滞在5日目 〜後半〜

さて、ホテルについた紫苑と花梨である。

外はもう暗闇が迫っている頃だ。


「ししょー、今夜もお部屋に遊びに行きますね、果物一緒に食べましょ」


「そうだね、待っているよ」


花梨のご機嫌な言葉に紫苑は笑顔で答える。

花梨は紫苑が持ってくれていたフルーツを受け取ると自分の部屋に備え付けられている冷蔵庫で一度冷やしておくことを伝えた。


「コーヒーと紅茶、どっちがいい?」


「紅茶で!」


紫苑の問いに花梨は元気に答える。

2人は雑談をしながら部屋へと向かった。

先にお風呂に入ってくると伝える。

そんな話をしていると部屋の前の通路で葉山と彼は誰に出会った。


「こんにちわ」


「やあカップルさん」


彼は誰は花梨の挨拶に手をひらひらしながら答える。

葉山はと言うとその声かけに対してペコっと軽く頭を下げた。


「か、カップルじゃないです。。。」


彼は誰の言葉に花梨は頬を染めて返す。

カップルと言われて満更でもなさそうな顔をしていた。


「やあカップルさん」


隣に立つ紫苑はというと彼は誰に笑顔でそう返す。

紫苑は特に動揺するわけでもなく余裕の表情である。

そんな中、彼は誰は花梨を見て2人の間に何かあって花梨が素直に照れている様子を読み取った。

だからと言って何を言うわけでもないのだが。


「それはそうと、美味しそうな果物を頂いたのですが、良ければ一緒にいかがですか?」


「コーヒーや紅茶も用意しているよ」


花梨の言葉に紫苑がそう付け足した。


「せっかくだけど、野暮でもないんだ」


彼は誰はそういいながら2人の顔をにやにやとしながら眺める。


「そういう訳でもないのだけれどね」


紫苑は苦笑いを浮かべながら答えた。


「ではお風呂後に、食堂でお食事でもどうですか?」


そのやりとりを気にする様子もなく花梨が笑顔で提案する。


「2人でゆっくりしたいと言うなら無理は言わないさ」


彼は誰のニヤリ顔に対抗するように紫苑はそう告げた。


「もう十分堪能してきたよ。ねえゆうちゃん」


そんな紫苑の言葉をさらりと交わすように彼は誰はそう言って葉山を方を見る。

そんな彼は誰に葉山は笑顔を返した。


「.........はっ!まさかそーいう!?」


「本日もお楽しみでしたね」


ワンテンポ遅れて何かを察した花梨がそんな声をあげて顔を赤くした。

対照的に紫苑はポーカーフェイスでニコリと笑ってそう言った。


「あなた方もね」


あいも変わらず彼は誰はにやにやしながら2人をみてそう答える。


「そうだなぁ、若い2人の邪魔をする気はないというのは本音だけれどね?」


今まで黙っていた葉山だが、ニコッと笑みを浮かべてそう言った。


「夕餉くらいならご一緒するよ」


いいよね?という顔で見てくる彼は誰に葉山は笑顔で頷く。

そんなに2人の仲は進展しているのかと言うように花梨は顔を赤くする。

頭が切れるとはいえ花も恥じらう17歳だ。

結局、全員がお風呂を終えた後に食堂に集まることでその場は解散ということとなった。




それぞれがお風呂に入って夕食に向かう準備をする。

紫苑は部屋に帰るとふと花梨の言葉を思い出し紅茶を確認する。

すると、備え付けの紅茶はアールグレイだった。

それを確認した紫苑はふっと笑みを浮かべた。

そして紫苑はふと、先ほど崖で取った花梨の写真を見返す。

するとあることに気づいた。

とても、とても小さくぼやけているが海の向こうから何かぼんやりとした、くすんだ黄色いものが写っている。

しかしそれは拡大してもペン先の点ほどの大きさで何が写っているのか判断することはできなかった。

何か嫌な予感がする。

だが、紫苑はそこに映るものがなんなのか思い当たるものはなかった。

少し考えを巡らせたあと、諦めたようなため息をついて携帯をポケットへとしまい部屋を出た。





皆が風呂に入った後、先に食堂に降りてきたのは紫苑と花梨である。

今日も色とりどりの、様々な料理が並べられていた。


「えんがわサラダだって」


「食べるしかないですね」


それらを物色しながらそんなことを話している。

紫苑はまず、初めて見る食べ物を中心によそっているようだ。


(見たまえかざはなくん、この彩豊かなサラダの数々を!サラダと一言で言っても様々な種類があるが、私はポテトサラダに目がなくてね。あれは実にいいものだよ。もちろん食べたことがあるだろうからその素晴らしさは分かってくれるだろうが。)


という薬師丸の声が脳内に響いた、ような気がした。

気のせいかと思いつつ、好物のポテトサラダを多めに皿へと取る紫苑をじっと見ていた花梨が不意に口を開いた。


「ふーん。。。ポテトサラダ。。、。帰ったら作ってあげますね?」


「そうか、それは嬉しいね」


ウキウキした様子で話す花梨に爽やかな笑顔を返す紫苑である。

きっと花梨の脳内メモに「ししょーはポテサラが好き」とでもメモされているのかもしれない。


「はて、賑わっているねゆうちゃん」


「あー、そうだな」


紫苑と花梨がそんな話をしていると、彼は誰と葉山がやってきた。

葉山の腕に彼は誰が腕を絡めて仲良さげな雰囲気だ。

最近ではお馴染みの様子であるため、花梨と紫苑は特に何をいうでもないが花梨の頬がほんのり赤く染まっていた。

いつかは自分も紫苑と、とでも思っているのかもしれない。


「やあお二人さん、今日は新メニューがあるようだよ」


「へえ、そのようだね」


紫苑がそう声をかけると、彼は誰はするりと葉山の腕から離れ料理へと近寄って行く。

その後ろから葉山もゆったりとした足取りで歩み寄った。

彼は誰が紫苑におすすめを聞いてみる。


「えんがわサラダなんかいいんじゃないかな」


「なら先人達に教えでも乞おうか」


ふふふと笑いながら彼は誰がえんがわサラダに目を向けると花梨がこれでもかというほどえんがわサラダをお皿にぶちこんでいた。


「ははは、えんがわの宝石箱だ」


花梨のお皿に目を向けた彼は誰はそう言って笑った。

出されていたえんがわサラダがほぼなくなるほどの量をお皿に入れている様子をみたキッチンの村人が慌てて追加のえんがわサラダを持ってくる。

彼は誰は礼をいってそれをお皿へと取った。


「皿も一杯だし座ろうか」


それぞれのお皿がいっぱいになったのを見計らって彼は誰は声をかける。


「今日瑠璃城に行ってみたけれど、結構人目に着く場所だね」


「壁や瓦も夜天のように煌めいていたね」


紫苑の言葉に彼は誰がそう答える。


「ところでお邪魔してもいいのかな」


そして紫苑と花梨の席に着いて行くと一応程度に彼は誰が問いかけた。


「構わないよ」


「どぉぞ」


2人は彼は誰の問いに笑顔で答える。

それを確認してから、彼は誰と葉山は同じ席に着いた。


「その様子だと、、、僕たちに漏れずあなた方も色々見て回ったようだね。何か面白いものでも見つけたのかな」


席につくと、彼は誰はニヤリと笑って尋ねる。


「まあ、それなりに」


彼は誰の言葉に紫苑はニコリと笑って答えた。


「村を見たり、城を見たり、崖を見たりしました!あとは美女に会ったり!」


花梨はというと、そんな2人を気にする様子もなく無邪気にそう話す。


「それなら僕の目の前にもいるね」


「????」


笑顔で彼は誰がそう言ったものの、本人には伝わっていないようである。


「崖か、崖は面白いものが撮れたよ」


「はっ!目の前で口説いてる!♡」


少し遅れて言葉の意味を理解した様子で花梨はにまぁと嬉しそうな笑みを見せた。

紫苑はそのことには触れずに、彼は誰に先ほど崖で撮った花梨の隠し撮り写真を見せてみる。


「少々お借りを」


彼は誰の言葉に紫苑は携帯を渡す。

花梨はその様子を、サラダぽりぽりぽりしながら眺めていた。


「綺麗だろう?」


画面を見る彼は誰に紫苑はニヤリと笑ってそう話す。


「なんのお写真ですか?」


「崖の写真だよ、ほら」


首を傾げて尋ねる花梨にさっき崖で撮った写真だと紫苑は説明をした。


「へえ、黄昏の美女か」


何かに気づいた様子の彼は誰はポツリとそんな言葉を呟いた。


「見てみるかい?」


紫苑はというと、崖の写真だと言ってピンとこない花梨にそんな言葉をかけている。

画面を見つめていた彼は誰は、そのまま葉山に紫苑の携帯を渡す。

彼は誰はその写真をみて、紫苑が先ほど気づいた黄色い何かに気付いたのだろう。

そして葉山ならば何か知っているだろうと思ってのことだった。


「綺麗だよね」


そう言って彼は誰は自然な様子で画面を指差した。

その指の先には黄色い何かがある。

すると、彼は誰にしかわからない程度であるがー瞬だけ葉山の顔色が変わった。

おそらくこれがなんなのか葉山は気づいたのであろう。

しかしその一瞬が過ぎた後はいつも通りの笑みを浮かべている。

そして葉山はチラリと彼は誰の方を見た。

そのことから「自分からこの2人に特に話すことはない」という意思を彼は誰は感じた。

「うまく返すよ」と彼は誰はアイコンタクトをすると葉山の手から携帯を受け取り花梨へと渡す。


「ちょ、私じゃないですか!」


「・・・・よく撮れてるね。被写体への愛情が感じられる」


顔を赤くして叫ぶようにそういう花梨に葉山はにこりと笑ってそう声をかける。

その言葉に花梨は一層頬を染めた。


「なあゆうちゃん、僕から目移りしてくれるなよ」


彼は誰の冗談まじりな言葉に葉山は何をいうでもなく笑顔を見せる。


「大事な弟子だからね」


すると、少しムッとしたような口調ながらも笑顔を崩さずに紫苑は葉山に向かってそう言った。


「あ、あいじょ。。。/////」


花梨はというと先ほどの葉山の言葉が頭の中でぐるぐる回っているのか、周りの声が聞こえていない様子でそう呟いている。


「緋色が一番だよ」


葉山はそう言ってにこりと爽やかに笑った。


「ふん、ならいいさ」


彼は誰は葉山の言葉にそう返すと、紫苑の方を向いてにこりと笑った。


「いいものをありがとう」


「礼には及ばないさ」


彼は誰の言葉に紫苑は自身が見せたかったものが伝わったと思ったのだろう。

満足そうな笑顔でそう答えた。

花梨はまだ“愛情”という言葉が脳内で乱舞しているのかニヤニヤしながらえんがわを4枚くらい頬でもちもちしている。


「離れ里の夕陽はかくも素晴らしいものだね」


「でも、残念な事にお城は入れなかったんですよね。。。」


彼は誰の言葉に我に返った様子の花梨がしょんぼりとして呟くように言った。


「ほら、君も見てみるといい、この辺とかよく撮れていると思うんだ」


その様子を見た紫苑は画像に映っているものに花梨が気づいていないと悟ったのだろう。

そう言いながら画面に映る物を指さしてもう一度花梨に写真を見せた。

するとようやく花梨も気づいた様子を見せる物だから紫苑はほっとした顔を見せる。


「閂が固く閉められていたからね。早く工事が終わればいいのだけれど」


花梨の言葉に彼は誰は残念そうな様子で言葉を返す。


「工事、ね」


そして彼は誰の言葉を聞いた紫苑は何か言いたげな様子で呟くようにポツリと言った。


「あなたも伺い聞いているだろう?」


「秘密というのは暴いてみたくなるものだよね」


彼は誰がどこか不思議そうな様子で問いかけると、紫苑はニヤリとした笑みを見せてそう返した。

あなたもそうだろう?と言わんばかりの様子である。


「.........?? これは…?」


そんな2人のやり取りをよそに、画面を食い入るように見ていた花梨がポツリと呟いた。

何か映っていることに気づきはしたものの、心当たりがない様子である。


「人の恋愛事情とか、ね」


そんな花梨を気に留める様子もなく、紫苑は

茶化すようにそんな言葉を彼は誰に向けた。


「隠されたものは甘い蜜のようなものさ。とは言え程々が一番だけどね」


「コーヒーに合うかもしれないね」


彼は誰の言葉に何を読み取ったのだろうか。

紫苑はそう言ってやはり意味ありげな笑みを見せた。


「深淵に覗き返されてしまうよ」


ふふふと笑って彼は誰がそう言った時、1人置いてけぼりにされているような花梨が3人の方を向いて口を開いた。


「長い期間工事してるみたいですけど、改装にしては不思議だなって思いました」


「珍しい鉱石だろうか?。そういったものが含まれているようだから」


花梨の疑問を投げかけるような言葉に彼は誰はどこか残念そうにそう返す。


「まあ、今は工事していないのか、工事の音はしなかったね」


そう、紫苑は何度となく城へと行きそのことに確信を得ていた。

いくら耳をすませてみても聞き慣れた工事のような雑音は全くなかったのだ。

祭りがあるから中止しているとしても不自然な話ではないのだが、探偵としての勘がそうじゃないと言っているのかもしれない。


「色々と、かかるのかもしれないね」


そう言って彼は誰はにこりと笑った。


「ところでこの赤いの、なかなかどうして」


そして料理を口に運ぶと満足そうにそう呟く。


「せっかく来たのに、お城も観光出来なくて残念でした。」


「また来る機会があれば、その時は開いているかもね」


しょんぼりとした様子でそういう花梨に彼は誰は食事の手を止めて笑顔でそう相槌を入れた。


「やはり天ぷらは美味しいね」


「やはり塩がいいよね」


紫苑も食事を再開してそういうと彼は誰も同意したようにそう口を開いた。


「この後、師匠のお部屋で少しだけ、夜遊びしませんか?」


食事を再開した花梨だったがふと、思い出したかのように彼は誰と葉山に問いかけた。


「プレイのお誘いかな」


花梨の言葉に意味ありげな冗談を交えて彼は誰がそう返す。


「あまり遅くまでは付き合えないけど、遊ぼうか」


「わぁい」


それをあっさりとスルーして紫苑がそういうと花梨は嬉しそうな笑顔を見せた。


「ブレンドをお持ちしよう」


スルーされたことは気にしていない様子の彼は誰は笑顔でそう告げる。

おそらくかふぇのコーヒーであろう。

かふぇに行くたびに買いためているのだからよほど気に入ったようだ。


「では私は果物を捌いてお部屋に向かいます」


花梨はというと、ウキウキした様子でそう話す。

ただUNOをやりたいのか、それともここには“目”があるための演技なのか。

3人がそんな話をしていると、先に食事を終えた葉山が席を立ち皿を返却口へと持って行く。

どうやら紫苑の部屋へ行くつもりはないようである。


「ゆうちゃん、また後で」


「吸った後、職場に電話して部屋戻るから」


席に戻ってきた彼は誰が笑顔でそういうと葉山も彼は誰にそう告げて笑顔をみせた。


「やることがあるんでね、これで失礼するよ」


「また明日です」


葉山は紫苑と花梨に向かってどこか申し訳なさそうにそう言うと花梨は笑顔でそう返し見送った。

彼は誰は一緒に行くつもりはないようで、席を立たずに葉山にひらひらと手を振る。

そして葉山はそのまま食堂から去って行く。

彼は誰に話していたように、喫煙所でタバコを吸い電話をかけに行くのだろう。

その後、3人も雑談を交えつつ食事を済ませると一度解散という様子で食堂を後にした。





3人はそれぞれの部屋に入っていった。

紫苑は3人を迎える準備をし、彼は誰はコーヒーを入れ、花梨は冷蔵庫の果物を持ってもう一度食堂へ行くようである。

果物を持って食堂にやって来た花梨はキッチンに声をかけた。

果物を切り分けたいと伝えると、どうやらやってもらえるようだ。

少しだけ待ってくれるように言われて売店を眺めていた花梨は梅昆布茶が売ってあるのを見つけ嬉しそうな様子を見せた。

財布は部屋に置いて来てしまっていたため、買うかどうか迷っているとキッチンから声をかけられ綺麗に皿に盛り付けられたフルーツを受け取って戻ることとなる。

さて、花梨が食堂に行っていたため先に紫苑の部屋を訪れたのは彼は誰であった。


「おや、弟子はいないのかい」


部屋へと入った彼は誰は意外そうにそう問いかけた。


「果物の用意をしてくれているよ」


「気が利くねえ」


紫苑の答えに彼は誰は関心した様子を見せる。

そういえば果物ナイフなどないはずだと思い至ったのだろう。

とすると、方法は一つしかないのである。

おそらく食堂に行ったであろうことは彼は誰には容易に想像できる。


「紅茶を淹れてみたけれど、コーヒーが好きならそっちにしようか?」


「自前のがあるよ」


紫苑の言葉に彼は誰は手に持ったコーヒーのボトルを見せてそう答える。

おそらくその中身はかふぇのコーヒーなのであろう。

葉山の部屋へ行くときはカップに注いでいる彼は誰だが、2人分以上となるとそういうわけにもいかない。

おそらくボトルは普段からコーヒーを入れて持ち歩いてでもいるのだろう。


「あなたもだけれど、、、大分わかってきたようだね」


「もう少し情報が欲しいところかな」


彼は誰がそう話を切り出すと、紫苑は先ほどの食堂とは違いどこか真剣な様子で言葉を返した。


「地下で切り出さなかっただけ。、、、近づいてきているとも言えるね」


紫苑の言葉の意味を汲み取った様子の彼は誰はそう言って苦笑いのような笑みを見せる。


「夜には色々なものが出るそうで」


「オオコウモリだったね。役所には行ったのかな」


ふと思い出したかのような紫苑の言葉に彼は誰はそう返しながらも尋ねると、紫苑はどこか怪訝そうな様子を見せる。


「役所?そんなところもあるんだね」


「ホテルの近くにあったよ」


紫苑の疑問に彼は誰はそう言って言葉を続けた。


「人によっては驚くような姿さ」


彼は誰と紫苑がそんな話をしているとコンコンとノックする音が響く。


「お待たせしました」


紫苑が扉を開けると、様々なフルーツが盛り付けられた皿を持った花梨が笑顔で立っていた。


「やあ、美味しそうだね」


それをみた彼は誰が笑顔で言う。


「ランブータンはどんな味かな」


どこかワクワクした様子で紫苑も言った。


「あ、このお砂糖使ってくださいね」


「どれにかけるんだい」


お皿をベッドにそっと置くと花梨はポケットからいくつかの砂糖と思われる小袋を取り出した。

それを聞いた彼は誰が問いかけながらフルーツに手を伸ばす。


「とりあえず1度そのままたべましょ!」


「気が合うね、僕もそうしようと思っていたよ」


花梨の言葉に紫苑がにこりと笑ってそう言った。

それぞれが思い思いにフルーツを手に取り口へと運ぶ。


「うわ、これ酸っぱ!」


マラクジャ(パッションフルーツ)を口に入れた彼は誰が思わず叫んだ。

その横ではドラゴンフルーツを食べた紫苑が微妙な顔をしている。


「崖には田中さんが来ていたのを見たことがあるのだけれど、、、彼女は黄色が好きみたいだね」


不意に紫苑がそう話し始める。


「服飾もそれを物語っているね」


それを聞いた彼は誰がそう答えた。


「だから、あれを見たら喜ぶのかな?」


そう言って紫苑は何か考えている様子を見せる。


「先程、城の話をしようとしたら視線を感じました」


「意外と人目はあるってことだね」


花梨が言う先ほど、とは食堂でのことだろう。

それに対して答える彼は誰はにこりと笑った。


「ここもどうかは怪しいけれど」


続けて彼は誰はそんなことをポツリと呟いた。


「もし聞かれているならもう少し反応があるきもするけどね」


「響かせなければ大丈夫かなあ?今のところは、ね」


紫苑の言葉に彼は誰はフワッとした口調で返す。


「お城の中、何があるんでしょうか」


「何かはあるだろうね?この世ならざるものとか、ね」


ポツリと言う花梨に紫苑は好奇心に満ちているような様子でそう言った。


「島の人が警戒するほどのものがあるのは確かだと思うのですが」


今までの経験からなのだろうか。

花梨が難しい顔をしてそう言った。


「、、、この島は、何を信奉していると思う?」


それまで黙って2人のやり取りを聞いていた彼は誰がそう口を開いた。


「土着の神か何かかな」


「土着。。。付喪神のようなものでしたっけ」


彼は誰の言葉に少し考えて紫苑と花梨が答える。


「秘密を暴くは蜜の味。土足で入るのは好まれないね」


彼は誰はそういうとふふふっと笑った。


「ドレスコードでもあるのかい?」


少し謎めいたような言い方をする彼は誰に紫苑はそう聞き返す。


「どちらかと言えば、、、一見さんがまずいのかな」


何かを考える様子を見せつつ、彼は誰はポツリとそう言った。


「彼は誰さん、何かご存知ないですか?」


花梨は意を決したように、ストレートな疑問を口にする。


「観光客2人で一見さんじゃないというのも変な話だけれどね」


どこか苦笑いをしながら紫苑も彼は誰に向けてそう言った。


「僕はただの傍観者かな」


2人の方を見てそういう彼は誰はにこりと笑って見せた。


「ふむ、そうなると…」


彼は誰の言葉に紫苑は何かを考え始めた様子だ。


「一応の答えは見つけたしね」


そう言った彼は誰はゴクリとコーヒーを口に運ぶ。

紫苑から見たその仕草は彼は誰が知り得る情報を飲み込んだように見えたかもしれない。


「それは、伺わないほうがいいです?」


「観光客で神に使えていそうな方もいることだしね。果たして何人が一見さんなのやら、ね」

少し遠慮がちに花梨は問いかけた。

そして紫苑は何やら意味深に呟くようにそう言った。


「土産を楽しみにしているといいよ」


花梨と紫苑の言葉に彼は誰はそう言ってまたふふふと笑みを見せる。

が、ふと何かを思いついたように口を開いた。


「それなら、、、お付きの人を頼るといい」


そう言ってランブータンを口に入れると味わうように咀嚼する。


「そうだね、明日あってみようかと思っていたよ」


「私はとりあえず師匠について行きますね」


紫苑の言葉に花梨はそう言うと「教授は任せたよ」と紫苑は笑みを浮かべた。


「つまみ食いでもしてるといいさ」


それを聞いた彼は誰はにやにやしながら揶揄うような声を花梨へと投げかける。


「わ、私は師匠しか!!っゲフンゲフン/////」


花梨は慌ててそういうと顔を真っ赤にして咳払いをした。


「そっか」


紫苑はと言うと、追求するわけでもなく軽く流すようにそう口にした。


「とって食われるわけじゃあないよ」


楽しそうに笑いながら彼は誰はそう言うと続けてこう言った。


「そうそう、祭りの舞台は見たのかな」


「見学したよ」


彼は誰の問いかけに紫苑は頷きながら答えた。


「教授さん?って確かあの、薬師丸さん。、。でしたっけ」


「口の減らないお兄さんさ」


ようやく顔の赤みが落ち着いた花梨がそう呟くように言うと、それを聞いた彼は誰は笑顔で答えた。


「そうだね、もしかしたら彼は一見さんなのかもしれないね」


「では明日は教授さんに接触してみますね」


それを聞いた紫苑の言葉に花梨はそう言って笑顔を見せた。


「何か聞けるかもね」


そう言って彼は誰は意味ありげに笑みを浮かべた。

そして何かを思い出したように口を開く。


「チラシは見たかな」


チラシとは祭りについてのチラシであろう。

彼は誰の言葉に2人が頷くのを待ってさらに続けて言った。


「鎮めることとは、捧げ物と切っては離せない。誰が、何を舞うのだろうね。何を散らしていくのだろうね」


そう、謎めいた言葉を吐いてふふふと笑う。

少しの沈黙の後、紫苑が口を開いた。


「あえて言うなら。なぜ舞台が2つもあるのだろうね?」


「あなたはどちらが近いと思う?魅せるのなら、どちらを選ぶかな?」


紫苑の問いかけに、逆に彼は誰は問いを投げかける。

紫苑は真剣な顔で考えを巡らせているようだ。


「それは、海にか、宙にか、それとも?」


「ぅぅぅん。。。?」


独り言のように呟く紫苑と頭の中が?で埋め尽くされているような花梨であるが、その横で彼は誰はのんびりとコーヒーを口へと運んだ。


「さあてね」


のんびりとした口調で彼は誰は呟き笑みをこぼす。


「舞台が2つ。捧げ物。。。。」


「別なのかもね」


花梨の呟きに紫苑がそう呟くように言った。

謎かけのような彼は誰の言葉が2人の頭の中ではぐるぐると回っているのかもしれない。


「洞窟には行ったのだろう」


そんな2人に彼は誰がそう声をかけて続けて言った。


「まだ測りかねるけど、あれがひとつかな」


「神域、ね」


彼は誰のヒントにも似た言葉に紫苑がポツリと言葉を漏らす。


「どんなお店なのだろうね。行ったことはあるかな?」


「どうかな」


彼は誰の言葉に対して紫苑はそっと彼は誰の様子を伺ってみる。

どうやら特に何か思うところはないようだ。

あいも変わらず、思考を読み取りにくい笑みを浮かべてコーヒーを堪能しているようだ。


「それにしても珍しい果物達だよね」


今度は紫苑が不意にそんなことを話し始めた。


「祭りでもそんな珍しい果物が使われるらしいね」


「離島ということを差し置いても風変わりだね。普段見ない物達ならば効能がわからないものだってあるかもね」


紫苑の言葉に彼は誰はそう言葉を返す。


「わざわざ輸入しているようだけれど伝統的な祭りになんでだろうね?」


そして彼は誰の言葉にそう言いながら紫苑は意味ありげな笑みを浮かべた。

側から見れば腹の探り合いといったところだろうか。


「美味しいだけならかわいいものさ」


彼は誰は刑事であるわけだから、色々と知識もあるのだろう。

そう言いながらふっと笑みを浮かべた。


「伝説の植物も見る機会があってね。あれは何に使うんだろうね、少し心配だね。誰かが引き抜いてしまうかもしれないから、ね」


紫苑がそう言っているものはおそらく八百屋でみたマンドレイクのことだろう。

とはいえ、それを彼は誰が見たわけでもないわけで、何の話なのかよくわからないというような顔をしでいる。


「僕はあまり詳しくはないな。身近に聞けそうな人はいないのかい?」


「薬学に詳しい知り合いはいないかな」


彼は誰の問いかけに少し困ったような顔で紫苑は答えた。

紫苑の知り合いに教授はいるにはいるのだが薬学ではないのが残念と言ったところだろう。


「魔女の知り合いはいないかな」


彼は誰はそう言ってはははと笑って返す。


「魔女みたいな人はいるけれどね。最も性別は違うけれども」


「見た目に囚われるといいことはないね。僕もこの島で思い知ったよ」


紫苑がため息混じりにそういうと、彼は誰はふふふといつもの笑みでそう返した。


「見た目だけでなく、性格も好ましいよ」


紫苑はさらりとそう言うと花梨の方へチラリと視線を向けた。


「なんだか熱くなってきたね」


「?」


視線と言葉の意味を理解した彼は誰は揶揄うようにそう言って花梨を見た。

が、当の本人はよくわかっていないようで彼は誰と目が合うとにこりと笑う。


「そういえば、星空を見てみたいと思っているんだ」


「みたいです!」


話題を逸らすように紫苑がそう言うと、花梨は元気にそう言った。

花梨としては窓から眺める星空も素晴らしいものではあるが、やはり都会と違う輝きをもっと広々としたところで見たいのだろう。

とはいえ、紫苑の言葉には別の意味も含まれているのだが花梨には伝わっていない様子である。


「やはり天体観測は高いところだよね」


「屋上に出れればよかったのだけれど」


紫苑の言葉に彼は誰はそう答える。


「満天の夜空をどうしても見てみたいから、どうしようかなと思っていてね」


「弟子の顔でも眺めたらどうだい」


彼は誰は揶揄うような調子でそう言ったけれど、紫苑は動揺する様子も見せなかった。


「コウモリは怖くないけれど、目があるかな?」


「箱の他にも、扉を出たら気をつけるといい」


彼は誰の言葉をスルーしてそういう紫苑。

スルーされたことを特に気にする様子もなく彼は誰は意味ありげな笑みでそう返した。


「深淵をのぞく時、なんてね」


その言葉に紫苑もまた、意味ありげな笑みで言う。


「そうそう、遅くなったら迎えを寄越すと言っていたけれど、、、なんとまあ、いいサービスだよね」


彼は誰もそう言って意味ありげに笑う。

どうにか情報を引き出したい紫苑と、傍観者に徹することを決め込んでわずかな情報のみを伝える彼は誰の駆け引きが行われているわけだが、、、花梨はその横でのんびりと紅茶を楽しんでいる。


「まあ、僕は仕事柄変わったこともやるのさ。実はダンスが得意でね。まあそちらは弟子の方が上手いけれど」


「へえ、どんなものを嗜むんだい」


「!?」


そんな時に不意に紫苑が話題を自分に向けるものだから花梨は驚いた様子である。


「神楽舞でも踊ってみせようか?」


彼は誰の言葉に紫苑はニヤリと笑ってそう返す。


「え、え、出来なくはないですけど。。、」


「寝室でなければ見たいところだね」


紫苑の無茶振りとも思える話に花梨は困惑の表情を見せる。

そんな花梨に彼は誰はにこりと笑ってそう声をかけた。


「日曜に踊る機会があるかもね」


「なら楽しみにしておくかな」


「わくわく」


そんな花梨はさておき、紫苑は意味ありげな笑みでそう言うと、彼は誰もふふふと笑って言葉を返す。

花梨はと言うと、特に何を思うでもなく師匠である紫苑の踊りが見れるかもしれないという期待に胸を膨らませている様子だ。


「UNOでもやろうか」


そんなやりとりにどこか諦めたような、何かを吹っ切った様子で紫苑が提案を持ちかける。

花梨と彼は誰はそれに賛成するように頷きまた今夜もUNO大会が開催された。


「ふふ、今度は僕の上がり」


一回戦は彼は誰が一位のようだ。


「手札15枚…」


「て、手札いっぱいです。。。28枚。、。?」


歓喜の声を上げる彼は誰の横で紫苑と花梨がポツリと呟くように言った。


「ドロー4が決め手だったね」


「こ、今度は勝ちます」


したり顔で言う彼は誰に、花梨が少し悔しそうな声をあげたる。

そんなこんなで2回戦の開幕である。


「わーい!」


2回戦で一位を勝ち取ったのは花梨だった。

満面の笑みで嬉しそうな声を上げる。


「してやられたね」


「UNOって言い忘れてしまったよ」


はははと笑いながら言う彼は誰の横で紫苑がまたもやポツリとそんな言葉をもらす。

今夜はUNOの女神が紫苑に微笑まなかったらしい。

3回戦をやるかどうかと言う雰囲気でカードを紫苑が配っていたのだが、、、。


「ウトウト。。。」


勝ちに満足した花梨は紫苑と彼は誰が雑談をする横で船を漕ぎ始めている様子である。


「さて、夜も更けてきたかな」


それをみた彼は誰はクスリと笑ってそう言った。


「僕はこれから遊びに行くけれど、2人とももう寝た方がいいね」


UNO持ったままウトウトしている花梨を見ながら紫苑がそう提案をする。


「なら、お暇しよう」


紫苑の言葉を理解したのかはさておき。

彼は誰は花梨を見ると笑みを浮かべてそう返した。


「部屋までお連れしようか?」


うとうととする花梨に彼は誰はそう声をかける。

花梨はどちらとも返事をする様子はなく、彼は誰の声に目を擦りまたうとうとと眠そうな様子を見せた。


「私が連れていくよ」


様子を見ていた紫苑がそう名乗りをあげる。


「ならお譲りを」


紫苑の言葉を聞いて、彼は誰はにこりともにやにやとも取れる笑みでそう返した。

紫苑は眠たそうな花梨から部屋の鍵をうけとるとひょいっと抱きあげる。


「ベッドに倒れ込まないようにね」


ふふふと笑みを漏らしてそう言い残すと彼は誰は自分の部屋へと帰っていった。





花梨を部屋に連れて行き、紫苑はそっとベッドへと寝かせる。


「すーすー。だめー、ししょー。牡蠣フライにテケリ・リレモンをかけ過ぎないでぇ。すーすー。」


そんな寝言を言いながらも無邪気な寝顔の花梨を見て、ふっと笑みを漏らすと花梨が目につくであろう場所に部屋の鍵を置いた。

入るために鍵は必要ではあるが、出れば自動で閉まるのが幸いである。

部屋に戻った紫苑は荷物からコートとゴーグルを取り出した。

フードを深く被り、変装をほどこす。

支度を終えると紫苑は床に座り、壁に背を預けて仮眠をとる。

そして、深夜2時を回ろうかという頃にふっと目を覚まし、そっと部屋を出た。




足音を響かせないようにゆっくりと歩く。

そして階段を使い、慎重に1階へと向かった。

階段を降り切ったところで耳を澄ませて周囲の様子を探る。


(笑い声?)


方向としては受付がある方向、もしくは玄関の辺りだろうか。

聞き覚えがあるような、ないような。

そんな男女の笑い声が聞こえてくる。


(見張りかぁ。、、、裏口のようなものは知らないからなぁ)


玄関の方へ向かうことを諦めて、紫苑はそのままそっと地下の食堂へ向かう階段を降りた。

食堂自体の明かりはついているがキッチンは暗いようだ。

おそらく、食堂に夜食用のカップ麺の自販機があるための配慮だろう。

辺りを見渡し、耳を澄ませてみるも人の気配はないようだ。

ほっと胸を撫で下ろすも、注意深く歩き出す。

そして、どこでだったか見たこのホテルの地図を思い出す。

二台のエレベーターの横にある扉から物置のような部屋に入ると確か、従業員用のエレベーターがあったはずだ。

それはどこへ着くものだったか。

そう、ちょうど一階の階段裏あたりに位置しており、エレベーターを降りると裏口が目の前にあったはずである。

が、紫苑はそこでため息をついた。

探偵としての技能は持ち合わせてはいるが、一階で人の声が聞こえたことから色々リスクが高すぎる、と。


(これ以上は無理、か、、、。)


紫苑はまた一つため息をつくと、来た時と同じようにそっと階段を登り部屋へと帰っていった。

そして変装を解き身軽になるとそのままベッドへ身体を滑り込ませた。

色々思うところはあるのだが、、、。

目覚ましを6時半にセットするとそのまま夢の世界へと落ちていった。

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