滞在四日目 〜後編〜


夕日が沈み、暗くなり始める頃に紫苑と花梨はホテルへとと帰りついていた。


「沢山泳ぎました。。。」


ホテルに着くと花梨はクタクタだと言わんばかりの声を上げる。


「そういえば、今日珍しい魚を釣ったんだ。美味しいらしいから、ホテルの人に料理してもらおうかと思ってるよ」


紫苑はふと、思い出したかのように花梨にそう言った。

最後は糸が切れてしまって流した魚もいるが、夜食べるには十分な量の魚を釣り上げている。


「わぁ、羨ましいです」


紫苑の言葉に花梨は目をキラキラさせながらそう返す。


「食べるかい?」


「いいのですか? では甘えて。」


その言葉を待っていましたとでも言うように嬉しそうに花梨はそう言った。

花梨の可愛らしいその様子を横目に紫苑は受付の人にその旨を伝える。


「はいはい、仮屋崎さんから確かに預かってますよ。キッチンへ伝えておきますね」


受付の女性は紫苑と花梨にニコニコと笑みを向けながらそう答えた。


「ありがとうございます」


「やあ師匠」


ちょうどその時、彼は誰と葉山もホテルに帰り着いたようだ。


「やぁこんばんは」


紫苑は彼は誰へ挨拶を返す。


「なにやら賑わっているようだね」


「こんばんは」


葉山も彼は誰に続きにこりと笑みを浮かべて挨拶をする。

そのまま、葉山は彼は誰の横に立っているが自分から何か話を切り出す様子はない。


「釣った魚は大きかったよ」


「それはそれは。釣果を僕も見たかったものだなあ」


自慢げに話す紫苑の様子を彼は誰はそっと観察している。

そんな彼は誰に特に気づく様子もなく紫苑は記念に撮った写真を彼は誰に見せた。

スマホの写真の上には時間と日付が記載されている。

今日、釣りをして魚を釣り上げたことに間違いはなさそうだが、何かを隠しているようにも思えた。

恐らく、最後に糸を切られて魚が逃げてしまったことなのであるが彼は誰は知る由もない。

そして紫苑にはその話をする気はなさそうである。

お互いにそんな探り合いをしつつも雑談に花を咲かせた。


「では一服の後に」


話がひと段落すると、彼は誰は特に話に参加することなく隣に立っていた葉山の腕に自分の腕を絡めてそう告げる。

それじゃあと紫苑と花梨は2人と分かれて部屋がある2階へと向かっていく。

葉山と彼は誰は喫煙所に入るといつものように他愛のない話を交わし、それぞれの部屋へと帰っていった。






ひと足先に部屋へと戻った紫苑と花梨は荷物を部屋へ置くと食堂に向かった。

いつものようにバイキング形式である。

だが今日は紫苑が釣った魚料理を出してもらえるということで2人とも少なめに料理をとって席についた。


「今日は沢山釣れたんだよ、最後に糸が切れてしまったけどね」


紫苑は少し小声で恥ずかしそうな表情をしながら花梨にそう告げた。

そうだったんですかと花梨はふふっと笑みを漏らす。

先ほどの会話でその話をしなかったものだから、まるでイタズラを隠している子供のように花梨の瞳には映ったのかもしれない。


2人が席に着くと調理された魚が運ばれくる。

ミーバイの刺身、タマンの寿司、タマンのアクアパッツァ、ミーバイのバター焼きが次々とテーブルに並んだ。


「おお、これは美味しそうだ」


そう言いながら紫苑はふと思った。

自分はこんなに釣った覚えはなかった。

紫苑が釣ったのは1匹ずつであったはずだ。

恐らく湊が自分の釣った魚を数匹置いていってくれたようだ。

紫苑は心の中で湊に感謝を述べて食べ始めた。


「贅沢な食卓だねえ」


ちょうど料理に箸をつけ始めた頃、やってきた彼は誰がそう声をかけてきた。

当然のように彼は誰の隣には葉山が立っている。


「良かったら1口食べてみるかい?」


「なら、お言葉に甘えて」


取り分けたもらったそれを彼は誰はつまんで口へと投げ入れた。

なるほどこれはとても美味である。


「葉山さんも食べますか?」


「せっかくの戦利品じゃないか?いいのならお言葉に甘えて頂こうかな」


紫苑の言葉に葉山はにこりと笑ってそう答えた。

テーブルはちょうど4人掛けである。

紫苑と花梨はどうぞどうぞと2人に相席を進めた。

そんな2人の言葉に、彼は誰はチラリと葉山を見るが葉山は彼は誰の好きにという様子である。

彼は誰と葉山は結局2人に同席することにして食事をいくらか取りに行く。

そして紫苑と花梨の待つ席へと向かった。



4人が和気藹々と食事を始めて少しした頃、田中が食堂へとやってきた。


「やあ田中さん」


1番先に目についた彼は誰が和やかに声をかけた。


「あら、、、仲のいいこと」


声に気づいて4人の方を見た田中はふっと笑みを浮かべてそう呟くようにいった。

花梨は食事に夢中なようで特に反応はない。


「あぐあぐ」


「田中さんも食べますか?美味しいですよ」


そう言って紫苑が声をかけると田中はチラリとテーブルの料理に視線を向けた。

、、、ように見えたが紫苑だけは違うことに気づく。

田中は料理ではなく、食事に夢中な花梨に視線を向けたようだ。


「ありがとう。お気持ちだけ頂くわ」


そう言って田中はにこりと笑い、バイキングの方へと歩いていった。

いくつかの料理を皿に乗せると4人から少し離れた席へと座り食べ始めた。

紫苑は1人、考えを巡らせていた。

今まで聞いた話の内容を思い出していくと一つの答えが浮かぶ。

もしかして、田中は花梨に苦手意識みたいなものがあるのでは、と。

しかし、色々とあったのだから仕方ないかもしれないと内心ため息をついた。

それから4人は雑談に花を咲かせながらのんびりと食事を楽しんでいたわけだが、田中はその間にさっさと食事を済ませて部屋へと帰っていった。





食事を終えた彼は誰と葉山は喫煙所へ行き、その後、それぞれ部屋に戻ると風呂に入る。

紫苑さんと花梨は食事を終えた後は一度部屋に戻って風呂に入るようだ。



風呂から上がると彼は誰は部屋に戻り、日課となっている日記を書き始める。

今日は色々なことがあった。

今までで1番長く綴られる日となるかもしれない。

男性陣は相変わらずサクッと風呂を済ませて部屋に戻ったようだ。

1番長風呂の花梨は風呂から上がると一度部屋へと戻る。

そして持ってきた中で1番可愛いパジャマに着替えておめかしを始めた。

化粧水と乳液で肌を整えて、まだほんのり濡れている髪を解いて整える。

それらをさっと済ませると部屋の戸締りをして紫苑の部屋の扉をコンコンとノックした。

すぐに扉が開き、中から紫苑が顔を出す。


「どうぞ」


そう言ってドアを開け、部屋に招き入れた。

立ち話をするのもと思ったのか、彼は誰の忠告を気にしたのかはわからない。

部屋に入ると紫苑は備え付けのコーヒーを二つ淹れて一つを花梨に手渡した。

そしてベットの端に並んで座る。


「もう旅行も折り返しですね、あっという間です」


「時間が経つのは早いね」


花梨の言葉に紫苑は少し残念そうに笑って答える。

そして紫苑は花梨がどこかモジモジしている様子に気がつくと同時にあることにも気がついた。


「可愛いパジャマだね」


「あ、ありがとうございまひゅ」


そう、花梨はそのことに気づいてもらえるかどうかとそわそわモジモジしていた様子である。

しかし、褒められたらそれはそれで恥ずかしさもあるわけで顔がうっすらと赤く染まった。


「そういえば、あの、かはたれさん?とは何かお話されてたのですか?」


恐る恐る、というのは言い過ぎかもしれないが花梨はどこか意を決したようにそう問いかけた。

花梨が言うのがどのタイミングでの話であるのかはわからないが、、、。


「うーん、強いて言うなら…前回の旅行みたいなことになる、かもね。まだ分からないのだけれどね」


何かありそうな気配はする。

だがしかし、紫苑はそのことに対しての情報が明らかに不足していた。


「なるほど。。。楽しい旅行がいいです。。。」


「そうなるといいね。思い出を忘れないように、ね」


紫苑の言葉に花梨はこくりと頷くと残りのコーヒーをぐいっと飲みほした。


「はい。。それじゃ、そろそろ寝ますね」


「おやすみ」


カラになったカップを受け取ると紫苑は扉まで花梨を見送る。

そして自分の部屋に戻るとそのままベッドに潜り込んだ。

今日も色々なことがあった。

そのせいか、数分もすると花梨はすやすやと眠りの中に落ちていった。

花梨が部屋へ戻った後、紫苑はいつものように寝る支度をする。

携帯を充電器に差し、窓の外に向けてカメラを設置すると録画ボタンを押す。

そしてベットの中に入ると程なくしてスヤスヤと眠りに落ちていった。

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