滞在四日目 〜中編(1)〜

花梨が公園へと向かう頃、師匠である紫苑は三原と共に田園地帯に向かっていた。


「ちょっと気になっていたのだけど、薬師丸さんはなんのご職業なのでしょう?」


道すがら、紫苑は三原に尋ねてみる。

すると三原は苦笑いを浮かべて答えた。


「まぁ、そうですね、、、大学の関係者と言いますか、、、」


職業を偽って参加しているのだろうか。

それとも、三原なりにあの注意書きなどの意味を理解して知られるのはまずいのではという思いからだろうか。


「なるほど、僕の知り合いにも大学の教授がいましたけど、似たような感じかもしれないですね」


「そうなんですね!そんな感じ、ですねぇ」


紫苑の言葉に警戒心のようなものが若干解けたのか、はははっと笑って三原は答える。

そんな雑談をしながら進んでいると、田園地帯が見え始めた辺りで誰かが言い争うような声が聞こえてきた。


「ここの田んぼや畑の土を少し分けてくれるだけでいいんだよ!!」


「だからあんたもしつこいなぁ、無理なものは無理だって!」


どちらの声も紫苑には聞き覚えがあった。

しかし、そのやり取りを聞いた瞬間、三原の顔は段々と青ざめ、自転車のスピードが上がっていく。

目的地へと着くと、そこには薬師丸と三原が立っていたのだった。


「うわぁっ!ちょっ、き、、、薬師丸さん!!何やってるんですか!!」


三原は自転車を投げ捨てる勢いで止めると薬師丸の元へとかけていく。

額の汗は暑さというよりも冷や汗の方が正しいかもしれない。


「おや、三原くん、遅かったじゃないか」


その元凶とも言える薬師丸は三原の姿を見てもマイペースな口調でそう声をかけた。

まるで最初から打ち合わせをしていてこの場所を指定していたかのような口ぶりである。


「待っててくださいっていったじゃないですか!」


「しらんな!私は私の好きな時に好きなところへ向かうのだ」


そういう三原の言葉は聞く耳を持っていない様子でわっはっはと豪快に笑い声を上げた。


「あはは、見つかったようでなによりだね」


現状はさておき、薬師丸が見つかったことに紫苑は笑顔を見せた。


「ところで、なにか揉め事でも?」


薬師丸が言い争っていた相手、それは三春であった。

薬師丸と三原のやり取りを困ったような、呆れたような顔で見ている。


「ほんとすみません、すみません!この人にはよく言い聞かせておくので!」


「揉め事などおこっておらんよ。ちょっと土壌が知りたくて分けてもらおうとしただけだ!」


三春に対してペコペコと頭を下げる三原とは対照的に薬師丸はふんっと鼻を鳴らして若干不機嫌そうな顔をする。

まるで子供のような態度だ。


「薬師丸さん!!ここへは仕事の疲れを癒すために観光に来たんですから!問題起こさないでください!!」


そういう様はお目付役というか、子守役というか。

母親と子供のような構図である。


「おや三春さんこんにちは」


「島のものを持ち帰るのは禁止されてるって説明は受けてるだろう!っと、、、あんたか。こんにちは」



紫苑は苦笑いを浮かべながら挨拶をした。

三春も同じく苦笑いを浮かべて紫苑に挨拶を返す。

二人がここに到着するまで、どれほどの時間先程のような押し問答をしていたのかは定かではないが、どこか疲れ果てているように見える。

その間も三原が薬師丸を宥めているようだがどこ吹く風だ。

悪びれもせずにふんっとそっぽを向いている。


「なかなか大変そうですね、お付の彼も苦労しているみたいで。効くかはわからないですが僕の方からも宥めておきます」


「それは助かるよ!」


紫苑の申し出に三春は肩の荷が降りたと言わんばかりに嬉しそうににかっと笑みを見せた。

そして困り果てている三原と薬師丸のそばへ紫苑が近づき薬師丸を宥め始める。

初めは渋っていた薬師丸だったが、どうにか土壌を持ち帰ることは諦めがついたようだ。

幾分か拗ねた様子ではあるが、不機嫌は治ったらしい。


「ここであったのも何かの縁です、良かったらカフェで食事でもどうですか?」


話がつくと紫苑は二人にそう提案を持ちかけた。

そもそもが薬師丸を探していた紫苑である。

話をするならばかふぇはうってつけの場所だろう。

しかしそれを聞いた薬師丸は目を輝かせて興奮気味に口を開いた。


「いやぁ!あのカフェのコーヒーは素晴らしい!君にあのコーヒーの良さがわかるかね?」


よほど気に入っているのだろう。

急に上機嫌になったようで笑顔をみせた。


「一緒に食事をしようということです、すみません」


てっきりコーヒー談義をしたいのかと思ったがそういうことではないらしい。

三原が申し訳なさそうな顔で通訳をしてぺこりと頭を下げる。

恐らく、それが彼らの日常なのではと紫苑は思えた。


「あれは素晴らしいですよね、僕も気に入っているんですよ」


「そうか、そうか、では行こう!!」


三原に気にしないというように笑みを見せた後、そういう紫苑に益々薬師丸のテンションは上がってしまったようだ。

紫苑の方を促すようにバンバンと叩いたかと思うと意気揚々と自転車に跨り漕ぎ始めた。

紫苑と三原は慌ててそれを追いかけ始める。

三春はようやく嵐がさったというようにため息をつくと、気を取り直すかのように仕事へと戻っていった。








さて、こちらは少し時間を戻ることになるが弟子の花梨である。

公園に着くとぐるりと辺りを見渡してみる。

特に気になるものは見当たらなかったが、着替えるのに身を隠せそうな木があるのは見つけた。

が、それと同時に先日あった親子が奥の砂場で遊んでいるのが目に入る。

他にも数人、ちらほらと子供達があちらこちらで遊んでいる様子が伺えた。

花梨はもう一度辺りを確かめて木の影で着替えを済ませる。

そして、ききょうと父親であろう男性が一緒に遊んでいる砂場へと向かった。


「こんにちわ」


「ん?あ、先日の、、、こんにちは。今日はずいぶん華やかな格好をしているね」


花梨は笑顔で声をかけるとそれに気付いた男性は柔らかな笑みを浮かべてそう返す。


「これから、趣味のダンスをしようかと」


「ダンスか、、、確かにそういうことをするなら絵になる景色は多いところだと思うよ」


花梨の言葉に男性はなるほどという顔でにこりと笑った。


「あはは、景色は壮大ですけど、写ってるのが私なので少し褪せちゃいますけど笑」


花梨がそう行った時、砂遊びに夢中だったききょうが目を輝かせて花梨を見ていた。


ききょう「ねーたん、かーいい」


「あぁ、だめだよききょう。汚してしまうから」


男性は花梨に駆け寄ろうとしているききょうを慌てて止めた。

先程まで夢中で砂遊びをしていたのだから、当然のごとく手も服も泥だらけである。

ききょうはそれでも諦めずに男性の腕の中でじたばたとしながら今にも大泣きしそうだ。


「やーらー!!ねーたん」


そう叫びながら必死に花梨に手を伸ばしている。


「おいでー、ききょうちゃん」


花梨は桔梗に向かって満面の笑みで手を差し伸べた。


「昨夜の雨でぬかるんでいるから、ききょうは汚れてしまっててその衣装汚してしまうよ?」


男性は苦笑いをしてそう告げたのだが、花梨がかまいませんと答えるものだから渋々とききょうを解放した。

すると一目散に花梨の腕の中へと駆けて行く。

子供というものは素直である。

自分の状態も顧みずに花梨へと抱きつき満面の笑みである。

そうなると当然のように花梨の煌びやかな衣装は泥や涎などであちこち汚れてしまう。


「あぁ、、、だからダメだって言ったのに。ききょう、こちらにおいで?それ以上その素敵な衣装を汚してはいけないよ」


本人がいいとは言うものの、やはり申し訳なさは生まれるものだ。

幼い我が子に分かれというのは無駄なことと知りながらも男性はききょうにそう声をかける。


「やーらー!!」


ききょうは花梨に顔を押し付け、左右にいやいやと首を振りより一層がっしりと花梨に抱きついた。

もしかしたらイヤイヤ期というものだろうか。

大多数の人ならばその現状に顔をしかめるのかもしれないが、花梨はニコニコとしてききょうの頭を撫でて男性をみると口を開いた。


「いいですよ、衣装くらい。よしよし、ききょうちゃん」


「普通の泥だから洗濯をすれば落ちるとは思うけれど、、、」


苦笑いをする男性とは対照的にききょうは満面の笑みである。


「ふふ、今日も元気いっぱいね、ききょうちゃん」


花梨もニコニコと笑顔を返す。

ひとしきり花梨に甘えてききょうは満足したのだろう。

今度は花梨の腕から逃れ、父親である男性の元へと走り寄った。


「さて、そろそろいきますね」


それを見届けてから花梨はにこりと笑って男性に告げた。


「せめてこれで少しでも落ちるといいけど」


男性は申し訳なさそうにポケットからハンカチを取り出す。

しっかりした奥さんなのだろう。

丁寧にアイロンがけをされているようなハンカチである。


「ありがとうございます、洗濯して返しますね。ききょうちゃん、またあそぼうね」


「あぁ、気にしなくて大丈夫ですよ。安物ですから捨ててしまって構わないよ」


「ばーばーい!」


「いえいえ、ではまた!」


ハンカチを受け取り、二人に別れを告げると花梨は乗ってきた自転車にまたがり再びお城を目指すのだった。








ちょうどその頃、彼は誰と葉山は公園へと向かっていた。

日が登るにつれて気温は上がっているのだが、自転車を漕ぐことで吹き付ける風が優しく火照りを冷ましてくれている。

彼は誰はふと周りの景色を見渡すと、遠くで自転車を漕いでいる3人を目にした。

そして別の方向をみると方角的にお城へと向かっている花梨の姿も見える。

どうやら3人で話をしながら村に向かう紫苑であったがあちらも遠くで自転車を漕いでいる二人の姿を見つけたように思えた。

その証拠に、紫苑が彼は誰に向かってひらひらと手を振っている。

彼は誰もそれをみてヒラヒラと手を振りかえした。


「やあ師匠」


彼は誰はそう叫んでみたものの、紫苑には声は届かなかったようだ。

おそらく、薬師丸のマシンガントークにかき消されてしまったのだろう。


(まぁ、彼が一緒にいるんじゃ仕方ないか)


そう思いながら彼は誰は目的地に向かって自転車を漕ぎ進めた。








6人がそれぞれの道を進む頃、一番先に目的地に到着したのは花梨である。


「さて、始めようかな」


用意してきた曲は千本桜といろは唄である。

ビデオカメラを設置して、写りを確認した後に曲を流して数回それぞれ踊り始めた。

一度踊ってはカメラチェックをし、そしてまた踊る。

いまいちと思う部分は別の振り付けへと変えてまた踊る。

そうやって1時間ほど踊っていたが、しっかり寝たおかげか調子はよかった。

最後にはしっかりと満足できるものが撮れたらしく、花梨は満面の笑みを浮かべて一人頷いていた。






さて、少しだけ時間を戻すとしよう。

こちらは公園へとたどり着いた彼は誰と葉山である。


「木を隠すなら森の中、か」


小声で彼は誰が呟くように言うと葉山が少し笑みを浮かべて口を開いた。


「まぁ、見てみなよ。鮮やかな青がみれるよ」


あたりをのんびりと見渡しながらそう告げる。

葉山の言葉に彼は誰もあたりを見渡した。

すると、ある物に気づいてゆっくりと歩き出す。

公園の中央にある城壁と思われるものが目に入ったのだ。

そっと近づいてよくよくみてみるとあることに気がついた。


(これは、、、?)


その蒼く輝く城壁の一部であろう物には次のような言葉が小さく刻まれていたのだ。


『常世ノ國ヨリ出シ神アリ

コノ地ニ富ヲ福ヲ呼ビタモウ

更ニ尊キ神コノ地ニ降リタチ

我ラニ永遠ノ命ヲ与エン

神ヲ食スハ神ノ神子也

神ノ使者ハ島ヲ守リ

我ラノ安寧ノ地トナサン』


それをみた彼は誰はゆっくりと近づいてきた葉山に言うようにぽつりと口を開く。


「ふうん。惰眠をむさぼる神もいたものだね」


「これの意味がわかったのかい?」


ちょっと驚いたような口調で葉山はそう言うが、彼は誰にはそれがフリであることはすぐにわかった。

葉山にとって、彼は誰がそれくらいのことは難なく読み解くと思っていたからこそここへ連れてきたのだろうから驚くわけがないのだ。


「なんとなく予測はつくよ。ここまでくれば、ね」


ニヤリと彼は誰は笑ってみせた。

現代語に訳すと次のような意味となるであろうことは彼は誰の脳内では処理済みである。


『常世の国からやってきた神がいた

この地に富と幸福を呼び込んでくださった

更に尊い(高貴な)神がこの地にやってくると

私達に永遠の命を与えてくれた

神(以前いた神?)を食べる者は神の子(巫女?)である

神の使者がこの島を守ってくれるので

(この島は)私達の安寧の地となった』


少しだけ考えた後、彼は誰は葉山の方を向いて口を開いた。


「常世の国は青の底、かな」


「少なくとも、この島ではそう呼ぶのだろうね。ここではないどこか、であることは間違いないね」


二人は小声でそんなことを交わした後、にこりと笑った葉山が普通の音量で言葉を続けた。


「この石で緋色にアクセサリーでも作れたら綺麗だろうけどそれは無理かー」


残念そうにそういいはしたが、彼は誰から見ればわざとらしさ満点である。

しかし、さすがの彼は誰である。


「やだぁゆうちゃん!」


背中をばしりと叩き、葉山の腕にぎゅっと抱きついた。


「月の降る夜に、ね」


そのまま小声でそっと葉山にそう告げる。


「っっっ!今夜は、無理かな」


慌てたように声を潜めて葉山は返す。

その様子がどこかおかしかったのか、なぜか満足そうに微笑んで彼は誰は葉山の腕を離れた。


「またゆっくり、見に来るかな」


「そうだな。さて、次はどこへ行こうか?」


葉山の言葉に彼は誰はそうだなとあたりを見渡すと、ブランコにいる二人の少女が目についた。

一人は白い髪に赤い瞳をして巫女服を着ていて、もう一人は特に目につく特徴はない女の子である。

二人は同じ歳頃のように見えるが、雰囲気は姉妹のようにも感じた。


(ふむ、、、)


二人を観察していた彼は誰はあることに気づく。

巫女服を着た子供は今回の祭りの巫女なのではないだろうか、と。


「ねえ、ゆうちゃん」


「ん?」


「ブランコのとこの娘、可愛くない!?」


急に演技を始めた彼は誰に不思議に思い、葉山はあたりを見渡した。

当然のように帽子を深めに被り、俯きがちの葉山である。

彼は誰に言われ、初めてその二人に気がついたようである。

が、それを顔に出す葉山ではなかった。


「ほんとだね、声でもかけてみるかい?」


「ついでに写真も撮っちゃう~!?」


「そうだなぁ、あの子達がいいなら記念に撮ろうか」


そんなことを話しながら、二人はブランコへと近づいていく。


「こんにちは」


先に葉山がにこりと笑って声をかけた。


「君たちかわいいねぇ!お写真撮る!?」


ニコニコと笑いながら彼は誰も声をかけるが、明らかに二人は警戒している様子である。


「僕は葉山、彼女は緋色っていうんだ。知っているかもしれないけど今回観光させてもらってる者だよ」


「・・・・」


白い髪に赤い瞳の女の子は葉山と目が合うと、黙ってもう一人の子の背中に隠れた。

容姿のせいなのかもしれないが、こちらのこの方が警戒心が強いのか人見知りなのかもしれない。


「あ、こ、こんにちは!私はすみれ、おね、、、えと、この子はみどりです。その、人見知りで、、、」


その様子に慌ててもう一人の子、すみれが慌てて口を開いた。

その様子に彼は誰はゆっくりとしゃがんで目線を合わせるとにこりと笑みを浮かべた。


「あら、ごめんねびっくりさせちゃって。すみれちゃんに、みどりちゃんね。よろしくっ」


彼は誰の言葉にチラッとみどりはすみれの背後から顔を覗かせるが、彼は誰と目が合うとまたささっと背後に隠れてしまった。


「かーわーいーいー!!」


そんな様子を見て、彼は誰はウキウキとした黄色い歓声を上げる。

その様子を黙って見ている葉山ではあるが、彼は誰の演技力には内心いい意味で苦笑いをこぼす。

普段、どちらかというとクールな部類である彼は誰が演技とはいえそのような発言をするとは、といったところだろう。


「すみれちゃん、よかったらお写真、いい?」


「え、えぇっと、、、」


困ったように、戸惑った様子のすみれは背後に隠れているみどりをチラリと見ながら考えているようだ。

その様子を見てようやく、といった様子で葉山が行動に出る。

彼は誰の横に行き、同じく目線をみどりに合わせて口を開いた。


「みどりちゃん、僕の目を見てくれるかな?」


その言葉に恐る恐る、といった様子ですみれの背後から顔を出したみどりは葉山の瞳をじーっと見つめた。

そして驚いた様子を見せ、葉山に駆け寄りぎゅっと抱きついたのだ。


「ふふふ。珍しいこともあるのね」


「お姉ちゃん?!!」


その様子にすみれはよくわからないと言った様子で驚き、事情を知る彼は誰は笑みを浮かべて二人を眺めた。

葉山はというと、抱きついてきたみどりを優しく受け止めてそっと頭を撫でてやっている。

それから背をぽんぽんと優しく叩きあやしている様子だ。

どうやらみどりは声を押し殺しながら泣いているようである。


「あの、あの、その、みどりはすごく人見知りで、その、初めて会った人にそんなことしたりは、、、」


どうしていいのか分からず、すみれはしどろもどろにそう告げた。

それから葉山に向かって少し警戒した様子で言葉をつづける。


「え、な、なんで泣くの?葉山さん、あなた、、、誰なんですか???」


「、、、、、」


黙っている葉山にますますわからないという様子ですみれは彼は誰を見た。

すると彼は誰は口に指を当ててすみれに視線を合わせるとにこりと笑って小声でこう告げる。


「君たちの味方、だよ。落ち着いて、話を聞いてくれるかい?」


「う、うん」


彼は誰の言葉に戸惑いを隠しきれない様子であるが、すみれはコクリと頷いた。

それを見届けた彼は誰は葉山に目配せをする。

葉山は彼は誰と目が合うと軽く頷くと、そのままみどりを抱き上げて立ち上がった。

その間もみどりは葉山にぎゅっと抱きついて泣いている。


「あっちのベンチに座って話そうか」


「いこっか」


葉山の言葉に彼は誰は頷くと、すみれに手を差し出しながらそういった。

すみれは驚き、あたりをキョロキョロと見渡すと、恐る恐るその手を握りしめた。


「ごめんねー!さあ写真写真!」


すみれの手を握って立ち上がると、彼は誰はわざとらしく大声でそう言ってあたりをさっと見渡す。

カモフラージュのための言葉であったが、不思議なことが起きていた。

それまであんなにも気になっていた島民の目が一切ないのだ。


(、、、)


「やっぱりな」


葉山がぽつりと呟くようにいう。

その言葉に彼は誰は苦い顔をした。


「しくじったかな」


自分がすみれとみどりに不要に近づいた為にこのようなことになったと思ったのだろう。

しかし、葉山は彼は誰の言葉に軽く左右に首を振った。


「この島は昔からこうさ」


「、、、行こうか」


葉山の言葉の意味は深く理解はできなかった。

が、とりあえず彼は誰はそう答えた。

そして四人は近くにあるベンチへと座った。

葉山、みどり、すみれ、彼は誰の順で座りはしたものの、ベンチにみどりをおろしたあとも葉山にピタリとくっついて離れようとしない。


「本当に、不思議なものだね。惹かれあう何かがあるのかもしれない。同じ境遇同士、ね」


「え、、、え?」


彼は誰の言葉にすみれは状況を把握しきれていない様子だ。

葉山と彼は誰を交互に見比べて不安げな表情を見せている。


「すみれちゃんはみどりちゃんの監視役、かな」


「?!!」


葉山の言葉にすみれは驚きと、そしてぎくりとしたような複雑な表情を浮かべた。

そんなすみれと目があった葉山は苦笑いをして口を開く。


「渚は僕の幼馴染でね。先日会ってきたんだ。そういえば君ならわかるだろう?」


驚きを隠しきれない様子のすみれはそのまま彼は誰をみた。

もしかして彼は誰も、と思ったのだろう。


「僕は違うけど、彼が、ね」


「?!!!」


何故か彼は誰が残念そうな顔をしているように見えるのは気のせいだろうか。

しかし、すみれはその言葉を聞くと葉山に飛びつきそうな勢いで口を開いた。


「お願いします!お姉ちゃんを助けてください!!」


「、、、すみれ?」


すみれの言葉にやっと落ち着いてきたみどりはか細い声で名を呼んだ。

すみれが何故そんなことを口走るのかというように、不思議そうに首を傾げている。


「その前に一つ。進行には、差し支えないのかい?」


「化け物にも心があるものだからなぁ、、、みどり、君はどうしたい?」


「、、、、」


彼は誰の言葉を聞いた葉山はそう答えると、みどりの方を見て問いかけた。

予想もしていなかったであろう問いかけにみどりは戸惑っているようだ。


「それで、いいんだね」


彼は誰の言葉に葉山は頷く代わりに笑みを浮かべる。


「お姉ちゃん、死んじゃう。だから、緋色さん、葉山さん、助けてください!」


そう言ってすみれは立ち上がると二人の方を交互にみて続けて言った。


「ここは私たちがいるから誰も今は来ません!私が言わなければ誰も知ることができません!だからっっっ」


すみれはそう言って涙を流し始めた。

そんなすみれを見たみどりは、葉山から離れて立ち上がるとすみれの頭をよしよしと撫でて始めた。


(、、、そうか、やはり、、、)


その様子を見ていた彼は誰はそっと思いを巡らせた。

これまで得た情報と、それから予想される答え。

二人に対してもまた、色々と考えているようだ。


「みどりはこの先、その身体で生きていく覚悟はあるかい?それとも、死を望むかい?」


葉山のその問いかけにすみれは驚いた顔を見せる。

そしてどこか怒りを含んだ声で叫ぶように口を開いた。


「急に何を言い出すんですか!」


すみれのその問いかけのような言葉に、葉山は眼鏡を外し、片方の瞳からコンタクトを取り外した。

取り出したコンタクトは真っ黒に染まっている。

そして瞼を持ち上げた葉山の片方の瞳はみどりの瞳よりも一層赤く染まっていた。

その様子を彼は誰は黙って見つめていたが、それを目にしたすみれは言葉を失い、驚きの表情を見せている。


「綺麗じゃないか」


沈黙を破ったのは彼は誰である。

とはいえ、お世辞ではなく本心でそう思って口にした言葉だ。

ルビーよりも赤く、血の色よりは鮮やかなその瞳は太陽の輝きで彼は誰にはどの宝石よりも美しく見えた。


「物としてみればそうかもしれないな。」


その心情を察したのかはわからないが、葉山はははっといつものように笑って言葉を返した。


「ふふふ、呪いの代償かな」


「まぁ、、、望んで手にした呪いではないけどね」


二人のやりとりにすみれは何をいうべきなのかわからなかった。

葉山の言葉から瞳に色があることは察することが出来ただろう。

しかし、みどりと同じ存在であることはおそらく予想外だったのではないだろうか。


「わたし、、、は、、、」


話慣れていないのか、何か考えているのか。

訪れた沈黙の中、みどりはぽつりと、ゆっくりと口を開いた。


「、、、、、、消えてしまいたい」


「?!!!!」


葉山の方をみてしっかりとそう言葉にしたみどりであったが、みどりのその言葉にすみれはぎゅっとみどりに抱きつきさらに涙を流し始めた。


「ここでのことは、誰にも言わない。約束できるね?」


少しだけ間を開けて、葉山は二人にそう優しく話しかけた。

それに対して二人はコクリと頷く。

それを確認すると葉山は言葉を続けた。


「何事もなかったようにこの後も振る舞うこと。そうすれば、僕が運命の日に全て終わらせる。だけど、そこで僕のように生きるか、死を選ぶかはみどり、君が決めるんだ。いいね?」


葉山の言葉にみどりは困惑したような顔をして、少しの間の後にまたコクリと頷いた。

その様子を確認すると葉山はまたコンタクトをつけ元のように眼鏡をかける。


「さて、長居をしては覗き魔が寄ってくる。そろそろ俺たちは行こうか」


葉山は立ち上がると彼は誰に向かってそう言った。


「そうだね。と、その前に。記念撮影だ」


写真を撮るというのは口実であり本音だったようだ。

彼は誰はカメラを取り出すと3人に向かってにこりと笑みを向けた。


「あ、あの、、、」


そんな彼は誰にすみれは涙を拭いながら、何か言いにくそうな様子で口を開く。


「お写真、島の人には見せないでください。ううん、絶対に、見つからないでください!じゃないと、、、消されちゃうから、、、その、、、記憶を、、、」


写真を撮ること自体に反対ではないようだ。

けれども、二人の身を案じてだろう。

少し青ざめているようにも見えるが、途切れ途切れにそう、必死な様子で伝えてくる。

そうなった時の最悪の事態でも思い浮かべてしまったのだろうか。

拭ったはずの涙はまたゆっくりとすみれの頬を伝っていく。


「ふふふ、大丈夫さ。僕を誰だと思っている」


どこかドヤ顔をして満面の笑みを浮かべる彼は誰をみて、すみれは涙を拭うとふふっとおかしそうに笑った。

その横ではうっすらとみどりも笑みを浮かべている。

それから彼は誰がカメラマンとなり2、3回シャッターをおした。

そのうちの一枚を二人に手渡す。


「この笑顔を覚えておいてね」


みどりもすみれも泣いて少し目元は赤くなっているけれど葉山と彼は誰に話したことで何かスッキリしたのだろうか。

写真には恥ずかしそうに笑う二人と共に並ぶ葉山の姿が写っていた。

写真を受け取った二人は相変わらず恥ずかしそうではあるがどこか嬉しそうに笑みを浮かべる。


「緋色も二人と一緒に映るといい。俺がとるよ」


葉山の言葉にすみれとみどりも乗り気なようだ。

彼は誰はそれじゃあと葉山にカメラを手渡すと二人の間に立った。

みどりもすみれも嬉しそうに彼は誰の手をぎゅっと握っている。

こちらも2、3回シャッターを押してそのうちの一枚をすみれとみどりに手渡した。


「それじゃ、行こうか」


葉山の言葉に彼は誰は頷くとみどりとすみれに別れを告げて公園を後にした。

すみれとみどりはニコニコと笑顔で手を振り、二人を見送っている。

葉山は今、何を思っているのか。

公園の二人に手を振ったあと、前を見据えるその顔はどこか険しさを増しているように彼は誰には思えたのだった。

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