滞在2日目 〜後編〜
「じゃあ、行こうか」
それぞれ準備ができたところで彼は誰はそう声をかける。
すると花梨がおずおずと口を開いた。
「鍛練のため走ってもいいですか?」
「青春だねえ」
花梨の言葉に彼は誰はふふっと笑みを浮かべてそう言った。
対照的に紫苑は少し困惑したような顔をしている。
「いいけど…大丈夫か?」
「帰りはまた乗せていこうか?」
花梨は2人の顔を交互に見て少し悩んだ後、やはり走って行くのはやめることにした。
「では重めの自転車で!」
花梨の言葉に受付の方はちょっと困った顔をして同じものしかないけれどなどと言いながら貸出書を差し出す。
「ありがとうございます」
自転車を借りると、花梨は手に持っていた荷物をドサっとカゴに入れた。
そのそばで自前の荷物が多い彼は誰は少し悩んでいた。
そしてチラリと紫苑の方を見る。
男性はやはり荷物が少ない。
「僕のも入れていいかな?」
「ああ、かまわないよ」
彼は誰の申し出に紫苑は何かを察したのだろう。
そこは流石、物入りな花梨と関わり合っているだけのことはあると言ったところだろうか。
「じゃあ遠慮なく」
彼は誰はそういうと、自分のカゴに乗り切らない荷物を紫苑のカゴへと入れた。
そんなこんなで支度をしていると3人のお腹は小さな音を立て始める。
3人は顔を見合わせると小さく笑みを浮かべ、村にあるカフェへと向かうことにした。
「程よく空いているね」
カフェに着くと外から店内をみた彼は誰がにこりとして呟くように言った。
「ふぅ。ふぅ。いい汗かきました」
重くできないならと一番軽いギアで漕いだせいだろう。
どうやら疲れ果てたのか息が上がっている。
その様子を紫苑は微笑ましく見つめた。
サクサクと一番前を歩いていた彼は誰が扉を開けると花梨と変わらないくらいの歳に見える女の子が出迎える。
「いらっしゃいませ!」
「3名で」
「はい!ではお好きなお席にどうぞ!」
彼は誰の言葉にニコニコと答えて彼女は去っていった。
きっとおしぼりやお冷を3人分、準備しに行ったのだろう。
席に着くとメニューに手を伸ばす。
そしてそれぞれが静かにメニューを選んでいるとふと、彼は誰が口を開いた。
「シェアしようよ。僕がもつからさ」
紫苑と花梨は彼は誰の提案に笑顔で頷く。
「僕は焼きチーズカレーと瑠璃色サワーを頼むつもりだよ。」
「僕はカルボナーラリゾット・ミックスピザ・瑠璃色さわぁ・ひえ団子のよもぎかな」
「私は瑠璃色さわぁと、てけりっりシチュードリア、冷え団子をお願いします」
てけりっりシチューとは?と紫苑と彼は誰は首を傾げてメニューを見直してみたがそんなものはない。
よくわからないけれど、とりあえずはこのシチューのことなのだろうと思い彼は誰が店員を呼びそれぞれの注文をする。
「お願いします❤️」
彼は誰が注文を終えると花梨がそう付け加えてにこりとした。
「ところで、隠しメニューとかはないのかい?」
「特にないのですが、、、ひえ団子のみたらしの代わりに砂糖醤油とかお出しすることはできますけど、、、」
彼は誰の言葉に少し悩みつつ女の子はそう答える。
他にこれといって思いつかなかったのだろう。
「なら、そちらにしよう」
それを聞いた彼は誰がにこりとしてそういうと女の子もわかりましたとにこりと笑った。
「ありがとう、双子ちゃん」
「???」
女の子の去り際にぽつりと彼は誰がそう言うが女の子は首を傾げただけで特に何ということもなく去っていった。
(違ったかな)
初めに席を案内した女の子と注文を取りに来た女の子。
そっくりではあるがどこか違うことから彼は誰は双子かと思ったのだがもしかしたら姉妹や従姉妹なのかもしれない。
「師匠、あの店員さん達、笑顔素敵で可愛らしいですね」
「そうだね」
「かりんさんには負けるよ」
2人の言葉にふふっと嬉しそうに笑みを浮かべた。
そして少し店内をキョロキョロと見渡していた紫苑がふと口を開く。
「店員さんは4人いるみたいだねー」
「奥に見えたのかい」
「調理担当かな、メガネの若い男の人がいたよ」
彼は誰の問いに、紫苑はそう小声で告げる。
そんな中、どこかそわそわしていた花梨が少し控えめに声をかけた。
「あっ。。。ちょっとお花摘へ。。。」
そう言って足早に御手洗の方へと向かっていった。
そう言うものを言い出すのは大人顔負けの推理をするといってもやはり思春期の少女らしい心理である。
「いい目をしてるね」
彼は誰の褒め言葉に紫苑はふっと笑みを漏らした。
そして、そこには静かな沈黙が流れる。
「平和な空間だなあ」
「のどかだね」
彼は誰の呟くような言葉に紫苑はコクリと頷いてそう口にする。
毎日何かしらの事件で忙しなくしていた彼は誰とはかけ離れたのんびりとした空間。
毎日忙しなく依頼が入ってくるわけではないが、都会の喧騒の中にいた紫苑。
2人にとってここはまるで夢の中のような空間とでもいうのか。
それとも別次元のような、とも言えるかもしれない。
緩やかで、穏やかな時間が流れている。
「む!あのコーヒーは」
静かな沈黙の中、不意に流れてきたコーヒーの匂いを嗅ぎ取った彼は誰が急に目をかっと開きそう言った。
ちょうど店のマスターらしき男性がコーヒーを注いでいる姿が見える。
そしてちょうどその向かい側にあたる席が空席になっているのがわかる。
「ちょっと失礼」
彼は誰は紫苑にそう断ってから席を立つとマスターらしき男性の向かいの席へと向かった。
「戻りましたぁ」
「おかえり」
「あれ?彼は誰さんは、、、?」
「彼女はあそこだよ」
ちょうど入れ違いで席に花梨が戻ってきたが、彼は誰がいないことに気づいた花梨に紫苑はカウンター席を指さし応えた。
カウンター席に座った彼は誰はコーヒーの香りに酔いしれていた。
コーヒーには煩い彼は誰であるが、今まで嗅いだどの香りよりも良い香りが漂っている。
「マスター、ちょっといいかな」
「ん?どうしたのかな?お嬢さん」
コーヒーを注ぎ終わり、客に出し終わる頃を見計らって声をかける。
するとにこりと笑ってマスターは答えた。
「その豆、いい香りだね。僕も知らない豆だ。産地は?ブレンドは??」
興味津々と言わんばかりに、身を乗り出す勢いで彼は誰は問いかける。
「ははっ。そうだろうね。今入れているのは僕のオリジナルブレンドだよ」
はははっと笑ってマスターは答えた。
「よろしければ是非製法を、、、」
「それはちょっと無理だな〜、でも会計の横で売ってるから良ければ買って帰ってくれよ」
「すまない、あまりにいい香りだったものだから、、、」
そんなマスターと彼は誰の声が紫苑と花梨の耳に届く。
「なんだか盛り上がってますね笑」
「趣味が合うんだろうね」
花梨がにこりとしてそういうと、紫苑も軽く頷いて答える。
それから食事が席に運ばれてくるまでの間、彼は誰はマスターとの雑談を楽しんでいるようだった。
3人を最初に出迎えてくれた女の子が料理を運んでくる。
注文を取った子とよく似てはいるが、こちらのこの子の方が瞳の色が茶色っぽく見える。
1番の違いと言えばそこだろうか。
「ありがとう、よく似ているけど君たちは姉妹なのかな?」
紫苑がそう話しかけると女の子は少し嬉しそうな笑みを浮かべる。
「あ、似てると思います?地元の人達は似てないって言うけど双子なんですよ〜!」
それを聞いた花梨は笑みを浮かべた。
「(建前)可愛いなぁ❤️((本音)ありがとう❤️)」
建前と本音をごちゃ混ぜに口にする花梨の言葉に女の子は少し照れたような笑みを浮かべる。
「雰囲気はかなり似ていると思うよ」
紫苑がにこりと笑みを浮かべてそういうと、やはり女の子は嬉しそうに笑った。
「???なんの話〜?」
別の料理を運んできた、少し黒い瞳の女の子が首を傾げてそう聞いてくる。
それに対して、茶色い瞳の子が、自分達のことについて話しているのだということを簡潔に説明した。
「でも、目の色が違う双子は珍しいね」
「目の色?あ!これ覚醒遺伝みたいです。おばぁちゃんの目、茶色なんですよ〜」
自分達は二卵性双生児だからとケラケラと笑いながら茶色の瞳の子が答える。
黒い瞳の子はその隣に立ってどこかふわふわとしている感じだ。
性格に違いがあるのだろう。
茶色の瞳の子は割と社交的で、黒い瞳の子はどこかぼんやりした印象だ。
それも二卵性双生児だからこその違いなのだろう。
「二人はこの島の出身だよね?おすすめのスポットとかあれば教えてほしいな」
にこりとして紫苑が尋ねると二人は顔を見合わせて首を傾げた。
「おすすめってどこかなー?」
そう茶色の瞳の子が尋ねると黒い瞳の子は首を傾げる。
「私達は泳ぐのが好きだからお休みの日はよく泳いでますよ」
少し考え後に茶色の瞳の子がにこりと笑ってそう答えた。
「ありがとう、行ってみるよ。」
紫苑がにこりとしてそう伝えると、二人はごゆっくりと言って去っていった。
そして紫苑は彼は誰の方を見る。
料理が来たことに気づかないようで、まだ話に夢中だ。
「彼は誰さん、料理が来たよ」
「もうそんな時間か。ありがとうマスター、今度は一人で来るよ」
彼は誰がそう声をかけるとマスターはにこりと笑った。
「頂きます」
彼は誰が席に戻ると花梨は早速そう言って手を合わせて食事を始めた。
「お上品だなあ、ピザくらいよかったのに」
「食事はみんなで食べたほうが楽しいからね」
先に食べてよかったのにというように彼は誰がいうと紫苑はにこりと笑って答える。
ふふっと彼は誰は笑い返した後、店内を見渡す。
特に今は仕事がないのか、女の子二人はレジカウンターのそばでお喋りをしているようだ。
マスターはというと、タバコに火をつけて新聞のような物を広げている。
「双子ちゃん」
彼は誰は女の子に向かってそう呼びかける。
「あ、はーい?」
自分達が呼ばれていることに一瞬気づかなかったのだろう。
少し間を開けて茶色の瞳の子がそう返事をして席へと駆け寄ってきた。
「やっぱり双子じゃないか」
「???」
彼は誰の言葉になんのことだろうと首を傾げる。
彼は誰が先にその話をしたのは黒い瞳の女の子だったため、茶色の瞳の女の子はそんな反応を見せたのだが。
とはいえ、彼は誰は特に構うことなく続けた。
「マスターのおすすめを3つ追加で」
「追加ですね!」
彼は誰の言葉にニコッと笑みを浮かべて女の子はそう答えると席から離れていった。
その間、やけに静かな花梨はというと様子を見ながらクリームドリアをほぅっ。。。となりながら食べてる。
それを食べ終えると今度はひえ団子に手を伸ばす。
もちろん味はおすすめされた砂糖醤油だ。
といってもみたらしもちゃんと別に用意されている。
マスターが気を利かせたのか、調理場の気遣いなのかはわからないが。
その間、他愛無い雑談を紫苑と彼は誰は交わしながら食事を進めていく。
そして花梨がひえ団子を食べる頃、彼は誰はその横でコーヒーを啜っていた。
「みたらしもらいっ」
美味しそうに頬張る花梨を横目に見ていた彼は誰だが、ふと食べたい欲に駆られたのだろう。
なんの前触れもなくにゅっと手を伸ばして獲物を掴むと、ポイッと自分の口へと投げ入れた。
まるで子供のようなその仕草に花梨は思わずくすくすと笑い声をあげる。
「師匠もどうぞ、あーん」
そう言って花梨が差し出すと、一瞬紫苑は動きを止めた。
ここで断るのは彼女に恥を書かせてしまうだろうか。
「らぶだねえ」
横目にチラリとみた彼は誰はにやにやしながら紫苑をみている。
といっても、紫苑的に花梨にいつまでもそういうポーズをさせてるわけにもいかないと思い至った。
自分は今年で28になる。
まだ27ではあるが、10も下の子に恥をかかせる物でもない。
紫苑はそのまま差し出されたそれをパクりと口にする。
そうすると花梨は満足そうに微笑んだ。
「お土産にはもってこいですね」
その後、コーヒーを啜った花梨はニコニコとしてそう口にした。
食事を終えて会計をするときに、マスターが言ったようにレジのそばに目をやるとコーヒー豆が並べられている。
彼は誰はそれを三つ手に取ると一緒に会計を済ませる。
それを見た紫苑も一つ手に取り、購入することにした。
帰って事務所で堪能したいのだろう。
とはいえ、まだまだ依頼の少ない紫苑である。
大概を事務所で過ごしているわけなのだが。
3人はカフェを出ると浜辺にむかった。
パンフレットによると、浜辺に出て右手の方にある建物がダイビングの受付となっているらしい。
簡易的ではあるが、台風などに耐えれるくらいにはしっかりした作りのようである。
その中に入ると、貸し出し用と販売用のダイビングスーツや道具が並んでいる。
その間を抜けて奥に進むと、カウンターにどこか気難しそうな年配の男性が座っていた。
「観光の人だね、ダイビングがしたいのかな?」
3人を見た男性はにこりと笑ってそう尋ねる。
先程は怖そうに見えた顔だったが、笑うと人懐っこそうなイメージへと変わる。
「はいっ!できますか?」
ワクワクを抑えきれない様子で花梨が尋ねると、男性はにこりと笑って頷いた。
「お嬢ちゃん、道具はあるかな?なければ貸出もできるよ」
そう聞かれた花梨は水着ではダメなのかとしょんぼりとする。
「しおんさん、一緒に行くかい?」
「更衣室はあっちみたいだよ」
茶目っ気たっぷりに問いかける彼は誰をスルーして紫苑は来るときに見かけた更衣室であるだろう方を指差してにこりと笑う。
「ありがとう」
そう言って彼は誰はふふっと笑い、男性には自分のがあるからと伝え、自前の道具一式持って更衣室の方へと向かった。
「道具って何が必要ですか?」
そう問いかける花梨に男性は道具を見せながら説明をする。
水着と浮き輪しか持ってきていない花梨と紫苑である。
全部道具を借りることになった。
「あ、シュノーケルも借りてもいいですか?」
「じゃ、この貸出書に名前を書いてもらえるかね」
花梨は頷いてサラサラと綺麗な字で名前を書く。
「シュノーケルは持っていないので借りたいです」
「じゃあ、君も書いてもらおうか」
ダイビングスーツを選んでいた紫苑が花梨の言葉を聞いてそう告げると男性はにこりとしてそう答えた。
「か、ざ、は、な、っと。あ、後荷物置く場所はありますか?」
そう問いかけると、貴重品はこちらでロッカーに入れて預かっていると答えた。
言われて見ると、カウンターの奥に数個の鍵付きロッカーが置いてある。
その鍵の番号には腕にはめる用であろうゴムが付けられており、おそらくそれをつけて海に入ることができるようにだろう。
その間、彼は誰はと言うとさっさと着替えて近くの海でふわふわと水遊びをしていた。
「じゃあ。。、」
着替えや荷物など預けたいというと男性はにこりとして頷いた。
そして紫苑と花梨はそれぞれ更衣室へと向かう。
その間にダイビング受付の男性が担当者を呼んだのだろう。
水着姿で逞しい肉体の男性がやってきた。
「準備ができたなら行こうか」
「大丈夫ですよナイスミドル」
「面白いお嬢さんだな」
一足先に支度を済ませ、一人で水遊びをしていた彼は誰はその男性がやってくると水から上がり、そう受け答えをする。
その答えにがははと男性は豪快に笑いながら答えた。
そこへ着替えを終えた紫苑がまずやってきた。
「準備オーケーです」
最後に更衣室から出て皆が集まる元へやってきたのは花梨だった、が。
「お待たせしました」
そう言いながらやってきた花梨はダイビングスーツではなく、白のフリルの水着を身に纏っていた。
「豪快さを絵に描いたようだね」
その姿を見て彼は誰は、はははと笑う。
男性はと言うと少し不思議そうな顔をして花梨を見ていた。
「ん?お嬢さんは潜らないのかい?」
そして、水着ではなく安全のためにもダイビングスーツを着ないと潜ることができないことを伝えられ、どこかがっかりした様子を見せた。
が、やはり潜りたいらしく、花梨はダイビングスーツを借りに中へと戻り再び更衣室へと駆けて行った。
「時間があるなら、ちょっといいかな」
紫苑とその男性に一言断ってから彼は誰はタバコに火をつける。
まだ荷物を預けていなかったらしい。
「お、見かけないタバコ吸ってるね」
男性もタバコを吸うのだろう。
目についた彼は誰のタバコを興味ありげに見つめてそう言った。
良ければ一本どうぞと言ってみると、男性は嬉しそうに拝借し火をつける。
紫苑はというとタバコの煙から逃げるように、ちょうど建物から出てきた年配の男性のそばへと歩いていった。
「今日はいい天気ですねー、ダイビング日和です」
「そうだねぇ、晴れた日は海の中も綺麗だよ。あまり時間はないが楽しんでおいで」
男性はまるで孫にでもいうかのように目を細めてにこりと笑った。
「そうだ、自己紹介が遅れたな。ダイビングを担当してる九十九雫(つくもしずく)だ」
一方その頃タバコ組はというとまったりとタバコを口にしている。
そして男性、雫はふと思い出したかのように自己紹介を口にした。
「かはたれだ、よろしく九十九さん。ところで、私は経験者なんだけれどこの海の見所ってあるのかな?」
「勿論だ。そうだな、タバコのお礼も兼ねて今日は俺のおすすめのスポットに連れていってやろう」
彼は誰のタバコがよほど気に入ったのか、ニコニコとしてそう答えた。
「それは楽しみだ。あぁ、そうだ。パンフにのっていたつぅーつぅー洞という場所が個人的に気に入っているんだけれど、どんなところなんだい?」
嬉しそうにニコニコとして見せた彼は誰は続けて男性に問いかけてみる。
すると、少し悩んだ後にそうだなぁと口を開いた。
「ガキの頃からこの辺りは遊び場なんだが、綺麗なところだよ。滞在中に是非いってみて欲しいもんだね!」
彼は誰の問いにあいかわらず上機嫌で男性は答えた。
遠目に見たところ、海と繋がっているようだし雫にとって海の中と同じくらい気に入ってるのだろう。
なるほど、などと口にしながら煙を吐き出した彼は誰はふと、少し離れたところの浜辺で遊ぶ女性と女の子に目を止めた。
「あそこで遊んでいる二人もこの島の人かい?旅行者の中では見かけなかった気がするけれど。」
「ん?あぁ!ありゃ俺の嫁さんと子供だよ」
少し照れたようにして雫はそう答えた。
奥さんの名前はひまわり、子供はしおんというらしい。
(彼と同じ名前か。ふふふ)
言いたい気持ちもあるが、黙っておこうと彼は誰は一人、ほくそ笑んだ。
「お待たせしました!」
二人がタバコを吸い終えた頃、ダイビングスーツを身に纏った花梨がやってきた。
それを見て彼は誰は荷物を預けてくるといって年配の男性の方へと歩み寄る。
男性はというと紫苑と雑談に花を咲かせているようだ。
「(ソワソワソワ)」
彼は誰を待つ間、花梨はダイビングが初めてだからなのか、紫苑と遊ぶのが楽しみなのか終始そわそわした様子を隠しきれていなかった。
「さて、全員準備ができたようだな!それじゃ、時間もないことだしあのボートに乗ってくれ!」
3人をさっと見渡した雫はそう言って笑みを浮かべる。
3人は言われるままにボートへと乗り込むと広い広い海へと向かってボートは進み始めた。
「さて、と。うん、この辺りだな。」
島から少しだけ離れた海の真ん中でボートは止めると雫はあたりを見渡し何かを確認すると一人うんうんと頷いている。
きっとここが彼は誰に話したおすすめのスポットなのだろう。
目印も何もない海の上である。
そこは慣れというものだろうか。
「彼は誰さんは経験者かな?」
支度の速さと、自前の装備に雫はそう思ったのだろう。
簡単な装備だけを身につけながらそう尋ねた。
「経験はあるよ」
彼の問いに笑みを交えて彼は誰はそう返す。
「ソワソワソワ」
その隣で海を見つめながら花梨はそう口から漏らしている。
「漏れてるよ」
その様子に彼は誰はおかしそうに頬を緩めて言った。
軽く注意点などを受けたあとそれぞれは海に飛び込む。
「ぶくぶくぶくぶく(わぁぁ❤️)」
「すいー」
海に沈みながらニコニコが止まらない花梨と泳ぎは得意なのだろうか、日に熱った肌に冷たい水が気持ちいいと言わんばかりに辺りをスイスイと泳ぐ紫苑。
そして慣れた様子で海の中をスイスイ進む彼は誰。
そして3人はふと、つぅーつぅー洞の方に目を向ける。
が、花梨は目の前をふと通った生き物に目を奪われた。
(これってホオジロザメかしら)
ついていこうとする花梨を慌てて雫が止めに入る。
(これはカツオノエボシ!)
経験者といえど海は様々だ。
見慣れぬ景色に彼は誰も興味深そうにふむふむと眺め出す。
紫苑も遠くの景色よりも目の前に広がる鮮やかな海の植物や魚達に目を奪われた。
釣り好きな彼である。
それらを釣り上げた時の快感にでも酔いしれているのかもしれない。
思い思いに海の世界を楽しんだあと、四人は元の浜辺へと帰ってきた。
もうすぐ日も暮れようとしている時間だ。
「楽しんできたかね」
受付にいた男性がニコニコとしながら四人を迎えた。
「師匠みましたか!?綺麗な熱帯魚がわーって!綺麗な珊瑚礁もいっぱいでキラキラでしたね!」
興奮冷めやらぬ様子で花梨は紫苑に話しかける。
「実に美しい青だったよ」
うんうんと紫苑は頷きながらそう答えた。
「楽しかったです」
そう言って紫苑は男性ににこりと微笑む。
そしてふと今更のように男性に自己紹介をして名前を尋ねた。
「んん?わしの名前かい?わしは九十九要(つくもかなめ)だよ。またダイビングをしたくなったら声をかけておくれ」
ニコニコしながら答える男性、要のそばで聞き耳を立てていた彼は誰。
(家族経営かな)
そんなことを思いつつも閉鎖的な島であるから不思議はないなと思う。
村は一つしかないし、自然とそうなるのだろう。
「お爺さん、楽しかったです!また来たいです!」
そういう花梨をまるで孫でも見るような優しい瞳でにこりと笑って要は頷いた。
「はふぅ。。。お着替えしてきますね!」
やっと興奮が落ち着いたのだろう。
そういうと花梨は荷物を引き取ってから更衣室へとかけていく。
彼は誰と紫苑も荷物を受け取るとそのあとをゆったりと歩いて更衣室へと向かった。
「シャンプーいる?」
「ホテルでまた入るので大丈夫ですよ!」
ガシガシと頭を洗いながら彼は誰は隣の花梨へと声をかけた。
気持ちよさそうにシャワーを浴びながら花梨は答える。
「わかった、気が変わったらまた」
花梨の言葉を聞いてサクサクと洗い流しながら彼は誰は片付ける。
「夜になっちゃいますし、早く戻らなきゃ」
と言いつつものんびりとシャワーを浴びている花梨であった。
一方その頃、先に身支度を終えた紫苑は要とのんびりと会話をしつつ女性陣を待っていた。
「夜は外に出られないみたいですからね、何か危ないものでも出るのでしょうか?」
「夜出歩くと怪物が襲ってくるから出歩くのは禁止してるんだよ」
要は真剣な顔で言った後にわっははと笑って、その言葉が冗談なのか本気なのかと言った様子だ。
「怪物ですか…なるほどー」
「あーっ!!!?!?」
そんな2人の会話は更衣室から出てきた花梨の叫びで遮られた。
「日焼け止め。。。塗り忘れた。。。」
赤くなった肌をさすりながらどこか泣き出しそうな様子で彼は誰を見る花梨。
「目立ってないよ、平気さ」
「あぅ。」
そんな様子の花梨が可愛らしかったのだろう。
彼は誰は微笑みながら頭をぽんぽんと撫でてやった。
それぞれ軽くシャワーを浴びて着替え終わると預けていた荷物と借りていた道具を返却する。
「もうすぐ日が暮れるから気をつけて帰るんだよ」
要にそう言われて3人はその場を後にする。
だいぶ日も傾き始めている時間だ。
3人は急いで街のホテルへと帰っていった。
「あっ!お姉ちゃんにお土産の写真撮らなきゃ!」
帰り道で花梨は慌ててカメラを荷物から取り出すと浜辺に向かってレンズを向ける。
海に映る、オレンジに染まりつつある空や夕焼けが美しい。
その風景を彼は誰は眩しそうに眺め、紫苑はそんな様子の花梨を見てふっと笑みを浮かべていた。
ホテルへと帰り着くと、それぞれ思い思いの行動に移る。
「私はお風呂入ってきますね」
そう言って花梨はホテルへ着くとフロントにお風呂に入れるかを確認して一目散に部屋へとかけていった。
「お姉さん、ウェットスーツを頼むよ」
彼は誰はそう言って洗い物を預けると、ゆったりと自室へ向かう。
1人ぽつんとその場に残された紫苑はふと自分の髪を撫でた。
シャワーを軽く浴びたものの、なんだかまだ塩水でベタつく感じを覚える。
風呂に入るかと独り言のように呟くと彼もひとまず自室に向かい、風呂に入ることにした。
「ふんふんふん♪」
花梨が鼻歌混じりに入浴している頃、彼は誰は自室に戻り隣に面した壁をコンコンとノックしていた。
少し待ってみたものの、特に反応が返る様子はない。
(部屋にいないのか?)
そう思い、メモに「後でノックする」と走り書きをして葉山の部屋の扉へと差し込んだ。
そしてその足で地下の食堂へと向かうのだった。
(なんだ、食事中だったのか)
食堂へ着くと、そこには葉山の姿があった。
視線に気付いたのか、葉山が彼は誰の方を見る。
目があった彼は誰がひらひらと手を振ると、葉山も食事をしつつひらひらと手を振りかえした。
今日もさまざまな料理が並べられている。
適当に取ると彼は誰は葉山とは別の席で食事を始めた。
その間に葉山は先に食事を済ませ、食堂を出ていく。
島民の目があるこの場では満足に話もできない。
お互いそれがわかっているからだろう。
彼は誰は食事を終えるとそのまま喫煙所へと向かっていった。
一方その頃、入浴を終えた紫苑は部屋を出て
彼は誰の部屋をノックする、が反応はなかった。
そして胸ポケットからメモ帳を取り出し何かを走り書きした後、それを破いて彼は誰の部屋の扉へと差し込んだ。
そしてそのまま三階へと向かっていく。
入浴後の花梨と合流するためであろう。
だが・・・・
「おや、お嬢ちゃんのお連れさんだね。今3階は男性立ち入り禁止だよ」
3階に着くとそこにいた女性にニコニコされながらもそう注意されてしまう。
「ふんふんふーん❤️」
聞き耳を立てずともご機嫌な花梨の鼻歌が聴こえてきた。
どうやらまだまだかかりそうだ。
「ああ、それは失礼した。レストランで待ってると伝えてくれないかな?」
「そうかい、じゃ、お嬢ちゃんが出てきたら伝えておくよ」
女性は紫苑の申し出を快く受けて頷いた。
そのまま紫苑は地下の食堂へと向かった。
食堂へ着くと、そこには田中が1人食事をしている姿があった。
それに気付いた紫苑はそっと田中のそばへと足をすすめた。
「こんばんは、今日偶然西の崖のほうに行くのを見たのですけど、景色はきれいでしたか?」
にこりと笑みを浮かべて田中に話しかけてみる。
「あら、、、風が心地よかったわよ」
今気づいたとでもいうようなリアクションを見せた後、ふっと笑みを浮かべてそう答えた。
「その服は何か特別なものなのですか?この気温だと暑そうな気もしますけれど…」
「着なれた服って落ち着くじゃない?」
紫苑の質問に田中はにこりと笑って返した。
「熱中症には気をつけてくださいね」
「あら、優しいのね」
くすくすと笑う田中の様子を紫苑はそっと観察した。
嘘を言っている様子はない。
おそらく、彼女がいうように普段からその格好をして生活をしているのであろう。
「ねんねちゃんは一緒じゃないのね?」
「弟子ならまだ風呂に入ってますよ」
そう答えて紫苑は田中のそばを離れ、お手洗いへと向かった。
その頃、タバコを吸い終えて部屋に向かった彼は誰は部屋に入ろうとしてあることに気がつく。
足元には何やらメモ紙らしきものが落ちている。
拾い上げるとそこには「後で話がある 紫苑」と書かれていた。
「話か、なんだろう」
ぽつりと呟いて部屋へと入る。
そして壁をコンコンとノックしたあと、コーヒーを淹れる準備をした。
しかし、すぐにコンコンとノックが帰ってきたかと思うと扉を開け閉めする音と、遠ざかる足音が聞こえた。
どうやら葉山は部屋を出たようだ。
察しのいい彼は誰は、おそらく喫煙所へと誘われているのだろうと気づく。
「香りを楽しむ時間はなさそうだね」
ふふっと笑みを浮かべて独り言を漏らすと、写真を手に取り再び喫煙所へと向かった。
そんなやりとりがなされている頃、ようやっと入浴を終えた花梨は女性から紫苑の伝言を聞いていた。
ひとまず洗い物を預けにフロントへと向かう。
「洗濯お願いします」
「確かにお預かりしました」
今日の担当であろう女性がにこりとして預かってくれた。
そしてそのまま一度部屋に戻るとストレッチを始める。
きちんと180度開脚をし、入念にストレッチを施す。
キック主要の花梨である。
いつ何が起こってもいいようにしっかりと身体のメンテナンスを行う。
その頃、彼は誰は喫煙所に向かっていた。
中を覗くとそこには葉山の姿があった。
「待たせてすまないね」
「、、、やっぱり察しがいいね」
その姿を見て葉山はニヤリと笑った。
中に入り、彼は誰もタバコに火を灯すと小声で村や海に行った話を始めた。
「ここの旅館がね、、、」
彼は誰は写真を見せながらそう言って話を進める。
葉山はというと城や公園を見にいった話をし始めた。
「へえ、城まで青いのか」
「城自体は見ることはできなかったよ」
ハハっと葉山は笑う。
見れたのは外壁だけで中には入らなかったという。
「じゃ、タバコも吸い終わったし俺は部屋に戻るよ」
タバコを消しながら葉山は少しわざとらしい声量と口調でそう言って笑った。
「ああ、それと、いい珈琲を手に入れたんだ」
「、、、なるほど」
彼は誰が何を言いたいのか察したのだろう。
そう呟くと軽く笑って葉山は先に喫煙所を出ていった。
「いけない、遅くなっちゃった。師匠いるかなー。。。」
ストレッチを終えてぱたぱたと永遠に増える地下行きの階段を(増えてはいない)小走りに進むほかほか花梨。
エレベーターの前で佇む紫苑を見つけるとにこりと微笑んだ。
「やあ、来たね」
「ごめんなさい、遅くなりました」
ぺこりと謝る花梨にふわりと紫苑は笑った。
「気にしないさ、さあ食べよう」
軽く会話を交わして2人は食堂へと向かう。
その途中、食事を終えた田中とすれ違ったが特に言葉を交わすことはなかった。
「ムニエルとカルパッチョはありますか?」
早速キョロキョロと探す花梨の言葉に紫苑も辺りを見渡した。
「それなら向こうにあったよ」
「わぁ、取ってきますね!」
カルパッチョ、ムニエル、えんがわ、えんがわ、えんがわ。
好物をお皿いっぱいに乗せてご満悦の花梨である。
紫苑も適当に乗せて席に着く。
そしてまたも花梨は辺りを見渡すとノンアルコールワインに目を止めた。
要はグレープジュースである。
二つグラスを手に取り、注いだ後に紫苑が待つ席へと戻る。
花梨としてはちょっと憧れだった大人の食事を真似て見たと言ったところだろうか。
2人でワインを飲みながら食事をする。
なんともロマンチックである。
「明日はどこへいこうか?」
そう話しながらもそっと紫苑は自分の携帯をテーブルへと置き、花梨へと差し出した。
「師匠、これって。。。」
花梨の言葉を他所に、紫苑が料理を吟味する風を装って周りを見渡すとキッチンの方から2人を見ている料理人であろう女性と目が合った。
目が合うとおばさんはニコッと笑みを向け、紫苑も答えるようににこりと笑った。
「今日行った瑠璃城の写真さ、奇麗だろう?」
そう言いつつ、花梨へアイコンタクトをする。
その意味に気づいた花梨は慌てて紫苑へ話を合わせた。
「っ…! …そうですね!とっても綺麗なお城。。。」
「瑠璃城って名前だし、本当にラピスラズリが使われているのかもね」
そう言いながら花梨は紫苑の携帯を手に取るとメモアプリを開き、「この後、お部屋に行きます。」と打ってスマホを返した。
「明日もどこか観光したいですね、師匠」
携帯を返しながら花梨はニコニコしながらそう口にする。
「明日は西のほうへ行こうと思うよ」
(…そういえば…。)
紫苑と言葉を交わしながら何かを思った花梨だったがここで詳しい話ができないのはわかっている。
そのまま2人は明日の観光の計画の話をしながら食事を楽しむこととした。
一方その頃、少し時間を戻すこととなるが喫煙所を出て部屋に戻った彼は誰。
コーヒーを淹れようと支度をしていると壁をノックする音が聞こえてきた。
葉山はどうやら部屋で彼は誰を待っていたようだ。
クスリと笑って、コーヒーを準備する手を止めノックを返す。
そしてコーヒーを二つ注ぐとそれを持ったまま部屋を出て葉山のところへと向かった。
「いい匂いだね」
待っていたかのようにタイミングよく部屋を開けて招き入れる葉山。
「そうだろうそうだろう!」
そう言いながらその一つを彼は誰は葉山に手渡した。
彼は誰は一度部屋の戸締りに戻り、そして葉山の部屋に入ると、2人でベッド脇に座った。
「何か話があるんじゃないのか?」
先に話を切り出したのは葉山だった。
「あまり収穫はなかったようだね、お互いに」
「ん?そうでもないさ。島の様子を見て回れたからね」
彼は誰の言葉に葉山はにこりと笑って答える。
「確認、ともいえるのかな?」
どこか挑発的な彼は誰の言葉に葉山はにこりと笑って返した。
「簡易地図しかないからねぇ。まぁ、職業病みたいなものさ」
そういうとパンフをひらひらさせながら笑った。
確かに詳しい地図は2人にはわからない。
手元にある、パンフの地図のみが頼りである。
「ははは、わたしも似たようなものさ。あなたなら、わかるだろう?」
またも挑発的な笑みでそういう彼は誰にはははっと葉山は声を出して笑った。
そしてふと、少しだけ真剣身を帯びた顔で彼は誰は口を開く。
「神を、信じるかい?」
「神なんてくそくらえさ」
僅かな間を開けて葉山はそう答えてふっと笑みをこぼした。
「ふふっ、そうだろうね」
同じように彼は誰も笑みを浮かべる。
そしてこう続けた。
「神罰などは落ちないだろうし、空飛ぶ魔物など、いやしないだろうね」
「そういうのは夢物語だろうね」
そう答えながら葉山はコーヒーを口へと運ぶ。
「、、、その割には、伝承には、興味があるみたいだね」
「何故そう思ったんだい?」
彼は誰の問いに不思議そうに葉山は言葉を返した。
本当に自分の言った言葉の真意がわからないのだろうか。
葉山の様子を観察する彼は誰であったが、本当に彼は誰が何を言いたいのかわかっていないようだ。
「島民が、おびえているもの。何か知ってるかい?」
笑ってかわしてから彼は誰は言葉を紡いだ。
「怯えてる?」
葉山は首を傾げてそう返す。
「こんな島だ、密教があってもおかしくないけれど祀っているものがあるとするなら、それは、何だろうね?」
彼は誰の言葉に葉山は少し考えてから口を開いた。
「まぁ、海や作物を育てているから豊漁や豊作の神を祀っていてもおかしくはないだろうね」
そう言って笑みを浮かべる。
「そちらの方面は、多少詳しいようだね」
「まぁ、、、職業がら、ね」
彼は誰のその言葉に葉山はニヤリと笑って答えた。
「いろいろなものを見てきてるよね。事件とか、神隠しとか、時には民謡、オカルティックなものまでね」
「それは彼は誰さんの方が場数を踏んでいるんじゃないか?」
彼は誰の言葉に葉山はまたニヤリと笑う。
「あなたには負けそうなものだが」
「さぁ、どうかな」
「面白い話でも、聞かせてもらいたいね」
お互い、腹の探り合いとでもいうのだろうか。
互いに持ち合わせている情報を隠しつつ、それを笑みで隠しているかのようだ。
「珈琲が、地獄のように熱いうちに、ね」
「まぁ、面白い話というほどでもないけど。カメラの位置と島民の視線には気をつけた方がいいだろうね」
彼は誰のまたも挑発的な言葉に葉山はニヤリと笑ってそう答えた。
「人気者はつらいねえ」
(カメラ、ね)
葉山の言葉にケラケラと笑いながら彼は誰は思う。
会話の中にもサラリと忠告を交える葉山の言葉は冗談ではないのだろう。
彼は誰がまだ気づかぬ場所にもカメラが設置されているのだろうか。
きっとそれに気をつけろということなのだろう。
「くれぐれも、忘れない、ようにね」
“忘れない”を強調しつつ、彼は誰はメモをひらひらとさせて立ち上がった。
そして葉山のコーヒーカップを受け取り部屋を出ようとする。
「あぁ、、、そうだね」
葉山はそういうと部屋を出ていく彼は誰を笑って見送った。
その頃、食事を終えた紫苑と花梨。
紫苑はお土産コーナーを物色してUNOを見つけると旅行の醍醐味と言わんばかりに目を輝かせ購入した。
そのあと、夜食にでもするのだろう。
自販機で欧風カレーを購入した。
正確にはカレーヌードルを押したら欧風カレーが出てきたのだが、紫苑にとっては願ってもないことである。
その頃花梨はというと、一足先に自分の部屋へと戻り、荷物の整理をしていた。
スマホ、メモ帳、ペンとおそらく必要であるものを荷物から取り出す。
そしてそれらのものを持って部屋の戸締りをすると紫苑の部屋の前で花梨は部屋の主が戻るのを待つのだった。
紫苑が買い物を済ませて部屋へと戻ると、部屋の前に佇む人影が目に入る。
先に戻っていた花梨だった。
「今開けるよ」
ポケットから鍵を取り出しカチャリと開けると紫苑は扉を開き花梨を部屋へと招き入れる。
「お邪魔します」
それに応えて花梨はそっと紫苑の部屋へと足をすすめた。
花梨が中へ入ると自分も中へと入り、パタンと扉を閉めた後何やら部屋の中をガサガサと見回っている紫苑。
花梨はその姿を何をいうわけでもなく見つめていた。
「ここは安全そうだね」
どこかほっとしたように安堵のため息を漏らしつつ紫苑はつぶやくように言った。
「師匠、さっきのって」
それまで黙って彼を見つめていた花梨が、その一言を聞いて話を切り出す。
「あれはこの島に来る前に調べた情報でね、少し気になるから保存していたんだ」
先程、花梨が紫苑に見せられた内容。
それは何かの掲示板をコピーしたようなものだった。
●⬇︎それってオオコウモリとかメガバットとか言われてるやつじゃね?てか日本にいるかどうかはしらんけど。
●夜中に窓の外を見たら巨大なコウモリのような影を見た
●激しく同意
●⬇︎わかる
●島民の視線が異常に絡みつくから気持ち悪いんだけど(_ _|||)
●田舎の他所者に対する刺すような視線より笑顔の方がよくね?w
●島民の笑顔がキモいw
●草に草生やすなwww
●まじ草w
●いっそ森じゃねwww
●草超えて大草原
●旅行の記憶無くすとか記憶力弱すぎwww
●若年性アルツハイマーかwww
●島に行った友人にどうだった?と聞いたら何故か少しの記憶しかないとかいうから謎
●ー管理者により不適切な内容と判断された為、削除されましたー
●ー管理者により不適切な内容と判断された為、削除されましたー
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●島の話書き込みたいのに管理者に消されるのなに?謎すぎて笑えるwww
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●都会暮らしの私には携帯電波ないとか考えられないね┐(´д`)┌
●田舎でもあるぞ!田舎なめんなwww
●島だから電波塔ないとか?
●スマホ圏外とか何時代www
●旅館で電話借りたら未だに黒電話とかw使い方旅館の人に習ったしw
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(以下、20個ほど削除文が続く)
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●⬇︎ロリコンかwお巡りさーん!!www
●可愛い女の子!!が多かったとしか言えん!w
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●No!!
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●( ̄ー ̄)b
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●るるるるるー
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●あー、、、
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(以下、削除文のみ)
上記の内容である。
そしてこれは下から上に行くほど新しい日時となっていた。
紫苑は、嘘か本当か、信憑性が全くないと言われている“9チャンネル”という掲示板サイトにある“みぎわ島”というスレッドの内容だと説明を付け加える。
「えっと、師匠、実は私も学校で。。。」
そう言って花梨は学校での出来事を話し始めた。
学校の友人に「みぎわ島」のことを聞いてみると、一度行ってみたいという子はいたこと。
そして、その後の友人達の証言である。
「めっちゃ綺麗で凄いとこなんだって!」
「えー?謎めいた島だってきいたよ?」
「めっちゃ暑いらしいじゃん」
「え?沖縄?」
「那覇空港からどうにかいったらあるとか」
「でも位置検索してもでないよ?」
「はぁ?謎すぎ!怖っ!」
「検索したらめっちゃ綺麗な写真とか出るからあるにはあるんじゃない?」
「でも殆どヒットしないのなんで?」
ざっくりと話した内容はこのような感じである。
しかしその後、紫苑の話がネタとなり恋バナに移行したことは言わなかった。
いや、言えるわけがない。
その後の会話はこんな感じだったのだ。
「でもでも!聞くってことは風華行くの?」
「お土産待ってるね!」
「行くとしたらあの探偵さんとだよねー!私ちょっとタイプ♡」
「お兄さんって感じだよね!」
女子高生達にとって歳上の男性は魅力的なのだろうが、花梨にとっては師匠なのだ。
姉の一件があるからこその協力者であり恩師である。
恋愛対象に見るなんて、と。
「情報って訳じゃないですが、学校でそういう話をしてました」
花梨はそう締めくくると、心理状況を悟られまいとポーカーフェイスでいつものようにふわりと微笑んだ。
しかし、紫苑は花梨の話を聞いて少し何かを考えている様子で少しの沈黙の後口を開いた。
「この情報は彼は誰さんにも共有しようかと思っている。彼女は信用できる気がするから」
「わかりました。でも、ただの旅行だと思って、私は今回なにも調べてなくて。。。」
こちらの様子を悟られていないことにほっとしつつも、花梨は少し申し訳なさそうな笑みを浮かべた。
そして彼は誰の部屋に行き情報共有をするということで話がまとまると、2人で彼は誰の部屋へと向かう。
その口実に使うつもりなのか、紫苑は先程買ったばかりのUNOを手に部屋を出た。
ちょうど葉山の部屋から戻り、彼は誰は入れ直したコーヒーを片手に日課となっている日記を書いている最中だった。
そんな時、ふいに特に隣の壁が音を立てたわけでもなく扉からノックをする音が部屋に響く。
誰だろうと思いつつも日記を閉じ、扉へと向かう。
彼は誰がガチャリと扉を開くとそこには紫苑と花梨の2人がにこりと笑って佇んでいた。
「やあ師匠」
そういえば部屋にメモが入っていたなと思いつつ、そのことを口にするでもなく爽やかに声をかけた。
勿論それは、周りを警戒してのことだ。
いつ、どこで、何を聞かれているかわからない。
そういうことだろう。
「UNOでもしないかい?」
「旅行にはつきものだね」
少しわざとらしくひらひらとUNOを見せながら紫苑がそう問いかけると、彼は誰もまた笑顔で返し2人を部屋へと招き入れた。
口実だろうとお互い分かりつつも3人はベッドの上にカードを広げ、発言通りにUNOを始める。
最初の上がりは紫苑だった。
「今回は私の勝ちだね」
少し得意げににこりと笑って紫苑は言う。
「わあ、手札がいっぱいだ」
わざとらしく彼は誰はそんな声を上げる。
「ブラックジャックならよかったのに」
そちらなら得意だと言うような呟きも付け加える。
「さて、本題と行こうか」
カードをまとめながら紫苑は少しだけ真剣な面持ちで口を開いた。
「これを見てほしい」
カードを箱へ戻すと、今度は自分の携帯を取り出して彼は誰へと渡した。
それは先程食堂で花梨に見せた、掲示板をコピーしたものだった。
「続きがあったんだね」
それを見ながら彼は誰が少しだけ真面目な顔をしてぽそりと呟いた。
静かな部屋である。
その呟きは紫苑と花梨の耳にも届いた。
「続き?」
「途中でやめちゃったんだよね。くだらないと思っていたからさ」
ははっと笑いながらそういうと、携帯を紫苑へと返す。
「僕もあまり信用していなかったけど、気になるから保存しておいたんだよね」
携帯を受け取りつつ紫苑はそう口にした。
そもそもが信頼度の低い掲示板である。
が、探偵の勘が何か訴えかけたのであろう。
「なんだか、私が旅行にいくと必ずなにか起こってる気がします。しゅん」
その2人の会話を聞いていた花梨はしょんぼりとした様子でつぶやくように言った。
「卍次郎さんに渡されたチケットだとなんでこうなるのだろうね?」
苦笑いをする紫苑であったが、彼は誰は卍次郎とは誰だろうという感じのキョトンとした顔をしている。
「違うぞ、探偵、弟子」という卍次郎の抗議の声が思わず聞こえてきそうな状態である。
「おふたりとも災難だねえ」
(.........)
よくわからないながらも何かを察したのか、彼は誰はケラケラとからかいを含む笑いを上げたが、その心の内を紫苑と花梨が知る由もなかった。
そしてその後、少しの沈黙が訪れ口を開いたのは花梨だった。
「えっと、何をすればいいんでしょう?」
「今のところ、情報が足りないね。あと、島の住人には気を付けたほうがいいかもしれないね」
「UNOの続きじゃないの?」
花梨と紫苑のやりとりにどこか興味なさげににこりと笑って彼は誰は言った。
と言えど、それが演技なのか本気なのかはわからない。
その言葉とは相反してぽつりとこんなことを呟いた。
「無機質な目にも、ね」
そしてにこりと2人に笑いかけた。
「、、、、さて。UNOの続きをしようか」
その言葉に何を思ったのか。
情報がない以上、何を話し合うも無駄だと思ったのか紫苑はそう言ってにこりと笑った。
そして紫苑は先程片付けたUNOをもう一度箱から出し、カードを配る。
先程までのどこか真剣な雰囲気はそこになかった。
そして勝負の結果は、、、またもや紫苑の一抜けとなった。
「はい、UNO」
そう言って紫苑はニヤリと笑った。
「まいったなあ、強いねえ」
「今日は調子がいいね」
手元のカードをポイっとベットに投げ置きながら彼は誰が笑う。
紫苑はカードを集め、切り混ぜながら少し得意げにそう口にする。
そして、その調子のままこんなことを口にした。
「彼は誰さんは何か知っていたりしないかな?職業柄、さ」
彼は誰が呟いた一言が気にかかっているのだろう。
「あなた方の方が長けているさ」
はははっと笑いながら彼は誰は返す。
それは静かな冷戦、腹の探り合いとでもいうのだろうか。
「明日はどうしましょう?」
2人の空気を気にする様子もなくふわりと花梨が口を挟む。
「よかったら一緒に行動しないか?」
いい口実だと言わんばかりに花梨の言葉に続けて紫苑がそう提案をする。
「どこに行くんだい?」
特に行く宛を決めていないのか、様子を伺っているのか、彼は誰はそう尋ねた。
「明日は崖のほうに行こうと思っているよ」
「崖、ですか?」
紫苑の言葉に彼は誰より先に花梨がキョトンとした顔で聞き返した。
口裏合わせなどはなされていないのだろう。
ふとそんな考えが彼は誰の頭をよぎる。
「黄色い彼女を向こうで見かけたからね」
「田中さんが。。。?」
「ああ、彼女か」
花梨の言葉にふと、黄色い服を着た女性の姿が彼は誰の脳裏に浮かぶ。
今のところ特に会話を交わしたことはない。
この中で親しげに会話を交わせるのは紫苑くらいではないだろうか。
「ふふ、食べられないようにね」
その言葉は何を意味するのだろうか。
彼は誰はそう言って2人にふふっと薄ら笑いを向けた。
「食べられるといえば、夜出歩くと怪物に襲われるそうだね」
その言葉に要の言葉を思い出したのだろう。
色々と濃い経験をしている紫苑には要の言葉が子供騙しな作り話とも思えず心に引っかかっていたのだ。
「受付のお姉さんも怯えていたね」
ふと、彼は誰はそう口にした。
それは昨夜の出来事の話である。
が、このことについて詳しく話す気はなさそうだ。
「さっき見せた情報で言ってた蝙蝠のことかもしれない」
「熱帯には生息しているようだね」
「沖縄ならなくもない、か」
そしてふと何を思ったのか、彼は誰は日記を取り出し何かを書き始めた。
「蝙蝠。。。」
その沈黙の中、ぽつりと花梨は呟く。
その脳内にはきっと一般的な掌サイズのコウモリの姿が浮かんでいるのかもしれない。
が、紫苑の見せた情報には“オオコウモリ”との記述があった。
自分では目にしたことないがこんな感じだろうかと想像しているのかもしれない。
「個人的に怪しいと思っているのは、中に入れなかった瑠璃城か…つぅーつぅー洞かな」
「私もつぅーつぅー洞かと思います。」
何かを書きながら聞いていた彼は誰がふと手を止めて何かを考えるように口を開いた。
「、、、個人的には、神聖なものを祭る社には、むしろ不浄を遠ざけるんじゃないかなあ」
それは2人への投げかけか、独り言か。
そんな様子ではあるが紫苑がそれに応えた。
「社がちゃんと機能していれば、ね」
「秘匿された空間に惹かれるのも確かだけれどね」
そしてまたペンを動かしながら彼は誰はそう返した。
「まあ、ここまでくるとオカルトチックになってしまうね」
「祀っているものが、不浄のものである可能性もあるかもです。」
紫苑と花梨の言葉には彼は誰も思わずペンを止め、顔を上げた。
「面白いことを言うねえ!」
そしてケラケラと声を出して笑い始めた。
そう言った信仰をしている者達がいることを知らないわけではない。
犯罪者の中にはそれを信じるが故、犯罪を正義と思い込み事件を起こすのだから。
しかし、この2人がそんなことを口にするとは思っていなかったのだろう。
「…実際そんな人ならざるものを、一度見ているので。」
花梨は何か恐ろしい記憶を思い出したように身震いしながらそんなことを口にした。
「まあね」
そんな花梨を見ながら、苦笑い混じりに紫苑がため息を吐くように呟く。
そんな2人の様子に、おやっと思った彼は誰は2人を観察してみる。
が、その言葉が真実なのか嘘なのか。
オカルト的なものに出くわしたことのない彼は誰には判断できるものではなかった。
「感受性が豊かなんだね」
笑みを浮かべたまま彼は誰は2人にそう言った。
「与太話さ」
経験したものにしか伝わらないと思ってのことだろう。
紫苑もにこりと笑ってそう口にした。
そしてこう続ける。
「ただ、覚えておくといいかもしれない、よ?」
笑みを浮かべてはいるが、その目は笑っていないように見えた。
どこか意味深で、何か深い闇があるかのような笑顔だ。
「また聞かせておくれよ」
しかし、そんな笑みを向けられた彼は誰は気にする様子もなくそう言ってははっと笑って返した。
「明日は結局どこへ。?」
「僕は街でもぶらぶらするよ」
花梨の言葉に彼は誰はにこりと笑って答える。
紫苑に同行する気はないと言うことだろう。
「僕はさっきも言ったように崖のほうかな」
やはり紫苑は田中の行動が気になるようで答えを変える風ではなかった。
2人の行き先を聞き、花梨は少しだけ考え込んだ。
師匠である紫苑と行動を共にするか。
または彼は誰と行動するのか。
それとも、、、、、。
「私、ちょっとつぅーつぅー洞を見てきます」
先程の会話の流れで気になったのだろう。
結局、2人とは違う場所へ行くと決めたようだ。
「それは僕も行きたいなあ。写真、取ってきてくれないかい?」
「写真ですか?」
彼は誰の言葉に花梨は首を傾げた。
自分で行くことも出来るはずなのに写真?と言った様子である。
その様子を気にすることなく彼は誰は自分の荷物をガサガサと漁り、カメラを花梨に手渡した。
「では何枚かとっておきますね。ありがとうございます」
頼まれたのは花梨の方であるが、カメラを受け取りながらお礼を言うのは彼女らしいとでも言うところだろうか。
と、ここで彼女はまだ無意識に手に握っていたカードを目に留めた。
「あ、うのです」
その天然さに彼は誰はふふっと微笑ましそうに笑みを浮かべた。
「インディアンポーカーにしない?」
一足先に部屋を出ようとする紫苑の背中にそう声をかけるが、どう答えるわけでもなく笑みを浮かべるだけだった。
「ではそろそろお部屋に戻ります」
置いていかれまいと言うようにあせあせと立ち上がり、花梨はそう言ってぺこりとお辞儀をした。
「楽しかったよ、ありがとう」
彼は誰はそう言って2人を扉まで見送るために立ち上がった。
「神隠しに、気をつけて」
「ああ」
2人が部屋から出ていくと、扉を閉じる前に彼は誰はそう言って手をひらひらさせた。
その様子が何か気に触ったのか、何か考えているのか。
ぶっきらぼうにそう短く返すと紫苑は彼は誰に背を向けた。
「それでは、また明日、お休みなさいませ」
「おやすみ。いい夢を。」
ぺこりとお辞儀をして花梨がそういうと、彼は誰は挨拶を交わしてパタリと扉を閉めた。
「あっ!師匠っ!これっ!」
そのままそれぞれ部屋に帰るかと思われたが、花梨は慌てて紫苑を呼び止めた。
その花梨の手にはまだ数枚のUNOが握られているが、他のカード達は箱に収められ紫苑のポケットの中だ。
「あぁ、まだ持っていたんだね」
色々考え事をしていたのか紫苑も気づいていなかったらしい。
そんな花梨の様子にまるで緊張が解けたかのように紫苑はふわりと笑った。
そしてカードを受け取るとそれぞれおやすみと告げて部屋へと帰っていった。
「師匠もまた明日です、おやすみなさい」
「おやすみ」
そう言葉を交わして部屋に戻った花梨はエクササイズを始めた。
そしてこれは学生の鏡というべきか。
荷物から勉強道具を取り出すと予習復習を始めた。
1時ごろまで勉強をすると、花梨は小さなあくびを噛み殺しながらベットに潜り込み眠りへとつくのだった。
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