紫苑君がいない間に2人きりで話がしたいと言われてね。可憐なお嬢さんの頼みだ。君は席をはずしたまえ」


店を出ると上機嫌な薬師丸が三原にそう告げる。


「え、、、は?ふ、2人きりで、ですか?」


それを聞いた三原は花梨と薬師丸を交互に見ながら動揺を隠しきれない様子だ。

それはそうだろう。

おじさんと女子高生の組み合わせなのだ。

花梨は何やら言いにくそうにモジモジとしているし、薬師丸はこの調子である。


(・・・・・・?)


紫苑は不審に思い、薬師丸の様子を観察してみた。

薬師丸のこのドヤ顔の裏にはどんな心理が隠されているのか。

薬師丸曰く、可憐な少女に2人きりでと誘いを受けた。

そのことを誇らしげに語っていることから何やら勘違いしてる可能性もあるかもしれない。

薬師丸が無理に誘ったわけでもないなら紫苑にはどうにもできないことである。

ポーカーフェイスを装いつつも、不満そうな顔が見え隠れしている。


「あ、あのご迷惑でしたら薬師丸さんは僕が言い聞かせますが(小声)」


三原は心配になったのだろう。

小声で花梨にそう話しかけた。


「いえ、これは私の個人的なご相談になりますので、大丈夫ですよ」


そんな三原の心配をよそに、大丈夫だと言うように花梨は笑みを見せる。


「そ、そうなんですか?風華さんからお誘いというのも薬師丸さんの勘違いではなくて本当なんですか?(小声)」


それでもやはり心配は拭えないらしい。

三原は心配そうな顔のまま、花梨にそう返した。


「えぇ、本当ですが。。。えっと、何か。。。?」


三原の言葉に花梨はなんの事か分からない表情で首を傾げる。


「まぁ、心配するようなことは特に起こらないでしょうね」


そんなやりとりが聞こえている紫苑はやはり不満そうにボソッと呟いたがその声は誰の耳にも届いていない。

薬師丸と花梨が2人きりになることが不満なのか。

それとも自分ではなく薬師丸にと言うとこが不満なのか。

とはいえ、今の状況から情報収集のためになのだろうと言うことはなんとなく察してはいる紫苑である。

わかっているが、不満なのである。

薬師丸は頼んだと、自分で花梨に言ったもののいざそうなると思っていたより心はどうにもならないようだ。


「三原君、君は何をコソコソと話しているのだね!私は彼女から誘いを受けたというのは間違いではないのだよ。そこに何もやましいことなんてない!私がそんな人間じゃないことなんて君は重々承知なのではないかね?それともなにか、私がそのようなことをする人間だとでも思っているのかね?そうだとしたらそれは心外という者だよ。そうじゃないのならば安心して席を外したまえ」


あまりに焦らされていたからだろう。

先ほどまで上機嫌な様子を見せていた薬師丸はやや不機嫌そうにふんっとした顔で言った。


「は、はぁ、、、そのようで。では、そうですね。話が終わりましたら近くにいる島民の方にでも僕がどこにいるか聞いてもらえたらと思います。彼らはトランシーバーを持っているので僕の近くにいる島民が伝えてくれることでしょう」


薬師丸の機嫌が悪くなり始めたことに慌てた三原はそう伝えた。

すると、薬師丸は三原の言葉にまたふんっと鼻を鳴らす。

一刻も早く花梨と話をしたいのか。

下心があるのかないのかはさておき、三原以外と話す時間が楽しみなのかも知らない。


「な、ななな、そんな事しないです!私にはし、ししょ。。。っ。。。と、とにかくやましいことでは無いです!」


薬師丸の言葉を聞いた花梨はなぜ三原がこんなにも心配しているのかようやくわかったようである。

わたわたと慌てた様子でそんなことを話す。

そしてチラチラと紫苑を見ているようだが、紫苑はポーカーフェイスを貫いた。

三原は花梨の言葉を聞いた後に「それでは僕はこれで」とどこに行くでもなくその場を去っていこうとしている。


「僕はこの後さっきの写真の場所を調べてみようと思うのですが、良かったら一緒にどうですか?」


そんな三原に紫苑はそっと近づくと薬師丸に聞こえない距離でそう話しかけてみる。


「そう、、、ですね。僕も予定外に時間が空いてしまいましたのでお邪魔ではないならば、、、」


「2人だと何か見つかるかもしれないので是非。」


三原の遠慮がちな言葉に紫苑はニコリと笑って答えた。


「しかし弟子は何を聞きに行ったのやら?」


三原「どう、でしょうね」


2人で村の外に向かって自転車に乗りながらそんな話をする。

花梨が心配なのか、薬師丸が心配なのか。

三原は苦笑いを浮かべていた。


(分かってなかったんかい!)


などと言う弟子のツッコミが師匠に発せられた気もしたが気のせいだろう。


そんなこんなで紫苑と三原は崖の方へ向かうようである。

花梨と薬師丸は2人で自転車を押して並んで歩きながら海の家へと向かっていった。



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