滞在三日目 〜中編(3)〜

さて、時間を昼過ぎまで戻るとしよう。

こちらはかふぇで少し遅い昼食を終えた葉山と彼は誰。

彼は誰はマスターのコーヒーにご満悦の様子だ。


「さて、次はどこへ連れてってくれるんだい?ゆうちゃん」


そう言って葉山の腕にするりと自分の腕を絡めて寄り添う。

葉山は“ゆうちゃん”と呼ばれることを諦めたらしい。

そこには敢えて触れることはなくニヤリと笑った。


「少し散歩でもしようか」


葉山の提案に同意して、2人はそのまま田園に向かってのんびりと歩き始めた。


「波打つ音がきれいだね」


僅かに流れる穏やかな風を感じながら彼は誰は囁くように呟く。


「そうだね、、、まぁ、何も知らなければ、ね」


同じように囁くようにぽつりと葉山は意味深な言葉を返した。

そして2人は言葉少なに歩いていく。

その後、地図で言えばダイビング受付とつぅーつぅー洞の間あたりを葉山に誘われるように歩いていくと獣道らしきものが見えてきた。


「お祈りはあまり信じないかな」


「ははっ、、、そうだろうね。足元、気をつけて」


彼は誰の腕からするりと抜けて葉山は先導する。

葉山は彼は誰を気遣いつつ、その獣道を慣れた様子で進んでいく。


(、、、)


色々と聞きたいもあるが、葉山を追いかけながら彼は誰は何か考え込んでいる様子だ。


(そうか、彼は、、、)


そしてふと、何か答えを見つけたような表情を見せた。

が、先をゆく葉山はそれに気づいている様子ではなかった。

獣道を抜けたかと思うと、不意に目の前に石でできたトンネルのようなものが見えてきた。

人が1人やっと通れるようなトンネルである。

それを進んでいくと、その先には広い空間が広がっていた。


「staff onlyってところかな」


「・・・まぁ、知っているのはごく僅かだよ」


呟きのような彼は誰の言葉に葉山はそう返してふふっと笑った。


「ここはつぅーつぅー洞の先さ」


そしてふっとその笑顔は消え、ぽつりと呟くように言った。

その瞳は広い空間のその先を見ているようだ。

何かを決意したような、もしくは何かを思い出しているような。

そんな遠い目をしていた。

意識的にか、無意識的か彼は誰は葉山の腕に自分の腕を絡める。

葉山は気にすることなくゆっくりと歩き始めた。

どんどん歩いていくと、鳥居らしきものが見えてくる。

それでも葉山は歩みを止めない。

彼は誰は腕組みをやめて葉山の一歩後ろからそちらへついていく。

近づいてみるとその鳥居は真っ黒であった。

普段見慣れている赤い鳥居に比べるとなんだか禍々しさを感じる。

好奇心なのか、恐怖なのか。

彼は誰の心臓はどんどん早鐘を打ち始めた。

構うことなく葉山は奥へと進んでゆく。


「祭るものは神聖か、それとも、、、邪かな」


後ろからそう声をかけられた葉山はチラリと彼は誰の方を見てニヤリと笑うだけで特に何も答えなかった。


(、、、後者、かな)


そう思って彼は誰はふふっと薄ら笑いを浮かべる。

鳥居を抜けた先はまるで奥にあるものを隠すように沢山の木々があり、その道なき道をまるでよく知る道のように葉山はどんどん進んでいく。

どれくらい歩いただろうか。

不意に葉山は立ち止まった。


「終着駅にご到着」


そう言って彼は誰は立ち止まった葉山の先にあるものに目を向けた。

そこには見慣れぬ祭壇があり、その横には池のようなものがある。


「まぁ、そうだな」


彼は誰の言葉に葉山がぽつりと呟くように返す。


「あいにく五円玉は切らしていてね」


「必要ないさ」


戯けたような彼は誰の言葉に葉山はそう返すと、祭壇と池の間にあるほど良い石に腰かけた。

そして荷物の中から彼は誰には見慣れない笛を取り出すと、ため息のような短い深呼吸をする。

少しの間、その笛を見つめ意を決したようにゆっくりと口に当てると聞き慣れないメロディーを奏で出した。


「、、、厳かな音色」


彼は誰はその場に立ち尽くしたまま、小声でぽつりと呟いた。

美しくもどこか妖しく、物悲しいメロディー。

その音は木々に閉ざされたこの空間に心地よく響き、水面を震わせるかのような神秘的な音色であった。

するとどうだろう。

葉山の笛の音に誘われてやってきたのか、水の中より何体もの異形な生物が顔を出した。

身体は人のようだが、その顔は明らかに人とは呼べず、あえて言うならば魚の被り物でもしているかのようだ。

普通の人ならば怯え、悲鳴でもあげていたかもしれないがそこは流石である。

驚いた顔をしたものの、彼は誰はじっとそれを見据えていた。


「む。鬼が出たようだね」


「自信はなかったけどね、まぁ、無事に呼べたってことさ」


演奏を終えた葉山は彼は誰の言葉に苦笑いを浮かべながらもそう返した。

葉山の笛が原因だろうか。

2人がそんな会話を交わしている間も魚人達が襲ってくる様子はない。

そんな魚人達を気に留める様子もなく、葉山は潜水に自信があるか否かを彼は誰に問う。

もしなければスノーケルをつけるようにと静かに告げた。


「それじゃ、着替えることにするよ」


「そうだね、後ろ向いておくよ」


彼は誰の言葉にどこか柔らかい笑みをこぼして葉山は背を向けた。


「減るものでもないよ、ゆうちゃん」


いつもの調子を取り戻したようにニヤニヤとしながら彼は誰は葉山の背中に声をかける。


「はは、それは見せたいと捉えるべきかな?」


それに対して葉山もどこか緊張が解けたような笑みを浮かべて返した。


「それじゃ、行こうか?」


彼は誰が着替え終わり、スノーケルをつけたことを確認すると上着を脱いで準備をする。


「いつでも準備はできているよ」


彼は誰はにこりと笑ってそう答えた。

必要最低限の荷物だけを持ち、残りの荷物を祭壇の後ろの窪みのようなところに隠す。

彼は誰の荷物も受け取ると葉山は同じように隠した。

そして、葉山が先ほどとは少し違う笛の音を奏でるとその魚人と呼べるものたちは2人を丁寧に掴んで池に飛び込むとどこかに向かってすいすいと水の中を進みはじめた。

1分なのか5分なのか。

人には出せないであろうスピードで水の中を進んでいく。

彼は誰がスノーケルをつけているにもかかわらずスピードのせいだろうか息苦しさを覚えた。

彼は誰がもう息がもたないと思った頃、どこかの池のようなところにたどり着いたようだ。


「ぷはっ」


水から顔を出すと、彼は誰は精一杯の深呼吸をする。

息苦しかったせいか、僅かに荒い呼吸をしているものの鍛え方が違うのか余裕の笑みを浮かべた。


「空気ってこんなに美味しいものだったかな」


「大丈夫か?」


先に池から上がっていた葉山が心配そうな顔で彼は誰に手を差し出す。

彼は誰は素直にその手をとり、ゆっくりと水から地面へと上がった。

そして彼は誰は辺りをサラリと見渡し、誰もいないことを確認すると着替え始めた。

葉山はそれを察して彼は誰に背を向け、持ってきた荷物から上着を取り出して軽く羽織った。


「すうすうするなあ」


濡れた身体を拭くタオルもない。

準備不足と言われればそれまでなのだが、仕方なく軽く水を払うだけで服を着たのだ。

当然残った水滴を服が吸い込み、髪は濡れたまま。

まるで通り雨にでもあったような状態だ。


「この陽気だ、すぐ乾くよ」


「どこか心もとないような」


葉山の言葉にぽつりと返しつつも、葉山がどこかに移動を始めたためついて行こうとした彼は誰だったのだが。


「お前、、、蓮だな。今更何をしにきたんだ、裏切り者のくせに」


葉山が一歩踏み出した時、背後からそんな怒りを含んだ静かな声が聞こえてきた。

振り向くとそこにはアメジストのような眼をした男性が立っている。

その瞳には怒りの炎がゆらゆらと揺れているように感じた。


「全てを壊しにきた」


僅かな沈黙のあと、葉山は一言だけ告げた。


「帰ってくると思っていたよ♪」


ふと、屋根の上から楽しげに、けれど静かな声と共に降りてくる男性がいた。

その男性はマジシャンのような風変わりな格好をしている。

海のように鮮やかな青い瞳が印象的だ。

その時、奥の扉が静かに開き1人の女性が現れた。

白い髪に赤い瞳をしていて、けれど片方の眼には包帯が巻かれている。

そっと扉を閉めると彼女は声を潜めてこう告げた。


「静かに。アレが目を覚ましてしまう」


皆を右の扉の部屋に入るようにと促し、自身もそちらに向かってゆっくりと歩き始めた。

紫の瞳と、青い瞳の男性もそれに習って部屋に向かって歩いていく。


「あなたの知古かな」


「まぁ、、、そんなものだよ。とにかく中に」


声を潜めてそう尋ねる彼は誰に葉山はそれだけ告げると部屋に向かって歩き始めた。

そのあとを彼は誰は黙ってついていくことにする。








談話室に着くとテーブルを挟んで片方には葉山と彼は誰が並んで座った。

向かい側には椿が座り、残る2人は入り口のそばに立ったまま、葉山達をみていた。

その間に1人の女性がやってきて彼は誰と葉山にタオルを渡し、温かいお茶を出してくれた。

一通り落ち着くと葉山が彼は誰に4人のことを簡単に紹介し始めた。

最初の男性、紫の瞳をしているのが小鳥遊 渚(たかなし なぎさ)。

そして屋根から降りてきた2番目の男性、青い瞳をしているのが時雨 朔(しぐれ さく)。

そして最後にやってきた片目の女性が梵 椿(そよぎ つばき)である。

その後、2人のためにタオルを持ってきた女性

が阿比留 ふよう(あびる ふよう)というらしい。

ふようは他の3人とは違い、黄色い瞳をしていた。

見方によっては金に見える不思議な輝きをしている。


「まだ生きていたんだな」


「お陰様でね。けれどこれが最後よ。次の子が生まれたのだから私の役目は時期に終わるわ。」


「もう、全てを終わらせる。儀式はやらせない」


「相変わらず優しい坊やね」


少しの沈黙のあと、先に口を開いたのは葉山だった。

それにどこか優しい声で椿は応えた。


(、、、ふうん)


それまで静かに聞いていた彼は誰だったが、ふと口を開いた。


「何やら興味をそそるね。ねえ、れんちゃん」


「・・・ゆうとでいいよ」


彼は誰の呼び方に葉山は思わず苦笑いをこぼした。


「ところでゆうちゃん。そろそろ目が乾かないかい?」


何かを察したようにそう言って葉山を見る彼は誰にほんの一瞬驚いたような顔を見せた。


「、、、まぁ、慣れているからね。大丈夫だよ」


しかし、これまで彼は誰とあれこれ会話を交わしてきた葉山である。

何を悟られたのか理解した様子で、相変わらず鋭いなと苦笑いをこぼした。


「ふうん。それならいいかな」


彼は誰なりに葉山を心配したのだろう。

だが、不要と知るとぽつりとそう呟き椿の方を見た。


「子守に忙しいようだから手短かにいこうか」


「あら、随分と察しのいい子を連れてきたのね」


2人のやりとりを聞いていた椿はふふっと笑い葉山にそう声をかけた。


「でなければ、ここにいないだろうね」


葉山が口を開くよりも早く、彼は誰はそう返す。

 

「関わらせるつもりはなかったんだけどね」


相変わらず苦笑いを浮かべたまま、葉山はそう椿に告げた。


「今更お前に何ができるって言うんだ」


それまで静かにやりとりを聞いていた渚が急に声を荒げながら、葉山を睨んでそう言葉を吐き出した。


「変わるかもしれないし、そうでもないかもしれない、そうだろう?」


渚の怒りに対し、彼は誰がそう切り返す。

渚の隣に立つ朔はそんな様子を眺めているだけである。

一方、椿の後ろに立つふようははらはらとした様子で見守っていた。

葉山は口を閉ざしたままである。

そして彼は誰は椿に向き直ると言葉を紡いだ。


「僕からは2つある」


「よそものあんたに何かわかるって言うんだ」


黙り込んだままの葉山にも、そこに口を出す彼は誰にも腹が立って仕方がないのだろう。

彼は誰の言葉を遮るようにまた、渚はそう言葉を投げ捨てた。


「だから伺うのさ」


じっと渚の瞳を見据えながら彼は誰は静かに言葉を返す。


「答えられることなら答えましょう」


そして、話題を戻すかのように椿がそう言葉をかけた。

しかし、挑発された子供のように渚の言葉は止まらなかった。


「あんたに死ぬ覚悟があるならそれもいいだろうさ」


そう言ってふんっと鼻を鳴らし、馬鹿にしたような笑いを浮かべた。

その渚の言葉に椿は僅かながら顔をしかめる。


「口がすぎますよ、渚。お黙りなさい」


少し厳しい口調で椿が渚を一括すると、親に怒られた子供のようにしゅんとした顔を見せ、口を閉ざす。

そのやりとりをみてどこかスッキリしたかのように笑い声を漏らした後、彼は誰は話を切り出した。


「情報と、その代償、僕の求める2つはそれさ」


「答えられるかどうか、あなたの考えを聞きましょう」


椿は彼は誰に静かな声で返した。


「興味本位でね、霞む記憶の行方を捜している。代わりに、僕は何をすればいいかな」


彼は誰は笑みを浮かべてそう告げた。

椿は黙ったまま、その瞳をじっと見据えていたがそっと口を開いた。


「、、、なるほど。どなたかこの島にいらしたのですね?そして記憶を失ったと。」


椿も葉山に負けずと劣らず察しがいいのであろう。

彼は誰は敢えて興味本位と言ったがそうではないことはきっと伝わってしまったのかもしれない。

椿はまるで何かを考えるようにそっと瞳を閉じた。


「取り戻そうとは思ってないよ。知りたいだけさ」


「そうですか、、、」


彼は誰の言葉に椿は静かに言葉を返す。

恐らく、椿の中で何を話すのかそして何を隠すのか選抜でも行われているのだろう。

隣に座る葉山はただ静かにその行く末を見守っているようだった。


「蓮、、、今は侑斗、と名乗っているのかしら」


瞳を閉じたまま、椿は静かにそう問いかける。


「あぁ、、、」


その問いかけに葉山はぶっきらぼうに応えながら小さく頷いた。


「この方をここまで連れてきたと言うことは、そういうことと思っていいのかしら?」


椿は瞳を開き、葉山を見据えてそう問いかけると葉山は少しの沈黙のあと僅かに頷いた。

“そういうこと”の意味が彼は誰にはわからなかったが、恐らくこの島の秘密を知って大丈夫なのか否かということなのではないかと思う。

自分達に害をもたらさない人間、ということかもしれない。


「、、、そう。では答えましょう。詳しくは話せませんが、その方は知ってはいけない何かを見聞きしたことにより記憶を消されたのだと言うことはお伝えできます。」


椿は彼は誰に視線を戻すと、また静かな声でそう話し始めた。


「ですが、その記憶を思い出すことはできないでしょう。そしてそれはその方のためにも思い出さない方が良い記憶なのです。」


「忘却は甘美なもの。それならそれでいいさ。予想もしていたしね」


驚く様子も見せず、彼は誰はそう答える。

察しはいいのだ。

恐らくそうであろうと早くから検討はついていたのだろう。

彼は誰にとって要は答え合わせの場とでもいうのだろうか。


「侑斗があなたをここへ連れてくるほどなのだからそれ相応の信頼をあなたに置いているのでしょう。ならばこの子の力になってやって欲しい。私が望むのはそれだけです」


そういうと椿はにっこりと微笑んだ。


「ふふ、ずいぶんとあっさりだね」


それに対し、彼は誰も緊張が解けたかのようにふふっと笑みを浮かべる。


「普通の人間に何ができるわけでもあるまいし」


そんな中、まるでその流れが面白くないと、拗ねたように渚がぽそりと呟く。

するとそれまで黙っていた朔が宥めるようににこりと笑って渚にこう言った。


「まぁまぁ、蓮が連れてきたんだから様子を見ようじゃないか」


それが一層面白くないというように渚はそっぽを向いて黙り込んだ。


「海に住まえばよかったのかな?」


「奴らと俺達を同じものだと思っているのなら凡人の考えだな」


彼は誰の言葉に渚はまた馬鹿にしたように鼻先で笑い言葉を返した。


「素敵な返しをありがとう」


まるで子供を相手にしているかのようにふふっと微笑むと、彼は誰はもう一度椿の方を向き口を開く。


「それと、一つだけ。どうかき消しているか訪ねてもいいかな」


「それは、、、お答えできません。話したところで夢物語であるとだけお伝えしましょう」


「もう見ているさ。話す気がないなら追及はしないよ」


そんなやりとりをしている様子を見ながらまるで負け惜しみのように渚がぽつりと言葉を吐き捨てる。


「、、、蓮の趣味の悪さに呆れるね」


彼は誰の耳には届いていたようだが、特に触れることなく椿の言葉に耳を傾けた。


「そうですね、確かにあれはあなたから見れば夢物語でしょう。」


椿はそう言って苦笑いを浮かべた。

豚になる呪いをかけられた物語や人魚の物語はあるが、流石に魚人の物語は聞いたことがない。

しかし、彼は誰にとってはそれらと何ら変わりがないのだ。

それが目の前に現れた、ただそれだけのことである。


「超常現象、、、」


彼は誰がぽつりと呟くように言った。


「ただ、あなたならば気づいていることでしょう。それがこの島なのだと言うことを、、、」


「目の当たりにして、世界が啓けたと感じているよ」


椿の言葉に彼は誰は興奮したようにそう応えた。

好奇心旺盛な彼は誰にはどれもこれも初めてのことである。

いや、こんな異常とも異質とも言えるものを目にするものはそうそういないと思うのだが。

そもそもが読書好きな彼女である。

その物語のような世界が今まさに目の前に広がっているのだ。

これが興奮せずにいられるかという勢いである。

そんな彼は誰の子供のようなウキウキした様子を見て椿は笑みをこぼした。


「良い方に出会えたのね、蓮」


「、、、ゆうとだって」


優しい瞳を葉山に向けそういう椿にぽつりとそういうと葉山はそっぽを向いた。


「ふーん、照れてるんだな」


その様子を見てすかさず朔が揶揄うように葉山にそう声をかけるが何も応えなかった。


「さて、忙しくなりそうだね」


彼は誰はというと、ウキウキしながら葉山にそう声をかける。

すると葉山は椿の方に視線を戻し、真剣な顔で口を開いた。


「俺はこの島を、壊すよ」


葉山のその言葉にカッとなったように渚が言葉を投げた。


「だからお前に何ができるって言うんだ」


葉山はどこか苦しそうな顔をして渚を見ると、静かな声でこう告げた。


「、、、渚、お前達は助けられないかもしれない」


「お前の助けなんかいるもんか!」


その言葉に叫ぶように渚は返す。

しかし、その顔はどこか泣きそうに見えたのは彼は誰の気のせいだろうか。


「僕はどちらでもいいけどね」


隣に立つ朔はへらっと笑って見せた。

それは、とうの昔に自分の運命を受け入れているかのようにも捉えられる。

ふようはと言うと相変わらずはらはらとした様子でそのやりとりを見つめていた。


「、、、最後に会えてよかったよ」


葉山は椿に視線を戻すと独り言のようにぽつりと言って力なく笑った。

それは彼は誰には今にも泣きそうな笑顔に見えた。


「帰りは、私が送るわ。あの時も私は言ったでしょう?あなたはあなたの人生を好きに生きなさい。」


そんな葉山に椿は優しく微笑んだ。

その後、彼は誰は脱衣所と思われる場所に案内され再び服を着替えた。

そして、葉山と椿と3人で元着た池へと移動した。


「楽しかったよ、またいずれ」


部屋を出る時、渚や朔、ふようにひらひらと手を振るも渚はふんっとそっぽを向いてしまう。

しかし、彼は誰は気にすることもなくにこりと笑って部屋を出た。


「どうか、蓮を、、、いえ、侑斗を宜しくお願いします」


別れる前に、椿は彼は誰ににこりと笑い深々と頭を下げた。

それに対して彼は誰はにこりと笑って見せた。

椿のその言葉が何を意味するのか。

なんとなく、彼は誰は察していた。

恐らくもう、二度と椿に会うことはないのではないか、と。

池のところにくると今度は椿の笛で呼ばれた魚人が現れた。

そしてきた時と同じように魚人に連れられて元の祭壇のところへと帰り着くのであった。






2人を祭壇のある池へと運び終えた魚人たちはそのまま何事もなかったように水の中へと帰っていった。

そこには葉山と彼は誰だけが残され、静寂が訪れる。

彼は誰は何を言うわけでもなく、葉山の肩をポンポンと軽く叩いた。

葉山がどう思っているかは彼は誰にはわからないが、どこか疲れたような笑みを向けるだけだった。

外はいつのまにか日が傾きかけている。

2人は着替えを済ませると元着た道を無言で歩いた。

そして獣道の入り口へ戻るとそこには三原が一人待ち構えていた。

その行動が何を意味するのか、葉山は気づいている様子であった。

三原はチラリと彼は誰を見た後、葉山に近づき静かに口を開く。


「色々と詮索する気はない。ただ、、、他所者を巻き込むな」


険しい顔でそう告げる。

恐らく、この三原もただの観光客ではなくもしかすると葉山と同じなのではないかと彼は誰は感じた。

どう言う理由でこの島に来たのかはわからない。

共に来た薬師丸はこの島に関わりがなさそうに感じたため、そこには複雑な事情があるのかもしれない。


「島の亡霊に取り憑かれたまま過ごすのか」


真剣な顔の三原とは反対に、不敵な笑みを浮かべながら葉山は言葉を返した。

そしてメモを取り出してホテルの部屋番号と連絡先を書いて三原に渡す。


「携帯は使えないけどな」


それだけ告げると、彼は誰と共にホテルへと急いだ。


「明日はどこに行こうか、ゆうちゃん」


彼は誰はするりと葉山の腕に自分の腕を絡めながらそう言った。

そしてチラリと三原を振り返るとひらひらと手を振って見せた。

が、メモを手にじっと、まるで睨むかのように遠ざかる葉山の背中を見つめているだけだった。


「そうだな、、、彼と話をしたいな」


色々とね、と意味深に葉山はニヤリと笑った。

そこには先ほどの泣きそうな顔も、疲れたような顔も無かったかのようだ。


「そろそろブレンドもふたつめかな」


「まぁ、、、日も傾くし面倒なことになる前に帰るか」


ふふっと笑みを浮かべてそういう彼は誰に、葉山もふっと笑って答える。

これから何が起こるのか、彼は誰はワクワクを抑えきれない様子である。

葉山はというと、色々と複雑な心境であろう。

しかし、恐らくそれなりの覚悟を決めてこの島に来たのだろうと彼は誰にはうかがえた。

彼は誰からみるに、椿は少し歳上のようにも見えたが、朔や渚、ふようは葉山と変わらない歳に見えたのだ。

もしかしたら幼き日々を共にした人たちなのかもしれない。

そして自分がやることによって命を落とすのかもしれないのだ。

それをわかっていながらも成し遂げようとする覚悟は想像を絶するものだろう。

それぞれの思いを抱きながらも2人はホテルへと急いだ。



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