滞在6日目 〜前編(3)〜

さて、少しだけ時間を戻して花梨のその後を見てみるとしよう。

1人謎の建物から外に出た花梨は、この後どうするべきなのか悩んでいた。

ここで紫苑が出てくるのを待つべきなのか。

それとも、どこかで情報を仕入れるべきなのか。

そんな時だった。


「あら?こんにちは」


ふと、花梨に話しかけてくる声がした。

声がした方を振り向くと、そこには初日のバスに乗っていた雲母坂れんげの姿があった。


「ここで、何かされているのかしら?それともこれからどこかへお出掛けかしら?」


花梨のそばまでやってくるとれんげはにっこりと微笑みながら尋ねる。

そのれんげの、にこりとした笑顔の下にどこか様子を伺われている様な気がした。


(ここは。。変に刺激しないように探るか)


花梨はそう思いながらにこりと笑顔を返すと口を開く。


「こんにちわ、今からお出かけしようかなって思って。えっと、れんげさんでしたっけ」


「覚えてくださっていたんですね。そうでしたか。今日はどちらへ行かれるのですか?」


花梨の問いかけるような言葉にれんげはまたにこりと笑顔で答えた。


「そういえば、ホテルの周りとか見てなかったのでいいお土産屋さんないかなってくるっとしてみてたんです」


「あぁ、、、そうでしたか。明日の祭りのためにほとんどのお店は今日閉めているので、、、そうですね。あちらの方にある民芸品を売っているお店でしたらお土産に合うものが見つかるかも知れませんね」


花梨の言葉を聞いてれんげはどこか申し訳なさそうに、けれど笑顔を崩さずにそう答える。

接客業をしているのだから笑顔は当たり前だろうか。

けれど、その笑顔はどこか不気味さすら感じる気がした。


「特にはまだ決めてませんが、観光旅も終盤ですし、悩みすぎてもあれなので、そろそろお土産物も決めないとなって照」


花梨は照れたような笑顔でそう答えると、れんげはそれをみてそうでしたかと言いながら相変わらずの笑みを浮かべている。


「れんげさんは今からどこへ?」


ふと思いついたように花梨は問いかけた。


「明日のお祭りではそちらのお店も閉めてしまいますからね。そういえばお連れ様とは今日はご一緒ではないのですね」


しかし、れんげはその問いに答えることなくにこりと笑って逆に花梨に問いかける。


「あ、師匠は今、ここの観光で見つけた可愛い女の子と遊んでくるって、私ほっぽって遊びにいっちゃったんです。。。ぷんすこ」


深く追求することはせずに、花梨はれんげの言葉に少し怒っている様子を見せながら答えた。

すると、花梨の言葉に少し疑問を持ったような顔でれんげは口を開く。


「可愛い女の子、ですか。祭りの支度はありますが、観光客の皆様には失礼がないようにと言うのがこの島の決まりですからね。そういえば、お二人は恋人同士かと思っていたのですが何かの師弟関係でのご旅行だったのですね」


れんげはそう言うとまた笑みを浮かべる。


「こここここ恋人ではないですすすす、だ、ダンスのししししししょーなんでひゅ!!!///」


れんげの言葉に花梨はうっかり素直な反応を見せた。

顔を赤く様、わたわたと答えるのだが焦りすぎているのかうまく言葉にならない上に最後はかみかみである。


「あら、、、ふふ。師匠さんのことお好きなのですね。」


その様子をみたれんげの周りの空気が少し緩んだようで、ふふっと笑い声を漏らしながら笑みを浮かべている。


「……///」


花梨はまるで母親に好きな人を言い当てられた子供のように顔を赤く染めて居心地の悪そうな顔をした。

探りを入れるつもりが、これではれんげの手の上で転がされているようなものだ。


「れ、れんげさんは今日はなにかご予定でこちらへ?」


恥ずかしさから無理に話題を変える風を装って花梨はそう話を切り出す。


「えぇ、私は支配人なので皆さんに何か不自由をかけていないか様子を見にきたのですよ。娘達を連れてきたのですが、、、あぁ、そうだわ。小さな女の子2人、見ませんでした?」


花梨の言葉にふと、今思い出したかのようにれんげは問いかけた。

娘、小さな女の子2人。

おそらく先ほどまで一緒にいたすみれとみどりのことだろう。


「えっと、今ですか? この島にきて、の話でしたら」


少し考え込む様子を見せていた花梨だが、急に興奮気味に口を開いた。


「めっちゃ可愛い女の子二人の姉妹ならみました!!!! ききょうちゃんっていう女の子なんですけど!おねえたんっ❤️てめっちゃ可愛いんですよ!!!」


それでほんとに可愛くて、お姉さんのけいとちゃんも可愛くて云々と饒舌に花梨は話す。


「あぁ、今日の話ですよ。1人はアルビノ、とはご存知かしら?白い髪に赤い瞳をしているのですけれど。その子と一緒にもう1人。仲良し姉妹なのでいつも一緒にいるのだけれど、、、」


それを止めるかのように、少し苦笑いを浮かべたれんげが口を挟んだ。

そして言葉を続ける。


「ききょうちゃんほど小さな子ではないのですけれど。8歳くらいの白い髪に赤い瞳なので目立ちますし、あなたの周りにもあまりいない容姿で珍しくて目につくとおもうのですが。見かけませんでした?」


少し困った様な笑みでまた問いかけた。


「その子ではないなら、会ってないですねぇ。残念ながら今日は朝お風呂入ってから師匠としか会話してないので。ですが、あれ、そんな子、初日に見たことあるような。。。」


「初日、ですか?あなた方がホテルに来た時についてきてはいなかったはずですけど、、、どこで見かけました?」


そう言った花梨の言葉に僅かな反応を見せる。

花梨は内心しまったと思いながらも苦笑いを浮かべて言葉を返した。


「残念ですが私もこの島であった人全員を覚えてるほど秀才ではなくて。。。苦笑。もしかしたら、私の見間違えかもしれません。」


確かに花梨のいうことはもっともである。

初めてきた観光地で、出会った人全員を覚えるなどということは普通の観光客ならばやる必要性もないわけで。

その地に住むわけではないのだから当然といえば当然である。


「そう、ですか。母親の私が言うのもなんですが一度見たら忘れないと言えるくらいなのですが、、、。」


れんげは少し怪しむような、けれど納得したような。

そんななんとも言い難い表情を見せた。

少しつついてみるかと思ったのか、花梨は口を開いた。


「母親ならば、子供から目を話すのは如何なのでしょう?」


花梨の住む都会ではそれはとても危険なことだと言わんばかりの勢いでそう問いかけた。

この島ならばほぼないのだろうが、目を離した一瞬で車に轢かれるかもしれない。

もしくは連れ去られてしまうかもしれない。

そう言った思いを乗せて問いかけてみたのだがそれを聞いたれんげはにこりと笑みを浮かべた。


「この島は危険のない島ですからね。都会の方には理解し難いでしょうが、住民みんなが家族の様なものですから」


そう言ったれんげはやはり笑みを浮かべたままである。


「8歳?くらいでしたら、何かに好奇心をもって事故に遭う何て事もあると思います。」


「事故?あの子に限ってそれはあり得ませんよ。子供はこの島の宝ですからね。祭りで忙しいとはいえ、皆が見守っているのですから」


花梨の少しムッとした様子の言葉にれんげはやはりにこりと笑みを浮かべて答える。


「なるほど。では、なんで見失ったんですか??皆さんが見守ってるんですよね?」


それだけでは納得いかないと言った様子で花梨はさらに問いかけた。

しかし、特にれんげは気にすることなく笑みを浮かべて言葉を返す。


「そうですね。あなたぐらいの歳の子には理解し難いでしょうが、四六時中は無理でしょう。とはいえ、今、他の方々にも探していただいているのですけれど。そうですね、観光客の方にこの島の問題をお尋ねするのも変な話でしたね。忘れて観光を楽しんでください」


そう言うとれんげはまた花梨に笑みを向ける。

花梨は段々と心にモヤモヤしたものが浮かんでくるのを感じた。

しかし、そんなれんげを見ているとふと、別の思いも浮かんでくる。

もしかしたら笑顔で受け答えはしているけれど子供達がいなくなって心底心配しているのかもしれない。

自分が観光客だからそれを表に出さない様にしているのかもしれない、と。

れんげは花梨に笑顔で軽く頭を下げるとホテルに向かって歩き出していた。

そんなれんげに向かって花梨は言葉を投げた。


「すみません、家族の事情に首を突っ込み過ぎましたね。子供が居なくなったのにへらっとしてる態度に少し思うところがあったので。もう一度言いますが、今日は会っていません。なので、もし見かけたら連絡はさせていただきます。それでは。」


「、、、お気になさらずに。島の問題ですから。」


れんげは一度足を止めて花梨の方を振り返るとそう返して笑顔を見せた。

そしてそのままれんげはホテルへと入って行った。

花梨はやはりれんげの態度に納得がいかない様子ではあったがこのままここに立ち尽くしているのもどうかと思い自転車を借りに行くことを思いついた。

紫苑がまだ出てこないことが気にはなるが、とりあえずとホテルの受付に向かうこととした。




ホテルの受付へ自転車を借りに戻ると、そこには受付の人と話すれんげの姿があった。


「あら、どうかされましたか?」


れんげはやはりにこりと笑顔を見せて花梨に訪ねる。


(表情が変わらない。やはりグレーね)


花梨は内心そんなことを思いながらも笑顔を作った。


「いえ、自転車お借りしようかなと。後でも大丈夫ですよ」


取り込み中ならばと花梨がそう伝えると、れんげはニコリと笑みを見せた。


「あぁ、なるほど。ではこちらに記入お願いします」


そう言って笑みを崩すことなく花梨に記帳を渡す。

受け取ると花梨はさらさらさらさらと必要事項に記入を済ませて記帳をれんげへと返した。


「では行ってきます!」


「いってらっしゃいませ、良い旅を」


花梨が元気よくそういうと、れんげはにこりと笑みを浮かべて見送った。

花梨は自転車を借りるとさっと見えない位置まで自転車で移動する。

そして、例の謎の建物を確認するがまだ紫苑やすみれ、みどりの姿は見当たらない。

少し悩んだあと、花梨は村に行くことを決めたらしく自転車にまたがると勢いよくこぎ出した。





花梨が村に着いた頃、話を終えた紫苑はすみれとともに階段を上がり、元いた部屋へと戻ってきていた。

名刺を渡したりした後に紫苑は部屋を出ようとしたのだが。


「あ、、、ちょっと待ってください」


扉を開こうとしてすみれがそう声をかけた。


「?」


紫苑は不思議そうな顔をして扉に伸ばした手を引き、すみれの方を見る。

するとすみれはチラリとカーテンを少しずらして外を見た。

察しの良い紫苑はそれとなく理解する。

今自分がこの場所に出入りしている姿を誰かに見られては困るのだろう。

そのため、すみれが先に外の様子をみてくれているのだ、と。

身長差を考えてみても、自分が近づくよりすみれの方が外から気づかれにくいだろうということも理解できた。


「、、、どうしよう、、、」


外をみたすみれは少し青ざめた様子でそう呟くと黙り込んだ。

そして何か考えた後にみどりの元に一度戻ると紫苑に伝えた。


「待っていた方がいいかな?」


「、、、、、、見られては困るので、一緒に戻ってもらえますか?」


紫苑の言葉にまたすみれはじっと考えてそう返す。

確かにここにいてはそのうち外にいる誰かに見られる可能性もあるだろう。

が、先ほどのみどりとの話からこの下へは他のものが入ってくることはないのかもしれない。


「わかった」


紫苑が笑顔でそう答えて頷くと、すみれはどこかほっとした様子を見せた。

そして2人は先ほど登ってきた階段をまた降りていく。





「どうしたの?」


降りていくと、足音に気づいたのであろうみどりが階段の下で待っていた。


「外にみんながいて、、、多分ママが私たちを探しているんじゃないかな、、、お姉ちゃん、何も言わずに行くから私も着いてきちゃったし」


みどりの問いかけにすみれはおろおろとした様子で答える。

ママ、、、とはおそらく雲母坂れんげのことだろうかと紫苑は思った。

初日と、それから車で去っていく姿を見てはいるが顔は朧げではある。


「わかった」


すみれの言葉にみどりはそれだけ答えると少しだけ黙り込んだ。

何かを考えているようで、少しの沈黙の後に紫苑の方を向いて口を開いた。


「私とすみれ、外に出ます。この鍵を、あなたに貸してあげる。内側から開ける鍵。外からは使えない。だから私達は外に出て鍵をかけてここをさる。あなたは少ししてこの鍵でここを出て。」


「了解したよ」


みどりの言葉に紫苑は笑顔で答えると鍵を受け取った。


「その鍵は、後でフロントに拾ったって渡して。誰がいても、私のだとわかる。」


みどりの言葉にまた紫苑は頷く。

それを確認した後、みどりはすみれの手を取った。


「すみれ、行こう」


「わかった」


みどりがそういうと、少し緊張したようにすみれは答えて頷いた。

そして階段を登ろうとしたのだが、みどりは立ち止まりもう一度紫苑を振り返った。


「その生き物には絶対に近づかないで。今は、大丈夫。だけど、私が去った後は、わからない」


「わざわざ危険なことはしないけれど、ありがとう」


紫苑がそういうと、少しだけみどりはぎこちなく微笑んだ様に見えた。

ここまで一度も笑顔らしい笑顔を見せなかったみどりだが、少しだけ紫苑に心を開いたのかもしれない。

もしくは、そもそもあまり表情を見せないのかもしれない。

2人は急いで階段を登り、去っていった。




1人残された紫苑はぼんやりと辺りを見渡した。

少しとはどれくらいだろうか。

何もすることがないが、だからと言って檻に近づくのも得策ではない。

そう思いながら薄暗いその空間に目を向けると、紫苑はあることに気づく。

そこにある牢屋の様な部屋は一つだけではなくもっと奥の方まで続いていて、その全てにその得体の知れない生き物が何匹もいた。


(うわぁ、、、)


そんな心の声が顔にも出ていたのだが、ここには紫苑しかいないためなんの問題もないのだが。

いくら先ほど見たとはいえ、何度も見たいものではない。

ましてや、その悍ましい生き物が何匹もいる光景となるとあまりにもよろしくない光景である。

そして紫苑はそろそろいいだろうかと階段を登って行った。




元いた部屋に着くと、紫苑は外の音に耳を澄ませてみる。

特に耳に入る音はなく、周辺に人の気配はないのではと思えた。

そっとカーテンの隙間から覗いてみるも周辺に人の姿は見当たらない。


ーガチャ...ー


紫苑は鍵を使って扉を開け、そっと外に出る。

辺りを警戒しつつ、ホテルへと向かった。

その足で受付へ向かうと、紫苑に気づいた受付の人があら?と言う顔をする。


「どうかされましたか?」


そう言って笑顔で問いかけてきた。


「こんなものを拾ったので…誰かの落とし物でしょうか?」


紫苑はそういうと、そっと先ほど使った鍵を差し出して見せた。

それを見た受付の人はアッと驚いた表情を見せる。


「ありがとうございます。それはとても大事な物なので拾っていただいてよかったです。こちらでお預かりさせていただきます!」


そういうと嬉しそうにお礼を言い、その鍵を受け取る。

みどりが言ったように、誰が見てもわかるものらしい。


「大事なものだったのですね、見つかって良かったです」


「本当にありがとうございます!」


紫苑の言葉に受付にいた人は深々と頭を下げて、笑顔でお礼をのべた。

そして、奥にいる人に声をかけるとやってきたその人に鍵を渡して、受け取った人はどこかに電話をかけている様子が伺える。

電話の先にあるのは雲母坂れんげだろうか、それとも他の誰かなのだろうか。

流石に電話の先の声は紫苑に届かなかった。

紫苑はそのまま受付で自転車を借りる手続きを済ませた。

そして自転車にまたがるとそのまま紫苑は昨夜、彼は誰が言っていた役場へとむかった。





「こんにちは、何か御用ですか?」


役場に入ると職員であろう男性が笑顔で出迎える。


「郷土資料を展示しているとお聞きしまして」


「あぁ、なるほど。ありますよ」


男性の問いかけに紫苑が笑顔で答えると、男性はそう言ってまた笑顔をみせた。

おそらく彼は誰のことを思い出したのだろう。

いや、もしかしたら彼は誰以外にも薬師丸あたりが訪れているかもしれないがそこは紫苑にはわかりかねることである。


「こういったものに少し興味があるのでお見せして貰えないかなと」


「大丈夫ですよ、ご案内しますね」


紫苑の言葉に男性はまた笑顔で答えた。





男性に連れられて郷土資料を展示してあるスペースへとやってきた紫苑である。

コウモリの情報、古い地方誌の切り抜きなど

彼は誰が得た情報と同じものを目にすることとなった。

その中の新聞記事に目を止める。

死亡した2人の少年。

少年達について、現在の年齢を考えてみる。

50年前と30年前、生きていればいい大人になっているだろう。

しかし、何か気にかかる顔である。

紫苑は少年達の顔を思い描き、そこから大人の顔にしていく。

すると、最近どこかでみた顔とどことなく似ている顔になった。

しかし、見た目から言うとその2人は年齢的な計算が合わない。

これは関係があるのかどうなのかと首を捻った。

そしてコウモリについて。

紫苑は記憶を辿る。

コウモリ、コウモリ、、、。

これほどの大きさならば飛ぶ音が聞こえるはずだ。

どこで聞いたのだろうか。

いつかどこかで、それに近い音を微かに聞いた気はした。

あれは、、、寝ている時だったんじゃないだろうか。

そしてふいに紫苑はあることを思い出す。

自分は寝ている時に録画をしていたな、と。





さて、紫苑が例の建物から出でホテルに向かっている時間まで遡る。

花梨は自転車に乗り、村に辿りついた。

自転車を引きながら舞台の方へ向かうと、そこには昨日よりも形になったものがある。

あたりを見渡すと、提灯を飾り付けている人たちの姿も見えた。

ふと、その飾り付けをしている女性の中にあじさいの姿を見つける。

あじさいは自分の方を見ている花梨に気づいくとニコリと笑みを見せた。

花梨があじさいの方へ向かうとあじさいが口を開く。


「あら、風華ちゃん、こんにちは」


「こんにちわ!いいお天気ですね!」


花梨は笑顔で元気に答える。


「そうね!明日のお祭りも心配なさそうでよかったわ!」


花梨の言葉にあじさいは嬉しそうにそう言った。


「今日もお祭りの準備で大忙しですか?」


「そうなのよ、明日だからね!風華ちゃんにも楽しんでもらいたいわ」


少し残念そうな声の花梨ではあるが、あじさいは鈍いようである。

花梨の言葉に笑顔でそう答えた。

すると二十歳ぐらいの女性、梵さつきがあじさいに話しかけてきた。


「あじさい、その子って旅行客の?」


「あ、うん、そう」


さつきにそう言われてあじさいは苦笑いをみせた。


「そう、、、、、、ほどほどにね?」


「わかってるわよ!」


さつきにそう言われたあじさいはどこか怒ったような声を上げた。


「???」


その会話を聞いている花梨は2人のやり取りの意味がわからないというように首を傾げる。

するとあじさいとさつきの声を聞いたからだろうか。

花梨とさほど年が変わらないように見える少女、梵みもざと中学生くらいに見える少女、時雨あおいがやってきた。


「お祭り終わったら帰っちゃうんでしょ?」


「、、、ねぇ、早く終わらせよう?お腹減ってきたわ」


もみざとあおいは花梨をよそにそんな言葉を口にする。


「良ければお手伝いしましょうか?お昼まで私も暇なので」


花梨はそんな4人をみてそう申し出た。


「・・・」


「だって」


花梨の言葉にあおいは黙って花梨を見ている。

もみざはどこか茶化すような声であじさいとさつきをみてそう言った。


「うーん」


あじさいはというと困ったような顔で悩んでいるようだ。

すると、さつきがため息混じりに口を開く。


「悩む必要ないじゃない。村の大事なお祭りの準備を観光客の方にやらせるわけにはいかないわよ」


「そう、ね。風華ちゃんありがとう。ごめんね」


さつきにそう言われたあじさいは苦笑いを浮かべて花梨にそう言った。


「そうですかぁ、(しゅん)」


あじさいの言葉を聞いて、花梨は見るからな肩を落とし呟くようにそういうとあじさいは困ったような苦笑いを浮かべた。


「ごめんね?その代わり、明日のお祭り、楽しめるように頑張るから是非きてね!」


あじさいは花梨を元気付けるかのようにそういうと、ニコリと笑う。


「わかりました!師匠引きずってでもきます!(にこっ)」


「ありがとう!」


花梨がそう言って笑みを浮かべると、あじさいもにっこりとして言葉を返した。

花梨は邪魔をしてはいけないと思ったのか、それじゃあとその場を離れる。

そしてそのまま海の家の方を目指した。




海の家の方へ向かうと、そちらの舞台の様子が見えてきた。

村の中の舞台と同じように、今日中には無事に完成するようだ。

誰か知り合いはいるかなと目を凝らしてみても砂が目に入り思わず目を瞑る。

少し風があるようだ。

花梨は砂浜に続く階段へ向かう。

砂浜へ降りる階段に近寄るとそこには黒い鳥居が立てられていた。

そして、そこから再度舞台を眺めると昨日作業していた人達がいるようだ。

こちらも村の中と同じように少し飾り付けがされている。


「こんにちわ、昨日ぶりです」


舞台のそばに近寄り、見知った顔に声をかける。

昨日、設計図を持っていた右輪島蒼だ。


「ん?あぁ、昨日の、、、こんにちは」


花梨に気づいた蒼はそういうと笑顔を見せた。


「お忙しそうですね。。。」


周りを見渡しながら花梨は呟くように言う。

すると蒼は苦笑いにも似た笑みを浮かべた。


「それはね、明日に間に合うように作らないといけないからね」


そういうと、花梨に笑顔を見せた。


「黒い鳥居、ですか。。?」


「ん?あぁ、都会の人には赤い鳥居が見慣れているだろうけれどもこの島だとこれが普通なんだよ」


花梨の問いかけに蒼はまたにこりと笑って答える。


「珍しい色だと思います。因みに祝時の色と言えば赤や白などを思い浮かべますが、黒には何か意味があるのですか?」


「昔っからそれが当たり前だからなあ」


花梨の質問に少し困ったような顔で蒼はそう返した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る